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紀州征伐 後編
雑賀頭目の大一番
しおりを挟む呉穆と重秀の激突により発生した銀の火柱は、およそ十秒ほど続いて天を焦がす。
待避している両軍の兵達は、両将が待避を命じてくれた事に心から感謝するとともに、人外大戦争の一端を見て戦慄した。
可能であれば絶対に関わりたくないと思う程に。
「っぐはぁぁ……!?」
「呉穆様っ!? うわわぁぁ!?」
「どゅらさぁぁっ!?」
「あぁー、兄上が――ひでぶぅぅぅ!?」
そして、派手に激突した両将の反発具合もまた、派手だった。
互いの全力が互角だった故に両者は勢い良く弾き返され、呉穆と彼の愛馬は仲良く部下達の群れへ吹き飛ばされ、重秀は彼から一番遠くに避難していた金兵衛を狙ったかのようにピンポイントで突っ込む。
両軍の陣形の一部が大いに崩され、巻き添えを喰らった将兵は周囲の兵に助け出される。
だがその中にあって、呉穆と重秀は自力で起き上がった。
「はぁ……はぁ……! ……ふ……ふふふ……ふはははは!!」
「ご……呉穆様!? だ……大丈夫ですか?」
馬体を抱き起こし、矛を拾って騎乗するや、突然笑いだした呉穆。
彼の部下達は上官が狂ったのではないかと、一様に仰天した。
「ったくぅよぉ…………へ、へへへへ……! へへへへへっ!!」
「あにうぇぇーー、おもいっす。はよどいてくだせぇーー」
実の所を言えば、突然笑いだしたのは重秀も同じ。
緩衝材の役割を果たして横たわっている金兵衛の腹に、尻餅を付いた状態のまま、得物である長銃を肩に掛けてニヒルな笑みを浮かべる。
その傍ら、金兵衛は金兵衛で、女の子の尻餅を望むとばかりにやる気なく地面を叩く。
『ダハハハハハハハハハ!!!』
終いには、呉穆と重秀は図った様に同じタイミングで大爆笑した。
もう、二人以外の者にはついていけない領域に達しており、先程の人外大戦争はあくまで序章に過ぎないのだと思い知らされる。
「やるではないか……鈴木の小倅め……!! 今の一撃は、相当骨に響いたぞ……!!」
「お前さんこそな……親父並みの歳で、良く殺るぜ……!!」
戦を餮ると揶揄される好戦的な老将こと、戦餮の呉穆。
熱い戦を求めて戦場に立ち、苦境でこそ燃える性質の鈴木重秀。
全力を込めた激突で互いの闘志が熱く燃え滾り、それが二人の琴線に触れた様子。
結局の所を言えば、似た者同士なのだろう。
互いの部下達が図った様に引くほど……二人にとっては楽しい激突だったのだ。
『ウオオラァァァーーー!!』
全身傷だらけになって至る箇所で血を流しても、これだけは止められない止まらない。
凄まじい熱を帯びた呉穆と重秀は、再度真っ向からぶつかった。
当人達にとっては半ば「祭り」感覚であり、さながら「血祭り」と言ったところ。
その様子を前にして、代将を務める鋭籍と三井遊雲軒が指示を下す。
「よ、良し! 我等も呉穆将軍に応えて突撃するぞ! 敵陣を崩して優勢を築き、我等なりに将軍を援護するのだ!!」
「若殿応! 全軍堅守! 絶対防衛・不退転!!」
改めて将同士の一騎討ちが始まった後に、他の将兵も交戦状態へ突入した。
左翼の鋭籍は右翼の鈴木金兵衛と相対し、右翼の棋盛は左翼の三井遊雲軒と相対。呉穆兵と重秀兵は上官を迂回する形で二手に別れ、鋭籍と棋盛、金兵衛と三井の指示に従って戦う事となった。
迎撃射撃を受けて数を減らした呉穆・鋭籍・棋盛の連合部隊は七千七百。東西に援兵を送った鈴木重秀の本隊は三千三百。剣合国軍は鈴木勢の倍近い兵数を誇っていた。
戦場中央で大乱闘が発生した頃、西側では後続のない亜土雷隊が依然として優勢だった。
佐武隊は坂井隊三百の加勢を得ても変わらぬ苦戦状態にあり、亜土雷との一騎討ちも然り。
現在の兵力数にして亜土雷隊が二千七百、佐武・坂井の連合部隊が三千四百。三千対四千三百で始まったと見れば、亜土雷隊は三倍もの被害を敵に与えた事になる。
この流れは一向に変わる気配がなく、西側は亜土雷隊の単体攻撃で充分と言えた。
それでは東側の亜土炎隊と的場隊の戦況はどうなっているのかと言えば、此方も此方で剣合国軍の優勢で進んでいた。
