31 / 54
31、茜色に輝く記憶
しおりを挟む
とにかく、温かかったのを覚えてる。わたしが朝起きると、たいていお父さんもお母さんもすでに起きていて、朝ご飯のいい匂いがわたしの鼻をくすぐる。
わたしの目に飛び込んでくるのはスーツ姿のお父さんと、朝ご飯を用意するお母さん。
「おはよう!」
わたしは二人にあいさつをし、顔を洗ってから三人で朝ご飯を食べる。
「いってらっしゃい!」
ご飯を食べ終わった後、わたしはお母さんといっしょに出勤するお父さんを玄関で見送る。これが朝のルーティーン。
「いってきます!」
そしてわたしは幼稚園の迎えのバスに乗り込むときにお母さんにあいさつする。幼稚園では、外で活発に遊ぶよりは、部屋でお絵かきをする方が好きだった。
「ただいま!」
幼稚園から帰った後は、お母さんが夕飯の準備をするのを横で見る。
「おかえり!」
お父さんが帰ってくる頃にはテーブルには夕飯が並んでいて、朝と同じように三人で笑い合いながらご飯を食べる。ご飯の後は、三人で遊ぶことも多かった。
「おやすみ!」
と言ってからも、わたしはお母さんに絵本の読み聞かせをおねだりする。でも、いつの間にかうとうとして、たいてい物語が終わるころにはぐっすり眠ってしまう。
休日には遠出することもあった。見る場所見る場所新鮮で、ただひたすら楽しかったことを覚えてる。
お父さんとお母さんの笑顔につられて、わたしも笑顔になる。そうして三つの笑顔が並ぶと、心があったかくなる。
これが、わたしの両親との、短く温かい記憶。わたしの今までの人生で、ひときわ輝く儚い記憶。…………わたしが6歳の時に両親が事故で亡くなる前の、幸せな、記憶。
***
「……ネ! アカネ!」
声が、聞こえる。わたしは現実に引き戻される。
「んん……」
わたしが目を覚ますと、そこにはわたしの顔を心配そうに覗き込むアオイの姿があった。
「アオイ……」
「良かった……目を覚ました」
「ここは……?」
わたしは首を動かさないで目だけで周囲を見回す。
「公園のベンチだ。倒れたキミをボクがここまで支えてきたんだ。時間は、キミが気を失って倒れてから10分弱経っている」
「そっか……。ありがとうアオイ。心配かけてごめんね」
わたしは横になったまま、わたしの側に立っているアオイに笑顔を向ける。
「……! ああ、まったくだよ…………」
「ありがとね、アオイ」
わたしは倒れる前のことを思い出そうとする。えっと、わたしたちはさっき…………。
「そうだ!お父さんとお母さんは!?」
わたしはガバッと勢いよく起き上がる。とともに軽い頭痛がする。
「いっ……」
「急に起き上がっちゃだめだ。…………キミの父親と母親は、あの後公園から……いや、アカネから一度離れることにして去っていったよ……アカネを気遣ってね」
「そっか……。」
まだ信じられないけど、やっぱりあれはお父さんとお母さんだったんだ。……わたしが二人に見せた反応は、やっぱり二人を悲しませちゃったのかな…………。
「アカネ、これからどうする? 彼らにこれからまた会うかい? それとも、今日のところはやめておくかい?」
アオイは少し不安そうな表情をしながら尋ねてくる。
「ごめん……わたし、まだ気持ちの整理がつかなくて…………。いったん、家に帰って休んでもいい?」
***
時刻は午後8時頃。わたしたちが公園から帰ってきてから、夕食の時間も含めて家の中は重苦しい雰囲気が漂っていた。わたしはお父さんとお母さんのことで頭が支配されている。そしてアオイは、そんなわたしにどうやら気を使っているようだった。
「あの、アオイ。これはわたしの問題だから、アオイはいつも通りでいてくれていいんだよ?」
わたしはたまらずアオイに話しかける。
「『わたしの問題』……?」
アオイはピクッと体を動かして小さな声でつぶやく。アオイの雰囲気が明らかにさっきと変わった。
「? アオイ?」
アオイは勢いよく立ち上がる。
「ちがう! キミの両親が依頼人として現れたなら、その依頼を聞いて向き合うのはボクたち二人の仕事だ!」
「アオイ…………」
わたしは、今までになく感情をあらわにしたアオイから目が離せない。
「それに、それを抜きにしても…………」
