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6.7月編
56話 すれ違い
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あの勉強会から土曜日、日曜日が過ぎ期末考査初日がやってきた。
橘は昨日の夜遅くまで勉強していたので今日は起きるのが遅く、まだ家で朝食を食べているため僕は今1人で学校に登校している。
結局あれから日光から連絡は来ることはなく、僕からも連絡はしていない。
きっとあっちから連絡が来ることはないと感じていたため自分から連絡をしようとはしたのだが一一
『貴方の優しさが……とても苦しいの……』
連絡しようとする度にこの言葉が僕の連絡しようとする意思に歯止めを掛けていた。
僕が誰かに優しくすることに特に理由はない。
ただ、困っている人、苦しんでいる人を見ると助けたいと思ってしまう。そんな自分の気持ちに対して、素直に従っていただけだ。
その優しさが誰かを傷付けてしまう――そんなことなど一度も考えたことはなかった。
僕が優しくする度に日光は苦しんでいた……なら、僕は一体彼女を今までに何度、傷付けてしまったのだろう……。
「あ……」
学校の目の前、僕が今歩いている向かい側から歩いてくる日光が目に入った。
あちら側も僕に気付いたらしく、僕と目が合った瞬間に体をビクッと反応させた。
このままのペースだと校門の前で鉢合わせする。
どうしよう……。
あの告白以降、面と面を合わせて会うのは初めてだ。
だんだんと縮まっていく距離とともに心臓の鼓動が速くなる。
告白をし突き放すような言葉を言ったのは日光の方だ。
きっと彼女からは声をかけ難いはず。
僕から声をかけるべきか……。
とりあえず僕は挨拶をしようと思い、軽く手を挙げた。
しかし、手を挙げた瞬間に日光は悲しげな表情を見せた。
その表情で僕は出そうとしていた言葉を飲み込んでしまった。
おはよう、というたったの4文字。
特別な感情などこれっぽっちもないただの挨拶。
そんなただの挨拶でさえ、僕は口に出す事が出来なかった。
何も言わずに手を降ろした僕を見て、日光は顔を逸らし早足で先に学校へと入ってしまった。
そんな日光を僕はあの時と同じように追いかけはしなかった。
結局、僕はそれから日光と喋る事はなく、その日のテストを終わらせ帰宅した。
そして次の日も、また更にその次の日も日光とは話すことはなく、時間だけがただただ流れていった。
「はい! そこまで」
学校のチャイムが鳴り、若葉先生の合図で教室内のみんなは筆記用具を机の上にへと置いた。
「みんなお疲れ様。これで1学期の期末考査が終わったことだし、今日はゆっくりと体を休めなさい」
若葉先生はみんなのテストを集め終えると僕たちに向けてそう言った。
そして、先生が教室から出て行くと、あちらこちらで歓声が湧き上がった。
5日間と長い期末考査が終わったためか、大半の生徒の表情は喜びで満ちている。
「ねぇねぇ」
帰宅の準備をしていると不意に横から声がかかった。
声がかけられた方を向くと、楓と橘と瑞稀さんの3人がいた。
「テストも終わったことだしさ。前に陸の家に集まったメンバーでどこか昼ご飯でも食べに行かないかい?」
「ご飯か……」
「ん、どうしたんだい? あまり乗り気じゃないみたいだけど、これから用事でもあるとか?」
「いや、特に用事があるわけじゃないんだけどさ……」
「お金の方が厳しいとか?」
「お金の方も全然大丈夫だけど……」
「それじゃあ、どうしてそんなに乗り気じゃないのさ」
「それはその……」
用事があるわけでもお金に問題があるわけでもなかったが、渋るのにはそりゃあ理由がある。
前に集まったメンバーということは日光も来ることになるだろう。
日光とは1週間も口を聞いていない状態だ。
一対一ではないと言えど、今の状態でまともに会話が出来るわけがないだろうし、何かあったとみんなに勘付かれる可能性が…………いや、待てよ。
