上 下
65 / 397
第一部 サクセス編(改稿版)

64 舞台開演【後編】

しおりを挟む
「サクセスさん! 始まっちゃいますよ、急いでください!」

「ちょ、ま! わかったわかった。直ぐイクから待って!」

「もう! どんだけ出したら気が済むんですか……。」


 え? 違いますよ?
 いきなりエロシーンじゃないですって!
 誤解だ!


 そう、現在俺達は、別に何も怪しい事をしていた訳ではない。

 後半の公演まで少々時間があったから、少しだけカジノでスロットをしていただけだ。
 相変わらずシロマは全然当たらないものの、俺は、回せば回すだけコインが増えていく。

 もうここで一生暮らせばいいんではないか? と思う位に。

 全くコインの増えないシロマは、沢山のコインを預り所まで運ぶ俺を急かしてくる。
 まだ公演まで少しは余裕があるはずなのに……。


 ようは悔しいのだろう……。
 しかし、こればかりは、俺にもどうすることもできない。
 まぁ、舞台を見たらすぐに機嫌も直るだろう。

 数分後、俺達は、何とか公演十分前に観覧席に座ることができた。


「ふぅ、なんとか間に合ったな。」

「サクセスさんが出しまくるからですよ、お蔭で私は、全然当たりませんでしたよ。」

「えぇ……それって単にシロマの運が……。」

「そうですよ、私は昔からじゃんけんをすれば必ず負けるし、こういう事は苦手なんです。」

「その割にはギャンブルが凄い好きそうに見えたな。」

「嫌いではありません。私はこう見えても負けず嫌いで勝負事が好きなんです。でも普段は運がない私ですが、いざという時は結構強運なんですよ。」


 シロマは、全く無い腕で力こぶを見せるポーズをしてそんな事をいうが、俺にはどうしても信じられない。
 なんと言っても、負けている姿しか見てないからな。


「……そうか、でも勝っているところは見た事ないんだが。」

「何言ってるんですか。勝ったじゃないですか。だって私は、今日こんなにもサクセスさんと楽しい事が出来てるんですよ。これを強運と言わずしてなんというんですか。それに……」


 突然、シロマは頬を紅潮させて、下を向く。

 シロマは、いつも恥ずかしい事を言う時はこうやってボソボソ呟くのだ。
 それがとても可愛い。
 お姫様みたいだ。
 だから、意地悪を言ってみたくなる。

「それに?」


 俺は、照れるシロマをニヤニヤしながら見て言った。


「な、なんでもありません。ほら、は、始まりますよ!」


 シロマは顔を真っ赤にしてそう言うと、丁度周りの灯りが消え始めた。

 第二幕の始まりだ。

 そう言えば、悲恋とか言ってたっけか?
 この最終章が悲しい話なのかな?

 そんな事を考えながらも俺は舞台に集中する。


 今回の話は、ヌーウとステテコ仮面が大臣を捕縛し、国に平和が訪れた後の話だった。
 その後二人は結婚し、小さな女の子が生まれた。

 偶然なのかわからないが、その子の名前は


【ちびうさ】


だった。

 ちびうさは、優しい両親に愛されて、すくすくと成長していく。
 しかし10年後、不幸は突然訪れた。

 なんと捕まっていたはずの大臣が脱走し、国王を殺害すると、自らが王を名乗ったのだった。

 そして、ヌーウとステテコ仮面に深い恨みを持っていた元大臣は、二人を探し始める。
 それを知ったヌーウ達は国から出ようとしたが、その途中でヌーウが攫われてしまった。

 父親のステテコ仮面(マモル)は、必死にヌーウを探し始める。


 そして……舞台は家の中へ……。


 そこにはテーブルを挟んでちびうさとまもるが座っていた。

マモル
「いいか、ちびうさ。パパはな、これからママを助けに行ってくる。もしかしたら、パパは帰ってこないかもしれない。だけどな、パパとママはいつだってちびうさを見てるからな。少ないがお金は置いてある。何かあったらギルドに言ってくれ。話はつけてきた。」


