上 下
103 / 397
第二部 新たなる旅立ち

第二十話 生きている喜び

しおりを挟む
 ゲスい事を考えながら走っていた俺は、途中で重要な事を思い出す。

「あっ! 馬鹿か俺は! 仲間達がピンチかもしれないじゃないか!」

 思いがけずビビアンと再会した事から、すっかり頭が違う事にいっていた。
 俺はデスバトラーを追う為に、あの凶悪なドラゴン達を仲間に任せている。
 デスバトラーに逃げられた今、俺は急いで戻らなければならない。

 何してんだ俺は!

 さっきまでの自分に怒りを覚えた。
 そして、胸の動悸が激しくなる。
 激しい不安が俺を襲うのだった。

「くそ! みんな無事でいてくれ!」

 そこから俺は全速力で走る。
 体力と素早さのステータスが化け物じみていた俺は、全力でも二時間は走れた。

 すると数分走ったところで、見慣れた馬車が走っているのが見えてくる。
 
「あれは……俺たちの馬車だ! みんな、無事か!」

 俺が叫びながら馬車に近づくと、御者をしていたリーチュンとシロマが気づいた。

「あ! サクセス! アタイらは大丈夫だよ!」

 俺は仲間達と合流した。

「みんな怪我はないか!? あいつは……あの黒いドラゴンはどうなった!?」

「サクセスさん、落ち着いて下さい。みなさん無事です。リーチュンも死にかけはしましたが、見ての通りピンピンしています。」

「そうなの! アタイ、ドジ踏んじゃってさぁ。ちょっと死にかけちゃったわ! あはは……。」

 死にかけたと言っている割に、リーチュンは元気だった。
 見た感じ、特に目立った外傷は見えない。
 だが、死にそうになったと聞いて、普通でいられるわけがない。

「本当に大丈夫なのか? どこかおかしなところはないか!?

 一歩間違えていたら、もう二度とリーチュンに会えなくなるところだったかもしれない。
 そう考えると、足が震えてくる。

 やはり、離れるべきではなかったか……。

「そんな顔をしないでください、サクセス様。大丈夫ですよ、誰もいなくなったりしませんわ。それにわたくしは約束を必ず守る女ですわよ。」

「そうよ! サクセスは心配し過ぎ! 見てよ、こんなにピンピンしてるんだから!」

 リーチュンはその場でバク転をしたり、飛び跳ねたりしてる。
 確かに元気そうだ。

 少し安心すると足の震えが止まる。

 そして……

 ちらりと見えた、黒い輝きを見て逆に元気が出てきた。

「リーチュン! はしたないですよ。下着が見えてます。」

「いいじゃん、減るもんじゃないし。アタイ、サクセスなら見られてもいいわよ。」

「そういう問題じゃありません!」

 言っても聞いてくれないリーチュンに、シロマの頬は膨らむ。
 そして俺のあそこも膨らむ……。

 すると今度はゲロゲロがゆっくりと俺に近づいてきた。

 ゲロォ(ごめんね)

「ん? どうしたゲロゲロ。元気ないじゃないか? どこか怪我でもしたか?」

 ゲロロォ……。(僕のせいでリーチュンが傷ついた。)

「ん? どういう事だ? そうだ! あの黒いドラゴンはどうなったんだ!?」

「ゲロゲロちゃんが倒してくれました。まるでサクセスさんのような技を使って。私達が今生きているのは、ゲロゲロちゃんのお陰です。」

 ん?
 どういう事なんだ?
 ゲロゲロが新しい技を覚えて、あいつを倒したと?
 それは凄い事だし、後で見せてもらいたいが……。

 ならなんで、こんなにゲロゲロは落ち込んでいるんだ?

 俺は状況をのみこめない。
 だが、とりあえずゲロゲロを撫でる事にした。

「よくやったな、ゲロゲロ! お前のお陰でみんな無事だった。俺は見てないけど、お前を誇りに思うよ。」

 ゲロォ! ゲロゲーロ!(サクセス! うわーん!)

 ゲロゲロは俺に飛びついてくる。
 涙こそ流れてはいないが、それは泣いているように見えた。

「よしよし、いい子だ。泣かなくていいぞ。怖かったな、辛かったな。でももう大丈夫だぞ。」

 子供をあやすように、優しく撫でる。

 ゲロ……ゲローン……(サクセス……サクセスぅぅ~)

 ゲロゲロは俺の腕の中で泣き続けた。

「ゲロちゃんには、悪い事しちゃったわね。あれはアタイのドジだから気にしないでいいのに。」

「そうですわ、あなたがまた勝手に突っ走るから、あんな凶悪なブレスを食らったのですわ!」

「しょうがないじゃん! イーゼの魔法を信じてたんだもん。」

「わたくしのせいにするつもりですか! 誰があなたを助けたと思っているのですか!」

 何故かイーゼとリーチュンが喧嘩し始める。

 だが、なんとなくだがわかってきた。
 つまり、ゲロゲロがあのドラゴンを倒しきれなくてリーチュンが助けたところ、ブレスを浴びて死にそうになった。
 そして、それをイーゼが助けたという訳か。

 ん? 
 なんでシロマじゃないんだ?