もし、日光が告白して僕が振ったことをみんなが知ったら、僕たちの事を気遣って今までのように集まる事がなくなってしまうかもしれない。
それは日光からしても避けたい事だろう。
今まで通りの関係を続けたいなら、告白の件は日光も隠したいはずだ。
みんなと集まった場であれば、今まで通りとはいかなくても日光と多少の会話は出来るかもしれない。
そして上手く行けば今まで通り話す事が――。
「……うん、分かった。行こう」
僕の返事を聞いて楓たちは嬉しそうな笑顔を見せた。
「彩芽君は委員長の仕事が終わったら連絡するって言ってたし、あとは……」
「話しは全部聞かせてもらったぜい。勿論俺も行く!」
2つ後ろの席だから僕たちの声が聞こえていたのかはっちゃんは楓が誘う前に自分から声をかけに来た。
「集まっているところを見るに前のメンバーでこれから遊ぶか飯を食いに行くと見た。もし、そうなら俺も行くが」
そう言いながら晴矢も僕たちのところにやってきた。
「合ってるよ。それじゃあ残るはあと1人だね」
楓はそう言うと、教室の出口の方へと向きを変える。
「何やらこそこそとしているけど……紅葉君も勿論くるよね」
今にも教室を出ようとしていた日光に対し、楓は声をかけた。
「わ、私は……」
声をかけられた日光は戸惑っている。
そして僕の顔をチラッと一目見て――
「ご、ごめん。昼から用事があるから遠慮しておくわ」
逃げるように教室から去っていった。
「なんだか陸の顔を見て逃げたように見えたんだけど……」
「やっぱり陸さん金曜日に紅葉さんと何かあったんじゃ……」
みんなの視線が僕にへと集中する。
「いや、何もなかったけど……たまたま僕の方を見ただけなんじゃないのか?」
日光のあの反応は予想にしてなかった。
しかし、僕は平静を装って答える。
それでも、やはり誤魔化しきれないのか、みんなは疑いの目を僕に向けている。
ある一人以外は……。
「もしかしたら私のせいかも……。あの勉強会からなんだか紅葉ちゃん私によそよそしくって……気付かない内に何か悪いことをしちゃったのかな……」
瑞稀さんは申し訳なさそうに言った。
日光が僕を避けるのは分かるが、瑞稀さんを避ける理由は分からない。
しかし、瑞稀さんは日光とは仲がいいので避けられていると勘違いする事はないはずであり、実際に避けられているのだろう。
「大丈夫。多分瑞稀さんのせいじゃないよ」
「そう……かな……」
「あぁ。さっきは僕は何も知らないって言ってたけど本当は少し思い当たる節があるからさ……多分僕のせいだよ」
僕は瑞稀さんを励ますも、瑞稀さんは僕が嘘を吐いて庇っていると思っているのか表情は未だ暗い。
まぁ、実際は少し思い当たる節があるどころか理由は明白だしがっつり僕のせいなんだが……。
それに、瑞稀さんが日光に避けられている理由は分からないが、その原因を作っているのも間違いなくあの告白であるはずだ。
「う~ん……何があったかは詳しくは聞かないけど、早く仲直りした方がいいよ。ボクは夏休みはみんなと色々な所に行ったり、色々な事をして遊んだりしたいって思ってるしね」
「……あぁ、そうだな。ごめん。今日はちょっと僕もパスで」
僕はみんなにそう言うと、鞄を持って教室を出た。
日光が今どこにいるか分からない。
いや、きっと日光のいる場所が分かっていて、日光に会ったとしても前の繰り返しになるだけだろう。
だから、僕が今向かうべき場所は日光のもとではない。
僕はある場所へと急いだ。
「うわぁ……」
目的地に着いた僕は余りの人の多さについついそんな声を漏らしてしまった。
僕が現在いる場所は進路カウンセラーがある多目的室の前だ。
前に来た時とは打って変わって、沢山の人できしめいている。
「ちょっ、ちょっとおぉ! 昼、昼ご飯を食いに行くから! また13時から再開するから、来れる人はこの紙に名前を書いてくれ!」
多目的室の中から六道さんの叫び声が聞こえた。
そして沢山の人を掻き分けながら僕の前に彼は現れた。
