上 下
287 / 397
第四部 サムスピジャポン編

38 不審者

しおりを挟む
 あれから俺達はサイトウの情報を集めたり、旅に必要な食糧やアイテムの購入といった旅の支度を終え、今日に至る。

 そして今、誰もが寝静まった闇夜に皮肥城中庭に集まっているのだが


……なぜか馬車の前には不審者が立っていた。


「揃ったようでがすな。それでは行くっち!」


 ちょっと待て!


「アンタ誰!? まさかとは思うけど、ソレイユさん?」


 俺は予想外の姿に面食らいつつも、声でその男が誰かを判断した。

 とはいえ、その恰好はあまりに俺の知っているソレイユとは違う。

 ふんどし姿に天狗の仮面……そして上半身は裸。

 その体は筋骨隆々であり、どう見ても今まで見てきた爺さんとはまるで別人だ。


「がっはっは、俺っちはソレイユではなく、シルクでがす。よろしく頼むっち、サクセス。」


 そんな俺を見て、陽気に笑うその男。
 

 どうやらソレイユさんで間違いないらしいが、これからはシルクと名乗るらしい。


 これが素なのか?
 はたまた二重人格なのか?


 あまりの衝撃に俺は言葉を失った。


 だが、カリーは違うらしい。


「おぉ! ようやくらしくなってきたじゃねぇかシルク。またよろしくな。相棒。」

「俺っちからも頼むでがす。またこうしてカリーと旅に出れると思うと、血が沸き立つでがんすよ。」


 二人は楽しそうに腕をガシっと絡ませる。


 なんかよくわからないけど、違和感ないらしい。

 まぁ俺的には、周りに城主だとバレなければそれでいいのだが


……それよりもあっちだ。


 なぜそうなった? 
 教えてくれ、シロマ……。


「おじい様の変装も中々ね、シロマちゃん。」

「そうですね。でもロゼッタさんも完璧ですよ。」


 そう言いながらシロマの隣で話すのは……


 シルクハット帽子を被ったタキシード姿の不審者だった。


 なぜ不審者かって?


 いや、どうみてもおかしいでしょ。
 恰好はまだいい……だけどさ……


 なんだよその顔は!?


 困惑する俺の前に、シロマ達が近づいてくる。


「どうですサクセスさん? ロゼちゃんだってわからないようにしたのですが……。」

「うん。確かに同一人物には見えないけどさ……その眼鏡は何?」


 そう。
 ロゼ……いやロゼッタと名乗る者の顔には眼鏡がかけられている。

 しかし、それはただの眼鏡ではない。

 丸眼鏡に鼻と口ひげが付いた、明らかにおかしな眼鏡だった。


 俺が眼鏡について指摘すると、シロマは何故かパァっと笑顔になる。


「あっ! これですか? これはですね、町に売ってたパーティ眼鏡とかいうアイテムです。いいですよね! 私も気に入って買っちゃいました。」


 そう言いながら、楽しそうに話すシロマ。
 どうやらその変な眼鏡を自分の分も買ったらしい。


 シロマの感性がわからない!!


 すると、ロゼッタが少し照れながら俺に確認する。


「に、似合ってないでしょうか?」


「似合ってるかどうかは別にして……まぁいいんじゃない。それならバレる事はないと思うよ。」


 流石の俺も、その姿を見て似合ってるとは言えない。
 つか、似合ってると言われて嬉しいのだろうか……。


 本来「似合ってないでしょうか?」という美少女からの憂いを帯びたセリフは、ギャップ萌えに心を踊らされる言葉なはずだよな?


……だというのに


 まったくもって萌えないよ!
 むしろ萌え要素皆無じゃん!


 そうツッコミたいのを必死に抑える俺。
 だってあんなに楽しそうにしているシロマの前で言えないよ。


 そんなタイミングで、今度はカリーとシルクが来た。


「おぉ! ロゼちゃん、いいじゃねぇか。似合ってるよ。その恰好。」


「流石俺っちの孫でがす。やるでがんすなぁ。」


 二人は揃って、ロゼッタの恰好を褒める。


 流石イケメンは違うな。
 あの姿を見て似合ってると言えるのが凄い。


「ありがとうございます。おじい様……いえ、シルクさんも素敵です。それとカリーさん、私の事はロゼッタとお呼びください。」


「オッケー。その恰好なら俺も……いや何でもない。よろしく頼むな、ロゼッタ。」

「はい!」


 なんかよくわかんないけど、ちょっとだけいい雰囲気というか、ロゼッタの頬が紅いような。
 カリーに褒められたのがかなり嬉しいみたいだな。


 なにはともあれ、これで全員揃った訳だし出発するか。


「それで、馬車の割り当てはどうする?」

 
 俺がみんなにそう聞くと、馬車の積み荷を運んでいたセイメイが近づいてきた。


「それにつきましては、当面の割り当ては考えてあります。」


 セイメイには既に考えがあるらしい。
 ちなみに割り当てはこうだった。


 前の馬車には、俺、カリー、イモコ、ゲロゲロ。
 後ろの馬車は、セイメイ、シロマ、シルク、ロゼッタ。


 この配置は妥当と言える。


 周囲の警戒に優れた、カリーとゲロゲロ。
 道中の土地勘があるイモコ。
 そして戦闘力が高い俺。


 そのパーティが前を走るなら、ロゼッタ達も安全だろう。

 それにセイメイとシロマがシルクと一緒ならば、ここまでに判明した事なんかの話し合いもしやすいだろうし、俺はそこで決まった事に従えばいいだけ。


 正に完璧だな。


「よし、じゃあ早速出発しよう。シルクさん、隠し通路を案内してもらってもいいですか?」

「わかったでがす。しかし、これからは俺っちにさん付けはいらないでがす。敬語もなしで、普通に接してほしいでがすよ。」

「オッケー。わかったよ、シルク。」


 俺の返事を聞いたシルクは、中庭のローズガーデンまで歩いていくと、そこに置かれた大きな岩を持ち上げる。


「どっこいしょーー!!」


 すると岩の下に、馬車が一台分通れるほどの大きな穴が現れた。


「ささ、早く入るでがんす。穴の中は緩やかな傾斜になっているから馬も歩けるでがす。」


 俺は穴の中を確認すると、確かに傾斜になっていて普通に歩くことができそうだ。


「本当だ。確かにこれなら問題ないな。」

 
 とはいえ、流石に真っ暗では馬も歩けないだろうから、俺が先に入ってレミオールを使って洞窟内を照らした。


 シルクも全員が入ったのを見て、岩を下ろしながら自分も中に入る。

 そこからは一応安全を期して、馬車には乗らずに全員で歩いて進んだ。
 馬はイモコとセイメイが引っ張っているので問題ない。


「それにしても凄いな、シルク。腰は平気なのか?」


 さっきの姿を思い出して、俺はシルクに話した。

 強いとは聞いていたが、あれだけ大きな岩を持ち上げたんだ、戦闘にも期待できるかもしれない。
 それでも年齢を考えれば、あまり無理をさせるわけにもいかないだろうが。



「問題ないでがす。」


 シルクは力拳を俺に見せつける。

 確かに良い体してんな。


「ところで、この道はどこに繋がってるんだ? もう結構歩いている気がするけど。」


 隠し通路に入って、かれこれ一時間は歩き続けている。

 それにもかかわらず、まだまだ先は深そうだ。


「そうでがんすなぁ。まだ三分の一も進んでないでがす。それと隠し通路を出た先は、丁度山の麓になっているでがんすよ。」


 マジか。
 そんなに深いのかよ、この穴は。
 それに山脈の麓と聞いても、それがどこら辺を言っているのかわからないな。


 すると、話を聞いていたセイメイが、俺の疑問を説明してくれる。


「サクセス様。安心してください。既に場所については確認済みです。皮肥の西側に秩父山というのがあるのですが、その山の入り口付近といったところでございます。」


 俺の表情を見て、察してくれたのだろう。

 こういうところは、本当にイーゼに似ているな。


「なるほどね。ちなみにそこから邪魔大国まではどのくらいかかるんだ?」

「早ければ一ヵ月程かと。しかし、途中でいくつかの街に立ち寄りますし、イザナミの祠にも行く予定ですので、一ヵ月半を予定しております。」


 一ヵ月半かぁ……かなり遠いなぁ。
 まぁ馬の足で行くのだし、仕方ないのはわかるけど、ちょっと予想よりも長すぎる。


 ビビアンの事もあるし、あまり悠長にはしていられない。


「わかった。ちなみにイザナミの洞窟まではどのくらいなんだ?」

「予定では、三日後には到着するつもりでございます。秩父山を抜けた先に、次の山との間に森があるのですが、そこにあると文献には記載されております。」

「なるほど。とりあえず予定とかについては、セイメイに任せるよ。あ、そう言えばイモコ。例の件はどうなった?」


 そこで俺はハッタリハンゾウの事を思い出した。

 あれからイモコが色々奔走していたのは知っているが、その報告はまだ受けていない。


「問題ないでござる。既に草の者との接触は済んでいて、次に向かう街【チョウノ】にて落ち合う予定でござる。」


 チョウノ……ね。
 そう言えば、今更ながらなんだが……。
 あれはどうなったんだろう?


