上 下
137 / 397
特別編

Episode of Ease 4

しおりを挟む
 あれから五年の月日が流れた……

 イーゼはこの世界に来てから、ハンターとして、毎日大物の魔獣を狩り続けた。
 最初の半年は、まだここでの戦い方に慣れておらず、焦る気持ちだけが空回りして、クエスト失敗が続く。
 だが、沢山の出会いや、経験値を得て、今、遂に50階層に向かう階段の前に立っているのだった。


「長かったですわ……。あれから5年……。サクセス様は無事でしょうか……。」


 少しだけ、ここでの生活を振り返るイーゼ。
 しかし今は、それよりも、やっと元の世界に戻れる事への安心感で一杯であった。
 

「早く……ダーリンに会いたいですわ! そして……今度こそ、子種を……。」


 長くサクセスに会えなかった、イーゼの妄想は暴走する。
 既に何万回と行ったイメトレは、イーゼにとって、現実と区別がつかないところまで来ていた。
 そして、足早に階段を上りゆく。


 この塔は48階層が事実上、ラスボスがいる階層であり、そこまではパーティ攻略が許されている。
 しかし、49階層だけは単独で臨まなければならず、更にそこにいるのは48階層のボス【ミラクルボレー】の亜種、【ミラクルマシンガン】という強敵だった。

 イーゼがこの世界に来た頃、48階層までは、何人か辿り着くも、流石に単独で戦わなければならない、49階層を攻略できるハンターは現れなかった。

 つまり、この世界において、イーゼこそが初の踏破者であり、名実ともに、伝説のハンターである。
 そして、49階層のボスを倒すと同時に、天空に続く階段が現れた。
 これこそが、最上階に行くことができる、唯一の道。


 どこまで続くかもわからない階段を、イーゼはひたすら上りゆく。
 しかし頭の中は、サクセスとの情事の事でピンク一色であった……。

 そして、遂に階段の先が見えてくるーーがイーゼは気づかない。

「いやん! だめですわぁ! あぁん、きてぇん。」

 そこにおわすは、どう考えてもただの変態。
 そんな妄想をしながら、よく階段から落ちないものであるが、階段の先にある扉に頭をぶつける。


 ガンッ!


「いたっ! って、もう到着ですの? これが50階層への扉……。」


 頭を扉に打ち付けたことで、やっと現実に戻るイーゼ。
 そして、ゆっくりと、その扉を開けると


ーーそこには1匹のリスがいた。


「待っていたぞ、踏破者……よくぞこの試練を乗り越えた、異世界の者よ。」


 そのリスを見て、イーゼは思い出す。
 この世界に来た時に、懐いていたリス(ゲロゲロ)を。


「あなたはゲロゲロ……かしら? どうしてここに?」

「そういえば、主は我をそう呼んでいたな。いかにも。我はこの世界の精霊神であり、この姿は仮の姿である。」

「精霊神……様? では、あなたが私を転職させてくれるのですわね?」

「いかにも。まずは、試練の褒美として、これを受け取るがいい。」

 精霊神がそう告げると、イーゼの目の前に、ティアラのような冠と靴が現れる。


「こ、これは……。」


 イーゼは、突然目の前に現れた装備に驚きつつも、なぜか懐かしい感じを覚える。


 なぜならば、現在、イーゼの装備は、ガチガチでゴツゴツの重装備。
 この世界のモンスターの皮や角等で作られた装備であり、ぶっちゃけ蛮族っぽい恰好だ。

 そんな中、元にいた世界で見るような、質素で小さな装備を見れば懐かしくもなるものだ。

 質素といっても、ティアラは綺麗なエメラルドグリーン色をしており、その透明感からも気品溢れる美しい物。
 そして、靴にあっても、特に派手な装飾等はないものの、履きやすそうでありながら、貴婦人がつけていてもおかしくない程に、洗練された見た目であった。

 イーゼはその装備を手に取って能力を確認する。


【精霊神の冠】 レアリティ 3
 防御力 35
 スキル 魔力解放 精霊神の加護 知力+30


【精霊神の靴】 レアリティ 3
 防御力 30
 スキル 精霊脚 素早さ+15 知力+15


「ふむ、受け取ったか。では、一度、主の装備を戻そう。」


 精霊神はそう言うと、イーゼの体が光り輝き、元の世界にいたころの服装に戻る。
 ただし、頭と靴だけは、今回与えられた装備となっていた。


「凄いですわね……体が軽いですわ。でも、ちょっとだけ、寂しいですわ。」


 長い間装備していた、蛮族装備が一瞬で消えてしまった事に、少し寂しさを覚えるイーゼ。


「よく似合っているぞ、踏破者よ。では、この場において、主を転職させる。我の前に来ると言い。」


 イーゼは、精霊神の言葉に従って前に進むと、精霊神はジャンプして、イーゼの肩に飛び乗った。


「あら? 抱き上げてもよろしくてよ?」

「それには及ばぬ。では、ゆくぞ! はい、終わり。」

 
 今までずっと、リスの姿に似つかわしくない威厳ある言葉で接していた精霊神であったが、最後はなぜか少しコミカルな雰囲気に変わる。

 更に言えば、「行くぞ!」等と気合入れておいて、速攻で終わるという何とも、微妙な転職であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...