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黄金の力
眠りの神
しおりを挟む森の中腹だろうか、木々が開けたところに湖があった。
その湖畔に小さな社(やしろ)がある。
「こんな所にも社があるのか……」
俺は、社に1枚の[神貨]を収めた。
「どうか、この森を抜けられますように」
俺は眼を閉じ祈った。いつもの癖である。
『ふあああ。誰だい僕の眠りを妨げるのは?』
俺は驚きを隠せなかった。
「誰だ!」
気配を感じることができなかった。
『「誰だ!」って君ね~。僕が聞きたいんだけど?』
また男の声だ。どこか眠そうなその声は、社の方から聞こえる。
「お、俺はマルサス……」
俺は恐る恐る社に近づいた。そこには、羊のパジャマに枕を片手に持った男が、立っていた。天然パーマのその男は、どこか眠そうな眼をしていた。青の髪は、透き通っており綺麗だ。まつ毛もやや青みがかっており、透明感半端なかった。背も高い。
『ああ、神の前でやたらめったら名を名乗っちゃだめだよ。まあ、僕は取って食ったりしないけど』
「忠告肝に銘じます。無知な私に教えてください。貴方様は?」
俺は神に対して、敬語を使った。生意気だと思われたら一発で消し飛ばされるかもしれない。あの時みたいに。
『うん、僕はスリプ。まあ、有名ではないしね。知らなくても怒らないよ』
実は怒っているのかもしれないと警戒したが、本当にこの神にとってはどうでもいいことのようだ。
「何故、こちらに……」
『何か眠くなって寝てたら、社ができてたみたい。まあ、寝心地もいいしここに永住したってわけ』
スリプはあくびをした。
「何故、起きられたのですか?」
単純な疑問だった。
『それは、君がこんなものを持っているからだよ』
スリプは片手に黄金に輝く[神貨]を持っていた。
「それは、何の役にも立たない[神貨]という物です」
俺は、少し目をそらした。
『うん、君たち人間には意味がないものだね。でも神はこれを非常に欲するよ』
さっきの眠そうな顔のままであるが、どこか語気に力があり、俺に興味を抱いたようだ。
「それはどういう物なんですか?」
俺は、今まで感じていた疑問を投げかけた。
『これは神位を上げる物だよ』
知っている情報であった。
『神位なんてのは、信者を増やして、信仰も深めることで増えるものだよ。でもこの黄金はこれを使うだけで、神位を上げる。我々からしたら、喉から手が出るほどほしいものだよ』
「そんなに重要なものですか?」
『ああそうだよ。どうやって手に入れたんだい?』
俺は黙った。ここでどう答えるべきか悩んだ。
『いいね。君は素直で。さっきの忠告を忠実に実行している。答えるべきか悩んだ。まあ、答えなくていいんだけどね』
スリプは優しく笑った。
「ありがとうございます。これは礼です」
俺はもう49枚渡した。これで50枚だ。
『おお、半分は僕らと同じで、大量の[神貨]を持つ者。興味深い。まあ、とりあえずもらってばかりってわけにはいかない。どれこれを与えるよ』
【ネムルアストロン①】[睡眠]状態時、被ダメージ1割減、起床時1割回復
【ネムル①】対象を10%の確率で[睡眠]状態にする。
「なっ!」
俺は驚いた。スキルを与えられたのだ。俺は人生で初めて後天的なスキルを手に入れたのだ。
『あっ、僕はもう寝るからこれあげるね』
そういってスリプは、自分自身の石像を渡した。
「えっ?」
俺は固まった。なんてナルシストな奴だ。
『あ~今、ヤバい奴だと思ったでしょ?』
「い、いえ……」
スリプは頬を膨らませてプリプリいっている。
『も~僕も恥ずかしいだよ。でも依代人形(よりしろにんぎょう)はこういうのなんだ。それは、擬似祭壇を作れるから、また[神貨]が溜まったらお供えしてよ。僕みたいな弱小神には、信者を作るのと同じかそれ以上に必要なんだ[神貨]は、それじゃあ宜しく!』
そして、枕を敷いて眠りについてしまった。
ああ、この怠惰では信者は増えないだろう。少し呆れながらも、依代人形をくれた彼に感謝しつつ、これからも[神貨]を与えようと考えた。
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