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第一部 サクセス編(改稿版)

40 サプライズボックス

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 この塔は地上六階建ての作りとなっており、一階毎のフロアの天井が高い。
 それを考えると、今のところ遭遇していないが、もしかしたら大型のモンスターもいるかもしれないな。
 あまり音をたてられない今、できれば御遠慮願いたいものだ。 


「思ったよりも、敵は雑魚ね。でもこれだけ多いと滾ってくるわね!」 

「油断するなよ。気を抜けば一気に押し込まれるぞ!」


 塔の二階に上がったところで、リーチュンに忠告する。
 現在の陣形は、前衛にリーチュン、ゲロゲロ、中衛にイーゼ、シロマ、そして後衛に俺。
 なぜ俺が後衛かというと、主に中衛の護衛をするためと突然のバックアタックを防ぐ為である。

 今のところ、塔に現れたモンスターは、

 ヒールスライム
 呪われた鎧
 ドラキュラマン
 海賊蟹
 デスカラス

だった。

 正直どの敵も、奇襲にさえ対応していれば全く問題ではない。
 しかし、問題はその数だ。
 流石に広くて高い塔なだけあって至る所に魔物がうじゃうじゃいる。
 リーチュンとゲロゲロは楽しそうだが、俺は、正直言って結構しんどい。
 俺はパーティに万が一が無いように、前後左右、そして上方にも警戒して進んでいるためだ。

 この塔に現れるドラキュラマンは、黒い羽根を閉じて黒い球に擬態すると、突然上から襲ってくるから上方にも注意が必要だった。
 毎回突然襲い掛かってくるから、心臓に悪い。
 まぁそのためが俺は後衛にいるのだがね。

 その後も順調に進んで行くと、俺達は三階のフロアである物を見つけた。
 そう、ダンジョンの醍醐味、宝箱である。 


「あ! 宝箱! 宝箱が沢山あるわ!」

 なんとそのフロアには八個もの宝箱が置かれていた。
 そして宝箱の先には、上の階に上がれる階段もある。
 リーチュンのテンションが上がるのも無理はない。
 俺だってそれを見た瞬間興奮していた。 


「おお、すげぇ! 初めてみたわ、宝箱!」


 俺は、リーチュンと一緒になって喜ぶ――が、中衛のイーゼだけは訝しめな目でそれを見ている……。
 さっそく俺とリーチュンは宝箱を開けようと近づくと突然イーゼが叫んだ。 


「お待ちください! こんな所にあるなんて怪しいですわ!」


 しかし、その警告は少し遅かった。
 俺はその声で止まることができたが、リーチュンは既に宝箱を開けようとしていたのだ。

 その時である……。

 リーチュンが開けようとした宝箱は自分で開いた。

 否!!

 開いたのではなく襲い掛かってきたのだ。

 どうやら宝箱だと思っていた物は、魔物だった。 


「きゃあぁぁぁ!」


 突然襲われたリーチュンは反応が遅れ、のぞき込もうとした顔面を、今まさにギザギザの牙がついた箱の蓋に噛みつかれようとしていた。

 まずい! 間に合わない!

 俺がそう思った瞬間、何かがリーチュンに体当たりをしてリーチュンを吹き飛ばした。
 体当たりをしたのは、ゲロゲロ。

 ゲロゲロは、俺よりも早く魔物を察知し、リーチュンを助ける為に動いていた。 


「ゲェロォォ!」


 ゲロゲロは、その小さな胴体を思いっきり宝箱にかじられて叫ぶ。
 すると、ゲロゲロの体から大量に血が流れだした。
 かなりダメージが深そうだ。

 ゲロゲロに遅れてその魔物に近づいた俺は、思いっきり剣を振りかぶり、宝箱の魔物をぶっ叩いた!

 ゲロゲロへの追撃は許さない!


 ゴン!


 フロアに鈍い音が響く。 


「くそ! 堅い!」


 宝箱には剣の跡がくっきりと凹むも、破壊はできなかったようだ。
 思いのほか敵は頑丈だった。
 叩いた俺の方が、手を痺れさせてしまう。

 がしかし……そいつは、そのまま灰になって消えた。
 どうやら破壊しなくてもいいようだ。
 だが、あの感じだと他のメンバーなら数撃は与えないと倒せそうにない。

 コイツは危険だ!

 ゲロゲロが受けたダメージからもわかるが、どうやらこいつの攻撃力は他の魔物に比べて異常に高い。 


「エクスヒーリング!」


 すると、いつの間にかシロマはゲロゲロに近づいて回復魔法を唱えていた。

 聞いたことがない魔法だ。
 どうやらレベルが上がった事で覚えた上級魔法らしい。
 その魔法はライトヒールと違って一瞬で傷が癒えはしない。
 しかし痛みも取り除いてくれるようで、ゲロゲロは、気持ちよさそうにしていた。

 そして数秒後には、ゲロゲロの傷が完全に消える。


「シロマ、ありがとう。ところで、その魔法はなんだ?」 

「ヒールの上位魔法です。レベルが大分上がった事で使えました。」 

「そうか……助かる。みんなすまない、俺のミスだ。」


 俺は油断したことに謝罪する。
 初めての宝箱に目がくらみ、一緒になって宝箱に飛びついてしまった。

 一歩間違えればリーチュン、そしてゲロゲロも死んでいたかもしれない。 

 俺は何をやっているんだ!
 油断しないと決めたじゃないか!


