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第一部 サクセス編(改稿版)

26 脳が震える

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 ところでそういえば、さっきから他のメンバーを見ていない。 
 こっちで戦闘があったにも関わらずだ。 
 つまりは近くにはいないということだろう。 

 一体どこで何をしているのだろうか? 

 俺は砂浜で放心状態になっているイーゼを置いて、他のメンバーを探し始めた。 

 俺はしばらく海沿いを歩いて探し始めると、大分離れた場所でリーチュン達を発見する。 


「リーチュン、もっと優しくです! あっ! もう、崩れちゃったじゃないですか!」 

「あははは、まぁいいじゃん。次はもっと大きいのを作ろうよ!」 

 なんと二人と一匹は、浜辺で砂遊びをしていた。 
 なんて自由な奴らなんだ! 
 こっちが魔物に襲われていたというのに……でも、なんか楽しそうだな。 
 俺も誘ってくれよ……寂しいじゃないか。 


「みんな楽しそうだな、なにを作ってるんだ?」 

「砂でお城とトンネルを作ってました。サクセスさんも一緒に何か作りますか?」 

 俺の質問にシロマが楽しそうに答える。 
 だが、もっと楽しそうな奴がいた。 


「サクセス! 見て見て! オッパイ! おっきいでしょ!! あはは!」 


 そうリーチュンである。 
 リーチュンは、砂でおっぱいを作って笑っていた。 
 正に自由人。 


「お前は、子供かっ! でも嫌いじゃない……。」 


 最後の言葉だけは小さく言う俺。  
 本当にリーチュンは楽しそうだな。 
 見ているだけで俺も楽しくなってくるぜ。
 だけど、ここは安全ではない。 
 一応注意しておくか。 


「二人とも、あんま油断してると魔物に襲われるぞ。さっきイーゼがでっかいカニに襲われてたからな。そこまで強くはないが、万が一という事もある。」 

「あ! そういえば聖水撒いてませんでしたね! うっかりしてました!」 


 俺の言葉にシロマが自分のミスに気付いて声をあげる。
 シロマにしては珍しいうっかりのようで、反省している……がリーチュンは違う。 

 何故かブーーっっと頬を膨らませて怒っていた。
 なぜだ? 


「なんでアタイを呼んでくれないのよ! サクセスだけカニさんと遊んでズルい!」 

「いやいや、遊びじゃないから。って、そうだよ。とりあえずここにも聖水を撒かなきゃ!」 


ゲェェェェロォォォォ! 


 俺が聖水を取り出そうとすると、砂浜を走り回って遊んでいたゲロゲロが突然叫んだ。 


「どうしたゲロゲロ!?」 


 ゲロゲロを見ると、さっきまで元気よく走り回っていたのに、今は体をピクつかせながら倒れている。 

 一体何が……? 

 俺は注意深くゲロゲロのいるところを見ると、なぜゲロゲロが倒れたか直ぐ分かった。 
 どうやらゲロゲロは痺れさせられたようだ。 

 当然それをやったのは……魔物である。 
 ゲロゲロの横には、青色のクラゲみたいな魔物がいた。 
 そいつは、その体の色で海にカモフラージュし、ゲロゲロに近づくなり、触手を巻き付けて痺れさせたのだ。 


「みんな、魔物だ! 警戒しろ!」 


 俺は叫んだ。
 どうやらこいつが、さっきイーゼが言っていた痺れスライムのようだ。 


「サクセス! どいて!」 


 リーチュンが痺れスライムを素手で殴る。レベル差があるから、多分また一撃爆散だろう……と思ったら違った。 


 グニュっ! 


 リーチュンの拳はスライムに当たると、そのまま中に吸い込まれてしまう。 


「この! は、な、れ、ろーー!」 


 リーチュンが拳を抜こうとするもなかなか抜けず、その隙に触手がリーチュンの足に巻きついた! 


