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和を求めて
中野城一家集結
しおりを挟む紀州 十ヶ郷郡 中野城
ナイツとエソドアの密会より二日後。
紀州の民心を安定させるべく、ナイトは一千の精兵を伴って十ヶ郷郡に入った。
キャンディもそれに同行しており、ジオ・ゼアイ一家は中野城にて久々の再会を果たす。
然し、普通に再会しないのがナイトクオリティーというもの。
ナイトと彼に洗脳された一千の精鋭兵は、ナイツ達の予想に反して盛大にやらかしよった。
「ぅ! にぃににぃに、あれ見る! ピーン! ってなってる! ピーンって、涼周もピーンする!」
鈴木家の館だった建物。その屋根上にある鬼瓦のツノ先で、絶妙なバランスを保って垂直に停止する剣合国軍の大型飛空艇。
操舵室のある機体先端が下を向き、積込・荷卸し用の後部ハッチが天を望む状態。
中に居る兵達がどうなっているのか、積み荷がぐちゃぐちゃになっていないか、等の心配が一撃で蹴散らされる程に、理解が及ばない光景であった。
涼周はそれを見て大いにはしゃぎ、兄の体によじよじと登るや否や、飛空艇を真似て自分の頭とナイツの頭をくっつける。即ちピーンである。
「うんそうだねーー。ピーーンってなってるねぇーー。それはそうと俺の頭上で真似るの止めよっかぁーー。……レモネ、悪いけど剥がしてくれる?」
「はい。……さっ、涼周様。こっちですよー」
ナイツの対面に回ったレモネが、天地反転しながら可愛いお臍を開帳している涼周を掴み上げる。
そして両手をゆっくりと自分側に折り曲げ、涼周をでんぐり返しさせた後、肩車の形に落ち着かせた。
「ふっははははぁぁーー!! 出迎えご苦労!! 皆揃って元気そうで何より!! とぅおっ!!」
そしてのそして、一つの問題事が解決すれば、次の問題事が発生するのは何時もの事。
何を隠そう、大量の救援物資を積んだ飛空艇ごと中野城へ突っ込んだナイト本人が、後部ハッチより勢い良く飛び出して現れ、ナイツ達の目前に君臨したのだ。
しかも、タダで着地するなんて事は天地がひっくり返っても有り得ない。
ナイトは降下中に増幅された落下エネルギーを着地とともに地面に伝達させ、立っているレモネを通じて涼周を浮き上がらせる。
涼周は空中で軽やかな反転を行い、まるで打ち合わせた様な無駄のない動きを以て、ナイトの頭上で先程のナイツと同じ状況に落ち着いた。
即ち、ナイトは涼周の意図を汲み取ったのだ。
それによって涼周は再びはしゃぎ始め、楽瑜を除いた諸将が唖然とする一方で、無表情による迎撃態勢を万全に整えていたナイツは動揺を最小限に抑える事に成功。
半眼と仏像界の模範的無表情を浮かべ、堂々と仁王立つナイト及び李洪とメスナに対し、答えが期待できない質疑を浴びせる。
「お久しぶりです父上突然ですみませんがこれは一体どういう事ですか? 俺は何一つとして聞いていないのですがもしかして父上のアホ行動を見抜けなかった俺が悪いのでしょうか? というより李洪とメスナは父上から何か聞いていた?」
ナイツは正に、無心仏の様相を呈していた。
受け入れる慈愛の色ではなく、諦めの境地に似た表情だ。
問われた李洪とメスナは、黙したまま首を横に振る。
仮に二人が何か聞いていたとしても、どう説明すれば良いか分からなかったであろう。
尤も、唯一答えられそうなナイトですら、恰も他人事の様に返すのだ。
「おぅ息子よ! また一段と無表情に磨きがかかったようだな! うむ、元気そうで何より!!」
「……一応元気ですが、それよりも父上。あれは一体なにを狙った結果なのですか? 明らかな時間の無駄と、労力の無駄に思えるのですが……如何に?」
「それよりも息子よ! あの黒染を討ち取ったようだな!! 良くやったぞ! でかしたぞ!! それでこそ俺の息子! 英雄の才を持つ剣合国軍次期大将だ!! 義士城で開かれた『酔いどれ無礼講大宴会』に、主賓であるお前が居なかった事、真に悔やまれる!! 悔しさの余りに涙でシンシャク川が増水し、お前が小さい頃に作った河辺の秘密基地はビッチャビチャ!! 残念だったな! また作るが良い!!」
「…………もうとやかくは言いません。取り敢えず、ちゃんと着陸してください。今にも崩れそうで怖いったらありません」
色々な乱舞を見せるナイトに追い付けないナイツは、色々と指摘したい事を放棄した。
然し、ナイトにはそれが興醒めに当たる様で、ナイツの諫言は地味に効力を発揮する。
「むむむ……飛空艇に乗っていないからと言って、随分と乗りの悪い奴め……。……仕方がない、ちゃんとした場所に停めるか」
涼周を降ろしたナイトは、渋々ながらも飛空挺の方へ踵を返す。
息子から「崩れそうで怖い」と言われては、流石の彼でも改めざるを得ない様子。
「はふふっ、みんな元気そうね……って、あれ? 何かこっち戻ってきた」
すると、ナイトと入れ替わる形で今度はキャンディが飛空艇から飛び降り、出撃前に比べてげんなりしている夫と居合わせた。
やはりと言うか、彼女が降り立った際に発せられる音は軽かった。
擬音で表すならば、夫がドスン! 妻がスフッ……である。
「おぅ奥。ちょっと離れた所に着陸するから、先に城へ入っててくれ」
「どんな反応だった?」
「崩れそうで怖い……だと。何とも乗りの悪い事この上な――」
「だから言ったでしょ。やめなさいって。無駄な時間と労力使うだけで格好悪いって」
今回、キャンディは共犯者ではない様子。
残念がるナイトを余所に、ナイツは一先ず安堵した。
「「むむむ」なんて言ってる暇があれば、早く正してきなさいな」
「むむむ……分かった」
長男と妻から不評のナイトクオリティー。
当のナイトは半ば項垂れるように飛空艇へ再搭乗した。
「まったく、あの人達にも困ったものね。意気込みと操舵技術は認めるけど」
抱き付いてきた涼周を撫で撫でしつつ、飛空艇を一瞥したキャンディ。
機内で起きたどんちゃん騒ぎを実際に目の当たりにし、どのような話の流れで垂直停止を披露する羽目になったのかを知るだけあって、熱意だけは買っていた。
「何て言うか……腕の見せ所が間違ってるって感じですよねぇー」
「メスナちゃんの言う通りよ。もっと別の事で活かしなさいって話」
「別の事…………航空祭とか開いて演目の一つにしてはどうでしょうか?」
「それ良いわね李洪殿。今度それとなしに、あの人に勧めておいて」
メスナに愚痴り、良案を提示する李洪に親指を立てる。
片や、飛空艇の中は凄まじい落胆の声で満たされていた。
要はキャンディ以外の者がナイトに洗脳されており、垂直に停止する芸術を認められなかった為、悲嘆の声を上げているのだ。
彼等は飛空艇としての動きを逸脱した挙動を以て、グニャングニャンと機体を起こす。
そうなれば必然的に、信じ難い光景を前にしたナイツ達は再び唖然とした。
「……彼等は放っておきましょう。気が済むまで好きにやらせとけばいいわ。
――それはそうとみんな。此の度の戦、本当にお疲れ様でした」
ナイト達を徐に無視したキャンディは、諸将の労をねぎらうべく頭を下げた。
剣合国軍大将の妻として、旦那の至らぬ点を補う良妻賢母然とした、げに美しき姿だった。
そんな彼女に対してナイツ達も、自然と頭を下げた。
それを見たキャンディは雰囲気を改めて苦笑するや、涼周の仲間衆へ視線を向ける。
「貴方達まで、そんなに畏まらなくて良いのよ? 私もあの人も、貴方達を仲間だと思ってるんだから。……これからも涼周を宜しくね」
涼周を抱き締めた状態で微笑みかけるキャンディ。
楽瑜は「無論承知」と威風纏って堂々と答え、飛蓮は「はいっ!」と元気良く返し、稔寧とレモネは静かに一礼する。
皆が皆、あの幼子大将にしてこの御母堂だと、想いを新たにした瞬間であった。
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