ちびうさ
「いや! あたちも連れてって! あたちもママに会いたい! パパと離れるなんて絶対イヤ!」


 ちびうさは、泣きながらまもるに抱き着いている。
 まもるもそんな可愛い娘を優しい目で見ながら、頭を撫でていた。


マモル
「大丈夫、パパは、こう見えて強いんだ。ママを必ず助け出して見せる。ちびうさは、パパとママの自慢の娘だ。いい子に待てると信じている。だからいい子で待っててほしい。」


ちびうさ
「うぅ……わかった……。絶対だよ! 絶対帰ってきてね! あたちずっと待ってるからね!」


マモル
「わかった、約束だ! パパは、絶対帰ってくる! それまでいい子にしててくれ。」


ちびうさ
「う、うん……うさ、いい子にしてる……。だから早く帰ってきて。」 


 そういってまもるは家を出ると、ギルドで調べた情報を元に王城への隠し通路に向かった。

 無事に隠し通路を見つけたまもるは、王城への侵入を果たす。
 隠し通路は、王城の地下に繋がっており、地下の牢獄に辿り着いた。

 しかし、そこでまもるが目にしたのは、変わり果てた愛する嫁の姿と、無数の兵士を引き連れた元大臣だった。


元大臣
「はっはっは、まさかこんな簡単に罠に引っかかるとはな。これでワシの復讐も果たせるぞい!」


 高笑いする元大臣。


マモル
「きさま! ヌーウに何をした!」


元大臣
「なにって、当然今までの報いを受けてもらったまでだ。安心したまえ。お前も同じ運命をたどることになるからのう。あ~はっはっは。愉快じゃ! 愉快じゃぞぉ!」


ヌーウ
「に、逃げて……あなた……私はいいから、ちびうさを連れて逃げて……。」


 ヌーウは、瀕死の状態であったが、なんとか力を振り絞って声を出す。


マモル
「馬鹿な! お前を置いて逃げれるわけがないだろ! 絶対助けてやる。」


ヌーウ
「お願い……だから……逃げて。あなたと出会えて……ちびうさと暮らせて……私はしあわ……。」


 最後の命の灯を燃やしながらヌーウはそう言うと……そのまま冷たくなった。


マモル
「ヌーウ! ヌーウ! しっかりしろ! 死ぬな……俺を置いて行かないでくれ!! ヌーウ!!」


元大臣
「はっはっは、茶番はもう終わったかの? 実に愉快である。これで復讐の半分は終わった。次はお前だ! お前たち! さぁやれ!」


 大臣は、兵士達に命令すると、兵士達は一斉にまもるに襲い掛かった。
 
マモル
「お前だけは! お前だけは絶対に許さない! 例え死んでも、必ずお前を殺してやる! 頼む! 赤のオーブよ! 俺に……俺に力を!」


 マモルがそう言って赤色のオーブをかざすと、オーブから光が溢れ出した。


元大臣
「ま、眩しい! 何をした! 貴様何をした!」


 大臣は、その光を嫌がるも、次第にオーブから光が消えていき、そしてマモルの手からオーブは消えた。


元大臣
「ふん、そんなこけおどしでどうにかなると思ったか! さぁ、早くこいつを始末しろ!」


 その後もマモルは、必死に戦った。
 次々と襲い掛かってくる兵士達をなぎ倒す!
 その顔はまさに憤怒の鬼。


マモル
「許さない! 許さないぞ! どうした! 俺はまだ生きているぞ!」


元大臣
「こしゃくな……おい、あれを出せ! あれでこいつを仕留めろ。」


兵士
「は! しかし、あれはまだ、完全には……。」


元大臣
「口答えをするな! ワシは王ぞ! さっさと持ってまいれ!」


 兵士
「はは!」


 命令をされた兵士は急いで城に戻っていく。
 何かを連れてこようとしているようだ。
 その間にもまもるは、次々と兵士を打倒していった。
 そして、後少しで元大臣に辿り着くといったところで……そいつは現れる。


 巨大な鉄の塊ーー否! 
 それはロボットだった。
 その手には、剣とボウガンが装備され、頭部には不気味に赤く光る目がある。


元大臣
「やっときたか! どうやらワシの勝ちのようじゃな。殺人マシンよ! やれ! あの目障りな男を殺せ!」

 殺人マシンは、大臣の声を聞くと……まずは近くにいた兵士達を一人残して皆殺しにした。

 回転する腕から放たれる剣戟。
 連続で腕から放たれるボウガンの矢。
 まさにそいつは、荒れ狂う殺人マシンであった。


 生残った兵士は、その場から逃げ出した。
 後に彼はこの国から姿を消し、吟遊詩人となるがそれはまた別の話である。(ナレーション) 


元大臣
「な、なにをしておる! やるのはあいつだ! こっちにくるんじゃない! やめろ! ワシは王ぞ!」


 なんと殺人マシンの次のターゲットは、元大臣であった。
 殺人マシンは、元大臣に向かって行き、剣を振ろうとした瞬間、その赤い目がグルっと動き出し、別の者を捉えた。

 マモルであった。
 マモルは、その化け物が兵士達を襲っている隙に、ヌーウの下に走っていったのだ。
 そして運悪く、殺人マシンは、動く者に反応するため、ターゲットをまもるに変更する。


元大臣
「ひえぇぇーーー。」


 九死に一生を得た大臣は、そのまま地下から脱出した。


マモル
「ヌーウ……守れなくてすまない。俺はお前を愛してる!」


 ズバ!


 まもるがヌーウを抱きしめ、そう叫んだ瞬間、殺人マシンの剣はまもるの背中を切り裂いた。


マモル
「ぐはっ! ちびうさ……すまない。パパは約束を守れなかった……どうか幸せに……。」


 こうしてヌーウを抱きしめながら、マモルは、牢獄の中で息絶えるのだった……。


 そしてシーンが変わり、今度はちびうさの場面になった。


「あ! なにこれ! 綺麗! パパとママが帰ってきたら絶対見せるんだもんね。」


 ちびうさは、家の外で赤いオーブを拾うと、嬉しそうに家の中に戻っていった。


「パパまだかなぁ……どのくらいで帰ってくるかなぁ……。


 テーブルに両手の肘をつけて、ルンルンと嬉しそうに笑顔でパパとママを待ち続けるちびうさ。


 ちびうさは知らない。
 既に父と母がこの世にいないことを。

 
 そして……ちびうさの前にパパとママが帰ってくることはなかった……。(ナレーション)


 こうして舞台の幕が下りた。
 完全なるバッドエンディングである。
 俺は自分の目から流れ落ちる涙が止まらなかった。

 隣を見ると、シロマも号泣している。


 胸が……苦しい……。


 観客席からはすすり泣く声で溢れかえっている。
 だれも喋らない。
 すでに周りに灯りが戻るも、誰も席を立とうともせずに泣いている。


「シ、シロマ……これって……ノンフィクションっていってたよな?」

「は、はい……。もしもこれが本当なら、ちびうさちゃんは……あーーん!!」


 シロマは、突然声をあげて泣き出してしまった。
 俺もシロマを抱きしめながら同じように泣いた。

 ちびうさの正体がやっとわかった。

 冊子にはこれは30年前の話と書いてあったが、どういうわけかちびうさは生きている。


 30年もずっと帰ってこない父と母を待っていたんだ。
 辛過ぎる……悲しすぎる!


 俺に何ができるかわからないけど……
 どうやって助ければいいのかわからないけど……


 俺は絶対にちびうさを助けてみせる!


 そう心に誓うのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

召喚された聖女? いえ、商人です

kieiku
ファンタジー
ご依頼は魔物の回収……転送費用がかさみますので、買取でなく引取となりますがよろしいですか? あとお時間かかりますので、そのぶんの出張費もいただくことになります。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

処理中です...