「まぁまぁ二人とも、喧嘩はやめてくれ。とりあえずみんなが無事で良かった。敵を倒せた事よりも、俺はお前達が生きていてくれた事が嬉しい。みんなありがとう。」

「サクセス!!」
 
 俺の言葉に、リーチュンが抱きついてきた。
 相変わらず、直情型だ。

 おやおや?
 また倒された方がいいかな?
 この間は、俺のターンの前に終わってしまったからな。

 そんな事を考えていると、イーゼが更に怒った。

「ちょっと、話は終わってませんわ! サクセス様から離れなさい!」

「イーだ! やだよ。早いもの勝ちだもんねぇ~!」

 子供のような返しをするリーチュン。
 俺としても、このふくよかな感触はもう少し味わいたい。

「わかりましたわ。貴方がそういう態度を取るなら、わたくしにも考えがあります。」

 急にイーゼのトーンが下がる。
 それは、まるで嵐の前の静けさのようだ。

 ドキドキ……。
 やばい、何を言い出すんだ。
 これ以上喧嘩はやめてくれ!
 というかシロマ、そろそろ止めてくれよ!

 イーゼは真剣な目でリーチュンを睨んだ。

「何よ!」

 そしてリーチュンも睨み返す。

 正に一触即発だ。
 女性の激しい争いに、俺はハラハラして何も言えない。

 正直、怖かった。

 だが……イーゼは、俺の予想とは反して、まさかの行動にでる!

 ダダダっ! ドーン!

「あぁ、サクセス様。わたくしも死にそうになって、怖かったですわーー! うえーーん!」

 なんと俺に勢いよく突撃して押し倒すと、俺の息子に顔をスリスリさせながら、嘘泣きを始めた。

 その謎の行動にみんなは呆然とした。
 普通に考えれば、

 もう貴方を助けないですわ! 

とかいって大喧嘩が始まる雰囲気だった。
 しかし、イーゼは俺の予想を大きく上回る。

 どうやら、リーチュンにやり返すのではなく、リーチュン以上の事を俺にしよう決めたのだった……。

 恐るべしイーゼ……。

 そして、ここぞとばかりに責め立ててくる。
 やめてくれ、昨日から俺は辛いんだ!

 スリスリスリスリ……。

 あっ! 
 ちょっ!
 そこをそんなに刺激しないで!!

「イーゼさんも、リーチュンもいい加減にして下さい! なんなんですか二人とも!」

 遂にシロマがキレた。

 俺もその声に、俺の一部が縮み上がる。
 凄い迫力だった。
 そりゃ、まぁいきなりこんなの見せつけられたら、怒るわな。

「ずるいです! みなさんだけ!」

 へ?

 なんと今度はシロマが俺の頭を抱き抱えてきた。
 小さくも柔らかい何かが俺を包む。

 やめてくれーー!
 これ以上は……。
 ダメだっぺよ!
 もう、許してけんろぉ。

「あー、みんなズルい! アタイも!」
 
 ゲロォ!(僕も!)

 リーチュンもゲロゲロまでも俺に抱きついてきた。
 俺の右手はリーチュンのメロンに包まれる。
 仲間全員からもみくちゃにされ、陵辱され続ける俺。
 もはや、限界だった。
 何が? って、ナニがだ。

 そして俺は、屈辱を味わう事になるのだった。
 今までのバチが当たったのかもしれない。

 もう……無理……。



  



 激しい脱力感と、幸福感が俺を包みこんだ。
 そして、そのままグッタリする俺。
 
 あまりの恥ずかしさと疲れからなのか……
 それとも快楽からなのか……
 俺はそのまま意識を手放すのだった……。


「え? ちょ、サクセス!? どうしたの!?」
 いきなり倒れた俺を心配するリーチュン。

 ゲロぉ!(サクセスしっかりして!)
 俺を純粋に心配するゲロゲロ。

「皆さん離れてください! 毒の臭いがします!」
 敵から攻撃を受けたと勘違いして、臨戦態勢に入るシロマ。

 そして……

「うふふ……いい匂いですわぁ……。」
 色めかしい目をしながら、舌舐めずりするイーゼ……。

 なんにせよ、全員無事で本当に良かった。
 俺をヌカして……。

 
 こうして俺たちは、無事に再会を喜び合うのであった。


しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

裏庭が裏ダンジョンでした@完結

まっど↑きみはる
ファンタジー
 結界で隔離されたど田舎に住んでいる『ムツヤ』。彼は裏庭の塔が裏ダンジョンだと知らずに子供の頃から遊び場にしていた。  裏ダンジョンで鍛えた力とチート級のアイテムと、アホのムツヤは夢を見て外の世界へと飛び立つが、早速オークに捕らえれてしまう。  そこで知る憧れの世界の厳しく、残酷な現実とは……?  挿絵結構あります

