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光たる英雄の闇なる思い出
六華頂点からの評価
しおりを挟む安楽武の用兵がマドロトスを相手する一方、別の場所で暴れるウォンデにはナイトが当たっていた。
「大将自らのお出ましとは、味があって良い! 些か雑魚ばかりが相手で、張り合いの無かったところだ!!」
「うちの筋肉自慢達を雑魚呼ばわりか。いい御身分だな、壊し屋」
怒気を僅かに含んだナイトの一閃が、喜色に頬を緩ませたウォンデを弾く。
やはりというか、ウォンデは強者なれど、ナイトはその上をゆく。
全軍を束ねる大将と、独り善がりの狂将とでは、力の根底が違うのだ。
「フン……実に良い! 実に壊し甲斐がある!! やはり死闘とは、こうでなくてはなァ!!」
ウォンデは後退った先で体勢を立て直し、相棒の魔剣に邪悪な魔力を注ぎ込む。
魔剣は赤黒い光を放って妖しく笑い、当てられた者の気力を貪り尽くす。
それはまるで、強者同士の戦いを弱者に邪魔させぬ為の予防幕とも見てとれた。
「……相変わらず芸の無い奴だ。まぁ、壊し専門のお前に創造性を求めるだけ無駄か」
「戦の美学など糞ほどの役に立たんっ! 力こそ全て!! 殺し合いにあっては、人を生かすも殺すも武力次第! 弱者どもの夢追いに、一切の興味も無いわ!!」
「夢があるからこそ、人はどんなに苦しくても戦えるのだがな。まぁ……創造性に欠ける壊し屋では、貧相な思考しかできなくて当然か」
「御託は結構! 俺等はとうの昔から水と油の関係だ! さぁ! とっとと死合おうぞ!!」
「……そうだな。語り合うだけ無駄なお前に、これ以上無用な時間をかける必要はない。
――世の為、人の為。全力でお前を討つ! ジオ・ゼアイ・ナイトの武力、刮目して見ろ!!」
ナイトは首に下げた剣のペンダントを強く握り締め、破邪顕正の魔力を注ぎ込む。
「王道ォォォーー!!」
強烈な閃光と共に、ペンダントは一瞬で大型の魔法剣へと変貌した。
この魔法大剣こそ、ジオ・ゼアイ一族中興の祖である “王道武神” ジオ・ゼアイ・アールアが愛用し、魔軍を退け、人界統一を果たす力となった大いなる魔具。
一説には、ジオ・ゼアイ一族の者でしか発動できない為、これを用いる事が末裔たる証明であるという。
「おっ……おぉ! ナイト様……! ナイト様万歳!! 我等が大将こそ、天下最強だァーー!!」
「ふっははは! 動けるようになったんなら、お前等は下がってろ。こいつは俺が殺る」
澄んだ閃光がウォンデの邪悪なる光を中和し、虚脱感に圧殺される兵達を救った。
ナイトは万全に戦える状況が出来た事に満足し、魔法大剣《王道》を構え直す。
ウォンデも壊し甲斐のある敵に期待するや、相棒の《紅壊》を握り直した。
「せやァァッ!!」
「壊れ死ねェェ!!」
両雄は一気に間合いを詰め、互いの全力をぶつけ合った。
方や後々の害悪を除く為、方や純粋に戦いを楽しむ為。
想いの形は違えども、それ一心に得物を振るうだけあって、衝突の規模は桁違いだ。
絶え間ない衝撃波が築かれたばかりの防壁を遠慮なく叩き続け、区画内を反響して城塞全体に響き渡る剣撃音と合わさる事で、その日限りの戦闘音楽を奏でる。
魔力衝突によって生じる銀色の火花も派手に咲き乱れ、先の激突で生じたものが消失する前に次の花が咲く為、常人には銀の舞台に見えただろう。
兵達は両雄の死闘を固唾を呑んで見守るしかなく、次元の違う世界に戦慄した。
だが二十合も刃を交えた頃、地力に勝るナイトが遂に押し始める。
「おぉっ……!! 流石はナイト様! あの六華将・ウォンデを相手に優勢だ!」
硬直していた兵達が歓声を上げると同時に、彼等の体から強張りが自然と抜けた。
兵達は、自分達の大将が天下無敵である事を改めて認識したのである。
