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戀王国の仲間達
魏儒の推測、参謀としての進言
しおりを挟む涼周の希望場所を聞いて、魏儒は違う観点からそれを評価する。
「確かに、梅朝は戦略的に見ても極めて重要な場所にあります。我々が実際に戦うであろう相手は主に重氏と松氏、梓州豪族連合、承土軍。北・東・南に隣接するこれ等の勢力としのぎを削る要所として、梅朝は最も利点の大きい地です」
「ですが梅朝の守将は、淡咲様ではありませんか?」
涼周の頭を撫で撫でしながら、楽瑜隊副将の稔寧が問う。
「義仁城を頂きたいという訳ではない。あくまで有事の際に最高の遊撃活動が行える様、何処か腰を据えられる拠点を定めたいだけだ。そこが何もない平原であれば、我々で本拠地となる城を作れば良い。それに涼周殿の城であれば、今よりもっと多くの民が梅朝へ流入する。中には当然、間者の類いも混ざってはいるだろうが、それを差し引いても剣合国軍の利は余りあるものだ」
魏儒が尽くす存在は、涼周とその仲間達のみ。
だが涼周軍の利点のみを主張したところで、安楽武が魏儒の案を了承する事はまずない。
ともなれば涼周軍本拠設営に当たって、涼周軍の肥大化を警戒する安楽武を納得させる手土産が必要となり、最も大きな土産話となれる場所が梅朝であった。
「……剣合国軍側の立場として考えれば……やっぱり軍師は面白くないだろうなぁ」
「だが私は軍師・安楽武に忠誠を誓った訳ではない。剣合国の庇護を受ける立場故、その恩義に報いて協力はするが、彼の指図に全面的に従う謂れはないぞ」
「ふふ、分かってるよ。……ただ、どっちも頭が固いなぁって思ってね」
ナイツは弟の頭の内、稔寧の手が及んでいない範囲を撫で撫でしながら微笑を浮かべた。
対する魏儒は怪訝な表情を作って問い返す。
「…………両者ともに、いがみ合わない楽な方法があるとでも?」
「涼周が父上と淡咲にお願いすれば直ぐだよ。父上は安楽武と魏儒の蟠りを全く意識してないし、淡咲に至っては彼女が望む服を涼周が着れば済む話だし……ね?」
ナイツは笑みに若干の闇を交え、涼周に促した。
ナイトに対してはおねだりして、淡咲に対しては色目を使えと。
剣合国軍大将たるナイトが息子の情にほだされて了解を示せば、実際の利点も大きい梅朝駐在を安楽武は認めざるを得ず、同時にナイトが安楽武の鬱屈を晴らしてもくれるだろう。
梅朝守将の淡咲も、心強い友軍が傍に控え、且つお気に入りの涼周がそこの城主であるのなら嫌な顔はしない筈だ。
言わば戦略的要素をあまり含まない、純粋なお願いだった。
「ぅ? にぃににぃに、にぃにもお着替えする」
「いや……俺が着替えても似合わないし……」
一方で話の内容を理解していなさそうな涼周は、ナイツに対しても色目を要求。
当のナイツは自分の女装なんて不安要素でしかないと思い、ナイトから盛大な侮辱を受ける事も目に見えて分かったので拒否する。
(俺なんかよりも、そういう事が得意そうな人材がここには居るけど……言わないでおこう)
確かな美意識を持つヴァレオーレをして、美少年・レモネが居るものの、ナイツは彼に視線を向けるのを抑え、過去の抉り出しは控えた。
「ならレモネは? レモネ、一緒にお着替えする」
「はは……涼周様のお願いなら、断れませんね」
然し、涼周は意外と残酷だった。無意識と思えるところが余計に悪い。
「レモネ、無理しなくていいよ。ごめん涼周、やっぱりお着替えは無しで」
弟のフォローをするとともに、必要以上の犠牲を懸念してナイツは一部訂正した。
「……取り敢えず、梅朝方面で考えるとしよう」
「それなら侶喧に意見を求めたら? 彼は梅朝南部に駐屯していて地理を把握しているだろうし、軍事にも明るくて城攻めや築城技術も備えているみたいだし」
「成る程、流石は飛刀香神衆の副将格。ではそうさせて頂く」
ナイツの助言に従った魏儒。
涼周の意思表示を交えた文書をカイヨーに送り、侶喧達へ意見を求めた。
その日、ナイツと魏儒とレモネは書庫の資料を粗方調べ尽くしたものの、徒労に終わる。
だがそんな中でも魏儒は、この結果を踏まえた上で一つの仮説を立てた。
「…………ジオ・ゼアイ殿、これは私の推測だが……これほど探して何の手掛かりもないとすれば、少女にとってここ三葉は通過点だったのではないか?」
「旅に於いて、重要な場所ではなかったって事?」
「恐らくだが、そうだろう。領主たるヴァレオーレが生命の樹なるものの存在を知っているのに、それの記述が何処にもないとすれば、この地に生命の樹はない。ヴァレオーレは誰かから樹と少女の存在を聞いていたに過ぎないのではないか?」
「……少女が生命の樹を守る為に三葉へやって来たのではなく、何かしらの理由があって立ち寄り、そこでヴァレオーレの干渉を受けて消息を絶った。なら真相を知っているのは……」
「あの変人貴族しかあるまい。……向こうはバスナ殿が当たっているのだろう?」
「うん。ヴァレオーレが収監されている梅朝の義仁城へ行っている筈」
「ならば好都合。淡咲殿に意見を求めるついでに、バスナ殿にも報告を求めるとしよう」
それは良いとナイツは賛成し、彼等は明日にでも梅朝へ向かう事を決めた。
そして夜には盧慧港より帰城してきた営水と魏儒が面会。互いの想いを交わす。
「貴殿が営水殿か。私は魏儒。貴殿の才覚は風の噂で聞いていたが、実際に刃を交えた銹達の報告で、貴殿が噂以上の逸材であると知った。涼周殿に忠誠を誓う者同士、これほど頼もしく思えるものはない。以降、宜しく頼む」
「はい。私の方からも宜しくお願いします。ただ、私は三葉から離れる事が難しい為、貴方に苦労を掛けるとは思いますが、何卒お許し下さい」
「構わぬ。主を同じくする者として、貴殿は貴殿の役目を存分に全うされよ」
参謀肌の強い営水は魏儒と相性が良さそうだった。
一安心したナイツは二人の共通の主たる涼周の頭を撫で撫でしてあげる。
「見てごらん涼周。二人ともカッコいいね。二人の期待を裏切っちゃ駄目だよ?」
「ぅ、分かった。……ねぇにぃに、レモネ、うじうじしてる」
理解を示した涼周が兄の顔に目をやれば、彼の左隣に立っていたレモネが羨望の眼差しを営水と魏儒に向けていた。
「あ……っと、レモネ。羨ましい?」
涼周に次いでナイツと稔寧が、それに次いで営水と魏儒がレモネに目をやれば、彼は小さく頷いて返す。目線こそ営水達から逸れたものの、目の色は変わりなかった。
「……堂々と忠義を示す事ができて、良いと思います」
半ばふて腐れているレモネ。やはり顔や出自に反して、彼の気心は武人と言えた。
銹達及び飛蓮が撤収した後に仲間加入を求めた彼の事を、魏儒は詳しく知らなかった。
「……中央貴族の多くが腐れる中に於いて、何と見上げた気概であろうか」
改めてレモネの生い立ちを聞かされた魏儒は、ナイツ同様の興味関心を覚えた。
彼はレモネの才気以上に彼の精神に好意を抱いたのだ。
「そなたが良ければ、私の部隊に参らぬか? 軍略は私が教え、武勇は銹達等に教わせよう」
「私を鍛えて下さると……! 宜しくお願いします!」
魏儒の勧誘にレモネは飛び付いた。
家の事を気にしない辺り、大雑把というか豪胆というかが分からない美少年だった。
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