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第四部 サムスピジャポン編

18 40年の歳月

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「まずはフェイル様……生きていた事を喜び申すでがす。そして、あの時俺っち達を逃がすため、この世界に送ってくれた事を今まで一度とも忘れた事はないでがす!」


 突然目の前の城主が俺の前で跪くと、何か勘違いしたことを言っている。カリーもそうだったが、俺はそんなにフェイルって人に似てるのだろうか? ここまで言われると、なんだか他人に思えなくなってきたわ。


「ちょっとまってくれ。先に言っておくが、俺はフェイルって人でもなければ勇者でもないんだ。悪い、詳しくはカリーから聞いてほしい。」

「あぁ……。ソレイユが勘違いするのも無理はねぇが、こいつはフェイルではない。フェイルは……あの時、俺達を逃がすために死んだ。俺はそれをこの目で見ている……。」


 カリーは俯きながらも、ソレイユに伝えるべき事を伝えた。だが、傍から見ても大分辛そうだ。ソレイユさんもまた、その言葉を聞いて重苦しそうに頷いた。


「そうでがすか……。しかし、これほど似ていると、偶然には感じないでがすな。」

「つか、それもそうなんだけどさ。それよりもソレイユ、お前の方こそ、なんでそんなに年取ってんだよ?」


 確かに! 俺もそれが気になってた! 言葉遣いの次に!


「あぁ。そりゃ年も取るでがす。もうこの世界に来てから40年は経ったでがすからな。」

「40年!? どういうことだよ? 俺はまだこの世界に来てから1年も経ってないぞ?」

「そうでがすか……。道理でいくら探しても見つからなかったでがす。でも事実がす。俺っちはこの世界のこの大陸に流れ着き、それから色んな事があって、いつの間にか城主になったでがす……。だが一度たりともその間に仲間の事を忘れた事は無かったでがすよ!!」


 どうやら飛ばされた世界は同じでも、時間軸が違ったのかもしれないな。しかし40年か……。この人は40年もずっとカリー達を探していたのかよ……。そりゃ、俺達を見て突然泣き出すのもわかる気がする。


「なんか……悪いな。勘違いさせちゃって。とりあえず、カリーも積もる話があるだろうけど、まずは今後の事を話さないか?」

「そうでがすな。ところで、そなたはフェイル様で無いなら、お名前は何と申すでがす?」

「俺の名前はサクセスだ。カリーとは旅の道中で知り合った。俺も色々とやることがあってね、折角の再開に水を差して申し訳ない。」

「そうですがすか。サクセス……サクセス……。どこかで聞いたような気がするでがすな。そして、そこにいるのは大野大将軍でがすな。」

「否! 某は、今は大将軍ではござらぬ。サクセス殿の弟子でござるよ。」

「なんと!? 大将軍程の者が弟子でがす!? カリーが強いのは知っているでがすが……。」

「あぁ、ソレイユ。サクセスはつええぞ? 俺が束になっても全く歯が立たないと思うぜ。」


 束は言い過ぎっしょ。カリーが本気だしたら、俺も結構ヤバイと思うんだけどな。強さはステータスだけでは測れないしね。


「カリーが言うなら間違いないでがす。おっほん! それでは遅れてしまったが、まずは我が国の窮地を救っていただいた事を感謝する。報酬についてだが……。」


 突然ソレイユの言葉遣いが変わると、雰囲気も王らしい佇まい(たたずまい)に変わる。どうやら、城主モードにスイッチを切り替えたようだ。そして報酬については多分金だとは思うが、俺はそれを拒否するつもりだ。


「話の腰を折って悪いが、もし報酬が金ならば俺は受け取らない。いや、受け取ってもいいが、その金は今回戦って死んだ者の家族に分けるつもりだ。国でも保障はあるのかもしれないけど、今俺達にそこまで金は必要ないからね。」

「なんと!!? そうであるか……。わかった、その願いこの皮肥城城主ソレイユが聞き入った。しかし本当に、その性格も全てフェイル様にそっくりである。だが、国を救った英雄に何も与えぬ訳にもいかぬ。他に欲しい物はないか?」

「そうだなぁ。それじゃあ、この大陸で上級職に転職する方法を知っていたら教えて欲しい。それと、何か特別な力が宿った玉についても知っていたら、その情報も欲しいかな。」

「ふむ。情報が報酬であるか。そんな物はただでも教えてやるのだが……。では、先に上級職の情報から教えよう。しかし、その前にじゃが、誰が転職したいのじゃ?」


 お? まじ? イモコもセイメイも詳しく知らないのに、ソレイユは転職方法がわかるのか!?


「ここにいるイモコだ。職業はサムライだったかな。」

「ふむふむ、大野大将軍の転職ということじゃったか。それならば、情報はある。ワシが持つ、この神刀マガツカミを持って北の祠に向かうといい。そこの祭壇に神刀を掲げる事で、スサノオ様から力を授かることができるじゃろう……がしかし、条件が厳しいのじゃ。それだけでは転職は出来ぬ。」

「どういう事だ?」

「まず、サムライの上級職は伝承によると【天下無双】という職業じゃ。そこに至るには、サムライのレベルを99まで上げねばならぬ。その上でスサノオ様からの試練を乗り越えることで転職できるのじゃ。つまり、誰でもなれるわけでもなければ、過去に転職できたという話も聞いた事はない。」


 レベル99か。普通に考えたら不可能だよな。でも、イモコは既に……


「なるほどな。どうするイモコ? お前はもう99レベルだ。その試練を受けるつもりはあるか?」

「師匠さえ許可していただけるなら、是非もないでござる。某にその試練を受けさせて欲しいでござる。」

「なんと!? 大野大将軍は既に99レベルとは!?」


 イモコのレベルを聞いて驚くソレイユ。
 まぁ、そりゃそうだわな。普通99レベルなんて絶対なれねぇよなぁ。


「そうでござる。それも全ては師匠のお蔭でござるが……それと大野大将軍はやめて欲しいでござる。某、今はただのイモコで通しているでござるよ。」

「そうであったか。わかった、それではこの神刀をイモコに授けよう。これを今回の報酬とさせてもらう。国宝を渡したとなれば、国の面子も守られよう。ささ、受け取るがよい。」


 そう言って、まずは俺に漆黒の鞘に収まった刀を渡す。俺はそれに触れた瞬間、武器の能力がわかった。


【神刀マガツカミ】 レアリティ3(呪い)

 攻撃力125 防御力-30
 スキル 神気 力+50 素早さ+25


 すっご!! 何この武器? 俺の剣より数段強いんだけど……。つか防御力マイナスじゃん、攻撃に特化しすぎだろ。あと呪いってのがちょっと怖い。


「ほれ、イモコ。受け取れ、お前のだ。」

「はっ! ありがたき幸せ!」


 俺が受け取った神刀をイモコに渡すと、イモコはまるで騎士が剣を賜うようにそれを受け取る。


「もう気づいておるとはおもうが、それは呪われており、まだ装備はできぬのじゃ。だが試練を通った者ならば使えるかもしれぬ。」

「あの呪いってのはそういう事だったのか。でもそれならなんで、使えない武器を持っていたんですか?」

「それは国宝であるが故に、常に俺っち……いや、ワシが管理するために持ち歩いているのじゃ。」


 今、俺っちって言った!?


「なるほどね、じゃあ次に玉についてだけど……。」

「すまぬ。それについてはわからぬ。しかし、ウロボロスを封印している地に強力な力が宿った宝珠が眠っているとの話は聞いたことがある。それがヌシが求めている物かどうかまでは、わからぬのじゃ。」

「いや、十分だ。なるほどね、ウロボロスの眠る地か……。多分、それがオーブだな。」


 それほど強大な力をもった宝珠ならオーブに間違いはないだろう。少しだけだが、先が見えてきたな。


「城主様。例の件についてですが……。」


 すると、突然セイメイが城主に何かを尋ねた。例の件ってなんだ?


「あぁ、そうであったな……。しかし……いや……。」

「なんだよソレイユ? はっきり言えよ。困ってることがあるなら力になるぜ?」

「ふむ。カリーは下尾を通ってきたでがすな? その魔獣を討伐できるような者はこの国にはおらぬ。しかし、これ以上カリー達に迷惑かけるわけにはいかないでがす。」


 おいおいおい。カリーに話しかけられると素に戻るんかーい。って、その話か。そう言えば、直接話すって言ってたな。流石に死ぬかもわからないクエストを依頼するかは、見てから判断しようと思ったわけか。本当に、この人は優しい人だな。でも答えはもう決まっている。


「いや、そのクエスト引き受けるよ。まぁ今どこにいるかはわからないけど、この国が襲われる前にそいつらは俺が潰す。だから安心してくれ。」

「な? サクセスもそう言ってんだ、素直に俺達に助けられろや?」


 カリーのその言葉を聞き、ソレイユはその場で地面に頭をつけた。


「すまない! そして感謝するでがす! この恩は必ず返すでがんす!」

「いや、いいって。俺もこれ以上悲しむ人は見たくないんだ。ようは俺がしたい事をするってだけだからさ。頭を上げてよ。」

「本当に……本当にフェイル様ではないのでがんすか?」

「だから違うって。それよりも、とりあえず必要な話はこれで終わりですか? もし終わりなら、俺は早速魔獣探しをしてくるから、その間カリーと積もる話をしてください。」

「あ? 何言ってんだよ? お前だけ行かせるわけねぇだろ?」

「いいから。直接戦闘をする気はない。セイメイと相談してから、動くから心配しないでくれ。」

「はい。カリー殿。心配無用でございます。サクセス様の事はどうかわたくしに任せて、ゆっくりとお話をしてくださいませ。」

「……わかった。だけど絶対に俺がいない時に戦闘だけはするなよ? これだけは約束してくれ。」

「あぁ、男の約束だ。必ず守る。」

「ならいいよ。まぁ、俺よりも圧倒的に強いサクセスに言えるセリフじゃねぇんだけどな。」

「いや、カリーがいないと俺も色々心配だよ。じゃあ一旦俺達は町に戻るか。」


 そして俺達は、カリーだけをその場に残して一度宿に帰る事にした。カリーもそうだけど、ソレイユさんにとっては40年ぶりの再会な訳だし、できるだけ二人にしてあげたい。

 とりあえず、やる事が見えてきたな。
 まだわからない事も多いが、必ずこの町の脅威は俺が払ってみせる!



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