「だ、大盛況ですね……」
「あ、あぁ……。テストが終わった後とか行事の前とかはいつもこんな感じだ……しかも夏休みが近いからかいつもよりも更に多い……」
六道さんは苦笑しながらうんざりとした様子で僕にへと言った。
「みんな恋愛の相談ですか?」
「自分は今まで恋愛事以外の相談はされた事がないから多分ね。君もここに来たという事はもしかして……」
「はい。恋愛事の相談です」
僕は頷き応えた。
友人達には相談出来ない以上、頼る事が出来るのは六道さんしかいなかった。
「そうか。順番待ちとなればいつ相談できるか分からない状態だ。本当は順番を守ってもらいたいところだが……今回は特別だよ。場所を移そう」
六道さんはそう言ったあと、僕に手招きをし歩き始めた。
「ここなら大丈夫そうだな」
六道さんはそう言うと僕の方を振り向く。
僕たちが今いるのは学校の中庭で、僕たち以外に人はいない。
「で、今日はどういった事情で?」
「その……意識してなかった子に告白されて断ったんですけど、それからその子が僕を避けて今まで通りに接することが出来なくなってしまって……」
「……もしかしてその告白してきた子というのは肝試しの時に一緒だった子か?」
「はい」
「そうか……」
六道さんは顎を触りながら何かを考え込む。
しかし、それは僕に言う言葉を考えているという訳ではなさそうで、言うべきか言わまいかを迷っているような、そんな様子だ。
「あー、そうだな……」
言う事を決めたのか六道さんは頭を掻きながら言いにくそうに口を開く。
「君はその子とこれからどういった関係でいたいんだ?」
「僕は……今まで通り友達の関係でいたいです」
「彼女はそれを望んでいるのか?」
頭を急に大きな金槌で殴られたような衝撃がいきなり僕を襲った。
僕の頭は真っ白になり、六道さんの問いに何も返せない。
六道さんが放ったあの言葉は僕にとってあまりにも重過ぎた。
固まって何も言えない僕に六道さんは言葉を続ける。
「大変言いにくいことだが……友達のままでいたいというのは単なる君の我儘だ。彼女は君を避けているんだろ? ということは少なくとも今は君とは距離を取りたいってことだ」
六道さんの言葉はしっかりと聞こえていた。
しかし、僕は何も言えない。
そんな僕に対し六道さんは畳み掛けるように言葉を続ける。
「君がいくら以前と同じ様に接したいと思っていても、告白した方は違う。君はあちら側をただの友人としてしか見てなかった。しかし、あちら側は君を特別視していた。それを本人にさらけ出すことは勇気がいることだ。そして、それを拒絶されたとなれば心の傷は大きい。今まで通り接するのは無理がある」
「……じゃあ僕はどうすれば……」
僕はその言葉を出すのが精一杯だった。
「少なくとも今は彼女と関わるべきではない。接するなら時間が経って心の傷が癒えてからだ。まぁ、確実なの彼女の方から歩み寄ってくるのを待つことだな」
六道さんはそう言うと僕に背を向け歩き始める。
「あっ……今日はありがとうございました!」
僕はその背中に向けて礼を言った。
期待していた答えは貰えなかったが、六道さんは僕のために時間を割いてくれたからだ。
「きっと彼女は本当に君のことを深く愛していたんだね」
六道さん突然口を開き立ち止まった。
「君と以前のように接する事が出来ないのは深く傷付いてしまったからだ。結局どうでもいい相手だったのなら傷は浅く、すぐに元の関係に戻れるだろう。そりゃあ、時には相手の事を気遣い、強がって傷付いていないフリをする人もいるけどね。とりあえず表に出るってことはそういうことだ」
六道さんはそう言い終わると再び歩き始めた。
「そろぼち、昼飯を食って戻らねぇとな。すまないな、期待に添えなくて」
六道さんは僕に背を向けたまま手を振り再び歩き始める。
きっとあの言葉は僕を励ますための言葉だ。
「六道さん……ありがとうございます……」
だいぶ距離が離れている六道さんにはもう届いていないだろう。
それでも僕は六道さんに向けて再び礼を言った。
