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第一部 サクセス編(改稿版)

38 膝枕とフェロモン

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 現在俺達は、アバロンから北西側にある、いにしえの塔に向かっている。
 今回はスピード勝負であることから馬車は使わず、足の速い馬を二匹に借りて走っていた。
 ちなみにリーチュンの馬にはイーゼが、俺の馬にはシロマが乗っている。
 馬は二人づつ乗せて走っているが、それでも馬車より断然速い。
 この分なら、今日の日付が変わる頃には着くはずだ。 


「サクセス! 顔色が悪いわ。本当に大丈夫?」

 隣で併走するリーチュンは、俺の様子を見て心配する。
 それもそのはず。
 俺は昨夜から寝ずに現在まで強行しているのだ。
 いくら体力値が200オーバーの俺でも、眠気と体力が限界に近い。
 だが今はそんな弱音を吐いている時ではなかった。
 遅くなればなるほど逃げられる可能性がある。故に俺は止まらない。 


「あぁ、頭痛はするがまだ大丈夫だ。このまま急ぐぞ。」

 俺が強がりながらもそう言うと、俺の後ろに座っているシロマが俺の頭を軽く小突いた。 


「サクセスさん、朝に言いましたよね? もっと私達を頼って下さい。だからサクセスさんの意見は却下です。少し休憩しましょう。馬も休みなしで走れば動けなくなります。」


 シロマに言われて今朝の事を思い出す。
 俺は、またはき違えるところだった……。 


「すまないシロマ。わかった。じゃあ、その先に見える岩場で少し休もう。」 

「うん! アタイ、先に行って安全を確認してくるね! サクセスはゆっくり来て。」 


 リーチュンはそう言うと、馬に鞭を入れて速度を上げ、一気に岩場に向かって走っていく。
 しばらくして、俺の馬も岩場までたどり着くと、既にそこには石で囲まれた安全地帯が作られていた。
 先に到着したイーゼが、ストーンウォールを使って、簡易的な休憩所を作ったようだ。
 それを見て、シロマもすぐさまホリフラムを唱えて結界を張る。 


「一時間程休憩しましょう。サ、サクセスさんは……こちらに来て少し寝てください……。」


 シロマはそういうと、自分の膝の上を恥ずかしそうに指しながら言った。 


「えっ?」


 俺は一瞬、シロマが何言っているかわからなかった。

 こちらってどちら?
 ま、まさか……ひざまくら!?

 突然積極的になったシロマの言動に、俺は戸惑う。 


「あ、あまり肉付きはよくないと思いますが、石の上よりは柔らかいはずです。それに、少しだけ疲れを和らげる魔法も使えますから……。」


 どうやら、シロマも大分無理をしているようだ。
 テンパっているのがよくわかる。

 そこまでして俺を……くそ可愛いな。 


「ちょっとシロマ! アンタはサクセスの後ろに乗ってたんだから、次はアタイの番よ! アタイが膝枕するわ!」 

「そうですわ、自分でもおっしゃってますが、私の膝の上の方がサクセス様もゆっくり休めますわ。」


 リーチュンとイーゼがシロマの行動に異議を申し立てると、イーゼはローブの裾を捲って、俺にその魅惑的な足を見せつけた。

 ムラムラするからやめてほしい。
 まだ俺は……抜けてないんだ……。
 賢者に転職するまで待ってくれ! 


「アンタは黙ってなさい、この変態! またサクセスに悪戯するつもりでしょ!」

「あなたこそ、そんなカチカチの足じゃサクセス様を満足させられませんわ。私なら熟睡できる魔法も使えますし、どう考えても私が適任ですわ。」


 俺の膝枕を巡って、美少女達による三すくみの戦いが始まる。
 なんと羨ましい光景だ。
 できるなら俺は、その戦いを見守っていたい。
 でも今はそんな余裕はない。
 だから、俺の答えは既に決まっている。 


「みんなありがとう。でも時間がない。シロマ、迷惑かけるけどよろしく頼む。」

 俺はそう言うとシロマのところに行って、シロマの膝の上に頭を置いた。
 これで三人の争いは終わる。シロマWINだ。


「アタイだって……役に立ちたいもん……。」


 それを見てリーチュンは悲しく呟いた。
 どうやら今朝の事をまだ引きずっているらしい。
 リーチュンは何も悪くないんだけどな。


「俺は、リーチュンが元気な姿を見せてくれるだけでいつも元気をもらってる。それにこの後、いにしえの塔まではノンストップで向かうから、ここから塔までは、俺をリーチュンの後ろに乗せてくれ。俺はリーチュンの後ろなら安心して休める。だから頼りにしてるぞ。」


 俺がそう言うと、リーチュンの顔がぱぁっと明るくなった。 


「わかったわ! みんな聞いたわね? ここからはサクセスがアタイの後ろね。」 

「サクセス様がそうおっしゃるのであれば異存はありませんわ。でもシロマさん、30分経ったら私と膝枕を代わって下さらない? 私もサクセス様の寝顔を間近で見たいですわ。」 

「それは構いませんが……わかりました。約束ですものね。」


 しぶしぶ、シロマはそれを認める。

 約束?

 どうやら昨日の女子会で何かルールができたらしい。
 それが何か気になるが、今はそんな事よりもこの膝枕だ。
 俺は、躊躇なくシロマの柔らかい太ももに顔を埋める。

 体と精神は疲れているのに、シロマの太ももの間から香るフェロモンの匂いに、息子だけが全快した。
 既に完全体になっている。

 これぞまさに疲れマ〇。

 悶々と興奮していると、目が冴えてしまった。
 まずいな、このままじゃ休めない。

 そう思った時、シロマが何か呪文を唱える。
 シロマの手が魔法の光を帯びると、その手が俺の頭を優しく撫でた。

 それはとても気持ちがよく、心の奥から安らいでいく。

 だが、俺の性欲はそんな事では収まらない。
 安らぎ以上に、ムラムラが半端ないのだ。

 俺の本能がシロマの太ももと秘密のデルタ―ゾーンを堪能しろと叫ぶ。
 だが、同時に早く休めと叫ぶ奴もいる。

 今日もまた天使と悪魔による激しい戦いを繰り広げていた。

 俺が悶々としていると、今度は、突然イーゼの呪文が聞こえてくる。


「ラリパッパ。」


 なんじゃそのイカレた名前の魔法は!

 と思うもつかの間、その呪文が聞こえた瞬間、俺は急激な睡魔に襲われた。
 その魔法は眠り魔法であり、疲れていた俺には一発で成功する。


 もう少し……。
 もう少し堪能……させ……てくれよ……。


 そして俺は深い眠りにつくのであった。
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