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第二部 新たなる旅立ち

第三十九話 霧散する光

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「あれか! 確かにデカい……そして、かなり強そうだな。ビビアン、無事でいてくれ!」

 俺はゲロゲロに乗りながら、猛ダッシュで草原を駆け抜けて、森の中に入った。
 マネア達が言っていた竜の魔王とはあいつの事だろう。
 森の中にいても、その大きさと存在感が凄すぎて、すぐに見つかった。

 あそこにビビアンがいる……。
 道に迷う心配はないな。

 俺は竜の魔王を目印に、一気に加速する。
 そして、やっとそこに到着した。
 
 見えた!! ビビアンだ!
 よし、まだ無事みたいだぞ!

「ビビアン!! 大丈夫か!?」

 そこにいたのは、ビビアンとさっきから見えている竜の魔王……そしてデスバトラー!

「ほう、闖入者(ちんにゅうしゃ)か……。」

「邪竜王様、あの男……勇者より強いですぞ。油断せぬよう、お気を付けください。」

 どういうことだ?
 ビビアンは俺が呼んでも反応はないし、他の二匹についてもビビアンに攻撃をする気配がない。
 そして、シャナクとかいう賢者も見当たらないな。

「ビビアン!」

 俺は再度大きな声で呼びながら、ビビアンの方へ駆けつけると、やっと振り向いた。

「あなた……? 誰? 中々いい男ね。でも残念、人違いよ。アタシはビビアンじゃないわ。」

 ビビアンの目は、感情がないような目であり、そして体全身から黒っぽい青色のオーラが湧き上がっていた。
 
 まじか……。
 あいつか!
 デスバトラーがビビアンに何かしやがったな!

「ビビアン。直ぐに助けてやる! おい! デスバトラー! ビビアンに何した!?」

「これはこれは心外ですな。私は何もしておりませぬぞ。それとあなたは勘違いされているようですね。此方に御座せられるは、魔王ダークビビアム様であり、あなたがおっしゃるビビアンという者とは別人ですぞ。」

「ふざけんな! どうみてもビビアンだろ! 何が魔王だ! 早くビビアンを元に戻せ!」

「もとに戻せと言われましても……。」

 
 ドン!!


 そして、その言葉と同時にデスバトラーは吹っ飛んだ。
 その衝撃で、デスバトラーの右肩が消滅する。

「シャナク……あんた何勝手に、アタシを語ってるわけ? 殺すわよ?」

 なんと、ビビアンが一瞬でデスバトラーに近づくと、一発殴り飛ばしたのだった。


 早い……。
 見えなかったぞ!?

 俺はその速度に驚く。

「こ、これは大変申し訳ございませぬ……エクスヒール……。」

 そしてデスバトラーはすぐに謝罪をすると、自分に回復魔法をかけた。
 あまりの恐怖に、あのデスバトラーが震えていた……。

「す、すごいなビビアン。よし、一緒にこいつらを倒そう!」

 ビビアンは俺の言葉に返さない。
 やはり、どこかおかしい。
 さっきから、ビビアンらしい部分は感じるものの、全く心がここに無い感じがする。

「ほほう。ワシを倒すと申したか。ぐあはっはっは。馬鹿め、お前など相手にならんわ。」

 だが、この言葉には反応した。

「あんた……本当に頭が悪いわね。これで三回目よ。しゃべるなっていったわよね?」

 ビビアンの体を纏っていたオーラが大きくなる。

「ふん、丁度いい。少し上下関係をわからせる必要があるみたいだな。」

 邪竜王がそういった瞬間、邪竜王の口から暗黒のブレスが即座に放たれた……ビビアンに向かって……。

「じゃ、邪竜王様! 敵はそちらでございませぬぞ!!」


 ゴォォォォォ!


 デスバトラーの声は時すでに遅く、そのブレスはビビアン目掛けて一気に吹き付けられた。


 ブオォン!


「ふん。くさい息ね。」

 なんと、ビビアンは剣を一振りしただけで、そのブレスをかき消してしまった。
 そして……

「もう目障りだわ。消えてちょうだい。アルティメットビビスラッシュ!」

 ザン……。

 ビビアンが剣を振る動作をしたように見えたが、俺には早すぎて見えなかった。
 超速の一撃である。

「ふん、こざかしい。何も感じぬぞ。どうやらワシは買い被っていたようだな。」

「本当に馬鹿ね。アンタはもう死んでるわ。」

「はっはっは! 何が死んでいるだ。ワシは……わ…あ、あれ? わ、わし……。」

 邪竜王が笑った振動により、細切れになっていた身体全体がバラバラに崩れ落ちる……。
 なんと、ビビアンは邪竜王を一撃で細切れに切り裂いていたのだ……。
 別名 アトミック斬……である。

「ば、バカなぁぁぁ……わ、わしが……このわ……。」

「うるさいわね。目障りだからさっさと消えて。」

 ビビアンの指先に小さな黒い球が出来上がる。
 それを邪竜王に向けて優しく放った。


 ゴウゥン!

 その小さな玉が邪竜王に直撃すると、一瞬で体全体が黒く燃え上がり、そしてその場から邪竜王の存在自体が消滅した……まさに塵も残さず……。

 う、うそだろ……。
 ビビアン、ちょっと強すぎる……いや強いとかそういうレベルじゃないぞ!?