本当は用事なんてなかったし、みんなとご飯を食べに行きたかった。
でも、みんなで集まればきっと銘雪は私に話しかけるだろう。
いや、確信を持って言える。
彼は私に絶対に話しかける。
「はぁ……なんで……」
ため息とともについつい独り言が溢れてしまう。
告白をしたのは私の方だ。
それなのに、振られてから銘雪を突き放すような言葉を吐いてしまった。
それなのに彼は月曜日に校門の前で会った時に私に声を掛けようとしてくれて……その優しさに私は――。
「はぁ……」
再び私は大きなため息をついた。
銘雪ともまともに話せていないが、瑞稀ともまともに話せないでいた。
『私はあいつのことなんてどうも思っていない』
そんなことを瑞稀に言っておきながら私は銘雪に告白をしたのだ。
これは立派な裏切りだ。
きっとあの瑞稀の様子だと、銘雪は私に告白されたことを誰にも言っていないのだろう。
それでも私は何も無かったことにして、瑞稀と今で通りに話すことは出来なかった。
親友を裏切ったという罪悪感が私の心をずっと締め付ける。
「紅葉さん」
不意に名前を呼ばれ、私は立ち止まる。
声がした方を振り向くとそこには――
橘は昨日の夜遅くまで勉強していたので今日は起きるのが遅く、まだ家で朝食を食べているため僕は今1人で学校に登校している。
結局あれから日光から連絡は来ることはなく、僕からも連絡はしていない。
きっとあっちから連絡が来ることはないと感じていたため自分から連絡をしようとはしたのだが一一
『貴方の優しさが……とても苦しいの……』
連絡しようとする度にこの言葉が僕の連絡しようとする意思に歯止めを掛けていた。
僕が誰かに優しくすることに特に理由はない。
ただ、困っている人、苦しんでいる人を見ると助けたいと思ってしまう。そんな自分の気持ちに対して、素直に従っていただけだ。
その優しさが誰かを傷付けてしまう――そんなことなど一度も考えたことはなかった。
僕が優しくする度に日光は苦しんでいた……なら、僕は一体彼女を今までに何度、傷付けてしまったのだろう……。
「あ……」
学校の目の前、僕が今歩いている向かい側から歩いてくる日光が目に入った。
あちら側も僕に気付いたらしく、僕と目が合った瞬間に体をビクッと反応させた。
このままのペースだと校門の前で鉢合わせする。
どうしよう……。
あの告白以降、面と面を合わせて会うのは初めてだ。
だんだんと縮まっていく距離とともに心臓の鼓動が速くなる。
告白をし突き放すような言葉を言ったのは日光の方だ。
きっと彼女からは声をかけ難いはず。
僕から声をかけるべきか……。
とりあえず僕は挨拶をしようと思い、軽く手を挙げた。
しかし、手を挙げた瞬間に日光は悲しげな表情を見せた。
その表情で僕は出そうとしていた言葉を飲み込んでしまった。
おはよう、というたったの4文字。
特別な感情などこれっぽっちもないただの挨拶。
そんなただの挨拶でさえ、僕は口に出す事が出来なかった。
何も言わずに手を降ろした僕を見て、日光は顔を逸らし早足で先に学校へと入ってしまった。
そんな日光を僕はあの時と同じように追いかけはしなかった。
結局、僕はそれから日光と喋る事はなく、その日のテストを終わらせ帰宅した。
そして次の日も、また更にその次の日も日光とは話すことはなく、時間だけがただただ流れていった。
「はい! そこまで」
学校のチャイムが鳴り、若葉先生の合図で教室内のみんなは筆記用具を机の上にへと置いた。
「みんなお疲れ様。これで1学期の期末考査が終わったことだし、今日はゆっくりと体を休めなさい」
若葉先生はみんなのテストを集め終えると僕たちに向けてそう言った。
そして、先生が教室から出て行くと、あちらこちらで歓声が湧き上がった。
5日間と長い期末考査が終わったためか、大半の生徒の表情は喜びで満ちている。
「ねぇねぇ」
帰宅の準備をしていると不意に横から声がかかった。
声がかけられた方を向くと、楓と橘と瑞稀さんの3人がいた。
「テストも終わったことだしさ。前に陸の家に集まったメンバーでどこか昼ご飯でも食べに行かないかい?」
「ご飯か……」
「ん、どうしたんだい? あまり乗り気じゃないみたいだけど、これから用事でもあるとか?」
「いや、特に用事があるわけじゃないんだけどさ……」
「お金の方が厳しいとか?」
「お金の方も全然大丈夫だけど……」
「それじゃあ、どうしてそんなに乗り気じゃないのさ」
「それはその……」
用事があるわけでもお金に問題があるわけでもなかったが、渋るのにはそりゃあ理由がある。
前に集まったメンバーということは日光も来ることになるだろう。
日光とは1週間も口を聞いていない状態だ。
一対一ではないと言えど、今の状態でまともに会話が出来るわけがないだろうし、何かあったとみんなに勘付かれる可能性が…………いや、待てよ。
もし、日光が告白して僕が振ったことをみんなが知ったら、僕たちの事を気遣って今までのように集まる事がなくなってしまうかもしれない。
それは日光からしても避けたい事だろう。
今まで通りの関係を続けたいなら、告白の件は日光も隠したいはずだ。
みんなと集まった場であれば、今まで通りとはいかなくても日光と多少の会話は出来るかもしれない。
そして上手く行けば今まで通り話す事が――。
「……うん、分かった。行こう」
僕の返事を聞いて楓たちは嬉しそうな笑顔を見せた。
「彩芽君は委員長の仕事が終わったら連絡するって言ってたし、あとは……」
「話しは全部聞かせてもらったぜい。勿論俺も行く!」
2つ後ろの席だから僕たちの声が聞こえていたのかはっちゃんは楓が誘う前に自分から声をかけに来た。
「集まっているところを見るに前のメンバーでこれから遊ぶか飯を食いに行くと見た。もし、そうなら俺も行くが」
そう言いながら晴矢も僕たちのところにやってきた。
「合ってるよ。それじゃあ残るはあと1人だね」
楓はそう言うと、教室の出口の方へと向きを変える。
「何やらこそこそとしているけど……紅葉君も勿論くるよね」
今にも教室を出ようとしていた日光に対し、楓は声をかけた。
「わ、私は……」
声をかけられた日光は戸惑っている。
そして僕の顔をチラッと一目見て――
「ご、ごめん。昼から用事があるから遠慮しておくわ」
逃げるように教室から去っていった。
「なんだか陸の顔を見て逃げたように見えたんだけど……」
「やっぱり陸さん金曜日に紅葉さんと何かあったんじゃ……」
みんなの視線が僕にへと集中する。
「いや、何もなかったけど……たまたま僕の方を見ただけなんじゃないのか?」
日光のあの反応は予想にしてなかった。
しかし、僕は平静を装って答える。
それでも、やはり誤魔化しきれないのか、みんなは疑いの目を僕に向けている。
ある一人以外は……。
「もしかしたら私のせいかも……。あの勉強会からなんだか紅葉ちゃん私によそよそしくって……気付かない内に何か悪いことをしちゃったのかな……」
瑞稀さんは申し訳なさそうに言った。
日光が僕を避けるのは分かるが、瑞稀さんを避ける理由は分からない。
しかし、瑞稀さんは日光とは仲がいいので避けられていると勘違いする事はないはずであり、実際に避けられているのだろう。
「大丈夫。多分瑞稀さんのせいじゃないよ」
「そう……かな……」
「あぁ。さっきは僕は何も知らないって言ってたけど本当は少し思い当たる節があるからさ……多分僕のせいだよ」
僕は瑞稀さんを励ますも、瑞稀さんは僕が嘘を吐いて庇っていると思っているのか表情は未だ暗い。
まぁ、実際は少し思い当たる節があるどころか理由は明白だしがっつり僕のせいなんだが……。
それに、瑞稀さんが日光に避けられている理由は分からないが、その原因を作っているのも間違いなくあの告白であるはずだ。
「う~ん……何があったかは詳しくは聞かないけど、早く仲直りした方がいいよ。ボクは夏休みはみんなと色々な所に行ったり、色々な事をして遊んだりしたいって思ってるしね」
「……あぁ、そうだな。ごめん。今日はちょっと僕もパスで」
