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紀州征伐 後編
鼠取り開始
しおりを挟む「ふははっ、じゃあ今回は飛蓮の所に行った訳か。寝てたら良いものを」
飛蓮の許へ涼周と稔寧とレモネが現れた様に、ナイツの許にもメスナが馳せ参じていた。
彼女は太田城へ向かうという涼周を制止したものの、結局止められず、道中を不安に思って城内まで護衛したのだ。
ナイツは涼周の強引さに苦笑する一方で、仲間を想う弟を誇らしく思った。
「それでまぁ……ここまで来ておいて戻るのも何ですし、私も参戦しますよ」
「それは助かるけど、部隊の方は大丈夫なのか?」
メスナが南陣を離れる事に、ナイツは一抹の不安を抱く。
当のメスナは別段ふざける様子もなく、至って真面目に返答する。
「韓任殿がですね、自分の兵に李洪殿の兵を半分加えて夜警に当たってくれたので、私と若の兵は何が起きても睡眠に専念ですよ。楽瑜殿と稔寧殿も同じやり方ですから、問題はないんじゃないかと」
「そっか。じゃあ御言葉に甘えて、メスナにはとても頑張ってもらおう!」
「うへぇー、それなら韓任殿と交代すれば良かったぁー」
「もう無理だからね。期待してるよ、メスナ」
メスナは「しまった」と言わんばかりの表情を浮かべて背を向けるが、ナイツが彼女の肩に手を置いてサボタージュを阻止する。
如何にもメスナらしい言動と、それを笑顔で制するナイツの手腕。
輝士兵達はその光景に心を和ませ、戦闘を前にして士気を高めた。
「若、メスナ将軍。お話中に失礼致します。今しがた物見より報告が届きました」
そんな中、飛蓮が放っていた熟練の物見が、敵の動きを探知したという報せがもたらされる。
「ご苦労様。それで、何て報告?」
「はっ。北東の山中より所属不明の騎馬隊が現れ、この城目掛けて迫っております。明かりを灯していない為、指揮官については不明ですが、兵数はざっと数百に及ぶとの事」
「うん、分かった。…………さて、数百か」
ナイツは報告にあった数を参考にして、重幸の出方を探る。
「太田城には李醒の護衛部隊が一千、俺と李洪の兵が合わせて一千、飛蓮のカイヨー兵が五百と、計二千五百名が入っている。だけどそれは実際の数で、定久を通じて重幸が知った数は李醒隊の一千のみ。…………されど李醒だ。重幸がその一千を片面だけの攻撃で打ち破れるとは思っていない筈」
「では、第二波ないし本隊が後になって突撃してくる可能性がある……って事ですか?」
「俺が重幸ならそうする。城の西や北には兵を隠すにうってつけな山林が広がっているから、あの辺一帯に地元の宮郷兵を伏せれば、カイヨー兵の索敵から逃れる事も不可能じゃない。何せ、雑賀の兵は伏兵・奇襲に長けた者達なんだから」
不意を突いては即座に退くを十八番とする雑賀兵なら、山林に気配を消す事は容易い。
「ただ問題は、平地に築かれたこの城までの距離がある事だ。それが災いして、城へ近付くまでに気付かれる恐れがある」
「……だから騎兵なんですね。そんで、先に現れた部隊を囮にして意識を向けさせて、その後に本隊が来襲する……みたいな作戦なんじゃないかと」
ナイツの戦略眼に追い付いているメスナが理解を示せば、当のナイツは大きく首肯する。
「うん、敵の新手は間違いなく現れる。仮に存在しなくても、警戒するに越したことはない。宮郷郡はまだ敵地の様な状態だから、何処から敵が沸いてくるのか、どの集落が敵なのかも定かじゃないからね」
「でも、今はやれる事を徹底してやる時ですよね? なら一先ずは李醒将軍に指示されたように、城内が乱れているって思わせましょ!」
東側を張るナイツとメスナは敵の本隊を誘き出す為、兵達に動揺の仕草を振る舞わせる。
それは反対側に張っている飛蓮や、北側の李洪や南側の西慶も同じであり、太田城の外周部に於いて騒然たる様が故意的に作られた。
そして、太田城内より上がった火の手を合図に、北東の山中から駆け付けた雑賀兵三百騎は、城内の騒ぎから策の成功を確信し、東門へ向けて突撃を敢行する。
「隊長! 大門が開きました!」
「よし! 内部の兵は上手くやったと見える! ひたすらに駆けろ! 俺に続けェ!!」
騎馬隊の接近に伴って城門が開かれるが、それは東と南に張っている輝士隊の仕業だった。
騎兵隊長並びに部下達は、そうとも知らずに城内へ突入。勇ましく先頭を駆ける隊長を始めとして、多くの兵が狩場へ足を踏み入れる。
「むっ! 敵も味方も居ないだと!? 一体どうなって……」
大門を潜った彼等は、味方はおろか敵の姿すら見えない光景を目に映した。
「これはまさか……いかん!? 罠だ! 引きか――」
「一斉射撃開始!」
雑賀兵達は逆に誘い出された事を理解するも、時既に遅し。
メスナの号令を受けて屋根上から輝士兵が姿を見せ、百丁の銃口が一斉に火を噴いた。
「狩り刻だ! メスナに続いて突撃するぞ!!」
『オオオオォォーー!!』
数秒に於ける一方的な討ち取りの後、次はナイツの部隊が館内部から出撃。
人馬乱れて大混乱に陥った雑賀兵の中へ猛然と切り込んだ。
「お前が指揮官だな! いざ、はあぁぁっ!!」
「ぐあぁっ!? ……こんな……ガキに……おの……れぇ…………」
被弾が原因で落馬した騎兵隊長を、ナイツは擦れ違い様に切り伏せた。
「あぁっ! 隊長が殺られたぞ!?」
「作戦も失敗だ!? 逃げろぉーー!!」
交戦状態から数分と要さずに、東側の雑賀兵は崩壊をきたした。
「追撃を仕掛けるぞ! 兵三百は俺に続け! メスナは残りの二百でここを守れ!」
今が好機だと見て、ナイツは逃げる雑賀兵の追撃に出た。
だが、この時点で既に半数近い雑賀兵が死傷していた為、そこからの追撃で更に数を減らすことは事実上の壊滅を意味した。
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