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12話 助手と脱出

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   「間一髪でしたね……。危ないところでした」
    その声に振り向けば、先ほどの女性が入り口の扉を力いっぱい押してなんとか閉め、|閂(かんぬき)を掛けていた。
    エリーのことでいっぱいになって忘れていた。そうだ、私達のことを助けてくれたんだった。お礼を言わなくちゃと彼女の様子を伺っていると、向こうから私に話しかけてきた。
     「初めまして。セラフィム先輩の|第一(・・)の助手、アルと申します。以後、お見知り置きを」
    彼女ははなぜか第一という部分を強調した。
    白衣を着ていて髪色も似ているからどこかセラフィムさんを思い出すような見た目をしている。ショートカットだったり瞳が黒かったり違いはあるけど。
    「礼は結構です」
    アルさんは私の考えを読んだのかそう言い捨てた。
     「天使。初めて見ましたが、かなりの戦闘力を持った存在のようです。突破されるのも時間の問題でしょう」
     彼女は淡々と続ける。すごく冷静だ。そこもセラフィムさんによく似ている。
      「しかし、ここの地下には実は外部へ繋がる通路が通っているのです。セラフィム先輩の慧眼により他の人員がばっちりと押さえてあります。そのため、脱出には問題はないのですが……」
     彼女は横たわるエリーを見た。
      「非常に危険な状態のようですね」
     エリーは苦しそうに呻きながら身じろぎをする。とても自分では動けそうにない。
     「私はエリーを置いて逃げることはしません」
     アルさんの目をしっかりと見て、私はそう言った。アルさんがエリーは足手まといだと言うなら自分でなんとかしてみせる。
 「そ、ふぃ……」
    エリーが私の名前を呼んだ。
 今の言葉を聞いてか、無意識のうちにか。どっちだっていい。私はそっとエリーの頭を撫でた。もうエリーの側を離れないっていう気持ちを込めて。
 エリーはゆっくりと目を閉じた。思わず叫びそうになった。だけど、エリーは安心して眠ってしまっただけのようだ。最初のときと同じ。今度も絶対守れるはず。そして、エリーが目覚めたら今の気持ちをそのまま伝えよう。
 アルさんは私とエリーの短いやり取り、やり取りにすらなってないかもだけど、を黙って見ていた。
      「もちろんです。セラフィム先輩も私も貴方と同じ気持ちだからこそ私がここにいるわけですから」
    アルさんは当たり前のように言った。自分の命も今危機にさらされているというのに。申し訳ない、とはちょっと違うけど複雑な気持ちが込み上げてきた。
     「なに、子供を守るのは大人の義務ですよ。まあ、私は成人したばかりなんですけどね」
    アルさんはエリーを優しく負ぶって、地下の通路へと私を先導した。
    「なんかカッコいい人だな……」
     私は彼女に付いていく事にした。

    天使から逃げるため私達は時計塔の螺旋階段を下る。この先に外に繋がる地下通路があるらしい。
    先を急ぎながらも私はずっと心配していたエリーの事をアルさんに聞いた。
     「エリーは大丈夫なんでしょうか?」
     「セラフィム先輩によるとダンタリオンはエリーさんの体内でなぜか安定しているとのことでした。しかし、その均衡は微妙なもので、少しのきっかけで崩れてしまうとも……」
     私の前を走っているから表情は見えないけど、声から彼女が苦い顔をしていることはすぐ分かった。
    「普通の人間ならわずか数秒、長くても数分でダンタリオンに乗っ取られます。しかし、彼女の場合はもう何十時間も抵抗し続けている。ですが、それは間違いなく彼女の体に大きな負担をかけているはずです。意識を保つ代わりに命を削っているようなものです」
    命を削る……。到底信じたくない話だけど、多分真実なんだろう。思わず私は俯いてしまった。
    「エリーは……、助かりますか?」
    「セラフィム先輩が言ったとおりダンタリオンの研究は難しくまだ進んでいません。今はエリーさんを信じるしか……」
     今は脱出するしかない。アルさんはきまりの悪そうな感じで話を終わらせた。
 
 このままもう目覚めなかったら

 恐ろしい想像が私の頭に浮かんだ。それを全力で否定したいのに、悪夢のような|映像(ビジョン)はいつまでも脳裏に刻まれて、私に現実を突きつけるようだった。
 その衝撃に私は階段を下り切ったことも、そして、アルさんが立ち止まったことにも気がつかなかった。
 アルさんの体にぶつかり初めてその存在に気づく。体格差もあるから私が転びそうになった。
 アルさんは右耳に付けたイヤホンから何やら連絡を受けている。しかも、それはあまり良いものじゃないようだ。
 アルさんはふと振り向いた。
   「緊急事態です。地下通路で待機していた仲間が天使に殺されたようです」
    「え……」
    「天使は感染者しか殺さない。そう聞いていましたが、どうやら今回は当てはまらないようです。それだけ貴方とエリーさんが天使達にとって重要なのかもしれません」
    アルさんは震えていた。仲間を殺された怒りか、それとも悲しみによってか。でも、それを押さえ付けて状況を確認している。
 さっきまでの私とは大違いだな……。
 「どうやって脱出経路を知ったのか。予想以上に天使の能力は高い。このまま先に進めば彼らの二の舞となるでしょう」
     じゃあ、どうすれば……。出口が塞がれてしまった。この硬い石造りの塔は今となっては私たちを閉じ込める檻のようだ。
 「なんとかやり過ごし、天使の目を盗んで逃げるしかないかそうです」
    アルさんはそう言いながらも自分の案が無茶なものだと悟ったようだった。だって、相手は秘密の地下通路さえ発見したんだ。私たちを逃すなんてことありえるとは思えない。そもそもこの狭い塔のどこに隠れたらいいのか。

 「さて、諦めはつきましたか」
  あの天使の声だった。塔の中を反響して正確な位置は分からないけど、確かにこの中にいる。もう時間はないらしい。
 「ソフィーさん、エリーさんを連れてどこかに逃げて下さい」
    「あ、アルさんは……?」
    「私は迎え撃ちます。暗闇に乗じて奇襲すれば有効かもしれません」
    そんな。アルさんは護身用の小さな拳銃しか持っていないんじゃ。それに見るからに研究者の彼女が戦えるとは……。
 アルさんは私の顔を見て厳しい表情をした。
 「一度守ると決めたのなら何をしてでも守り抜きなさい!」
   彼女は歩き出す。その歩みには迷いがなかった。
 「心配はありません。私はセラフィム先輩の第一の助手ですから」
   私は呆然とアルさんを見送り、代わりにエリーの体を背負った。
 
 

 

 
    
    
    
    

    
 
    
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