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

魔法少女の異世界刀匠生活

ミュート
ファンタジー
私はクアンタ。魔法少女だ。 ……終わりか、だと? 自己紹介をこれ以上続けろと言われても話す事は無い。 そうだな……私は太陽系第三惑星地球の日本秋音市に居た筈が、異世界ともいうべき別の場所に飛ばされていた。 そこでリンナという少女の打つ刀に見惚れ、彼女の弟子としてこの世界で暮らす事となるのだが、色々と諸問題に巻き込まれる事になっていく。 王族の後継問題とか、突如現れる謎の魔物と呼ばれる存在と戦う為の皇国軍へ加入しろとスカウトされたり…… 色々あるが、私はただ、刀を打つ為にやらねばならぬ事に従事するだけだ。 詳しくは、読めばわかる事だろう。――では。 ※この作品は「小説家になろう!」様、「ノベルアップ+」様でも同様の内容で公開していきます。 ※コメント等大歓迎です。何時もありがとうございます!

半身転生

片山瑛二朗
ファンタジー
忘れたい過去、ありますか。やり直したい過去、ありますか。 元高校球児の大学一年生、千葉新(ちばあらた)は通り魔に刺され意識を失った。 気が付くと何もない真っ白な空間にいた新は隣にもう1人、自分自身がいることに理解が追い付かないまま神を自称する女に問われる。 「どちらが元の世界に残り、どちらが異世界に転生しますか」 実質的に帰還不可能となった剣と魔術の異世界で、青年は何を思い、何を成すのか。 消し去りたい過去と向き合い、その上で彼はもう一度立ち上がることが出来るのか。 異世界人アラタ・チバは生きる、ただがむしゃらに、精一杯。 少なくとも始めのうちは主人公は強くないです。 強くなれる素養はありますが強くなるかどうかは別問題、無双が見たい人は主人公が強くなることを信じてその過程をお楽しみください、保証はしかねますが。 異世界は日本と比較して厳しい環境です。 日常的に人が死ぬことはありませんがそれに近いことはままありますし日本に比べればどうしても命の危険は大きいです。 主人公死亡で主人公交代! なんてこともあり得るかもしれません。 つまり主人公だから最強! 主人公だから死なない! そう言ったことは保証できません。 最初の主人公は普通の青年です。 大した学もなければ異世界で役立つ知識があるわけではありません。 神を自称する女に異世界に飛ばされますがすべてを無に帰すチートをもらえるわけではないです。 もしかしたらチートを手にすることなく物語を終える、そんな結末もあるかもです。 ここまで何も確定的なことを言っていませんが最後に、この物語は必ず「完結」します。 長くなるかもしれませんし大して話数は多くならないかもしれません。 ただ必ず完結しますので安心してお読みください。 ブックマーク、評価、感想などいつでもお待ちしています。 この小説は同じ題名、作者名で「小説家になろう」、「カクヨム」様にも掲載しています。

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

紋章斬りの刀伐者〜無能と蔑まれ死の淵に追い詰められてから始まる修行旅〜

覇翔 楼技斗
ファンタジー
「貴様は今日を持ってこの家から追放し、一生家名を名乗ることを禁ずる!」  とある公爵家の三男である『テル』は無能という理由で家を追放されてしまう。  追放されても元・家族の魔の手が届くことを恐れたテルは無理を承知で街を単身で出る。  最初は順調だった旅路。しかしその夜、街の外に蔓延る凶悪な魔物が戦う力の少ないテルに襲いかかる。  魔物により命の危機に瀕した時、遂にテルの能力が開花する……!  これは、自分を追放した家を見返して遂には英雄となる、そんな男の物語。 注意:  最強系ではなく、努力系なので戦いで勝つとは限りません。なんなら前半は負けが多いかも……。  ざまぁ要素も入れる予定ですが、本格的にざまぁするのは後半です。  ハ(検索避け)レム要素は基本的に無いですが、タグにあるように恋愛要素はあります。  『カクヨム』にて先行投稿してします!

処理中です...