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第三部 オーブを求めて

第十三話 別世界の勇者

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 内容については、こうだった。


 カリーはバンバーラという魔法使いの姉と共に、この世界に飛ばされた別世界の住人。

 前の世界では、フェイルという俺に似た勇者とパーティを組んでおり、フェイル、カリー、バンバーラ、ソレイユというメンバーで魔王討伐に向かう。

 その後カリー達は、見事魔王を倒し、世界に平和を取り戻したと思った。
 がしかし、魔王を倒した瞬間に、そいつは現れた。

 天使の姿をした、大魔王ディアブロ。

 大魔王は、自身の事をディアブロと名乗ると突然攻撃を仕掛ける。
 その攻撃は想像以上の威力であり、一瞬にしてカリー達を瀕死に追い込んだ。

 そこで、フェイルは全滅する前にと、禁忌のアイテム(時空転移の実)を使い、カリー達を別世界に飛ばそうとする。

 フェイルの行動は、ギリギリだった。

 既に大魔王の攻撃は目前であり、そのアイテムを使えるか否かは、もはや運次第。
 だか、なんとか無事にアイテムを発動が間に合った……のだが、その瞬間にディアブロの手はフェイルの心臓を貫いていた。


「フェイルーーーーー!!」 


 カリーの叫びは空しくも亜空間に響き渡る。
 すでに、フェイル以外の者達は亜空間に移動しており、時空狭間を漂っていたのだ。
 そして、飛ばされた三人はそれぞれ別々に消えていく。
 
 それが同じ世界なのか、または違う世界なのか、カリーに知る由はない。
 しかし、わかることはただ一つーーフェイルの死


 この世界に辿り着いたカリーは、当初は悲しみに明け暮れて何もする気が起きなかった。
 だが、飯を食わなければ生きていけない。
 手始めに、近くのモンスターを狩って魔石を手に入れると、町で交換し、しばらくはその町で酒浸りの生活を送る。


 しばらくは、そんな生活を送り続けるも、やがてこの世界も魔王によって侵略を受けているという噂を耳にする。
 その時、初めて自分が生き残った意味を考えた。
 フェイルに貰ったこの命は、きっとこの世界でも魔王と戦い、苦しんでいる人を救うためだと気付いた。

 そして、もしかしたら自分と同じように、姉さん達もこの世界に来ているかもしれない。
 そう思ってから、カリーは旅に出た。

 まずは、この世界を旅することで、世界の情勢を自分の目で確かめる事。
 それを見てから自分がやるべき事を決めようと思っていた。
 それと、旅をしていれば姉さん達も見つかるかもしれない。

 そんな淡い期待を込めながら、正に今、カリーは旅をしている際中であった。 


 とまぁ、要約するとこんな感じか。
 うーん……話を聞く限り、この男かなり壮絶な人生を歩んでいるっぽい。
 思ったよりも濃い内容で、ちょっと焦るわ。


 ちなみに職業については、【ブレイブロード】という天空職らしい。
 どんな職業か聞いたら、魔法戦士とバトルマスターを合わせたような、職業みたいだ。
 あらゆる武器を自在に操り、更には、武器に属性を付与することもできるということだ。

 俺はてっきり、属性の付与された装備を使っていると思っていたのだが、違った。
 あれらは、カリー本人が属性を付与しているとのことだ。
 常に、敵の弱点属性で攻撃できるのは、かなり戦闘面で有利である。


 どうりで強いわけだ。
 

「どうだ? 何か思い出したか?」


 カリーは全て話切った事で少し顔をスッキリさせながらも、期待を込めた目で俺の事を見つめている。
 だがしかし、やはり俺にそんな記憶はない。
 というか、俺生きてるし……。


「いや、すまない。やっぱり、そのフェイルという勇者は別人としか思えない。」


 俺がそう言うと、カリーは俯く様に顔を下げる。


「そうか……。この事を姉さんが聞いたら、悲しむな……。」


 どうやらカリーの中では、俺が記憶喪失になったという事は決定事項らしい。

 だから違うってばよ。
 

「ところで、その姉さんと俺はどんな関係なんだ? もしかして付き合っていたとか?」


 なんとなくきまづい雰囲気だったことから、話を反らす俺。
 というか、やっぱ気になるじゃん。
 こいつイケメンだし、多分姉も美人だろう。
 そんな美人と俺に似た奴が、どんな関係であったかなんて、気にならないわけがない。


「いや、違う。」


 だが、俺の思春期的な質問は即座に否定された。
 まぁ俺に似ているならば、きっと童貞だろうし……ただの仲間だろうな。


「夫婦だ……。」


 !?

 なんですと!?
 今、こいつはなんと言ったんだ?
 夫婦?
 ま、まさかな。

 あぁ、俺は勘違いしていたのかな?
 カリーは嫁の事を姉さんって呼んでたのか。
 うんうん、そうだよね。
 ど、動揺なんてしてないからね!


 だが、一応確認だけはしておこう。


「夫婦って……? 誰と誰が?」

「姉さんとフェイルに決まってるだろ! つまり、俺はお前の弟って事だ。」


 まじかよ!
 俺、結婚してたの!?
 って流されるな!
 フェイルは俺じゃねぇ、俺に似た別人だ。


「結婚してた……。って約束とかじゃなくて?」


「お前……そこまで記憶が……。約束どころか、姉さんはお前の子供を身に宿していただろ? あれだけ楽しみにしていたじゃねぇか! っていっても、あの時空転移だ。お腹の子も、もしかしたら……流れている可能性もあるな。悪い、そんなつもりでいった訳じゃねぇんだ。お前を責めるつもりなんかねぇ。」


 いや、だからフェイルじゃないって!
 つうか、子供?
 つまり、子作り儀式済み?

 童貞じゃないじゃん!
 ふざけんな! 
 それじゃ俺な訳ねぇだろ!!
 

「いや、だからさカリー……。」

「大丈夫だ、言わなくても分かってる。俺だってあいつは絶対許せねぇ。だけどな、あいつには勝てねぇよ。だから、これから俺と一緒に姉さんを探そうぜ。俺がこの世界に来た意味が、今分かった気がするんだ。」


 ダメだ、聞く耳を持たないわ、こいつ。
 うーん、なんか自己完結しているけど、色々間違ってますよ?
 まぁだが、気持ちは何となくわかる。
 
 後少しで、幸せが待っていたはずだったのに、それを奪われたのだ。
 悔しいのは当然だろう。
 そして、同じ思いは二度としたくないと思うのも当然だ。

 復讐といっても、不可能ならわざわざもう一度殺されに行く必要なんかない。
 こいつがずっと周りを警戒しているのは、そいつがまた突然現れるかもしれないというトラウマからなのか。
 なるほどな、今やっとわかったよ。 


「俺がいくらフェイルでないと言ってもお前は信じないんだろ? なら、俺が今何で旅しているのか、俺がこの世界でどういう風に生きてきているのか、少し聞いてくれないか? それを聞いてから、また色々と考えて欲しい。俺にもやらなければいけない事がある、それについても話をさせてくれ。」


「……わかった。聞こう。そうだな、この世界の事も俺は知っておかなければいけないしな。じゃあ話してくれ。」


 こうして俺は、今までの俺の事や、ここでやらなければならない事等、全て包み隠さずに話始めるのであった。
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