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第一部 サクセス編(改稿版)

18 エルフの血

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 翌早朝、俺が見張り番をしていると、馬車から誰かが降りてくる。
 振り返ると、出てきたのはイーゲだった。 

 血を失った影響か、まだ少し顔色が悪い。 
 
 そして、あの呪いが成功しているならば、もう俺に興味は無いはず。 
 そう考えると少しだけ寂しい。 
 たとえ相手が男であっても、好意を寄せられる事自体はそんなに悪いものではなかったのだ。


「おはようイーゲ、体調はどうだ? 大丈夫か?」 

「はい。なんとか大分回復してきました。昨晩は、大変ご迷惑をおかけしました。」 


 お、早速効果があったみたいだ。 
 イーゲがやけにしおらしい。


「そうか、反省してくれたならいいよ。俺もかなり厳しい罰を与えたからな。」 

「いえ、当然の事だと思います。今日より私は心を入れ替えてサクセス様に尽くさせていただきたいと思います。」 


 え? あれ? なんか変だ……。 
 なんだろう…凄い違和感がある。 
 そうだ! 
 もうこいつは俺の事を好きじゃなくなったはずだ!
 俺に尽くす理由はない! 

 俺は違和感の正体に気付くと、ふとイーゲの体に目がいった。
 
 あれ? あれれれ? 
 なんだあの膨らみは? 
 昨日までは無かったはずだが……。 
 ま、まさか……。 


「あの~イーゲさんや、一つ聞きたいのだけど、俺の事はもう好きじゃないよね?」 


 俺はおそるおそるイーゲに確認すると、その質問にイーゲはキョトンとした。
 
 不覚にもその仕草に目を奪われる。 
 なんというか、今までと違って可愛く見えたのだ。

 そしてイーゲは答えた。 


「はい、好きではないです。」 


 そうか。 やはり気のせいだったか。 
 ちょっとだけ寂しいな……。

 だが、イーゲの答えはそれで終わりではなかった。


「好きではなく大好きです! 愛してます!」 


 俺は続いて出たその言葉に耳を疑う。 

 はい!? 
 俺の耳はおかしくなったのか? 
 そんな馬鹿な! 
 呪いは成功したんじゃなかったのかよ!? 


「そんなはずは……。確かにあの紙には完全な女性にならない限り、俺を好きにはならないと……。」 

「はい、ですので身も心も完全に女性になりました。これも全てサクセス様のおかげですわ。後は1メートル以内の接近だけが障害です。」 


 イーゲの語尾が、いや、話し方が今までと違う。 
 言葉遣いすらも女性っぽくなっていた。 

 一体どういう事だ? 
 あの紙には女性になれるとは書いていない。 
 また騙しているのか? 
 いや、呪いが成功しているなら騙せないはずだ。 

 ダメだ。 
 全くわからない! 

 すると、イーゲは俺の疑問を察してか、話し始める。 


「エルフというのは男性も女性もついている種族なのです。しかし昨日の呪いで完全に男の子が消えました。なので、今は完全な女の子です。」 


 呪いで男の子が消える? 
 そんな副作用的な? 
 意味がわからない。

 だがしかし、よく考えたらこれは悪くないのでは? 
 男でないなら何も問題ないじゃないか。  
 しかも元々女性に近い、いや女性より美しい容姿が更に女っぽくなっているんだ。 

 冷静になって、女性としてみると桁違いに美人だ。 
 とはいえ突然過ぎる。 
 頭が現実に追いつかないぞ。 


「ちょっとごめん、いきなりすぎて頭が混乱しているわ。」 


 大困惑した俺は、少し深呼吸をして、なんとか正常を保とうと努力する。
 しかしそこに、更に追い打ちをかけられた。 


「サクセス様……エルフの女性はお嫌いですか?」 


 悲しそうに憂いを含んだ表情のイーゲ。

 ぐはっ! 
 くっそ可愛いじゃねぇか。
 信じられん……。

 いや、元々綺麗な顔だったが、なんというか丸みを帯びて更に女性っぽくなったというか……。

 やめてくれ、もう俺を混乱させないでくれ! 


「イーゲ、お前が男でも女でも、俺はお前に対して恋愛感情はない。だから、それを押し付けるのはやめてくれ。今後の旅に支障がでる。」 


 俺は、精一杯無理をしながらもなんとかそれを伝えた。

 美女を振るようなこんなセリフ、彼女いない歴=年齢の俺にはハードルが高すぎるんだ! 

 だがこれで正解のはず。 
 今はまだこういうのは早い! 
 まだダメだ! 
 
 恋愛は冒険者にとって御法度……だったっけ? 


「わかりました、しかし私の思いは変わりません。ですが、サクセス様がそれを望まないのであれば、今後は控えさせていただきます。」 


 おぉぉ? 
 なんか今のイーゲは大分いいぞ。 
 最初からこれなら、むしろ俺が惚れちまってたな。 

 そう考えると、やはりもったいない事をしたような……。 
 だが、いい。
 俺は冒険をするために冒険者になった。恋愛はまだ先でいいんだ。 

 そう思い込む事で、なんとか俺は納得するのであった。
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