大戦乱記

バッファローウォーズ

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第二次カイヨー解放戦

主将級の副将

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 ナイツと韓任がいつも通りに先頭を駆け抜ける。
今度は挟撃された状態でも包囲下にある訳でもない、真っ向勝負だ。

(敵の数は単純に見ても倍近くあるが、勢いでは俺達の方が遥かに上だ! 安楽武の兵も着実に押し込んでいる今、これを活かさない手はない!)

 消耗戦を避けるべく短期決戦に挑むナイツ。
無駄のない範囲に戦列を広げて敵を牽制し、攻めるべき所にはナイツや韓任が直接攻め込み、烈火の如く猛攻を以て敵の陣形を突き崩す。

 守備側の銹達は当初、重装兵や弓兵、騎兵等の様々な兵種を指揮して抵抗したが、兵達ではナイツと韓任は止められないと見るや直ちに出陣。韓任より実力が劣り、且つ与し易いナイツへ向かっていく。

「銹達、お前の挨拶の……返事だっ!」

 ナイツは銹達の槍から放たれた衝撃弾を弾き、向けられた挨拶に光の刃で返す。

「無駄だ!」

 銹達も槍を突き出し、ナイツから放たれた光の刃を迎撃。
互いの魔力が衝突して銀色の炎花が散り、相殺された技とともに儚く消える。

「たあぁっ!」

「甘い!」

 ナイツの剣と銹達の槍。間合いの違う武器同士、正面から切り結ぼうとすれば攻撃のタイミングは僅かにずれる。

「うっわ!?」

「ナイツ様!?」

 互いの距離と速度から間合いを見切ったナイツは、銹達が剣の間合いに入った瞬間に切り伏せようとして得物を振り下ろした。だがそれは銹達の巧みな馬術に誘われた結果だ。
銹達はナイツの動きを予測しており、間合いに入る数瞬前に馬の右腹を蹴って馬体を剃らし、繰り出された攻撃を自然と避けたのだ。

「そこっ!」

 剣が空ぶった為に防御不能となったナイツの隙を、黙って見逃す銹達ではない。
彼はナイツの腹部を狙って槍を突き出した。

「っ……! うあぁ!?」

 然し、ナイツはすんでの所で魔障壁を顕現させ、風を切って衝撃を帯びる銹達の槍を防ぎ止めた。
彼は致命傷こそ守ったものの、零距離で魔力の反発現象を受けて落馬する。

「覚悟!」

 銹達は次に見せた隙も見逃す事はなく、すかさず槍を突き出した。

「この――ぉぅっ!?」

「なに!?」

 ナイツは薄い魔力を帯びた柄の部分を左の拳で殴りつけ、間一髪で刃先の軌道を無理矢理修正。貫く場所を心臓から右肩へと変えさせて危機を脱する。

「っうぅ……! 落ちろぉ!!」

「くっ、離せ…………がっ!?」

 刃を抜けられる前に、両手で槍の柄を掴んで次の攻撃を阻止。右足の内側も柄に当て、その状態で左側へ寝返りをうち、全身を使って銹達を馬から引きずり落とした。

「うああぁっ!?」

 落馬した先で銹達が力任せに槍を引き抜き、返し刃がナイツの肉を削り取る。
瞬時に全身へと波及する激痛にナイツは叫喚し、雨と返り血に塗れた彼の体には泥土と自らの血肉が加わった。

「ナイツ様を救え! 敵将を引き離せ!」

「奴等を食い止めろ! 銹達様の邪魔をさせるな!」

 二人の死闘に輝士兵が参入しようとするが、銹達直属の精鋭がそれを阻止。地上戦へと切り替えざるを得なくなった上官達の周囲で混戦状態になる。

「…………歳に似合わない気骨と度胸だ! ジオ・ゼアイ・ナイトの息子なだけあって、実に手強い……! だが強ければ強いほど仕留め甲斐があるというもの!」

 負傷した少年が相手でも、銹達は遠慮せずに挑み来る。

 ナイツは魔力を体に帯びさせて痛みを緩和し、無理矢理にでも身を翻して槍を避け、その最中に右足で剣を蹴り上げ、宙に浮いた得物を左手に掴む。

「はぁ……はぁ…………副将ごときと、二度も甘く見た。……この傷は報いそのもの……かな」

 左手の剣を握り直し、脇を固めて守りの構えを形作る。
ファーリムやバスナから利き手以外の戦いを想定した訓練を受けている為、これぐらいの応急対応は可能だった。

(……でも片手だけでは……こいつに勝てない!)

 銹達は左手一本で倒すには無理がある存在。
ナイツが少年に似合わぬ気骨と度胸を持つならば、一方の銹達は副将という肩書きに似合わぬ主将級の高い実力を持っていた。
知勇に長けている事は当然ながら、機を見るに敏で、部下や上官との連携にも秀でている。
更に評するならば、敵を出し抜く行動力はナイツや韓任の奇襲さえも止めるものだ。

「それならば我々へ奇襲を仕掛け、魏儒様に楯突いた報いも与えよう! ……いざっ!」

 向かってこないナイツに代わり、狙いを定めた銹達の鋭利な刃が迫る。
ナイツの右手に一切の力が入らず、全身へ浸透する激痛によって集中力も乱れている現状、この一撃を正面から受け止める事は無謀と言えた。

(一先ず、戦線を離脱するしかない!)

 戦闘継続を放棄し、態勢を立て直すべく後退する事を決める。

「逃げるのか! そうはさせん!」

 背を見せたナイツを追撃する様に、銹達は槍を三回連続で突き出した。
槍の刃先からは今まで繰り出した衝撃弾より一回り小さなものが顕現し、ナイツの右肩、心臓、右足に向かって突撃する。

「くどいっ!」

 半ば激情に駆られつつも、ナイツは左足を軸にして体を回転。二発の衝撃弾を避け、心臓狙いの一発は振り返り様に切り捨てる。

「そこだっ!」

 だが銹達は、ナイツがこれぐらいの対処は造作もなく行うと予測していた。
していたからこそ衝撃弾を囮・足止めとして使い、僅かに地面から足を浮かして体を回したナイツの隙を、再び背を見せて足を着けるまでのほんの一瞬を狙い、槍を投げようとした。

(これで先ずは一人!)

 銹達が扱うもう一つの技・飛槍術。それは李洪以上に速く重いものだった。

 然し、彼の一槍が直撃する事はなかった。厳密に言えば阻まれたのだ。

「くっ、韓任か!?」

 銹達の投げた槍がナイツの背中を貫く前に、左方から飛来した矛が邪魔をする。
鬼の睨みを利かせた韓任が此方に向かっており、部下が置いていかれる程の速度で銹達の直属兵達を切り捨てながら進んでいた。

「韓任! 助かったよ! 本当にありがとう!」

 銹達が槍を手元に戻し馬に跨がる間に、ナイツは韓任と合流を果たす。
気の狂いそうな痛みと危機的状況が彼に与えた恐怖は殊更大きく、ナイツは韓任の姿を間近で視認するや思わず涙を流してしまう。

「ナイツ様! 後は私に任せ、撤退を!」

 純粋な少年然とした反応と、泥土・血肉に汚れた頬に帯びた朱が、韓任の心に可愛さを覚えさせた。守らねば、主であろうがなかろうが守らねば! ……と。
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