 そう、男のロマン

 色街だ。

 今まではそれどころではなかったが、これから向かう先にあるのを俺は信じている。


「わかった。新しい情報が入ったら直ぐに教えてくれ。」


「御意。」


「それと……いや、何でもない。後でイモコには話がある。」

「分かったでござる。」


 イモコは俺の真剣な表情を見て、重々しく返事した。


 もしかしたら試練の事についてかと勘違いしているかもしれないが、違うよ?


 俺が知りたいのは色街についてだ。
 童貞の呪いはあるが、本番までいかなければきっとある程度は平気なはず。


 ならば、ヤルしかないっしょ!!


 俺は期待を胸に歩き続ける。


 こうして皮肥を出た俺達は、それぞれの想いを胸に、次の目的地であるイザナミの祠に向かうのであった。
 
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

裏庭が裏ダンジョンでした@完結

まっど↑きみはる
ファンタジー
 結界で隔離されたど田舎に住んでいる『ムツヤ』。彼は裏庭の塔が裏ダンジョンだと知らずに子供の頃から遊び場にしていた。  裏ダンジョンで鍛えた力とチート級のアイテムと、アホのムツヤは夢を見て外の世界へと飛び立つが、早速オークに捕らえれてしまう。  そこで知る憧れの世界の厳しく、残酷な現実とは……?  挿絵結構あります

魔法少女の異世界刀匠生活

ミュート
ファンタジー
私はクアンタ。魔法少女だ。 ……終わりか、だと? 自己紹介をこれ以上続けろと言われても話す事は無い。 そうだな……私は太陽系第三惑星地球の日本秋音市に居た筈が、異世界ともいうべき別の場所に飛ばされていた。 そこでリンナという少女の打つ刀に見惚れ、彼女の弟子としてこの世界で暮らす事となるのだが、色々と諸問題に巻き込まれる事になっていく。 王族の後継問題とか、突如現れる謎の魔物と呼ばれる存在と戦う為の皇国軍へ加入しろとスカウトされたり…… 色々あるが、私はただ、刀を打つ為にやらねばならぬ事に従事するだけだ。 詳しくは、読めばわかる事だろう。――では。 ※この作品は「小説家になろう!」様、「ノベルアップ+」様でも同様の内容で公開していきます。 ※コメント等大歓迎です。何時もありがとうございます!

半身転生

片山瑛二朗
ファンタジー
忘れたい過去、ありますか。やり直したい過去、ありますか。 元高校球児の大学一年生、千葉新(ちばあらた)は通り魔に刺され意識を失った。 気が付くと何もない真っ白な空間にいた新は隣にもう1人、自分自身がいることに理解が追い付かないまま神を自称する女に問われる。 「どちらが元の世界に残り、どちらが異世界に転生しますか」 実質的に帰還不可能となった剣と魔術の異世界で、青年は何を思い、何を成すのか。 消し去りたい過去と向き合い、その上で彼はもう一度立ち上がることが出来るのか。 異世界人アラタ・チバは生きる、ただがむしゃらに、精一杯。 少なくとも始めのうちは主人公は強くないです。 強くなれる素養はありますが強くなるかどうかは別問題、無双が見たい人は主人公が強くなることを信じてその過程をお楽しみください、保証はしかねますが。 異世界は日本と比較して厳しい環境です。 日常的に人が死ぬことはありませんがそれに近いことはままありますし日本に比べればどうしても命の危険は大きいです。 主人公死亡で主人公交代! なんてこともあり得るかもしれません。 つまり主人公だから最強! 主人公だから死なない! そう言ったことは保証できません。 最初の主人公は普通の青年です。 大した学もなければ異世界で役立つ知識があるわけではありません。 神を自称する女に異世界に飛ばされますがすべてを無に帰すチートをもらえるわけではないです。 もしかしたらチートを手にすることなく物語を終える、そんな結末もあるかもです。 ここまで何も確定的なことを言っていませんが最後に、この物語は必ず「完結」します。 長くなるかもしれませんし大して話数は多くならないかもしれません。 ただ必ず完結しますので安心してお読みください。 ブックマーク、評価、感想などいつでもお待ちしています。 この小説は同じ題名、作者名で「小説家になろう」、「カクヨム」様にも掲載しています。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

処理中です...