「違う! サクセスのせいじゃない、アタイのミスよ。ごめんね、みんな。次はもっと気を付けるわ。」


 リーチュンが申し訳なさそうに謝るも、イーゼの目は厳しい。 


「ゲロゲロがいなかった次は無かったでしょうね。どんなダンジョンでも一つのミスが致命的になる事は多いのですわ。サクセス様も肝に銘じておいてくださいね。」


 イーゼは俺と違い、こういった事を何度も経験をしているのだろう。
 それこそ、沢山の仲間の死も見て来たと思う。
 だからこそ、その言葉は重かった。

 俺は仲間を絶対に一人も失いたくない! 


「わかった。今の言葉は心に深く刻んでおくよ。ありがとうイーゼ。それでこの宝箱はどうすればいいんだ? 俺が開ければ平気か?」


 俺は宝箱をこの後どうするか聞いてみる。 


「いいえ、その必要はありません。いくらサクセス様でも奇襲は危険ですわ。大丈夫ですわ、いい魔法がございますから。【インパルス】」


 イーゼは突然その魔法を唱えると、小さな電流が杖から放たれて全ての宝箱に直撃する。
 すると、宝箱の中心に赤色と青色のオーラがもわっと浮かび上がった。 


「これで、どれがモンスターか直ぐにわかりますわ。青色く光れば罠や魔物はなし。赤色なら罠か魔物ですわ。」


 そのフロアに残っていた宝箱の内、一つは赤色、残り六個は青色だった。
 どうやら俺が開けようとしたのはセーフだったらしい。 


「思ったよりも赤が少ないな。じゃあ先に赤色の宝箱は、俺がぶっ叩いておけばいいか?」 

「そうですわね、サクセス様ならそれもありかと。一応罠の可能性もあるので気を付けてください。」


 イーゼからお許しが出た。
 俺はさっそく赤色の宝箱目掛けて、少し離れたところから剣を叩き込む。


 ガッチーーーン!


 剣が弾かれた!?
 なんでだ?
 さっきはめり込んだはずなのに。

 しかし宝箱は動かない。
 これはどういうことだ? 


「サクセス様、どうやらそれは罠のようです。ですので、開けないでください。」


 なるほど、これが罠か。
 毒矢くらいならいいけど、眠りガスとか出てきたらたまらないな。
 こんなところで寝てしまったらひとたまりもない。
 いい経験になった。 


「それでは安全も確認できたことですし、他の宝箱を開けていきましょう。」


 どうやらずっと静観していたシロマも、宝箱が気になっていたらしい。 


「ところでイーゼ、あれはなんていう魔物だったんだ?」 

「あれはサプライズボックスですね、あの系統だと一番弱い奴です。他にもデスミミックやデッドエンドといった上位モンスターもいますが色が違います。上位モンスターは即死系の技を使ってきますので、近づいてはいけません。遠距離から攻撃ですわ。」


 まじかよ、即死技とか超やべぇじゃん。
 それにこいつは、この強さで一番雑魚か。
 宝箱にリスクはつきものっていうのは、この事だな。

 だが、サプライズボックスなんて可愛い名前を付けた奴は殴ってやりたいぜ。

 そうこうしている内に、リーチュンとシロマは、いつの間にか全ての宝箱を開けていた。
 ほとんど低級回復アイテムだったが、一つだけレア物もある。


【疾風の杖】 攻撃力22 スキル ギバ レアリティ150


「おお、ギバってもしかして魔法か?」

「はい、私が使える風魔法で一番弱い奴です。でも魔力消費なく使えるならば、気兼ねなく使えるので便利そうですね。」

 シロマが喜んでいる。
 これはシロマに渡すか。 


「よし、じゃあこれはシロマが装備してくれ。風魔法なら音も少ないだろうし、その杖を使って前衛をサポートしてくれると助かる。」 

「わかりました! 嬉しいです!」

 シロマは、杖を抱いて喜んだ。
 杖に嬉しそうに頬ずりしている姿が、なぜか卑猥に見えるのは溜まっているせいだろうか……。

 何はともあれ、トラブルもあったが、全員無事でよかった。
 次からはもっと慎重にいかねば。

 そう決意した俺は、そのまま四階への階段を上っていくのだった。


 いにしえの塔 最上階 現在のパーティ 

 サクセス  戦士?(魔物つかい) レベル24(総合1175)
 リーチュン 武闘家        レベル37(総合205)
 シロマ   僧侶         レベル37(総合205)
 イーゼ   魔法使い       レベル38(総合210) 
 ゲロゲロ  フロッグウルフ    レベル35(戦闘力360)
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