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特別編

Episode of Siroma 2

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「あの……シロマ様。本当に読まれるのですか? 私は反対です。」


 現在、シロマの部屋には一冊の本が置かれている。
 その本の表紙には


  不思議の国の


と書いてあり、これがグリムワールであることは、前回の天命の巫女のよって判明している。

 この広大な図書館の中には、1億冊近い本があった。
 どれがグリムワールであるかは、天命の巫女が手に取らない限りわからない。
 もしも、手に取った本がグリムワールであった場合、その本が光り輝いて教えてくれる。
 そして、それを1ページでもめくれば、その世界に吸い込まれるのだ。


 逆に言えば、開かなければ、その本の世界に行くことはない。
 何人もの巫女が、本の世界に吸い込まれて消えていってしまった。
 確かに、本の世界の攻略は必須である。
 しかし、召喚もいつでも簡単にできるわけではなく、それこそ、5年間魔力を貯めなければできない。

 
 そこでダンブルドは考えた。


 まずは、その世界を攻略するよりも、この国に置かれているグリムワールの選別が先であると。
 書物は、この国の壁全てに置かれている。
 それを一つ一つ触れるのにも、莫大な時間がかかってしまう。
 故に、前々回からは、グリムワールを捲るのを禁止し、選別だけを実施したのだ。


 そして、前回の巫女で9割、つまり9千万冊の選別が終わった。
 9千万冊の内、グリムワールは9冊。
 つまり、一千万冊に一冊ある計算だ。

 前回、前々回の巫女は、途中で好奇心に負け、本を開いてしまい、そのまま消えていった……。


 ダンブルドは、今回もまた、残りの一千万冊の選別をシロマに任せようと思い、うまくごまかしてしたのだが、それはマイオニーによって暴かれてしまっている。


 シロマとしても、一旦全てのグリムワールを選別するのもありかとは思ったのだが、どちらにしても、これを全てクリアしなければ、戻れないと思い、それならば、まずは1冊開こうと決意したのだ。
 当初、ダンブルドは反対したが、色々隠していた事を追求され、最終的には折れた。


 そして今に至る。
 
 
「マイオニーさん、心配ありがとうございます。ですが、私は解き明かさねばならないのです。世界の理を。ですから、逃げるわけにはいきません。」


 シロマは、決意の篭った瞳でマイオニーを見つめる。


「わかりました。では、私は祈るだけです。戻ってくるまで、毎日この部屋を綺麗にしておきますね。」


「はい、お願いします。もしも……いえ、なんでもありません。では行ってきます。」


 シロマは、


「もしも、この本の光が消えたならば、私の事は忘れて下さい。」


と言おうとしたが、やめた。

 最初からそのような弱音を吐きたくなかったのである。

 本の光が消える事、それは、巫女が本の世界で死ぬ事を意味する。
 グリムワールの中で巫女が生きていると、その間、ずっと本は光っているそうだ。
 前回の巫女は、長い間、本の世界にいたらしく、その間、グリムワールはずっと光っていたらしい。
 そして、半年後にプツっと光が消えた。


 これも、何度も巫女が挑戦したため結果、判明したことである。
 光が消えるまで、最短で1日、長ければ1年光っていた事もあったそうだ。


 そして遂に、シロマは本を手に取り開く。
 その瞬間、グリムワールは光り輝き、シロマは本の中に吸い込まれた。

 すると、本のタイトルが


 不思議の国のシロマ
 

に変わる。


 それを見たマイオニーは、無事にシロマがグリムワールに入った事を知る。
 そして、本の前で手を合わせて、神に祈った。


「シロマ様……どうか、御無事で……。」


 シロマのいなくなったその部屋で、マイオニーの声だけが静かに響くのであった。



【グリムワール世界】 



 気が付くと、シロマの周りからマイオニーが消えている。
 そう、シロマは本の中に入ったはずなのに、同じ場所にいたのだ。

「あれ? 私は本の世界に入ったはず……。マイオニーは?」

 シロマは混乱しつつも、辺りを見渡す。
 何度見ても、さっきまでいた自分の部屋だ。


 キィィ……


 すると、扉がほんの少しだけ開いた。


「マイオニー?」


 …………。



 シロマは、マイオニーが戻ってきたのだと思って声をかけるも、返事は返ってこない。
 不思議に思ったシロマは、その少し隙間が開いたドアに近づく。

 ーーすると、白いもふもふが見えた。


「……動物?」


 そのモフモフは、体が見えないことから、何かまではわからない。
 しかし、そのフワフワでモフモフな毛並みは、動物だとわかる。
 シロマはその正体を確認するべく、ドアの前まで来ると


ーー驚いた!


「モンスター!? どうしてここに!?」


 目の前にいたのは、ニッカクウサギであった。
 即座に臨戦態勢をとるシロマ。


 キューー


 しかし、そのウサギは、シロマの事をビー玉の様な目で見つめるだけで、襲ってこない。
 そして、その鳴き声は可愛らしかった。
 よく見ると、ニッカクウサギの首元には懐中時計が、首輪のようにぶら下がっている。


「どういう事でしょう……モンスターが装備……? いえ、それよりも……。」


 茫然とウサギを見みがら呟くと、ウサギはそのまま、その場から離れ始めた。


「ちょっとまってください!」


 シロマは、慌てて追いかける。
 相手がモンスターと分かりつつも、なぜかそのウサギを追ってしまった。


 廊下を走るウサギ。
 それを追うシロマ。


 シロマが走っている廊下は、やはり、この二週間シロマが暮らした王宮と同じだった。
 違うのは、そこに、人が一人もいないということだけ。

 ニッカクウサギは、シロマとつかず離れずの距離を保って、走り続ける。
 それはまるで、シロマをどこかに誘う(いざなう)ようだった。


 ぴょん!!


 そして、うさぎは中庭に出ると、そこには今までにはなかった穴を見つける。
 その中に、躊躇なく飛び込むニッカクウサギ。


「あれはモンスターの巣? でも……うん、入るしかないよね!」


 シロマは王宮の状況を見て、ここが、本の世界であることを確信していた。
 
 その穴に飛び込めば、もしかしたらモンスターに囲まれるかもしれない。
 もしくは、永遠に続く穴かもしれない。


 そんな事を考えたら、怖くなった。
 どう考えても、これは罠だし、危険すぎる。
 ここには助けてくれる仲間はいない。
 一度のミスが、致命的になりえるのだ。


 しかし、シロマは躊躇なく、その穴に飛び込むのであった……。
 
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