 俺はその姿を見て、冷や汗をかいた。
 
 そして、俺の他にもう一名、恐怖に固まっている者がいる。
 デスバトラーだ。

「こ、これはまずいですぞ……ゲルマニウム様……。あれは……あれは復活させてはならない者ですぞ……。」

「それで、あなた。あなたの名前はなんていうのかしら?」

「そうか、ビビアン。忘れてしまっているんだな。俺はサクセスだ! お前の幼馴染だ。」

「へぇ~、面白いこというのね。それと私の名前は……ビビアム。そう、ビビアムって呼んでちょうだい。ダークは長いからやっぱりいらないわ。でもビビアンじゃないから、そこは間違えないでね。」

「わかった。ビビアム。とりあえず俺と一緒に仲間のところに戻ろう。シャナクという賢者は見つからなかったが……。」

「シャナクならそこにいるわ。そこの震えている情けない奴がそうよ。それと、仲間? 何それ? いらないわ、そんなの。それよりも、あなたは気に入ったわ。アタシのペットにしてあげるわよ。」

 び、ビビアンのペットだと!?
 ふざけるな!
 そ、そういうプレイ……
 ちょっと……いいな。

 違う違う!
 やはりビビアンはおかしい。
 どうにか元に戻さないと!

「ビビアム、それはそれで気になるところだけど……。」

「でしょーー! あなたならそう言うと思ったわ。サクセスだっけ? いいわね。じゃあ二人でこの世界を滅ぼした後に、一緒に二人で暮らしましょう。」

「ちょ! 滅ぼすって。ビビアン、お前どうしちまったんだよ? ビビアンは勇者だろ? 一緒に世界を救うために大魔王を倒すんだ。」

「世界を救う? なんで? こんな汚い世界は一度消し去ったほうがいいわ。まぁ大魔王を殺すのは構わないけどね。」

「違うよビビアン。確かにこの世界の人がみんな綺麗な訳じゃない。だけど、輝くように美しい世界だって広がっているんだ。そして、それを作っているのは綺麗な心をもった人達なんだ。だから……。」

「いいかげんにして! いくらアナタでもそれ以上は許さないわ! アタシが消すっていったら消すの! わかった!?」

「ビビアン……いや、すまない。今はビビアムだったな……。だが……それでも俺は言うぞ。俺はこの世界とお前を絶対救ってみせる! 何がなんでもだ! ビビアンは……俺の……大事な大事な幼馴染だから!」

「……アタシを救う? なら救いなさいよ! ほら! 今すぐ! そんな軽い言葉なんかいらないわ! あんたもどうせアタシを裏切るんでしょ! だから消してやるのよ! 全て消して、二人だけになったら、きっとアンタはアタシを裏切らないわ!」

 その言葉に俺は直ぐに返せなかった。
 確かに、救うといっても何か今できる方法が……
 いや! あるぞ!
 光の波動だ!!

「わかった。じゃあ、今からお前を救って見せる! 【光の波動】」

 俺の手から眩い光が発せられると、ビビアンの闇のオーラを……打ち消すことなく、霧散した。

「何よ? 何も変わらないわよ。これでわかったでしょ? アタシを救えるのはアタシだけ。アンタは黙ってアタシの傍でペットになっていればいいわ。」


 …………。


 なぜだ!?
 どうして何も起きない?
 闇を打ち払うんじゃなかったのかよ!


「くそ……おい、そこのデスバトラー。お前を倒せばビビアンは元に戻るのか?」

 近くでその存在感をかき消して、息を潜んでいるデスバトラーに聞いた。

「いえいえ、ちょっと私に話を振らないでもらえますか? わたくし、先ほどから怖くて……。」

「ふざけんな! お前たちがビビアンに何かしたんだろ! 死にたくなければ元に戻せ!」

「申し訳ございませんが、私を倒したところで戻らないでしょう。それと、わたくしはデスバトラーではなく、シャナクですぞ。お間違えなさらぬように……ビビアム様が怒ったらどうするんですか……。」

「話にならねぇな。まぁでもなんかわかってきたぞ。お前も魔物化されたんだな……畜生……八方塞りじゃねぇか。」

「ちょっと、アタシを放って話さないでくれない? シャナク! あんたもよ!」

 サクセスとシャナクでは、記憶がなくても対応が違うビビアム。
 やはり、これも魂の残滓の影響なのだろうか……。

「はっ! このシャナク、以後確認なく言葉を話す事を慎みますぞ!」

 この野郎……。
 それで話さないつもりか……。
 しかし参ったな。

 無理矢理連れて行くにしても、ビビアン強すぎるしな……。
 つうか、あの強さおかしいだろ?
 やばそうな魔王を一撃だぞ!
 完全にラスボス越えてるじゃねぇか……。




 ビビアンを助けにきたサクセス。
 しかし、ビビアンは姿こそ変わらぬものの、全く中身が変わっていた。
 そしてその力は、強敵と思われた魔王を一撃で倒してしまう。
 もとに戻すにしても方法が見つからない……
 
 そして、この後……更なる悲劇がサクセスを襲うのであった……。
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