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第一部 サクセス編(改稿版)

44 悪意の渦

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 俺達が結界の外に出ると、その音は段々と大きくなってくる。


 ドドドドドドッ!


 外は、いつの間にか日が登り始めていた。
 朝日に照らされてキラキラ光るは、数十頭の馬に跨るフルプレートの騎士達。
 銀色に輝く装甲は、朝日を反射し眩い光を放っている。

「どうやら、やっと着いたみたいだな。凄い数だぞ。」


 俺は、まさかこんなにも大勢で来ると思わなかった為、驚いている。
 ちなみに塔から外に出るのに、イーゼの魔法「カエリマース」と呼ばれる離脱魔法使った。
 レベルが30になった時に覚えたらしい。
 洞窟や塔等、魔物が出現するダンジョンから外に戻れる魔法だそうだ。

 魔法って便利だな。

「本当に凄い数ですね。それだけ重要な案件だという事ですかね。」


 シロマも俺と同じ考えだ。
 やはりオーブは、それだけ貴重かつ重要な物なのだろう。 


「一同! とまれぇぇ!」


 先頭の騎士が大きな声で命令すると、続いていた他の騎士たちが一斉に止まった。
 どうやらあれが隊長のようだ。
 一人だけ金色の鎧を着ていて、よく目立っている。
 そいつは馬から降りると、ゆっくり俺達のところまで歩いてきた。 


「きさまらか? 王にふざけた手紙を寄越したのは?」

 そいつは、いきなり偉そうに酷い事を言ってくる。

 ふざけた手紙? 
 まぁ本気では信じられないか。
 悪戯かもしれないが、一応確認しに来たといったところか。
 でもそれにしては、騎士の数が多すぎるだろ。

 何故か少し腑に落ちないが、とりあえずそれは、頭の隅に追いやる。 


「ふざけてはいませんが、私達で間違いありません。そしてガンガッダ一味は全て捕まえました。もちろん、ガンダッダ本人もです。」


 俺がそう言うと、そいつは訝しむ目で俺とガンダッダを交互に見た。
 やっとわかってもらえたと思い、少し安心したのだが……違った! 


「ふむ、で、お前がガンダッダ本人ってわけだな? 大人しく財宝を渡せ!」

  
 隊長がそう言うと、後ろの騎士達も剣を抜き始める。

 は? こいつ頭がおかしいんじゃないのか?
 意味がわからない。 


「ちょっとちょっとアンタ達! さっきから何訳がわからない事を言っているのよ! どう見てもそこに倒れているのがガンダッダでしょ!」


 黙っていたリーチュンも、流石にこれには怒り出す。 
 

「は? どうせ偽装だろ? あいつがよくやる手だ。あの目出し帽も偽物に被せたに決まっている。我らロイヤルガードが捕まえる事ができなかったあいつを、お前らみたいなひよっこ達が倒せる訳がない! いや、今やっと捕まえることができるがな。 そう、お前だよ。ガンダッダ。」


 そいつは、バカにしながら決めつけるように言い放つ。 


「わかりました。それでは結構です。私たちは直接王様に引き渡しますので。」

 それを聞いたシロマは、冷たく、そして冷静にそう言った。
 しかし、こいつらにそれは通じない。 


「バカを言え、みすみすガンダッダ一味を逃す訳がないだろ! 大人しく財宝を渡せば、少しは軽い罪になるよう王に嘆願してやる。さぁ、財宝を渡すんだ! 早くしろ!」


 そいつは、全く俺たちの言う事に耳をかさなかった。

 どうする?
 やろうと思えば多分やれるはずだ。
 しかし、そうしたら間違いなく犯罪者扱いになるな。
 何か良い手は……。

 ん!?
 え? 嘘だろ!?
 そうか……。 だが、今はまずい。

 俺はある事に気づくも、それも含めていい考えが思いつかない。
 無い頭をフル回転して考える俺。

 そして……決まった。 


「わかった。そうだ、俺がガンダッダだ。俺は、この女共を金で雇って芝居を打ったのだが、バレちゃしょうがねえな。だが財宝は、俺が絶対見つからない所に隠してある。もしも、この女達を害したり、俺を殺せば間違いなく見つからないぞ。ここまできたら、俺も覚悟を決めた。そのかわり俺が財宝の在処を教えるのは、王の前だけだ。」


