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第2話 書棚の森の中ほどで⑦
第2話 15
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新たな書棚の前に立ち、早速とばかりに書棚を眺め始めたリニアが、持ち上げた視線はそのままに口を開く。
「私だってね。最初はおかしな話もあるものだ、くらいに思っていたさ。
だけどね、実際に手紙を読み進めてみれば、どうしたって認識を変えざるを得なかったよ」
そこで一つ長く息を吸い込むと、淡々とした口調で言葉を重ねていくリニア。
「最初に絞り込んだ『高さ』を起点に辿ってみれば、次には『眺めて』探すという方法に察しを付けることができた。
かと思えば、今度はパッと見に特徴を感じない本を探せば良いという、奇天烈な『目印』まで見えてくる始末。
一事が万事こんな調子で、どの箇条書きにしても無駄がない。
こんな芋づる式な情報開示を見せられて、それをただの偶然だなんて決めつけてしまえるような度胸なんて、ちょっと私は持っていないねぇ」
長々とうず高く。ただ淡々と積み上げられていくリニアの弁に、言いたいことは分からなくもないのだけれど、しかし。
「考えすぎなだけでは?」
手放しで賛同するのもどうなのか?
そんな思いで水を差すような言葉を差し込めば、リニアが顔面に、薄気味悪い笑みを張り付けて見せる。
「そうだね。当然、私の勇み足だという可能性も否定はしないよ」
いやむしろ、その可能性の方が高いのではないかとさえ思えたが、流石にそこまでは口にしなかった。
リニアが続ける。
「だけどね、カフヴィナ。結局のところ、何が正解かなんてことは、本を見つけてしまえばハッキリさせられる事なんだろうさ」
それができれば苦労はない。そんな思いでリニアの様子をうかがえば、彼女は書棚を見上げたままでこう言った。
「というわけでだ。それっぽい本を見つけたよ」
?
一瞬何を言われたのかが理解できず、何となくリニアの横顔に目を向け、って!
「!?」
慌てて首を急旋回させて、眼の前の書棚を見上げる。すると視界に収まる、あいも変わらず凸凹と連なる賑やかな書物の一列。
とりあえず見上げはしたが、残念ながら目の置き所は定まらない。
(こ、この中に?)
半信半疑と少しの期待。私は試しにと、端から視線をすっと流してみるものの。
しかしと言うかやっぱりと言うか、当然その程度で際立って目に付く書籍など見当たらない。
そりゃそうだ。
(特徴が無いのが特徴って、無茶振りにも程がありますよ!)
泣き言を胸の中だけで回しつつ、顔の向きはそのままに、視線だけでそっとリニアの様子を覗き見る。すると当のリニアは、じっと佇んだまま書棚を見上げ続けるばかり。
見つけたと言った割には、一向に手を伸ばそうとする気配は感じられない。
(んっ!)
どこか勿体つけるような振る舞いに、下っ腹がきゅっとなる。
どの本のことを言っているんですか? などと言葉にして、直接本人に伺いを立ててしまえば話も早いのだろうけど。
でも、何だかそれはそれで何かに負けた気がして、釈然としない感情もあったりするわけで。
だから私は取り急ぎ、並んだ背表紙の列に、先ほどよりも念入りに目を走らせてみることにする。
と。
「しかしなるほどねぇ。彼女はこれを、珍しいと解釈させたかったわけか。
アルファベットに置き換えるなら、さながらTとUと言ったところかね」
どこか納得しきりと言った様子で意味の分からない事を呟きながら、一人こくこくと頷きを繰り返すリニア。
(んんんっ!)
気になって、集中できません。
いっそのこと「黙ってろ」と、クレームの一つでもブン投げてやろうかと早まりかかったそんなとき、リニアの向こう側から声が聞こえた。
「ど、どの御本のことを仰られてますの?」
声の主に視線を向ければ、そこには胸の前で両手を握りしめる、ハラハラとされたお嬢様の立ち姿。
ああ、聞いてしまいましたよ、このお嬢様め。
そんな私の憂鬱など無関係とばかりに、リニアがお嬢様の問いかけに答える。
「ああほら、そこだよ」
そう言いながら、書棚の一角を指差してみせる彼女。
思う所こそあるものの。しかしそんな感情とは裏腹に、視線は勝手にリニアの向けた指の先を辿ってしまう。
そうして示されたらしき辺りに目を向ければ、そこにはあたかもミステリー小説っぽいタイトルのよく似た背表紙が二つ、ぴちりと並べて収められている。
ん? 二つ?
リニアが言った。
「そこに並んだ二冊のことさ」
二冊って何ですか?
「私だってね。最初はおかしな話もあるものだ、くらいに思っていたさ。
だけどね、実際に手紙を読み進めてみれば、どうしたって認識を変えざるを得なかったよ」
そこで一つ長く息を吸い込むと、淡々とした口調で言葉を重ねていくリニア。
「最初に絞り込んだ『高さ』を起点に辿ってみれば、次には『眺めて』探すという方法に察しを付けることができた。
かと思えば、今度はパッと見に特徴を感じない本を探せば良いという、奇天烈な『目印』まで見えてくる始末。
一事が万事こんな調子で、どの箇条書きにしても無駄がない。
こんな芋づる式な情報開示を見せられて、それをただの偶然だなんて決めつけてしまえるような度胸なんて、ちょっと私は持っていないねぇ」
長々とうず高く。ただ淡々と積み上げられていくリニアの弁に、言いたいことは分からなくもないのだけれど、しかし。
「考えすぎなだけでは?」
手放しで賛同するのもどうなのか?
そんな思いで水を差すような言葉を差し込めば、リニアが顔面に、薄気味悪い笑みを張り付けて見せる。
「そうだね。当然、私の勇み足だという可能性も否定はしないよ」
いやむしろ、その可能性の方が高いのではないかとさえ思えたが、流石にそこまでは口にしなかった。
リニアが続ける。
「だけどね、カフヴィナ。結局のところ、何が正解かなんてことは、本を見つけてしまえばハッキリさせられる事なんだろうさ」
それができれば苦労はない。そんな思いでリニアの様子をうかがえば、彼女は書棚を見上げたままでこう言った。
「というわけでだ。それっぽい本を見つけたよ」
?
一瞬何を言われたのかが理解できず、何となくリニアの横顔に目を向け、って!
「!?」
慌てて首を急旋回させて、眼の前の書棚を見上げる。すると視界に収まる、あいも変わらず凸凹と連なる賑やかな書物の一列。
とりあえず見上げはしたが、残念ながら目の置き所は定まらない。
(こ、この中に?)
半信半疑と少しの期待。私は試しにと、端から視線をすっと流してみるものの。
しかしと言うかやっぱりと言うか、当然その程度で際立って目に付く書籍など見当たらない。
そりゃそうだ。
(特徴が無いのが特徴って、無茶振りにも程がありますよ!)
泣き言を胸の中だけで回しつつ、顔の向きはそのままに、視線だけでそっとリニアの様子を覗き見る。すると当のリニアは、じっと佇んだまま書棚を見上げ続けるばかり。
見つけたと言った割には、一向に手を伸ばそうとする気配は感じられない。
(んっ!)
どこか勿体つけるような振る舞いに、下っ腹がきゅっとなる。
どの本のことを言っているんですか? などと言葉にして、直接本人に伺いを立ててしまえば話も早いのだろうけど。
でも、何だかそれはそれで何かに負けた気がして、釈然としない感情もあったりするわけで。
だから私は取り急ぎ、並んだ背表紙の列に、先ほどよりも念入りに目を走らせてみることにする。
と。
「しかしなるほどねぇ。彼女はこれを、珍しいと解釈させたかったわけか。
アルファベットに置き換えるなら、さながらTとUと言ったところかね」
どこか納得しきりと言った様子で意味の分からない事を呟きながら、一人こくこくと頷きを繰り返すリニア。
(んんんっ!)
気になって、集中できません。
いっそのこと「黙ってろ」と、クレームの一つでもブン投げてやろうかと早まりかかったそんなとき、リニアの向こう側から声が聞こえた。
「ど、どの御本のことを仰られてますの?」
声の主に視線を向ければ、そこには胸の前で両手を握りしめる、ハラハラとされたお嬢様の立ち姿。
ああ、聞いてしまいましたよ、このお嬢様め。
そんな私の憂鬱など無関係とばかりに、リニアがお嬢様の問いかけに答える。
「ああほら、そこだよ」
そう言いながら、書棚の一角を指差してみせる彼女。
思う所こそあるものの。しかしそんな感情とは裏腹に、視線は勝手にリニアの向けた指の先を辿ってしまう。
そうして示されたらしき辺りに目を向ければ、そこにはあたかもミステリー小説っぽいタイトルのよく似た背表紙が二つ、ぴちりと並べて収められている。
ん? 二つ?
リニアが言った。
「そこに並んだ二冊のことさ」
二冊って何ですか?
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