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死神が呼ぶもの
急転直下の救出劇
しおりを挟む晴天の霹靂と言おうか、霹靂の晴天と言うべきか。
西方より颯爽と現れた銹達隊二百騎は、存在を匂わせるや否や、疾風迅雷となって司福隊の一角に突っ込んだ。
突っ込んで、迎撃陣形の整っていない司福隊を決壊した堰の様に突き崩し、瞬く間に中間辺りまで侵入していく。
「おのれぇ! 決して抜かせるな! こんな好機二度とないぞ!」
「もう一度隊形を組め! 槍衾を敷いて敵の足を止め――ぎゃあぁっ!?」
「邪魔だ下朗どもォォ!! 涼周様の勇槍・銹達が、槍の使い方を教えてくれるわっ!!」
「銹達様に続けぇ!! 涼周様に下朗どもの手を触れさせるなァァーー!!」
銹達が突き出した瞬槍の嵐が、さながら槍衾となって司福兵を虐殺すれば、彼の部下達も上官に倣って烈火の如く突き進む。
その勢いたるもの、正に竹を割くが如し。
屈強な司福兵がいとも容易く崩れ落ちる様は、得も言えぬ爽快感を放っていた。
「えぇい! 奴等は一先ず無視だ! 先に狂い姫を捕らえろ!」
状況の優勢を狙った司福兵は、人質の確保を優先した。
キャンディと涼周目掛けて、容赦なき敵が再び殺到する。
その様子を見聞きした銹達隊は、声を荒げて気勢を上げる。
「銹達様! 奴等が涼周様を!」
「言わずとも見えている! ッタァァ!!」
そうはさせぬと、銹達自慢の瞬槍が繰り出された。
真っ直ぐに伸びきった刃は目前の司福兵ごと大気を貫き、魔力によって生み出した衝撃弾を射出。キャンディの背面から迫る十数人を排除した。
「銹達様、私の槍を!」
後に続く部下の一人が、銹達の左後ろから槍を手渡す。
銹達は右手の瞬槍で続けざまに衝撃弾を撃ちつつ、左手に取った槍を力一杯投擲する。
魔力を帯びた飛槍はキャンディの前方から迫る数人を貫通して止まり、即席の肉壁もとい串刺しバリケードを作って後続兵を阻害した。
「次ィ!!」
「はっ! 拙者の槍を!」
先程とは違う部下の槍を投擲し、次はキャンディの背面に時間稼ぎを設ける。
その間も衝撃弾は繰り出され、屈んでいるキャンディの頭上を超えて、彼女の左右から迫る司福兵を排除していた。
「お二人とも、御無事でございますか!!」
「銹達ぅぅ……!!」
そして漸く、銹達隊は涼周およびキャンディとの合流に成功した。
銹達配下の精鋭騎兵は母子の周囲に展開し、涼周は今日の英雄に向かって涙混じりの花を咲かせ、キャンディも安堵の色を浮かべる。
一方の銹達本人は、突破に際して浮かべていた鬼の形相と打って変わり、とても爽やかな笑みを以て豪語する。
「これより先は、我等が全力で御護り致します。さぁ! 友軍の許へ向かいましょう!!」
「ありがとう。……でも、貴方は確かカイヨーに居た筈……何故ここへ?」
「話は後程。まずはこの場を脱しましょう!」
「えぇ……そうね。お願いするわ」
「はっ! 承知致しました!
――よし、全騎反転だ!! 戦場を一旦離脱するぞ!!」
突いては退くを主戦法とする銹達隊である。
突入は勿論の事、撤退も相当な練度を誇っており、歴戦の司福兵に引けを取らないどころか、敵中離脱に関しては彼等の技量を上回ってさえいた。
「命惜しければ退け!! 銹達、これより修羅となる!!」
主将級の実力を有していながら、副官の地位に留まる魔人・銹達。
元来、熱い戦いを得意としない彼だが、主を守るという状況にあっては箍が外れ、秘めたる実力を十二分に発揮するのだった。
「舐めるなよ若造! 司武様と共に死線を潜り抜けた我等の底力、とくと味わえ!!」
「ちょこざいな!! それほど骸になりたいかっ!!」
大剣豪・司武の残した精鋭ともあれば、銹達の気迫にも堂々と立ち向かう。
されど今の流れの前には、全てが無駄だった。
「ぐぅっ!? ……まだだ、まだ包囲は崩れておらん!」
「司武様の顔に泥を塗る訳にはいかんのだ! 死力を尽くして奴を討つぞ!!」
司福兵は無駄と分かりつつも、果敢に挑む。矜持しかり、戦略的価値しかり。彼等はこの状況を逃す訳にはいかなかったのだ。
「ッタァァァァーー!!」
だが、司福兵が如何に奮起したところで、阿修羅の如き銹達には到底敵わなかった。
それどころか、部下達が次々と朱に染まる光景を前にして、奮起を促すべき隊長の司福は、それ以上の雑念に駆られていた。
(…………羨ましいな。守るべき主の為に必死になれるなんて……どんなに羨ましい姿なんだろう。騎士として私が目指すのは……彼等のような姿の筈。それがどうして……弱り目の親子を叩くような真似をしなくてはならないのだろう……)
銹達隊の勇姿に感服した司福は、良く言えば見入っていた。
それでも彼女は隊長なだけあって、銹達とは別の部隊が接近している事も感じ取る。
「…………道を開けてやれ」
「で、ですが! 今は絶好の機会では!? 奴等を捕らえれば、弟君の強様も……」
「強引に止めようとしたところで、無駄に被害を増すだけだ。……今回は敵将首を一つあげただけで良しとする。
――それより、此方も退却するぞ。早々に乱戦を解いて隊列を整えろ。……どうやら、あの槍使い以上に厄介な強敵が現れた様だ」
主戦場となっている東側を一瞥した司福につられ、部下達も剣合国・沛国連合軍の陣営に目を向ける。
見れば、ナイツやルーキンの要請に従った韓任が、部隊の半数を率いて持ち場を離れ、本陣救援に駆け付ける途中だった。
「くっ……奴等の増援か! なんと間の悪い!」
「仕方がないだろう。全滅するよりマシだ。……それよりも急げ。直ちに退却するぞ」
「くぅ……無念でございます! ……撤退、撤退だぁ!」
司福が負傷している状況で韓任隊と当たるのは自殺行為と言える。
司福隊は網中の大鵬を逃した事に眉根を寄せつつも、余儀なくされた撤退に努め、戦場を迅速かつ人知れず離脱した。
一方、場所は変わって本陣でも、韓任隊の来援は見て取れた。
ナイツ、承咨、シバァと戦う貴幽は、三人の攻勢が緩まった隙に東側を一瞥する。
「…………さすがに、あれとも戦うのは分が悪いか」
三対一でも動じない彼だが、輝士隊最強の将軍と精鋭兵が加わっては勝ち目がない。
何より先頭を駆ける韓任から並々ならぬ闘志がビシビシと伝わり、誰であっても避けざるを得ない程であった。
「……退くは恥だ。なれど大事を成すその時まで、無駄死にする訳にはいかん。……ここは退かせてもらうが、貴様もろとも次はない。覚えておけ、漆黒の魔剣士よ……!!」
貴幽はそうとだけ吐き捨てると、雨に溶ける様に消え去った。
彼によって生み出された異形兵も続けて消滅し、本陣から当面の敵の気配が完全に無くなった事で、漸くナイツは大きな溜め息をついたのだった。
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