「涼周、稔寧、亜土炎! 待たせたな! 今から俺達も参戦するぞ!!」
亜土炎隊六千の後続として出陣したナイツと韓任、及び二千名の輝士兵。
彼等は友軍と合流するや、遊撃部隊として敵横陣の側面へ回り込む。
対する的場隊もとい実質的な指揮官である関掃部は、正面の亜土炎隊に対して予備兵を含む全戦力を当てていた為に、輝士隊の迂回攻撃を阻む余裕がまるで無かった。
「敵陣を端から突き崩す! 行くぞ韓任!」
「ははっ!! 総員、ナイツ様と私に続け!!」
ナイツと韓任が馬を並べて先駆けを果たし、鬼神の如く勢いで敵中を切り進む。
二人に続く輝士兵も大半が肉弾戦を得意とする者達で構成されており、雑賀兵を遥かに凌駕する実力で圧倒。上官の生み出した勢いに便乗して、ここぞとばかりに攻め立てる。
元来、遊撃大隊としての特色が強い輝士隊は、この手の戦法が得意中の得意であった。
「必殺の刃は輝士隊の方々だけではないぞ!! 我ら亜土炎隊も流れに乗って敵を穿ち! 剣合国軍にあって亜土炎隊ありと! 三国に知れ渡る武名を築くのだ!!」
『ハハァァァーー!!』
そこに来て果敢な正面攻撃を仕掛ける亜土炎隊が、輝士隊の作った圧倒的優勢に呼応して、元々高かった士気を更に急上昇させた。
当たるべからざる勢いを増しに増して、当たれば砕け散る猛勢に変えるや否や、真面目な部隊同士、気の合わさった見事な連携を示して敵を穿つ。
その猛攻を前にして雑賀兵達は、自棄くそと逃げ腰の半々に区分された。
「前には亜土炎で横からはジオ・ゼアイ・ナイツだって!? こんなの、どうやって戦えばいいんだよ!? 勝ち目なんかあるのかよ!?」
「そんなもん俺が知るかっ! 兎に角、来た敵から相手するしかねぇだろうが!!」
「き、輝士隊が来たぞぉーー!? もう勝てっこねぇ! 俺は逃げるぜ!?」
否、一割未満ではあるが、敵前逃亡を図る雑賀兵まで現れた。
これに関しては言えば、半農半兵な傭兵集団としての特色が悪い方向で活きた証である。
そして亜土炎とナイツによる挟撃開始から十数分が経過した頃。
輝士隊が爆進した跡には雑賀兵の屍山が形成され、亜土炎隊が切り崩した跡には生死問わずに無力化された雑賀兵達が残される。
辛うじて維持されていた的場隊の陣形は、東側側面より糸を抜き取ったように崩れ去り、強いてはその波が鈴木勢全体にも波及する事で、紀ノ川に沿って築かれた防陣はガラガラと崩壊を始めた。
「苦戦必至!! 全軍一層奮起!!」
関掃部は自ら銃を手に取り、戦いながら味方を鼓舞して回る。
然し、亜土炎と涼周のみならずナイツと韓任までもが戦列に加わり、更には倍以上の兵数に挟撃されるという状況では、あまりにも相手が悪すぎた。
悪すぎて、手の施しようがなかった。
それは関本人も理解している一方で、楽瑜との一騎討ちを興じている的場も、長年培った体感察知能力で静かに察する。
「…………ふんっ! ……どうやら、ここまでのようだな……」
加速していく味方の苦境、覆しきれない戦力差、近付いてくる蹂躙の気配。
自分から身を退けて楽瑜との距離を取った的場は、直感で「その時」を知った。
彼は燃え盛る一騎討ちを自分から放棄し、楽瑜を完全無視して愛馬に騎乗するや、楽瑜との距離を更に取って百名の護衛騎兵に最期の号令を下す。
「おいぃぃーー!! 的場騎兵隊の兵子共!! どうだ! まだまだ生きとるかぁ!? まぁ死んどるかもしれんから生きとる奴全員に告ぐぞォ!!
――たった今より、ワシは李醒本陣にぶち込む事を決めたァ!! 生き飽きた奴だけワシに続けェェーー!! 雑賀衆の男として、最高の最期を飾るんじゃぁぁーーー!!」
何と、的場は玉砕を覚悟していた。
己の最期にあって『的場昌長』たる爪痕を戦場に残す為、李醒本陣を攻める事で退却を余儀なくされるであろう味方を手助けする為、そして何より――
「李醒ェ! 貴様を討たずして、ワシは死ねん!! 貴様はやっぱり死ぬべきだわ!!」
やむを得ずとは言え、多くの同胞を亡き者にした大っ嫌いな李醒を討ち取る為。
結局のところ的場昌長という男は、仇を報ずる事に全身全霊を懸ける猛将だったのだ。
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