大戦乱記

バッファローウォーズ

文字の大きさ
上 下
132 / 448
人の想い、絆の芽生え

涼周の優先順位

しおりを挟む
「まずは先程の女性ですが。彼女は正真正銘、お二人を守護する母君です」


 玄武は淡々と告げる。


「降霊……イタコとは違いますよね?」


 口元に手を当てるようにして考えながら問うたのは美作である。


「違います。主は完全な自己流です。『対象者』を呼び、その身に宿らせて直接の会話を可能とさせます。その間、宿らせる代償として霊力を消費しています。『対象者』のチカラが強ければ強いほど、主の負担は大きくなります」
「あ……!」
「今回はその心配はありませんでしたが、『宿主』としての主を乗っ取ろうとする輩も居ますので、その対策も必要なのです」


 以前にそんなことがあったのだろうと思わせる、玄武の言葉に美作はゾッとする。
 降霊どころか口寄せすら相当な修行が必要であると聞く。
 それを自己流でやってしまう瞳の能力の強大さ、そしてそれを乗っ取られて悪用された場合のことを考えたのだ。


「あの、お母様の姿は? あれは幻影なのですか?」


 恐る恐る、といったように玄武に聞くのは律だ。


「あれは主の霊力を借りて母君が姿を具現化させたもの。主の意思は一切働いておりません」
「そうなのね……」
「彼女はあなた方の守護としてずっと側についていました。主は、それを伝える手助けをしただけです」
「触れるなと言ったのは?」
「あなた方は彼女に触れることは出来ません。触れようとすれば、主に触れることとなり、主の集中が途切れます」
「なぜ、そこまで……」


 疑問を口にしたのはやはり美作だった。
 彼は加護を持たない。少しの守護に守られているだけだ。むしろ彼がすごいのは、本人の『術者』としての実力だろう。
 それを、おそらくは瞳も、玄武も青龍も気付いている。美作はそう思った。
 美作も相当な修行を経てやっと今日に至る。『視る』ことも決して得意ではない。
 そんな美作にさえ『視える』ようにしてしまうほどの実力を持つ人を、彼は他に知らない。


「……主の両親は殺されました」
「え……」
傍系ぼうけいであるという理由で。チカラのある主を本家に入れるために」
「お家事情というやつです」


 淡々と告げる玄武の言葉に、青龍が言葉を足して。そして、これ以上は聞いてくれるなと釘を刺す。


「……人付き合いが下手なくせに、お人好しなんですよ」


 ふと、玄武の口調がやわらかくなり、瞳の髪を撫でる。


「……主は、ずっと悩んでいました。この強いチカラは何のためにあるのかと」
「あ、メガネ……」
「はい。主は視えるだけではなく、彼らの声も『聴こえる』し、『話す』ことも出来ます。だからこそ、人との距離を上手く掴めずにいたのです」


 円は昨日のメガネの件を思い出した。
 視え過ぎるせいで結界を貼ったメガネをしていた瞳。


「主が、『視え過ぎる』ことを話したのは、あなたが初めてです」


 それは出会いが出会いだったからだろう、と円は思うけれど、それでも誤魔化さずに教えてくれた瞳には感謝するしかない。そうでもなければこんなことにはなっていない。


「ほんと……バカ正直」
「そうとも言いますね」
「あんた達もだよ」
「おや」


 玄武はいかにも心外だと言いたそうだったけれど、青龍は苦笑していた。


「我々は主に使役される身です。主の命とあらばあなた方のこともお守りいたしましょう。ですが、主を傷付けたなら、我々全員を敵に回すことになりますこと、お忘れなきよう……」


 玄武の剣呑な言葉を真の意味で理解したのは、おそらく美作だけだっただろう。
 玄武は、『我々全員を』と言った。少なくとも、この二人だけではない、という意味と捉えて間違いはない。


「ぅ……」


 美作一人が青ざめている中、瞳が身じろぎした。
 ぱっとそちらに視線が集まる。


「ヒトミ」
「……玄武?」
「はい」


 ぼんやりとしていた瞳だったが、次第に覚醒してきて現在の体勢に気付いた。
 玄武に膝枕。まあ仕方ない。


「ありがとう」
「起きられますか?」
「大丈夫」


 手を貸そうとする玄武と青龍を手で制し、自力で起き上がる。
 瞳がソファへ座ると、玄武はサッと立ち上がり、瞳の後ろへ青龍と並んで立つ。


「どこまで聞いた?」


 瞳からの問いは、円へ。


「瞳のチカラがすごいってとこまで」


 明るく答える円だが、瞳の顔色が悪いことは見逃さない。早くゆっくり休んだ方がいい。


「……名前で呼ぶなって言ったろ、御曹司」
「そっちこそ、円って呼べって言ったろ?」
「……オレの言霊は強いから、お前を縛るんだよ」


 何度も言ったし、『言霊』の意味さえ調べさせたのに。


「『西園寺』じゃ姉貴にも当てはまるじゃん! それに俺は御曹司じゃないし」


 やけに食い下がるな、と瞳が思っていると。


「とりあえず、瞳はゆっくり寝ないとダメだ。じゃあ律、俺ら帰るから!」
「ん? 帰るって……」
「俺、いま瞳の家に居候してるんだ!」
「ちょ……!」


 あれよあれよという間に、円は瞳と式神ふたりを連れて行ってしまった。
 残された律と美作は顔を見合わせる。


「これからどうなるのかしら……」
「それは分かりかねます……」


 とりあえず美作は、瞳の式神たちの怒りを買うことだけは避けようと心に誓った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

処理中です...