「ふっ…………ふはぁぁぁははァァァ……!! この俺様が、壊されようとしているのか。悪くない……悪くはないぞ……! 剣合国軍大将 ジオ・ゼアイ・ナイト! その有無を言わさぬ武力! やはり貴様は、破壊と慈悲の混沌だ!! 俺の敵に相応しい!!」
「……えらく格好良いように言ってくれるが、生憎お前に評されても嬉しくはない。弱者をいたぶり壊すだけしか能の無いお前に、人を評価するだけの物差しがあるとも思えんしな」
二人が手を休め、口を動かした時、辺り一帯は焼け野原であった。
毅然と佇むナイトは、不敵に嗤うウォンデを軽くあしらう。
だが、ウォンデはそんなナイトを嗤い返す。恰も興味無さげな様に、淡々と。
「フンッ、何を思い違いしている。俺が求めるのは唯一つ。血肉沸き踊る死闘の末、てめぇの武力を以て敵を完全に破壊する事。貴様の存在に壊し甲斐を感じれども、土俵を同じくして口を交えるつもりは毛頭ない!」
「ほほぅ、ならばさっきのは独り言か。お前に似つかわしくない台詞だった故、更に気が狂ったかと疑ってしまった」
「似合わずして当然! 貴様を評したのは、我等が大将だからな!」
「…………なに、覇梁がだと?」
ウォンデの発言に、ナイトは眉間に皺を寄せた。
ここにきて覇梁の名が挙がるとは、思ってもみなかったのだ。
「自分がどう思われているか、もっと気になるなら奴本人に聞くんだな。……そら、丁度よい所に……」
「……っ!?」
悪寒に襲われるや否や、ナイトは身を屈めて姿勢を低くし、それと同時に左腰の鞘から逆手持ちで剣を抜き上げた。
刹那。強大な魔力がぶつかり合い、禍々しい衝撃波が周囲の大地を抉り返す。
剣の位置より腰を低くして踏ん張るナイトは、背後から迫った絶大な魔力に命の危険を感じるとともに、微かに漂った身に覚えのある覇気に違和感を抱いた。
「…………驚く。我の一撃を片手間に防ぎ通すか」
「……ちっ! 覇攻軍大将・覇梁……!!」
激突の余波が落ち着いた時、そこには両勢力の大将が刃を交えていた。
その構図に剣合国軍の兵達はもとより、当事者であるナイトも驚愕した。
豪胆にして大雑把なナイトであれば、敵の拠点に大将自ら潜り込むというイカレも頷けるのだが、いま目の前にいる者は “剛毅なれど慎重を期す” と噂される覇梁だ。
護衛に全く適さないウォンデのみを連れて、敵の城塞に現れるとは信じられなかった。
(今まで本陣に鎮座していたような男が……これほど大胆不敵な行動に出るとはな)
ナイトはまたしても、夢にも思わない事実に動揺した。
尤も、動揺を隠しきれなかったのは、何もナイトだけではない。
僅かに遅れてナイトの戦況を知らされた安楽武も、大将の危機的状況に冷や汗をかく。
「いかんっ! あの場は死地だ! 胡琅・藺勗は本陣の兵を全て引き連れ、殿の許へ駆け付けよ! そして何としても殿を離脱させろ!」
「はっ! 一番から五番、私に続けっ!! ナイト様を御救いするぞ!!」
「六番隊から十番隊までは、この藺勗に従え! 我等は覇梁に突っ込むぞ!!」
「安楽武様。マドロトスを止める戦力はどうなされますか?」
「……俺が奴の進撃を止める。だが、この本陣には余人を置くゆとりもない状況だ。故に兵はいなくとも、お前達には付き合ってもらうぞ」
「御意。一命を賭してマドロトス隊に当たります」
有事に備えた安楽武直下の予備兵は、既に動き出していた。
然し、誰しもが予想だにしなかった覇梁の出現は、安楽武の想定した救援戦力を軽い一手で不足させ、更なる増援の派遣を余儀なくされた。
そして改めて算出した救援戦力は、本陣に待機している全ての予備兵を総動員しても足りるかどうかといったところ。
故に安楽武は、直属部隊最強の二将である胡琅と藺勗に本陣守備兵の十割を預け、自身は残る七人の将校を率いて出撃した。
羽扇ではなく剣を手にした彼は、言動・目付き・雰囲気などの全てに血の気を織り交ぜ、“返り血の曲刀師” たる姿を遺憾なく顕にしていたという。
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