アオイは怒りの感情を顔に出す。
「ボクはキミの友達だ! キミが困っているなら、それはボクの困りごとと同じだ、そうだろう!? …………だから、『わたしの問題』なんて、言わないでくれ…………!」
そうして言い終わった後、アオイはこの前二人で撮ったプリクラをわたしの前に突き出す。
わたしは、ハッとする。
「…………アオイ。そっか、そうだよね…………。わたしたちは、相棒で、友達なんだ。だからわたしは、アオイに頼っていいんだ。…………いや、頼らなくちゃいけないんだ」
わたしはアオイがプリクラを突き出してきた手を、両手で握る。
「ありがとう、アオイ! 遠慮なく頼らせてもらうね!」
そしてアオイは、いつもの余裕のある表情を見せる。
「ああ、ボクに任せておけ」
わたしたちは、いつものように笑い合った。
わたしの目に飛び込んでくるのはスーツ姿のお父さんと、朝ご飯を用意するお母さん。
「おはよう!」
わたしは二人にあいさつをし、顔を洗ってから三人で朝ご飯を食べる。
「いってらっしゃい!」
ご飯を食べ終わった後、わたしはお母さんといっしょに出勤するお父さんを玄関で見送る。これが朝のルーティーン。
「いってきます!」
そしてわたしは幼稚園の迎えのバスに乗り込むときにお母さんにあいさつする。幼稚園では、外で活発に遊ぶよりは、部屋でお絵かきをする方が好きだった。
「ただいま!」
幼稚園から帰った後は、お母さんが夕飯の準備をするのを横で見る。
「おかえり!」
お父さんが帰ってくる頃にはテーブルには夕飯が並んでいて、朝と同じように三人で笑い合いながらご飯を食べる。ご飯の後は、三人で遊ぶことも多かった。
「おやすみ!」
と言ってからも、わたしはお母さんに絵本の読み聞かせをおねだりする。でも、いつの間にかうとうとして、たいてい物語が終わるころにはぐっすり眠ってしまう。
休日には遠出することもあった。見る場所見る場所新鮮で、ただひたすら楽しかったことを覚えてる。
お父さんとお母さんの笑顔につられて、わたしも笑顔になる。そうして三つの笑顔が並ぶと、心があったかくなる。
これが、わたしの両親との、短く温かい記憶。わたしの今までの人生で、ひときわ輝く儚い記憶。…………わたしが6歳の時に両親が事故で亡くなる前の、幸せな、記憶。
***
「……ネ! アカネ!」
声が、聞こえる。わたしは現実に引き戻される。
「んん……」
わたしが目を覚ますと、そこにはわたしの顔を心配そうに覗き込むアオイの姿があった。
「アオイ……」
「良かった……目を覚ました」
「ここは……?」
わたしは首を動かさないで目だけで周囲を見回す。
「公園のベンチだ。倒れたキミをボクがここまで支えてきたんだ。時間は、キミが気を失って倒れてから10分弱経っている」
「そっか……。ありがとうアオイ。心配かけてごめんね」
わたしは横になったまま、わたしの側に立っているアオイに笑顔を向ける。
「……! ああ、まったくだよ…………」
「ありがとね、アオイ」
わたしは倒れる前のことを思い出そうとする。えっと、わたしたちはさっき…………。
「そうだ!お父さんとお母さんは!?」
わたしはガバッと勢いよく起き上がる。とともに軽い頭痛がする。
「いっ……」
「急に起き上がっちゃだめだ。…………キミの父親と母親は、あの後公園から……いや、アカネから一度離れることにして去っていったよ……アカネを気遣ってね」
「そっか……。」
まだ信じられないけど、やっぱりあれはお父さんとお母さんだったんだ。……わたしが二人に見せた反応は、やっぱり二人を悲しませちゃったのかな…………。
「アカネ、これからどうする? 彼らにこれからまた会うかい? それとも、今日のところはやめておくかい?」
アオイは少し不安そうな表情をしながら尋ねてくる。
「ごめん……わたし、まだ気持ちの整理がつかなくて…………。いったん、家に帰って休んでもいい?」
***
時刻は午後8時頃。わたしたちが公園から帰ってきてから、夕食の時間も含めて家の中は重苦しい雰囲気が漂っていた。わたしはお父さんとお母さんのことで頭が支配されている。そしてアオイは、そんなわたしにどうやら気を使っているようだった。
