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第一部 サクセス編(改稿版)

52 謎の占い師

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 俺たちは今、建物と建物の間をすり抜け、正に裏道といった細い路地を歩いている。


「サクセス様……あの辺りで止まってます。」


 イーゼは、小声で俺に耳打ちをする。


「ちょっ!」


 その際に、わざと俺の耳に息を吹きかけるセクハラは欠かさない。
 俺はうっかり声を出してしまった。

 そして俺の目の前には、小さな机に水晶玉を置き、正に占い師といった感じの褐色肌の女性が座っている。
 黄色いフードを被っている事から、顔はよく見えないが多分女だ。

 俺が声を上げた事で、その占い師は俺に気づいた。

 どうやら逃げる気はないらしい。
 俺は、ゆっくりとそいつに近づこうとした瞬間……。


「あいつね……!」


と言う声と共に、リーチュンが飛び出した。


 バン!


 リーチュンは、机を思いっきり両手で叩くと問い詰める。


「アンタなんのつもりよ! 返しなさいよ、私の財布! 今なら一発殴るだけで許してあげるわ!」


 しかし、その女はリーチュンの凄い剣幕にも全く動じずに、俺の事をじっと見ていた。

 なんで俺を見てるんだろ?


「ちょっと! アンタ聞いてるの? こっち見なさいよ!」


 するとやっと気づいたかのように、リーチュンの方へ顔を向けた。


「……あなた達は? 何者ですか?」

「こっちが聞きたいわよ! 白々しいわね! さっさと出しなさいよ! アタイの財布!」

「……財布?」

「とぼけないで! こっちはちゃんとわかってるんだから!」


 うーん、なんかさっき見た泥棒とフォルムが違うような……。
 しかし、こんなところで占いやって儲かるのかな?

 俺は全然違う事を考えていた。

 すると、その女は何も言い返さずに、水晶玉に手をかざして目を瞑り始める。


「なるほど、そういうことでしたか。あなたが探しているのは私ではありません。むしろもう、捕まえていますね。」


 その女は、右側を指差してそう言った。

 俺は、その女が指した方を見ると驚く。
 いつの間にかイーゼとゲロゲロが犯人と同じ格好をした奴を捕縛していたのだ。
 どうやらリーチュンは早とちりしたらしい……がまだ気づいていない。


「そうね、今、正に、ここで、アタイが捕まえてるわ!」

「リーチュン! その人は違うぞ! 犯人は既にイーゼとゲロゲロが捕まえている!」


 俺は、流石にやばいと思ってリーチュンの肩を掴んで伝えた。
 すると、やっとリーチュンはその占い師が指差す方に顔を向けると、やっと気付く。

 リーチュンの顔からサッと血の気が引いていく。


「ご、ご、ご、ごめんなさい! アタイのこと殴っていいわ!」


 リーチュンは流石にまずい事をしてしまったのに気づき、勢いよく頭を下げて謝罪した。


「それは、別に構いません。それよりも、そこのあなた。もう少し近くに来てもらえませんか?」

「へ? 俺?」

「そうです、あなたです。ちょっと遠くだとボヤけててよく見えないのです。」


 どういう事だ?
 ボヤけてる?
 言ってる事はわからない……。

 ただ一つ言えるのは……
 俺は18禁じゃないぞ!
 モザイク加工なんてされてないぞ!

 と内心突っ込みつつも俺はその女に近づいた。
 するといきなり、俺の頬を両手で挟んで俺の目をじっと見てくる。

 ドキドキ……。
 そんな見つめないで…… 
 恥ずかしいわ……


「……違いますね。どうやら、私の勘違いのようです。それに私が探しているのは、女性のはず……失礼しました。」


 違うんかい!
 って何がやねん!

 その女は一人で何かを納得している。


「あの、そろそろサクセスさんを離してあげてくれませんか? 後、あなたはサクセスさんの知り合いなのですか?」

「これは失礼しました。私の名前はマネアと申します。妹のミーニャと一緒に、とある方を探して旅をしているのです。そこの……サクセスさん? とは初めて会いました。」

「ん? さっき探しているのは女性って言ってなかったか?」

「はい、しかしあなたを見た瞬間に何かを感じたのです。大きな光をあなたから感じました。それなので、確かめただけです。あなたからは大きな力を感じる、そして今後、あなたは邪悪な存在によって危険に晒されるでしょう。」


 怖っ!
 何いきなり不吉なこと言っちゃってんよ?
 俺そういうのは信じちゃう系よ?

 それに、さっきから感じる感じるって……。
 やめて欲しい、公衆の面前で卑猥な言動をするのは。
 ちょっと俺も感じちゃったよ!


「はっ! 今、あなたから邪悪な何かを感じました!」


 エスパーか!


「き、気のせいだろ。まぁとりあえず仲間が勘違いして申し訳なかった。早く探している人が見つかるといいな。でもこんなところじゃ多分見つからないと思うぞ。」

「いいえ、今日はこれで良かったのです。私の占いに、今日この場所で大切な何かと出会うと出ていましたので。お陰で色々とわかりました。最後に一つだけ助言をさせていただきます。今捕まえた泥棒を助けるか助けないかで、今後の未来が大きく変わるでしょう。それでは、またいつかどこかで。」


 そう言うと、マネアは机を片付けてその場から立ち去った。

 不思議な女だったな。
 タイプは違うけど、結構可愛かった。
 おっと、つい、いつもの癖で。
 とりあえず俺のオカズファイルにだけは、メモしておこう。


「それで、サクセスさん。あの人どうしますか?」


 シロマは、眠らされている泥棒を指して俺に聞いてきた。


「まぁとりあえず金は返してもらうとして、どうすっかなぁ。ここじゃあれだから縛って、宿屋に連れて行くか。」

「サクセス様、ちょっと来てください。」

「ん? どうした?」

「この泥棒……まだ小さな女の子ですわ。」


 イーゼは、泥棒の顔を隠していたフードを取ると、その顔を見せた。


「これは……まだ10歳かそこらじゃないか。なんでこんな子供が……。」


 俺は驚いた。
 あれだけ用意周到に泥棒をしでかした奴が、まさかの幼女!?

 マネアが最後に言った言葉を思い出す。
 つまり、そうか。
 こいつを助けるか、助けないかってことか。
 多分助けるっていうのは、許すって事ではなくもっと深い意味があるのだろう。


「こんな子供に犯罪させるなんて、親をぶっ飛ばしてやるわ!」


 さっきまで、自分の失敗に呆然としていたリーチュンが復活する。

 
「リーチュン、俺は、お前のその、なんつうか純粋なところは好きだ。でもな、前からみんなにも言われてるが、いきなり感情だけで行動しないでくれ。今回だってマネアが許してくれたからよかったものの、一つ間違えれば大変な事になってたぞ。」

「ごめんなさい! 反省するわ。」

 リーチュンは俺の注意を素直に受け止めて、謝罪する。
 こういう素直なところは本当に好感が持てるんだけど、直情的な性格はどうにかして欲しいところである。

 まぁ、いきなり変えるのは難しいだろう……長い目で見てあげないとな。
 何かあれば、いつでも俺は頭を下げるぜ!


「すまない、みんな。とりあえず早急に宿屋を見つけよう。そして色々この子から聞かなきゃならない。」


 俺がそう言うと全員頷き、そして近場の宿屋に入ることに決める。
 その宿は、とりあえずそこまで豪華ではなかったが、お風呂があったのでホッとするのだった。
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