大戦乱記

バッファローウォーズ

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和を求めて

同盟締結後の宴会がんばれ

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 同盟が締結するや、場所は大広間へと移った。
互いの友好を深めるという目的で、同盟を祝した宴会が催されたからだ。

「…………それで、何故あいつまで無理に絡めるんだろう?」

 メスナと共に大広間へ戻ったナイツが、とある人物を捉えて呟いた。
何を隠そう、その人物とは、ナイトの暗殺を企んだ狙撃手・杉谷善住坊スギタニ・ゼンジュボウだ。
宴会の席に呼ばれた鈴木重兼と韓任に挟まれ、正面には西ノ庄城主・草部斎門慶クサカベ・サイモンケイが構える形で円卓を囲み、大人しく酒を飲んでいた。

 否、飲んでいるというより、警戒心剥き出しの韓任によって無理矢理飲まされていた。

(韓任はこういうの苦手だからなぁー。単純に酔い潰そうとする魂胆が見え見えだよ)

 警戒しつつも楽しみ、楽しみながらも要注意人物の敵意を萎えさせる。
これに関してはナイトやファーリムや淡咲が一流の実力を誇る一方、純粋な武人たる韓任には不得手と言えた。

「大殿としては、蟠りの払拭を狙った上での同席なんでしょうけど……あのままだと、当の本人達は楽しくないでしょうねぇ……」

 無力化を図るべく、監視しながら飲酒を命令する韓任と、補佐せざるを得ない重兼と斎門慶、そして命令されるがままに酒を飲む杉谷善住坊。

 遠目から見ても分かる様に、席を囲む四人の一切合切が楽しそうではなかった。
大上司によって開かれた宴会の一席で、不仲の者達が上司の顔を立てる為だけに我慢している図と言えば、しっくりくるだろう。

 だがそこにあって、大上司たるナイトはジーイング一人に集中していた。ジーイングに関しても他国人という立場が影響して、杉谷を囲む状況をまるで意識していない。

 その姿まで捉えたナイツは、父の尻拭いを果たすべく、事態の好転を狙う。

「……今後を思えばこそ、あれは見過ごせないな。メスナ、悪いんだけどお願いできる?」

「お安い御用です! 輪に入って飲み食いしながら騒ぐだけですから。……ただ、童ちゃんと稔寧殿はどうします? 若がこれ以上席を外して、探す訳にもいきませんでしょ?」

 ナイツとメスナの二人は、稔寧を連れて暇潰しに出掛けた涼周を呼び戻す為に、城内を見て回っていた。
然れど幾ら探しても、肝心の涼周と稔寧が見つからず、仕方なく大広間へ戻ったのだ。

 そしてメスナの言うとおり、両国の大事な席に於いて、剣合国軍次期大将に当たるナイツが長時間に亘って不在というのは問題だろう。

「ふははっ、まぁそこを言ってしまえば、ご飯が並ぶまで暇潰ししてくると言ったが最後。全く戻る気配のない涼周は大問題だけどね」

「んーと、じゃあ……シュマーユちゃんに代わってもらいます?」

 魏儒の頼みを受けて、柔巧より移民支援活動に赴いているシュマーユ。
彼女もこの席に呼ばれており、涼周と稔寧が居ない今は、柔巧より共に来た幕僚や安楽武の側近達と一緒だった。

「いや、いいよ。涼周の事だからきっと、お腹が空けば適当に戻ってくるだろうし」

「了ーー解です。それじゃ若、私はガッチガチな韓任殿の補佐に回りますから、羽目外して痛飲しちゃダメですよ?」

「……元から飲まないし、それを言うのは寧ろ俺の方だから」

 別行動を前に手を振って警告するメスナへ、ナイツが苦笑して言い返す。

 飲めや歌えや踊れや! というナイト節に反し、教育係のキャンディは「お酒は二十歳から」を謳っている。
素直で真面目なナイツは母親の言葉に従っており、酒は飲まない。
キャンディが自分の発言を都合良く忘れて飲酒を促しても、決して飲まない。だから逆を言えば、ナイツは酒の味を殆ど知らなかった。故に心配は無用。

 その反面、輝士隊の“遊び要員” 兼 “心” であるメスナは、羽目を外さないとは断言できない。
彼女は周りの雰囲気改善の為に、多少の無茶をしてでも盛り上げようとする一面を持ち、周りが堅物であればあるほど、危険性は高まってしまう。

 ナイツはそれを危惧し、暗にメスナを気遣った。

「はぁーい、程々にしときますよー! 何たって重要な席ですからねー!」

 若き上官の気遣いを察したメスナはヒラヒラと後ろ手を振りながら、殺伐とした酒戦場へ赴いた。その足取りや気配の、何と慣れている事か。

(…………猛者だな。まるで余念がない。どれだけ遊び慣れてるんだよ)

 そんな側近の後ろ姿を、ナイツは黙って見送った。
その佇まいと状態判断能力の、何と慣れている事か。



 一方、話し手は変わって、錝将軍・ラタオ及び副官のレティと、剣義将・バスナ。
彼等の席はナイトとジーイングに近いものの、全く違う話題に興じていた。

「そうだ剣義将! このあいだの戦で唆釈サシャクと殺り合ったとか? どうよ?」

「どう……と聞かれてもな……見事に蹴り飛ばされただけだ。あの武勇は噂以上につき、想定外だった。……然し、流石だな百勝のラタオ。あんな奴と互角に渡りあったとは」

「……へっ! 懐かしい話を出してきよった。なぁレティ、どうよ?」

「いや……私その時には居ませんでしたから、ドーヨ言われても困ります」

 覇攻軍六華将のフハ・ガトレイを主とする、鬼面甲付衆の頭領・唆釈。
鬼面の魔具を用いて超絶強化された彼の武力・破壊力は、それだけで戦局を左右しかねない程に強烈無比であった。

「あの時は楽瑜と涼周が居たから押し返せたが、二人が居なければどうなっていたか……」

 土属性の上位種たる「地裂」の魔力を持つ楽瑜と、涼周本来の闇の魔力を込めた合成魔弾。それが唆釈を退け、戦局を決定付けたのだ。

「闘将と名高き楽瑜に……魅惑の幼子大将・涼周。魅惑だってよ、どうよレティ?」

「いや、ですから……その子と会ってもないのにドーヨ言われても困ります……。ただ、噂を基にした私の見立てでは……その幼子大将もまた、噂に勝る人物でしょう」

 ラタオ直下軍団の参謀を務めるレティには、故あってラタオ以上の視野があった。
それだけに実質無名な彼女であっても、バスナが感心する程の鋭さを持っていた。

「……んで、その幼子大将とやらは何処に居んだ? 食欲旺盛って聞いて楽しみにしてたんだが、宴会始まっても終ぞ見ねぇぜ?」

「酒宴だから居ないのでは? 別の場所で食べているとか?」

 骨付き肉と盃を両手に持つラタオが辺りを見回し、レティが御酌をしながら推測する。
そしてラタオが、ふと気付く。涼周に加えてある人物が居ない事に。

「おんや? そう言えばうちの弟大将も居ねぇな。目も見えねぇのに一人で何処行ったんだか……。レティ、悪いがあの御仁を頼んだぜ」

「ならばそのついでに、此方の幼子大将も頼めるか? 白い上着を着た真ん丸目の子供で、白い髪の女性と一緒の筈だ。……調理場や庭園に、定期的に出没する」

「かしこまりました。片手間にはなりますが、お見かけした際には声を掛けさせてもらいます。……ただ、以前より気になっていたのですが……」

「うん? どうした?」

「涼周様とは……男の子ですか? それとも女の子ですか? 噂では女の子らしい容姿に加え、花を愛でるのが趣味だと聞くのですが……」

 そう尋ねるや否や、数秒間に亘ってバスナが黙る。
そして更に数秒が経過した後、彼は豪語した。

「知らん。寧ろ俺が聞きたい」

 妙に切実な訴えを見せるバスナに、レティは内心苦笑した。

 片や、それを面白がったラタオは便乗する。

「世間一般の認識では男。だが本当に男か? 女なのか? いや分からん! …………とは、良かったなレティ。似た者同――イタァァイ!?」

「失礼しましたバスナ将軍。それでは早速、捜索にあたります」

 エソドアと涼周の捜索依頼を快諾したレティは、上官たるラタオの腰を思いっきり膝蹴りした後、逃げる様にして大広間を後にした。

 そして、それと入れ替わる形でナイツが戻り、唖然とするバスナと、腰を抑えて涙目になるラタオを前に言葉を失ったという。

 取り敢えず、丁度良いタイミングで涼周捜索が継続されたのだ。
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