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第三部 オーブを求めて

第十話 謎の冒険者

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 とりあえずドワルゴンの山を下りたところで、俺は馬車から降りる。


「うし! んじゃ、いっちょやってみっかな! 【ディバインチャージ】」


 剣先に青い光が収束していく。
 気のせいか、今までよりも青色が濃く感じた。


「いっくぜぇぇぇ!!」


 ブゥォォォン!


 ………………。


 ズドォォォーーーン!!


 俺が剣を振った瞬間、驚くべき光景が……。
 ディバインチャージの威力と衝撃波は想像の何倍もの破壊力になっており、振って数秒たってから、辺りに轟音が鳴り響いた。

 そして目の前に映るは一本の道。
 少し道を切り開くつもりが、目的の山の大穴まで、破壊の跡は縦長に続いている。


「うげ!! やり過ぎたか? つか、こんなヤバイ攻撃力になってるとは……力+知力の威力は半端ないな。」


 その時だった……


「グオォォォォン!」


 山からいきなりドデカい叫び声が響く。
 そして穴の中から体の大きな何かが現れた。


「あれは……まさか? いや、でも似てるな。」


 俺が目にしたのは、ドラゴンではなく、古代図鑑に載っていたTレックスと呼ばれる動物だった。

 しかし、遠目からでもわかるが、図鑑に載っていた大きさよりも数倍でかい。
 多分、Tレックスの魔物なんだろう。

 恐竜とよばれていたTレックスの大きさは、図鑑では5メートル。
 しかし、遠くからでもわかるが、あれはそんな大きさではない。
 多分、優に10メートルは超えている。


「やべぇな、ありゃ。確かに普通のドラゴンではないわ。といっても、多分だが、魔王程は強くないだろう。つまり……デカいだけで俺の敵ではない!」


 穴から出てきた恐竜は、付近をキョロキョロ見回している。
 どうやら、さっきの俺の攻撃と振動に驚いてでてきたようだ。
 そして、その原因を探しているのか?
 

 知恵がありそうだな。


 とその時、小さな何かが恐竜に向かって走っているのが見えた。


「あれは……まさか! まずいぞ、多分例の冒険者だ!」


 俺よりも一日早く出発していた冒険者は、どうやら既に目的の山の穴近くまで来ていたらしく、たった一人でそのモンスターに挑んでしまった。
 普通に考えて、魔王よりは弱いかもしれないが、あのモンスターはヤバイ。
 冒険者一人の手に負える相手では決してない。


 焦った俺は、ライトブレイクで出来上がった、目の前の一本道を、全速力で馬車を走らせる。
 山の勾配から考えて、山の手前で馬車を置いて、そこからは、自分の体で登るしか間に合う方法は見つからない。

 
 恐竜の魔物は、冒険者に気付き、既に二人は戦闘に入ってしまっている。


 急がなくては!!


 俺は精一杯鞭で馬を打ち、全速力で走っていく。
 すると、思いのほか早く山の下までたどり着いた。

 とはいえ、既にあれから10分は経過している。
 間に合うかどうかはわからないが、それでも俺は馬車を降りて全速力で山を駆け上がるのだった。


「グオォォォォン!」

「おら、どうした! 全然当たらないぜ! おらよ!!」


 俺が二人の戦闘場所まで辿りつくと、なんと二人はまだ戦っていた。
 戦っている冒険者に傷は見当たらず、逆に恐竜の方は全身切り傷だらけである。
 どうやら、この冒険者は普通じゃないらしい。

 恐竜と冒険者の動きを見ればわかる。
 まず、恐竜のモンスターは決して弱くない。
 動きも見た目以上に早ければ、攻撃力も申し分ない程、破壊力満点だ。
 恐竜が腕を振る度に、山が削れている。


 しかし、その攻撃は冒険者には当たらない。
 その冒険者の素早さが尋常ではないからである。
 俺程ではないにせよ、多分リーチュンよりは上。

 更に持っている武器が異様だった。
 両手にそれぞれ、黄色と赤色の剣を持ち、背中には槍と弓を背負っている。
 戦いに使っているのは、その赤と黄色の双剣であり、一撃自体は重くはなさそうだが、多分雷と炎の属性が付与されており、じわじわと恐竜にダメージを与えていた。


 こんな戦闘スタイルを見るのは初めてだ。
 それに背中にしょっている槍と弓も気になる。
 一体、どんな職業なのだろうか?


「うーん、これは手助けの必要はなさそうだな。って、え? 嘘、ちょっ! なんだこれ! ま、待って!!」


 突然、俺の【絆の腕輪】が光りだすと、二人の間に向かって俺を引っ張っていく。
 それはまるで、強い引力に引き付けられるが如く、凄い勢いで二人のところへ飛んでいった。


「うおぉぉぉ! とぉまぁれぇぇぇ!!」


 俺が二人の間に飛んでいった時、冒険者は双剣から水色の槍に持ち替えており、何らかのスキルを発動して、恐竜の胸に目掛けて一突きした瞬間だった。

 多分、これが彼の最高必殺技なんだろう。
 そして、それを食らえばきっと恐竜もただでは済まない。


 そんな予感がしたーーが、あろうことにも、俺はその突きの射線に入るのだった。


「う、うそだろ!! クソ! なんだよこれ!」


「は? ばっかやろぉぉぉ! 死ぬぞ!」


 ガキーン!!


 短めのツンツンした青髪の青年が叫んだ瞬間、俺は盾でその突きを防いだ。

 間一髪で防御が間に合ったお蔭で、攻撃を防ぐことはできたが、ちょっとだけ盾が凍っている。
 どうやら、氷属性の必殺技であったようだが、俺の防御力はそれを凌駕しており、ほとんどダメージはない。


 ちょっと手が痺れて、冷たいだけだった。


「まじかよ? 嘘だろ? 俺の必殺技を防いだだと!? お前、もしかして魔王……ん!? フェイル!! フェイルじゃないか! 生きてたのか!?」


 その青年は自分の攻撃が防がれた事に驚くと同時に、俺の事をフェイルと呼んだ。

 知り合いに似ているのだろうか?


「すまない! 邪魔するつもりはなかったんだ。何故か急にこの腕輪が……。」


「いや、そんな事はどうでもいい!! なんでここにいるんだ! 生きていたなら……くそ……姉さんだって……。」


 なぜかその男は、突然涙を流して膝をつく。
 不思議な事に、恐竜もまた動かないーーが、その時だった。


「グオォォォン」


 恐竜は突然その場でデカい雄たけびを上げると……座り込む。
 そして、俺には何故かその雄たけびのーーいや、その言葉が聞き取れた。

 そいつはこう叫んだのだ。


「ムッツゴクロオオオオ!!」
 
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