クロネコ魔法喫茶の推理日誌

花シュウ

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第2話 書棚の森の中ほどで②

第2話 04

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 とんでもない暴論が飛び出してきたように感じた。思わず口を挟む。

「いくらなんでも、それはないのでは?」

 仮にも『本探し』なのだ。ならやっぱり目的はその書物そのものにあると考えて然るべきではないか?

 そんな意見を言葉に載せては見たものの、しかしリニアは困り顔をニヤリと動かして見せる。

「私だってそう思っていたよぉ。だけど実情はどうだい?
 本の内容に興味は無く、加えて基本情報も必要ない。じゃあ本を探してどうしようっていうんだい?
 カフヴィナの意見を聞かせてもらえるかな?」

 ぬ。

 改めて突きつけられた最初の疑問。その存在感を前にして、私は告げる言葉を見失う。

「ほぉら、分からないだろう? 私だって色々考えてはみたんだよ。
 ひょっとして本の装丁を知りたいのかなとか、はたまた重さとかページ数とか、もっとぶっ飛んだところじゃあ、うちの店でその本がどこに置かれているのか……とかさ」

 いや、なんか、それはもう無茶苦茶では?

「だけど、どの考えも今ひとつピンとこないんだよねぇ。だからこそ、興味深い。
 と、言うわけでお嬢さん。改めてお聞きするけど、とどのつまりは、何が目的でその本を探し出そうと言うんだい?」

 そこまで言い切ったリニアは、質問を向けた先へと身体ごと向き直る。私もつられてテーブルに付いたままの彼女に視線を落とす。

 見れば呆けたような顔でじっとリニアを見つめるお嬢様。

 しばらくの沈黙の後、お嬢様が細々とした声を出す。

「す……凄いですわね、何だか良くわかりませんけど……」

 まあそうでしょうね。慣れた私からしても、それは妥当な感想と言えます。

「それで。本探しの目的、教えてもらえるのかな?」

 繰り返し問われ、お嬢様が困惑したように顔を歪める。

「ええと、その。実は……わたくしにも姉の目的が分からなくて……」
「ええぇ!? そんなことが有り得るのかい!?」

 リニアが素っ頓狂な声を上げた。お嬢様が慌てた様子で言いつくろう。

「ほ、本当ですわ! その、姉からの手紙には御本探しに役立つ? か怪しいいくつかの情報と、それから……」
「それから?」

 リニアがお嬢様の掛けた丸テーブルまで駆け寄り、またしても身を乗り出す。

「あひ」

 再会した顔面の圧力に気圧されつつも、しかしお嬢様はしどろもどろに言葉を紡ぐ。

「姉からの手紙には、その本を借りる必要はないことと、それから……」
「それからっ!」

 圧。圧が強いですって。

「ただ探し出せば良いと。見つけ出せたなら伝わるから、とだけ」

 たじたじと搾り出したお嬢様の言葉に、リニアは天を仰いぎ、か細い声で静かに──

「随分とふざけたお姉さんもいたものだねぇ」

 と呟くのだった。




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