48 / 54
48、杏との邂逅
しおりを挟む
「もういい! もういいよアオイ!」
わたしは気づくと、アオイを強く抱きしめていた。
「ごめんねアオイ! わたし、まさかアオイがこんな…………」
アオイは何も言わずに、優しい笑みを浮かべながらわたしをゆっくり引き離した。
「…………アオイ?」
「大丈夫。大丈夫だから、もう少しだけ、続きを聞いてくれ」
「でも…………」
「ここからが、ボクの幸せへ続く話だから」
わたしは少し間をおいて、頷いた。
―――
ボクはあの日、屋上から飛び降りて死んだ。
そして気がついたら、なぜか自分の家に立っていたんだ。
母に話しかけても返事はない。最初は無視をされているのかと思ったけど、それは違った。母についていくと、母は、ボクの写真の前で手を合わせて泣いていた。
そこでボクは初めて、自分が死んでいるということに気がついたんだ。しかも、幽霊になっていまだにあれほど憎んだこの世にとどまっている。でも、一番驚いたのはそこではなかった。
母が、自分を悼んで泣いているのだ。あれほど嫌われていると思っていた母が。何を今さら、という気持ちもあったが、それ以上に、単純にその事実に嬉しく思った自分がいた。
でも、もうボクは死んでしまっている。どれだけ話しかけても、母にその声が届くことはない。
そしてボクはそれから実に2年間、あてもなく歩き続けた。腹は減らない。のども乾かない。でも、この世界の何にも干渉できない。ただ、心だけが乾いていった。本当の孤独がそこにあった。
しかし、あれは2年経ったある日のこと。
『かわいそうに。その若さ……いや、幼さというべきかしら……で、この世に未練を持ったまま死んでしまったのね』
そこには、自分より20歳ほど年上に見える女性が立っていた。
『どうして、自分のことが見えるのかっていう顔をしているわね。私は狭山杏(あんず)。幽霊だけど、今は生者としての体を得ている。そして、あなたのような幽霊の未練を断ち切る仕事をしている。…………まあ、急にいろいろ言われても混乱するわよね。ゆっくりお話しましょう』
ボクはそこでいろいろな話を聞いた。彼女が魂浄請負人(ソウルパージャー)という仕事をしていること。魂浄請負人の能力(チカラ)は別の人物から譲り受けたものだということ。そして、魂浄請負人になることで現世での肉体を一時的に取り戻せること。
そしてボクは、ボクの今までを彼女にすべて話した。2年もの孤独で、ボクは話すことにとても飢えていた。
『なるほどね。事情は分かったわ。私はあなたの未練を私の能力(チカラ)で断ち切ることができる。でも…………』
『でも?』
『あなたには例え、仮初であっても、束の間であっても、幸せな人生を経験してほしい。経験しても、きっとばちは当たらないわ…………。碧、あなた、魂浄請負人になりなさい』
わたしは気づくと、アオイを強く抱きしめていた。
「ごめんねアオイ! わたし、まさかアオイがこんな…………」
アオイは何も言わずに、優しい笑みを浮かべながらわたしをゆっくり引き離した。
「…………アオイ?」
「大丈夫。大丈夫だから、もう少しだけ、続きを聞いてくれ」
「でも…………」
「ここからが、ボクの幸せへ続く話だから」
わたしは少し間をおいて、頷いた。
―――
ボクはあの日、屋上から飛び降りて死んだ。
そして気がついたら、なぜか自分の家に立っていたんだ。
母に話しかけても返事はない。最初は無視をされているのかと思ったけど、それは違った。母についていくと、母は、ボクの写真の前で手を合わせて泣いていた。
そこでボクは初めて、自分が死んでいるということに気がついたんだ。しかも、幽霊になっていまだにあれほど憎んだこの世にとどまっている。でも、一番驚いたのはそこではなかった。
母が、自分を悼んで泣いているのだ。あれほど嫌われていると思っていた母が。何を今さら、という気持ちもあったが、それ以上に、単純にその事実に嬉しく思った自分がいた。
でも、もうボクは死んでしまっている。どれだけ話しかけても、母にその声が届くことはない。
そしてボクはそれから実に2年間、あてもなく歩き続けた。腹は減らない。のども乾かない。でも、この世界の何にも干渉できない。ただ、心だけが乾いていった。本当の孤独がそこにあった。
しかし、あれは2年経ったある日のこと。
『かわいそうに。その若さ……いや、幼さというべきかしら……で、この世に未練を持ったまま死んでしまったのね』
そこには、自分より20歳ほど年上に見える女性が立っていた。
『どうして、自分のことが見えるのかっていう顔をしているわね。私は狭山杏(あんず)。幽霊だけど、今は生者としての体を得ている。そして、あなたのような幽霊の未練を断ち切る仕事をしている。…………まあ、急にいろいろ言われても混乱するわよね。ゆっくりお話しましょう』
ボクはそこでいろいろな話を聞いた。彼女が魂浄請負人(ソウルパージャー)という仕事をしていること。魂浄請負人の能力(チカラ)は別の人物から譲り受けたものだということ。そして、魂浄請負人になることで現世での肉体を一時的に取り戻せること。
そしてボクは、ボクの今までを彼女にすべて話した。2年もの孤独で、ボクは話すことにとても飢えていた。
『なるほどね。事情は分かったわ。私はあなたの未練を私の能力(チカラ)で断ち切ることができる。でも…………』
『でも?』
『あなたには例え、仮初であっても、束の間であっても、幸せな人生を経験してほしい。経験しても、きっとばちは当たらないわ…………。碧、あなた、魂浄請負人になりなさい』
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる