31 / 52
第2話 書棚の森の中ほどで⑦
第2話 13
しおりを挟む
仕組まれた本探し。
これまた突拍子もない世迷言が飛び出してきた。
あまりの事に二の句を継げられず、どうしたものかと視線を漂わせる私。
見ればリニアの向こう側に立つお嬢様も、私と似たような心境らしきご様子。
二つの瞳を頼りなさげにふらつかせながら、静かにお口をパクパクと動かしておられますね。
そんな私たちの真ん中に立ったリニアが、口端をひねり曲げながらこんなことを言う。
「だいたい何だい、この手紙は? 都合が良いにもほどがあるよねぇ」
右手に持った便箋の束をバサバサと振り、わざとらしい呆れ顔を作る彼女。
その表情に、何となく今にも物言いを重ね出しそうな気配を感じて、私は慌てて言葉をねじ込む。
「ちょ、ちょっと待ってください。仕組まれたと聞こえましたが……ええと、何がですか?」
「何がって、この本探しに決まっているじゃないか」
さも当然と言わんばかりの口調。
と言うか、聞き間違えではなかったあたり、嫌な予感は的中していそうですね、これ。
「本探しが……仕組まれている……?」
うわ言のように響いたのは、お嬢様の声。リニアがぐりんと顔を振る。
「そぉともさ。私が思うに、これはね。ポイントさえ押させていけば、最後には本を見つけられるように仕組まれている、そういう類の催し物なのだと思うよ」
いやいやいやいや。言うに事欠いて”催し物”って、何てことを言い出すのやら。
私はあわあわと慌てふためく胸中を精一杯になだめつつ、努めて冷静さを保ったままで問いかけてみる。
「ち、ちなみにですが、どこからそんな考えが?」
するとリニアはこちらに振り返り、薄ら笑いを貼り付けて口を開く。
「どこって、カフヴィナもこの手紙を見たじゃないか。だったら思わなかったのかい? 妙なことばかり覚えているなぁって」
妙なこと?
言われて手紙を読み進めていた時の事を思い出しつつ、そして程なくハッとする。
(ああ、そう言われると)
いつの時点だったか、正確な記憶はない。
とは言えそれでも、例の手紙に目を通す最中に、『妙なことばかり覚えていますね』と思った瞬間は、確かにあったようなそんな気がした。
でも、だからと言って。
「ですけど、リニア。手紙に変なことばかり書かれていたからと言って、それで仕組まれたのどうのと、少し暴論が過ぎるのではないですか?」
一応は、真っ当な異議申し立てのはずである。だというのに。
「もぉちろん、それだけじゃないさぁ」
意気揚々とその場でクルリと一回転してみせるリニア。ローブの裾を華麗にひるがえすその姿は、腹立たしいほどにご機嫌ですね。
「私だってね。もしも手紙に書かれていた内容が、本当に役に立たないどうでも良いことばかりだったなら、こんな事は思ったりしないよ。
だけどね、実際はご覧の通りさ」
リニアは右手を上下に振って、手にした便箋をバサバサとはためかせて見せる。
「役に立たないどころか、まったくもっての正反対。いやはや。ここまでくると、あからさまが過ぎるというものだよ」
明朗に語り上げられるリニアの言葉に、私の理解は追いつかない。それはきっと、お嬢様も同じなのだろう。
見れば、差し込む言葉を見失ったままで、ただ黙ってリニアの顔を見上げているご様子。
そんな私たちから視線を外し、リニアは一人で勝手に言葉を続ける。
「本を探せと言う割に、題名や作家名といった直接的な手がかりは軒並み記憶にない。
かと思えば、一見どうでも良さそうな事柄ばかりが、やたらと細かく書きつづられている。
おまけに、そんな役立たずなはずの箇条書きのどれもがだよ? よくよく読み解いてみれば、揃いも揃って本探しの『手段』について言及しているときたものだ。
ここまでされたなら、そりゃあ嫌でも作為的なものを感じずにはいられないだろうねぇ」
だからこそ、本はきっと見つけられるように出来ているはずだよ、と。まるで小躍りでもするような調子で、そこまでを一息にまくし立てるリニア。
そして私たちから視線を外し、「それじゃあ本探しを続けようか」と、再び書棚を見上げ始めた。
これまた突拍子もない世迷言が飛び出してきた。
あまりの事に二の句を継げられず、どうしたものかと視線を漂わせる私。
見ればリニアの向こう側に立つお嬢様も、私と似たような心境らしきご様子。
二つの瞳を頼りなさげにふらつかせながら、静かにお口をパクパクと動かしておられますね。
そんな私たちの真ん中に立ったリニアが、口端をひねり曲げながらこんなことを言う。
「だいたい何だい、この手紙は? 都合が良いにもほどがあるよねぇ」
右手に持った便箋の束をバサバサと振り、わざとらしい呆れ顔を作る彼女。
その表情に、何となく今にも物言いを重ね出しそうな気配を感じて、私は慌てて言葉をねじ込む。
「ちょ、ちょっと待ってください。仕組まれたと聞こえましたが……ええと、何がですか?」
「何がって、この本探しに決まっているじゃないか」
さも当然と言わんばかりの口調。
と言うか、聞き間違えではなかったあたり、嫌な予感は的中していそうですね、これ。
「本探しが……仕組まれている……?」
うわ言のように響いたのは、お嬢様の声。リニアがぐりんと顔を振る。
「そぉともさ。私が思うに、これはね。ポイントさえ押させていけば、最後には本を見つけられるように仕組まれている、そういう類の催し物なのだと思うよ」
いやいやいやいや。言うに事欠いて”催し物”って、何てことを言い出すのやら。
私はあわあわと慌てふためく胸中を精一杯になだめつつ、努めて冷静さを保ったままで問いかけてみる。
「ち、ちなみにですが、どこからそんな考えが?」
するとリニアはこちらに振り返り、薄ら笑いを貼り付けて口を開く。
「どこって、カフヴィナもこの手紙を見たじゃないか。だったら思わなかったのかい? 妙なことばかり覚えているなぁって」
妙なこと?
言われて手紙を読み進めていた時の事を思い出しつつ、そして程なくハッとする。
(ああ、そう言われると)
いつの時点だったか、正確な記憶はない。
とは言えそれでも、例の手紙に目を通す最中に、『妙なことばかり覚えていますね』と思った瞬間は、確かにあったようなそんな気がした。
でも、だからと言って。
「ですけど、リニア。手紙に変なことばかり書かれていたからと言って、それで仕組まれたのどうのと、少し暴論が過ぎるのではないですか?」
一応は、真っ当な異議申し立てのはずである。だというのに。
「もぉちろん、それだけじゃないさぁ」
意気揚々とその場でクルリと一回転してみせるリニア。ローブの裾を華麗にひるがえすその姿は、腹立たしいほどにご機嫌ですね。
「私だってね。もしも手紙に書かれていた内容が、本当に役に立たないどうでも良いことばかりだったなら、こんな事は思ったりしないよ。
だけどね、実際はご覧の通りさ」
リニアは右手を上下に振って、手にした便箋をバサバサとはためかせて見せる。
「役に立たないどころか、まったくもっての正反対。いやはや。ここまでくると、あからさまが過ぎるというものだよ」
明朗に語り上げられるリニアの言葉に、私の理解は追いつかない。それはきっと、お嬢様も同じなのだろう。
見れば、差し込む言葉を見失ったままで、ただ黙ってリニアの顔を見上げているご様子。
そんな私たちから視線を外し、リニアは一人で勝手に言葉を続ける。
「本を探せと言う割に、題名や作家名といった直接的な手がかりは軒並み記憶にない。
かと思えば、一見どうでも良さそうな事柄ばかりが、やたらと細かく書きつづられている。
おまけに、そんな役立たずなはずの箇条書きのどれもがだよ? よくよく読み解いてみれば、揃いも揃って本探しの『手段』について言及しているときたものだ。
ここまでされたなら、そりゃあ嫌でも作為的なものを感じずにはいられないだろうねぇ」
だからこそ、本はきっと見つけられるように出来ているはずだよ、と。まるで小躍りでもするような調子で、そこまでを一息にまくし立てるリニア。
そして私たちから視線を外し、「それじゃあ本探しを続けようか」と、再び書棚を見上げ始めた。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
白が嫌いな青~剣と密室の頭脳戦~
キルト
ミステリー
【決して瞳を合わせてはいけない】
『魔眼病』瞳を合わせただけで感染する奇病が蔓延する世界。
偶然出会った孤独な男女はある約束を交わした。
お互いに嘘をついたまま次第に惹かれ合う二人。
その幼い感情が恋と呼ばれ始めた頃……想いを伝えられないまま互いの記憶を失くし突然飛ばされた。
女は密室で『断罪ゲーム』と呼ばれる推理ゲームに巻き込まれ。
男は異世界で記憶を取り戻す戦いに巻き込まれる。
ミステリーとファンタジー。
人々の嘘と恋が交わる時、世界の謎が明かされる。
※女主人公(サヤカ)の生き残り推理ゲームと
男主人公(優介)の記憶を取り戻す異世界バトルが交互に描かれています。
目次の最初に名前を記載しているので参考にして下さい。
全三十話
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり

それは奇妙な町でした
ねこしゃけ日和
ミステリー
売れない作家である有馬四迷は新作を目新しさが足りないと言われ、ボツにされた。
バイト先のオーナーであるアメリカ人のルドリックさんにそのことを告げるとちょうどいい町があると教えられた。
猫神町は誰もがねこを敬う奇妙な町だった。
舞姫【中編】
友秋
ミステリー
天涯孤独の少女は、夜の歓楽街で二人の男に拾われた。
三人の運命を変えた過去の事故と事件。
そこには、三人を繋ぐ思いもかけない縁(えにし)が隠れていた。
剣崎星児
29歳。故郷を大火の家族も何もかもを失い、夜の街で強く生きてきた。
兵藤保
28歳。星児の幼馴染。同じく、実姉以外の家族を失った。明晰な頭脳を持って星児の抱く野望と復讐の計画をサポートしてきた。
津田みちる
20歳。両親を事故で亡くし孤児となり、夜の街を彷徨っていた16歳の時、星児と保に拾われた。ストリップダンサーとしてのデビューを控える。
桑名麗子
保の姉。星児の彼女で、ストリップ劇場香蘭の元ダンサー。みちるの師匠。
亀岡
みちるの両親が亡くなった事故の事を調べている刑事。
津田(郡司)武
星児と保が追う謎多き男。
切り札にするつもりで拾った少女は、彼らにとっての急所となる。
大人になった少女の背中には、羽根が生える。
与り知らないところで生まれた禍根の渦に三人は巻き込まれていく。
彼らの行く手に待つものは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる