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正しき忠誠
ちょっと一服
しおりを挟む梅朝 義仁城
カイヨー解放戦から三日後。
ヴァレオーレ討伐の為、剣合国軍はカイヨーから撤兵。一路、淡咲が守る義仁城へと向かい、同地で彼女を交えた軍の再編成に当たっていた。
「ちょっと、手持ちぶさたかなー」
飛蓮直属隊三千と銹達騎馬隊一千は、剣合国軍の準備が整うのを待つ状態。
涼周、稔寧と共に輝士隊の陣営にお邪魔していた飛蓮は、何気なく呟いた。
「皆さーん、お茶入れたよー! 童ちゃんも飛蓮殿も稔寧殿も如何ー!」
「蜂蜜蜂蜜、メスナ、蜂蜜も欲しい!」
「あっ、どうもすみません。頂きます」
「良い薫りです。ありがとうございます、メスナ将軍」
兵舎の外で花の手入れがてら日向ぼっこをしていると、出陣準備を李洪に任せたメスナが、多くの兵と共にサボタージュしに現れた。そんなんでいいのか輝士隊。
「いい訳ないでしょ。全くメスナは……李洪が嘆いてたよ」
「……そう言う若は、何を持って来たんですか?」
叱責に現れたかと思えたナイツだが、彼と彼に続く輝士兵の両手には、多くの和菓子や洋菓子を入れた竹篭が握られていた。
「母上と父上からの差し入れだよ。そろそろ休憩しなさい……だって」
「なぁーんだ、若もサボりに……」
「違うから。……まぁ、少しは休憩するけど。メスナも休んだら頑張ってよ」
「分かってますって。大丈夫大丈夫! 李洪殿は頼りになりますから!」
(……絶対に分かってないな、これ)
メスナの言動から今後のサボタージュを見抜くナイツ。
彼のさめざめとした視線から、殆どのメスナ兵も目を逸らして口笛を吹く。
ナイツは呆れつつも菓子一式を広げ、多くの兵達を呼んで休憩時間に入る事とした。
「なぁ涼周、お茶に蜂蜜入れて旨いのか?」
「ん、おいし。にぃにも飲む」
「…………あんまい。普通に甘すぎる」
涼周自慢の蜂蜜茶。茶独特の甘味に加えて甘味の塊が入ったそれは、強烈な風邪を引いて極度のダウン状態に陥った時に、復活を遂げる為に飲む様な代物だった。
言うなれば、舌が馬鹿にならない限りは甘すぎるのだ。
「じゃあ若、お饅頭は如何ですか?」
「蜂蜜と饅頭って……甘いものばっかりじゃないか。こう……グッとくる菓子はないのか?」
「グッ! ……ですか。ピリッ! じゃなくて。そうですねぇ……これはどうです?」
メスナが饅頭以外のお茶請けとして、ストレートに鷹の爪の束を取り出した。
一体どんなお茶請けだと、ナイツは即行で拒む。
「えっ……若、鷹の爪食べないんですか? ……美味しいのに」
「……だから何でお茶と鷹の爪の組み合わせなんだよ。合わないだろ絶対。なぁ涼――」
同意を求めようと涼周に向き直って、ナイツは固まる。
何と涼周の隣に座っている飛蓮が、鷹の爪をモシャモシャと食べていたのだ。
「うん……ぅん……おいひぃでふよ? 鷹の爪」
「…………辛くないの?」
「ゴックン。……辛くないです美味しいです。稔姉さんもどう?」
「私はお茶とお饅頭の、組み合わせが一番、なんです」
当然のように食べ、当然の如く勧める飛蓮に、稔寧はやんわりと断りを入れる。
普通ならば、彼女の言う通りの組み合わせが王道であろう。
「メスナも飛蓮も……変わった物を好むなぁ。……あっ! 銹達、ちょっといい? お前はお茶を飲むときに、どんなお茶請けを…………」
偶々通りかかった銹達を呼び止め、彼が勧める最高の組み合わせを尋ねようとした。
そして答えを聞くまでもなく、ナイツは固まる。
「私ですか? 私はお茶と一緒に鷹の爪を食べますね」
振り返った銹達の右手には、皆大好き鷹の爪を入れた大袋があった。これから彼等も休憩に向かうのだろうか。うん、皆仲良くモシャモシャしようね。
「あっ……ああ、そう。因みに、魏儒なんかは何が好きなのか、知ってる?」
「魏儒様はお茶の中に蜂蜜を入れますね。甘い物がお好きなので」
「…………あーー、そうなの。皆、変わってるね」
そしてそして、ナイツが再びメスナや飛蓮に向き直ると、二人の後ろに控える兵達が一様に、鷹の爪をモッシャモッシャと美味しそうに食べていた。仲が良い事で何よりだ。
そんでもって幻聴っぽいものも聞こえてくる。
「いやぁー、お茶請けには鷹の爪ですな」
「本当だな。疲れが一気に吹き飛ぶぜ」
「この組み合わせが、やっぱり一番だよな。これ以外は休んだ気にならねぇや」
(……何これ……俺がおかしいのか? 普通に、お茶と煎餅の組み合わせでは駄目なのか?)
ナイツは疑心暗鬼に陥った。皆が俺を騙そうとして、演技で無理をしているのか? 知らない間に鷹の爪文化が広がっていたのか? お茶と煎餅の鉄板コンビはもう古いのか? 抑々にして輝士隊ってこんな雰囲気だったっけと、可能な限り思考を重ねた。
そこで気付く。この場に於いて唯一まともな存在、稔寧の事に。お茶とお饅頭のコンビを好む彼女ならば、俺の味方をしてくれると。
「なぁ稔寧。稔寧は――」
「稔姉さんも、試しに食べてみて。はいあーん!」
「はい…………あぁ、これはこれで、美味しいです。癖になりますね」
「コォーーー!?」
絶句と言う名の咆哮を上げるナイツ。
彼は己がおかしい事を悟り、メスナに勧められる通りに鷹の爪を丸呑みし、火属性の「火炎放射」という技を習得した。
これで彼もメスナ同様に火属性の技を使う事ができるのだ。とても喜ばしい事である。
「……はい、にぃに、蜂蜜茶。無理しちゃ、駄目」
「あぁ……ありがとう涼周。……ぅん、蜂蜜茶……旨いね……!」
口内及び全身の状態異常が、蜂蜜茶によって回復した。
休憩をとっていた筈が無駄に体力を消耗して逆に疲れた彼は、以降の作業を韓任と李洪に託したという。
「韓任殿、私達もちょっと一服したいですね」
「鷹の爪ならここにあります」
「いえ、結構です。それメスナ殿の忘れ物なので、食べたら彼女怒ります。……因みに私は干し柿を持っていますが、韓任殿も食べます?」
「生柿派ゆえに、お気持ちだけ頂きます」
韓任と李洪は果物をお茶請けにするとかしないとかだった。
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