 俺がそう言うと、金色の騎士は気持ち悪い笑みを浮かべる。
 ちなみにオーブは、シロマが隠し持っていた。
 シロマならこれで少しは察してくれるはず。


「ほぅ、いいだろう。しかし隠し場所を吐いたら、お前は間違いなく死刑だぞ? その覚悟はあるって言うんだな?」


「あぁ、かまわない。」


「……そうか。わかった、いいだろう。そいつらには手を出さぬ。ガンダッダさえ、捕獲できれば他の者等どうでもいい。では、今ここでガンダッダを捕縛する。武器は、全部ここに置いていけ。」


 隊長は少し考えた後、そう決断した。
 そして俺も演技を続ける。 


「武器か……いいだろう。おい! そこの女! 持ってけ、餞別だ! 売ればそれなりに金になる。」


 俺は、そう言ってイーゼに装備を渡す。 


「ちょっと何言ってんのよサクセス!」


 リーチュンだけは、何が起こったかよくわからずに叫んだ。
 しかし、それを止めたのはイーゼである。
 イーゼは冷たい声でリーチュンに警告した。 


「あなたは少し黙りなさい。せっかく報酬をいただけるんですもの。もらっておくわ。今までありがとう。あなたに安らかな死がある事を祈りますわ。」


 イーゼはそう言うと、俺の冠以外の装備を受け取った。
 しかし、リーチュンはそれを聞いて更に激昂する。 


「イーゼ! 見損なったわ! こうなったらアタイが全員ぶっ飛ばしてやるわ!」


 リーチュンが戦闘体制に入る……しかし。 


 【ラリパッパ】


 イーゼが魔法で眠らせた。

 流石に徹夜で動いていたリーチュンには、効き目抜群だったようだ。
 そして、騎士達に挨拶する。 


「それでは騎士の皆様さようなら。その男が言うように私達に手は出さないで下さいませ。私達は金でしか繋がっていませんし、そもそも宝の在処は知りません。私達は報酬さえ貰えれば、その男がどうなろうと知った事ではありませんわ。」


 そう言うと、イーゼは、全員を連れてその場を立ち去っていく。
 不思議な事にシロマは、あれからずっと黙っている。

 シロマは見ていた。


 イーゼが憎さと悔しさから、血が出るほど自分の手に爪を立てて我慢しているのを。


 うまく隠してはいたが、シロマにだけは見えていた。
 だから何も言わない。
 イーゼには何か考えがあるはず。
 それに気になる事もあった。

 それ故に自分が余計な事を言って、ぶち壊すわけにはいかなかないと判断したのだ。
 腸は煮えくり返っていたが……。

 そしてゲロゲロは、全て理解している。
 魔物使いとの意思の疎通に言葉は必要ない。
 俺の意図を感じて黙っていた。
 本当にゲロゲロは賢い。

 イーゼ達が立ち去ると、騎士達は、捕らえたガンダッダ一味と俺を馬に縛り上げて立ち去っていった。

 それをイーゼ達は遠くから眺めている。 


「行ったわね……。」


 イーゼが呟く。 


「それではイーゼさん、そろそろ話してくれませんか?」


 シロマが確認すると、イーゼはなぜか杖を取り出した。


「そうね、でもその前にちょっといいかしら?」


 【ギガナゾン!!】


 突然イーゼは、爆発系最大呪文をさっき騎士がいた場所に放つ。


 ドガーーン!!


 物凄い音を伴った大爆発に、その場所は跡形もなく更地となった。
 ふとシロマはイーゼの顔を見てしまう。

 怖い……。

 シロマはイーゼの形相に恐怖した。
 イーゼはとんでもなく頭にきていたのだ。
 絶対許せないという気持ちが溢れ出ている。

 当然シロマも許せない。
 絶対にタダではすまさないと憤っている。
 だが、それ以上にサクセスを信頼していた。
 サクセスが私達を助けるという理由もあるだろうが、それ以上に何か考えがあるように見えたのだ。

 当然イーゼもそれに気づいている。
 それでもなお、イーゼには、あの全てが許しがたかったのだ。 


「ふぅ、ごめんなさいね。あまりに頭に血が上りすぎてて……さっき沢山血を流しておいて良かったわ。」


 イーゼは自嘲気味に笑った。
 その時、イーゼの放った爆発魔法の轟音で目を覚ましたリーチュンは、イーゼを睨みつけながら勢いよく殴った。


 パンっ!!


「イーゼ! アンタねぇ! ふざけるんじゃないわよ! サクセスがどうなってもいいの!? アンタはサクセスが大切なんじゃないの! なんで! なんでよ!」


 リーチュンは涙を流しながら、イーゼを攻め立てる。 


「いいわ、もっと殴りなさい! ほら、もっと殴りなさいよ! 何もできなかった不甲斐ない私をもっと痛めつけなさいよ! 早く! 何してんのよ!」


 イーゼもまた、目に大粒の涙を流しながらリーチュンに叫んだ。

 その姿を見たリーチュンは、やっと気づく。
 イーゼがあの時、自分と同じくらい悔しい気持ちを感じ、何もできなかった不甲斐なさに後悔していた事に。

 殴れない。
 殴れるはずがない。
 何もできなかったのは自分も同じだ。
 むしろ感情のままに喚き散らしただけ。
 イーゼは必死に堪えていた。
 それなのに私は……。 


「どうしたの! もっとやりなさいよ! ねぇ……もっと……もっと私を……責めて下さい……。」


 遂にイーゼはその場に崩れ落ちてしまった。
 必死にこらえていた悲しみが爆発してしまったのだ。
 頭は冷静でも心はそうではない。 


「ごめんなさい……。」


 リーチュンにはそれしか言えなかった。

 イーゼは、不甲斐ない自分が誰よりも許せなかった。
 愛している男に、嘘とは言え、絶対言いたくもない事も言ってしまった。
 高潔なエルフにとっては、それは人以上に辛い事。
 誰でもいいから、自分を痛めつけてほしい。
 この心の苦しみを少しでも紛らわせて欲しい。
 今なおイーゼの胸には、悲しみと苦しみが溢れかえっていた。

 そんな姿を見ていたゲロゲロは、イーゼに近づくと慰めるように顔を舐めている。
 絶え間なく流れ続けるイーゼの涙を拭くように、優しく舐め続けた。


「イーゼさん、リーチュン。二人とも、もうやめてください。気持ちはみんな同じです。こんな事をしていても意味がありません。助けましょう! みんなで力を合わせて助けましょう! 私達だけがサクセスさんを救う事ができます。たとえ国と戦争になったとしても、絶対にサクセスさんを助けましょう!」


 シロマは力強く二人に言った。
 その言葉にイーゼは立ち上がる。 


「そうですわね、とにかく一度町に戻りましょう。ちょうど今朝キマイラの翼をアバロンの町に登録しましたわ。奴らよりも早く戻れるはずです。みなさん、キマイラを呼びますわ。」


 そう言うとイーゼは空に一枚の羽を投げた。
 すると、空からライオンの顔をした巨大な鷲が降り立ってくる。 


「さぁ! みんな行くわよ!」


 イーゼ達を乗せたキマイラは空に羽ばたくと信じられない速度で移動を始める。 


「サクセス様をあんな目に合わせた奴らに、絶対地獄を見せてやるわ!」


 イーゼがそう言うと、キマイラはアバロンの町まで飛んでいくのだった。
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