「あの、アオイ。これはわたしの問題だから、アオイはいつも通りでいてくれていいんだよ?」
わたしはたまらずアオイに話しかける。
「『わたしの問題』……?」
アオイはピクッと体を動かして小さな声でつぶやく。アオイの雰囲気が明らかにさっきと変わった。
「? アオイ?」
アオイは勢いよく立ち上がる。
「ちがう! キミの両親が依頼人として現れたなら、その依頼を聞いて向き合うのはボクたち二人の仕事だ!」
「アオイ…………」
わたしは、今までになく感情をあらわにしたアオイから目が離せない。
「それに、それを抜きにしても…………」
アオイは怒りの感情を顔に出す。
「ボクはキミの友達だ! キミが困っているなら、それはボクの困りごとと同じだ、そうだろう!? …………だから、『わたしの問題』なんて、言わないでくれ…………!」
そうして言い終わった後、アオイはこの前二人で撮ったプリクラをわたしの前に突き出す。
わたしは、ハッとする。
「…………アオイ。そっか、そうだよね…………。わたしたちは、相棒で、友達なんだ。だからわたしは、アオイに頼っていいんだ。…………いや、頼らなくちゃいけないんだ」
わたしはアオイがプリクラを突き出してきた手を、両手で握る。
「ありがとう、アオイ! 遠慮なく頼らせてもらうね!」
そしてアオイは、いつもの余裕のある表情を見せる。
「ああ、ボクに任せておけ」
わたしたちは、いつものように笑い合った。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
ネカマ姫のチート転生譚
八虚空
ファンタジー
朝、起きたら女になってた。チートも貰ったけど、大器晩成すぎて先に寿命が来るわ!
何より、ちゃんと異世界に送ってくれよ。現代社会でチート転生者とか浮くだろ!
くそ、仕方ない。せめて道連れを増やして護身を完成させねば(使命感
※Vtuber活動が作中に結構な割合で出ます
【完結】【R18百合】女子寮ルームメイトに夜な夜なおっぱいを吸われています。
千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。
風月学園女子寮。
私――舞鶴ミサが夜中に目を覚ますと、ルームメイトの藤咲ひなたが私の胸を…!
R-18ですが、いわゆる本番行為はなく、ひたすらおっぱいばかり攻めるガールズラブ小説です。
おすすめする人
・百合/GL/ガールズラブが好きな人
・ひたすらおっぱいを攻める描写が好きな人
・起きないように寝込みを襲うドキドキが好きな人
※タイトル画像はAI生成ですが、キャラクターデザインのイメージは合っています。
※私の小説に関しては誤字等あったら指摘してもらえると嬉しいです。(他の方の場合はわからないですが)
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
百合カップルを眺めるモブになりたかっただけなのに。
蒼風
恋愛
□あらすじ□
百合カップルを眺めるだけのモブになりたい。
そう願った佐々木小太郎改め笹木華は、無事に転生し、女学院に通う女子高校生となった。
ところが、モブとして眺めるどころか、いつの間にかハーレムの中心地みたいになっていってしまうのだった。
おかしい、こんなはずじゃなかったのに。
□作品について□
・基本的に0時更新です。
・カクヨム、小説家になろう、ノベルアップ+、noteにも掲載しております。
・こちら(URL:https://amzn.to/3Jq4J7N)のURLからAmazonに飛んで買い物をしていただけると、微量ながら蒼風に還元されます。やることは普通に買い物をするのと変わらないので、気が向いたら利用していただけると更新頻度が上がったりするかもしれません。
・細かなことはnote記事(URL:https://note.com/soufu3414/n/nbca26a816378?magazine_key=m327aa185ccfc)をご覧ください。
(最終更新日:2022/04/09)
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる