上 下
257 / 397
第四部 サムスピジャポン編

8 災害級の魔獣①

しおりを挟む
 オオワライの町を出てから一週間。初めての違う大陸という事もあり、初めは若干緊張していたのだが、なんのことはない。今までの旅と特に変わることはなかった。道中、見たことがない魔物……いやこの大陸では魔獣というモンスターに襲われることもあったが、難なく倒す事が出来、移動を妨げるような事はなにも起きなかった。

 魔獣についてだが、これも呼び名こそ違えども、倒せば魔石を落とすところも同じだし、敵の強さもそこまで強敵と呼べるものはいない。
 現れたのは、ビッグリズリー、サーベルティガーと呼ばれる魔獣で、見た目は普通の熊やトラと同じである。違いがあるとすれば、魔獣は全て色が黒ということ。そして大きさも普通の動物に比べて2倍から3倍程大きく、力や速度も速いというところ。

ーーとは言えだ。

 俺達のパーティは、一番弱いイモコでも90レベルを超えており、その戦闘力から考えれば、単純に速くて強いだけの魔獣など敵ではなかった。正直、10匹やそこらの魔獣に囲まれても、イモコ一人いれば10秒かからず戦闘は終わる。それでも、一応戦闘になった場合は、シロマとセイメイ以外の全員で戦うことにはしていた。理由は、例え敵が弱くとも、戦闘ができるという経験は必ず自分達の力になる。故にいくらオーバーキルであろうとも、俺達は常に最善手で敵を効率よく倒している。

 ちなみにシロマが戦闘に参加していないのには理由があった。正確にいうと、参加しないのではなく、参加できないのである。当初はシロマも一緒に馬車から降りて戦おうとしていたのだが、シロマが戦う間もなく戦闘が終わってしまった。よって、シロマは後方待機というか援護の役を担うことになるのだが、その出番が訪れたことは今のところ一度もない。


ーーそして今日もまた……


「サクセス。」

「わかった。」


 カリーの声が聞こえた瞬間、俺とゲロゲロは馬車から飛び降りる。それに続いて、イモコも馬を停めて降りた。
 たったこれだけの言葉で、俺達は敵が近づいてきたとわかってしまうのだ。もはや条件反射に近い。


「11時に4匹、2時に2匹。2時にいる方は大型だ。」

「イモコとカリーは11時。俺とゲロゲロは2時。シロマは後方待機。」


 俺がそう告げると、全員が一斉に走り出した。現在森を突き進んでいるため、木が邪魔でまだ敵の姿は見えないが、さっきのカリーからの情報で大体は把握できる。
 
 敵の位置については、時計の針を見立てて伝えることにしていた。自分達の進行方向を0時とするため、11時は左前、2時は右前。方向と敵の大きさがわかれば、作戦も立てやすい。セイメイやイモコから聞いた話だと、魔獣は大きさで強さが決まるらしい。体内にためている魔素が大きくなるほど、狂暴性も力も上がる。故に、それに応じてメンバーの割り振りが決められるってことだ。

 今回現れたのは、ビックリドンキーコングとウーマンモーと呼ばれる魔獣である。どちらも、何回か倒したことがあるが、俺達にとって強敵とは言い難い。前の大陸のレベルでいうなれば、11時方向にいるビックリドンキーコングが50レベル後半の敵。そして俺が向かっている2時方向にいる敵は70レベル相当であろうか。

 セイメイ曰く、俺達が雑魚同然で倒している敵は、ベテランの戦士達がしっかりと装備を整えた上で、パーティを組むことでやっと1匹を討伐するレベルであるらしい。特にウーマンモーは災害クラスの魔獣であるために、大部隊を編成して討伐する対象だった。

 これほど大きくて強い魔獣は滅多に出なかったらしいが、向かっている小江戸に近づくにつれて増えてきた。やはりなんらかの影響で魔獣が凶悪化し、大繁殖をしているというのは本当みたいである。


 だがそんな相手も、俺達からすれば……。


「イモコ、4時木の上だ。」

「御意!!」


 ドゴォオォォン!!


 突然、カリーとイモコの前に巨大な岩石が凄い勢いで落ちてくる。しかし、岩石が地面にぶつかる時に、既にカリーもイモコもそこにはいない。ビックリドンキーコングは一発で仕留めたのを確信しつつ、落とした岩石の方を見渡すも……予想とは違い、そこに血潮も飛び交ってなければ、肉片一つ見つからない。


「ゴホ!?」

「抜刀斬!!」


 ドンキーは、不思議に思い声を出した瞬間に、その胴体を真っ二つにされた。そう、イモコはカリーから敵の位置を聞いていたのと、岩石が飛んできた方向から適格に位置を把握し、一気に距離を詰めると共に技の準備をしていたのだ。

 今回現れたビックリドンキーコングは、その名の通り体長5メートルはある巨大なゴリラであり、その巨体に似合わず俊敏な動きで、普通の猿以上の速さで木の上を移動する。普通の冒険者であれば、俊敏な動きで今回のような不意打ち攻撃に驚き、為すすべなくやられてしまう事も多いのだが、俺達に限っては当てはまらなかった。

 そして同刻、イモコとは別方向に移動したカリーは、他の3体の位置を全て感知していたことから、巨大な弓を取り出すと、3匹同時に撃ち抜く。


「乱れうち【雷撃の矢】」


 ズババァァン! ズババァァァン! ズババァァァン!!


「ゴッホォォォォ!!」


 カリーが取り出した最強の弓【サジタリウス】から発せられる強烈な雷を纏う矢。カリーの乱れうちというスキルは、連続で大量の矢を放つことができるが、今回放った矢の本数は30本。そして、それぞれが10発づつ敵を貫くと、敵は一瞬で絶命した。むしろオーバーキルである。
 
 この間、2秒。

 強敵と呼ばれる魔獣4匹を相手にして、カリーとイモコはほんの2秒で戦闘を終わらせてしまった。やはりこのパーティは強すぎる。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は

だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。 私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。 そのまま卒業と思いきや…? 「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑) 全10話+エピローグとなります。

処理中です...