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第三部 オーブを求めて

第三十五話 ガイアの剣

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「おいおい、無様だなぁ。散々、俺達を煽っていた割にはもうお終ぇか? なぁ、色男さんよぉ。」


 渦潮に落ちてしまったカリーは、ノロの言葉に返す事ができない。

 なぜならば、今なお、激しい濁流にのみ込まれ、体の自由も聞かなければ、呼吸すらも危うい状態だったからだ。


(このままじゃやばい……くそ! まだ陸地まで距離がありすぎる。)


 身動きが取れないまま、どうにかこの状況の打開を考えるカリー。

 しかし、海面に浮上した時に息をするのが精いっぱいで、とてもではないが、どうにかできる状況ではなかった。


 そして


ーー現実は残酷


 リヴァイアサンもとい、ノロが口から高圧水砲を連続で吐き出してきたのだ。


 ピュン! ピュン! ピュン!


「お? 中々当たらねぇなぁ。だが、もう慣れた。そこだぁぁ!」


「ぐぼぉぉあぁぁぁ!」


 海面に一瞬浮上したカリーに、遂に水砲が当たってしまう。
 突然の痛みに、呼吸をとることもできず、再度海に沈んだ。


「おおあたりぃ~!」


 最初の数発は運よく外れたが、同じスピードで流され続けているため、遂には命中してしまう。


 カリーの腕から赤い血潮が流れ出した。


「おぉ! こりゃいいぜ。見やすくなったなぁ、おい。次はドタマぶち抜いてやるぜ。」


 上手く標準を合わせられなかったノロであったが、カリーの腕から流れる血の色が、その位置を明確にする。

「おい、遊んでる場合か? さっさとそいつを殺して、もう一人のガキを追うぞ。」

「うるせぇ、黙ってろガンダッダ! 俺がどうしようと、俺の勝手だろうが。」


 ノロはなんだかんだ言って、今の自分の能力に酔いしれていた。

 人間だったころであれば、到底歯が立たない相手。
 そして、何よりもカリーに殴られた恨みは消えていない。

 それを今、思うがままに痛めつけられるのだ。
 こんな面白い事を簡単に終わらせる気は、さらさらない。


 だが、ガンダッダは違った。


「そうだな。じゃあ俺がどうしようとも俺の勝手だよな?」


 今度はガンダッダの口元に青い光が集まっていく。
 ノロの遊びとは違い、その光は大きく、確実にカリーを一撃で屠るのが見て取れる。

 
 カリーにとって、正に絶体絶命のピンチであった。


「おい! やめろ、ガンダッダ! あれは俺のオモチャだ。手を出すんじゃねぇ!」


 ノロが叫ぶが、ガンダッダは見向きもしない。

 ガンダッダが見ているのは、渦潮に浮かぶ赤い点だけ。
 そして、完全にカリーの位置を捕らえると、遂に巨大な高圧水砲を吐き出した。


 ビューーーーー!

 
 ザバァァァァ!


 ガンダッダの巨大な水砲の威力はノロの比ではなかった。

 あまりの破壊力に、海は陸地が見える程削らせれ、渦潮すら消滅させてしまう。

 海の中にぽっかりと大穴が出来上がった。


「て、てめぇ! ふざけんなよ! よくも俺のオモチャをやってくれたな!」


「ふん、そんなことはどうでもいい。早く……ん? 誰だ!?」


 ノロは今の一撃で確実にカリーを殺したと思ったが、ガンダッダは何かに気付く。


 カリーがいた位置から少し離れた場所……いや、空に。

 昇り始めた朝日に照らされた翼のある男。

「あっぶねぇ。危機一髪だな。おい、カリーしっかりしろ!! 【ライトヒール】」


 ピンチに現れたのは、龍化したサクセス。

 まだ飛翔のコントロールはおぼつかないものの、どうにか直線に高速で飛ぶことができ、カリーを拾い上げたのだ。
 

 運がいい事に、カリーから流れ出る血潮は、俺にもその位置を伝える。

 それめがけて一直線に飛んできたのだ。


「あ……ん? お、おまえは? サクセス……なのか?」

「あぁ、すまねぇな。また説明している暇がないんだ。とりあえず、船に戻るぞ。」


 カリーの目の前に突然現れたサクセス。


 ライトヒールによって、カリーは一瞬で回復し、意識を取り戻す。
 カリーが回復したのを見て、再度俺は船に飛んで戻ろうとした。


 が、その時。


 ピュン ピュン ピュン!!


 そこに、3発の巨大な水砲が飛んできた。


「てめぇは……くそ。なんで、飛べるんだよ! こぞおおお!!」


 不意打ちの水砲を避けられ、ガンダッダは叫んだ。
 サクセスを認識した瞬間、本能がそれを危険と察知し、3つの頭はそれぞれ、水砲を俺に向けて放ったのだが……


 当然俺は、それを余裕で躱した。

 攻撃に気付いてからでも避けられる程、俺のステータスは上がっていたのである。


「うっわ! おっそ! なにそれ? 水鉄砲? そんなもんいくら吐いたって当たらねぇって。」


「まて、おら!! 逃げるじゃねぇよ!」


 必死で俺を目で追う三つの頭。
 しかし、あまりの俺の速さに、動きを捉えきれない。


「あぁ、後でちゃんと相手してやるよ。俺に追いつければな?」


 俺は一度空で停止し、はニヤリと笑ってガンダッダを挑発する。

 陸地への誘導作戦は終わってないのだ。

「おのれぇぇぇ! 言わせておけばぁぁぁ! ノロ! あれをやるぞ! ダイダリックウェーブだ!」

「あぁん? なんだそれ、知らねぇよ。 やりたきゃ勝手にやれ!」


 ガンダッダが何を言っているかよくわからないノロであったが、おもちゃを奪われた怒りから、言う事を聞く気はない。
 
 そっぽを向くノロ。
 しかし、それはガンダッダの逆鱗に触れた。


「そうか、なら、もうお前はいらない。完全に俺の養分となれや。」


 ガンダッダはそう言うと、大きく口を開けて、一瞬でノロの頭をかみ砕く。

 バリ! ボリボリボリ!
 ムシャムシャムシャ……

 
 うわ! 
 共食い……
 きもっ!!


 俺は既にその場から船に向かって飛んでいたが、一瞬振り返った瞬間、ガンダッダの頭部がノロ頭を貪っているのを見てしまい、吐き気がした。


 だが、そんな事よりも先にカリーを船に運ぶのが優先だ。
 正直、自分が飛べる今、カリーが囮をやる必要はない。


「すまねぇ、サクセス。約束破っちまった……。」

「いや、カリーは十分やってくれた。お前はマジですげぇよ。尊敬する。だから……後は俺に任せてくれ。」

「あぁ……わかった。」

 カリーはそれだけ言って、黙ってうなづく。

 渦潮に落ちた事は、完全に自分の油断だ。
 あれだけ大見栄きって失敗したのだ、サクセスに会わせる顔はない。


 だが、それでもサクセスは

 「尊敬する」

と言った。

 カリーにとって、その言葉は特別な言葉。

 昔、同じように自分もフェイルに投げかけた言葉であった。
 本当に信頼している相手にしか口にはしない。

 だからこそ、カリーも信頼する。

 「後は任せろ」

と言ったサクセスの言葉を。

 そして1分後、俺達は船に辿り着いた。


 ペリー号の全力でも10分はかかる距離を、俺はその10倍の速さで飛んできたのだ。
 飛翔に慣れていないとは言え、そもそもの能力が桁違いに高いからこそである。


「イモコ! 悪いが、カリーを頼んだ。俺は、奴を仕留めにいく。」

「御意! 某に任せるでござる。」


 俺は、イモコにそれだけ伝えてカリーを甲板に降ろし、すかさず飛び立とうとする。


「待て! サクセス! これをもっていけ。」


 カリーは飛び立とうとする俺を引きとめ、一本の剣を投げつけてきた。


 パシッ!!


「これは!?」


【ガイアの剣】

 攻撃力55 スキル 地殻変動


「ガイアの剣だ。そいつのスキルがあれば、地面を盛り上げることができる。そうすれば、一部だけだが海面が消えるはずだ。使い方は簡単だから安心しろ。海の地面に向かって投げつけるだけだ。」


「投げ捨てろって……もったいなくないか?」


「気にすんな。そんなの、また作ればいいだけだ。それに、もともとそれは使い捨ての武器。必要なければ使わなくていいが、持ってるにこしたことはないだろ?」


 作ればって……。
 どうみても、付与しただけの剣には見えないんですが……。
 まぁいい、このまま倒しちまえば使うこともないしな。


「わかった。どうしても必要になったら遠慮なく使わせてもらうぜ。」

「すまねぇ、俺にはこれぐらいしかできそうにねぇ。本当は、陸地近くで使いたかったんだけどな。」

「なるほどな。まぁ、今更言ってもしょうがねぇだろ。とりあえず任せとけ!」

「あぁ、任せたぜ。相棒……。」


 戦う前、俺とカリーはお互いを思うがあまりぶつかってしまった。
 だが、それは本当に相手の事を大切な仲間だろ思っていたからである。
 そしてこの戦いを経て、カリーの中で、俺を本当の意味で仲間だと思うようになった。
 

 だからこそカリーは、

 【相棒】

という言葉を自然に口にした。


 そして、カリーから【ガイアの剣】を受け取った俺は、早速空に飛び立ち、リヴァイアサンのところへ向かう。

 どうやら、共食いも終わったようで、頭が二つの水龍がこっちに向かってきているのが見えた。


「うし、んじゃパパっとやっつけますかな。」


 遂に俺とリヴァイアサンの戦いが始まる。

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