「きゃー! 痛い痛い! 痺れる!」 


 リーチュンは痺れスライムに痺れ触手を巻きつけられると、逆さまに釣り上げられる。 


「そういえば、モンスターの中には打撃無効の敵がいます!」 


 シロマがそれを見て叫んだ。 
 それを聞いた俺は、直ぐにどうのつるぎを抜く――のだが……俺はそのまま固まってしまった。 

 理由は簡単だ。 
 俺の目の前に映るヤバい光景。 
 そう、リーチュンがあられもない姿で宙吊りになっているからである。 


 つつつ……。 


 俺の鼻から血液が垂れていく。

 くそ! 動け! 動けよ俺の体! 
 
 まさか、間接的に俺まで痺れさせてくるとは……なんだこの感じ……。 

 の、脳が……震える。 

 突然の違和感に俺は動けない。 
 否! 違う。 
 俺の脳が魔物を倒すのを拒否している。 
 あと、少し……もうちょっと……。 
 先っぽだけだから……。 


「サクセスさん!」 


 ビクっ!! 


 その時、突然横からシロマの怒声が聞こえた。 
 その声を聞いて本能がヤバイと察し、痺れが解除される。 


「てめぇ、リーチュンになにしてくれてんだー! 最高か!?」 


 バチュっ! 


 最後はつい本音を漏らしつつも、感謝を込めた俺の会心の一撃が痺れスライムを一刀両断した。 
 どうやら全く斬れないどうのつるぎであったが、柔らかいスライムに対しては斬属性扱いになるらしい。 


「ケアリック」 

 
 俺が敵を倒すと、地面に落とされたリーチュンと倒れ伏しているゲロゲロにシロマが魔法を唱えた。 
 初めて聞いた魔法だが、ピクつきが消えているところを見ると、状態異常回復魔法だとわかる。 


「ふぅ、危なかったな! だから、油断はしちゃいけないんだ。わかったら、野営の準備と聖水を撒くぞ。」 

「サクセス。助けてくれてありがとう。あ、顔に血がついてるよ。サクセスを傷つけるなんて、結構ヤバい敵だったのね。アタイの攻撃も効かなかったし……。」 

 それは顔というか、鼻です。
 そうです鼻血です。この負傷はあなたのおかげです。 

「そういえば、サクセスさん。なんか倒す最高って聞こえた気がしたんですけど。どういう意味だったのですか?」 

 やば、聞かれてたのかよ。 

 シロマが白い目を向けて俺を問い詰める。
 うまく、有耶無耶にしたつもりだったのに失敗したようだ。 


「き、気のせいだっぺよ。」 


 俺が動揺しながら答えると、更にシロマが追及する。 


「それに直ぐに動きませんでしたよね?」 

「い、いや。て、敵の動きをよく見ないと、逆にやられると思ったっちゃ!」

「ほんとですかぁ~? リーチュンのパンツを見てただけじゃないんですかぁ?」 


 うげぇぇ! 


 今日のシロマは凄い攻撃的だ。 
 俺はなにも言えずに無言になってしまった。 
 そんな俺を見て、シロマはさっきまでの顔が嘘のように笑顔に変わる。 


「なんてね、嘘ですよ。サクセスさんがそんな事するはずないですもんね。ちょっと……なんか少し胸がモヤモヤして意地悪しちゃいました。ごめんなさい。」 


 なんだこの子。 
 めっちゃ可愛いやんか! 


「すまなかった、次はもっと早く動けるように頑張るよ。」 

「まぁまぁ、今回はアタイが油断したせいだから、そう暗くならないでよ。ほら! 日が落ちる前に野営の準備、レッツゴー!」 


 あんな恥ずかしい姿を見られたというのにリーチュンは元気で明るかった。 
 その後、俺たちは辺りに聖水を撒くとみんなで夕陽を眺める。 
 
 イーゼが言っていたように、それはこの世の物とは思えないほど美しかった。 
 だが美しいのは海だけではない。 
 夕陽に照らされる仲間達もまた美しい。 

 ちなみにイーゼは一人離れてシュンとしている。 

 今日は色々あったけど、いいリフレッシュになったな。 
 今日の事は、絶対忘れない! 

 ありがとう! 
 ありがとう痺れスライム! 
 ありがとうパンティ!
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