僕はみんなにそう言うと、鞄を持って教室を出た。
日光が今どこにいるか分からない。
いや、きっと日光のいる場所が分かっていて、日光に会ったとしても前の繰り返しになるだけだろう。
だから、僕が今向かうべき場所は日光のもとではない。
僕はある場所へと急いだ。
「うわぁ……」
目的地に着いた僕は余りの人の多さについついそんな声を漏らしてしまった。
僕が現在いる場所は進路カウンセラーがある多目的室の前だ。
前に来た時とは打って変わって、沢山の人できしめいている。
「ちょっ、ちょっとおぉ! 昼、昼ご飯を食いに行くから! また13時から再開するから、来れる人はこの紙に名前を書いてくれ!」
多目的室の中から六道さんの叫び声が聞こえた。
そして沢山の人を掻き分けながら僕の前に彼は現れた。
「だ、大盛況ですね……」
「あ、あぁ……。テストが終わった後とか行事の前とかはいつもこんな感じだ……しかも夏休みが近いからかいつもよりも更に多い……」
六道さんは苦笑しながらうんざりとした様子で僕にへと言った。
「みんな恋愛の相談ですか?」
「自分は今まで恋愛事以外の相談はされた事がないから多分ね。君もここに来たという事はもしかして……」
「はい。恋愛事の相談です」
僕は頷き応えた。
友人達には相談出来ない以上、頼る事が出来るのは六道さんしかいなかった。
「そうか。順番待ちとなればいつ相談できるか分からない状態だ。本当は順番を守ってもらいたいところだが……今回は特別だよ。場所を移そう」
六道さんはそう言ったあと、僕に手招きをし歩き始めた。
「ここなら大丈夫そうだな」
六道さんはそう言うと僕の方を振り向く。
僕たちが今いるのは学校の中庭で、僕たち以外に人はいない。
「で、今日はどういった事情で?」
「その……意識してなかった子に告白されて断ったんですけど、それからその子が僕を避けて今まで通りに接することが出来なくなってしまって……」
「……もしかしてその告白してきた子というのは肝試しの時に一緒だった子か?」
「はい」
「そうか……」
六道さんは顎を触りながら何かを考え込む。
しかし、それは僕に言う言葉を考えているという訳ではなさそうで、言うべきか言わまいかを迷っているような、そんな様子だ。
「あー、そうだな……」
言う事を決めたのか六道さんは頭を掻きながら言いにくそうに口を開く。
「君はその子とこれからどういった関係でいたいんだ?」
「僕は……今まで通り友達の関係でいたいです」
「彼女はそれを望んでいるのか?」
頭を急に大きな金槌で殴られたような衝撃がいきなり僕を襲った。
僕の頭は真っ白になり、六道さんの問いに何も返せない。
六道さんが放ったあの言葉は僕にとってあまりにも重過ぎた。
固まって何も言えない僕に六道さんは言葉を続ける。
「大変言いにくいことだが……友達のままでいたいというのは単なる君の我儘だ。彼女は君を避けているんだろ? ということは少なくとも今は君とは距離を取りたいってことだ」
六道さんの言葉はしっかりと聞こえていた。
しかし、僕は何も言えない。
そんな僕に対し六道さんは畳み掛けるように言葉を続ける。
「君がいくら以前と同じ様に接したいと思っていても、告白した方は違う。君はあちら側をただの友人としてしか見てなかった。しかし、あちら側は君を特別視していた。それを本人にさらけ出すことは勇気がいることだ。そして、それを拒絶されたとなれば心の傷は大きい。今まで通り接するのは無理がある」
「……じゃあ僕はどうすれば……」
僕はその言葉を出すのが精一杯だった。
「少なくとも今は彼女と関わるべきではない。接するなら時間が経って心の傷が癒えてからだ。まぁ、確実なの彼女の方から歩み寄ってくるのを待つことだな」
六道さんはそう言うと僕に背を向け歩き始める。
「あっ……今日はありがとうございました!」
僕はその背中に向けて礼を言った。
期待していた答えは貰えなかったが、六道さんは僕のために時間を割いてくれたからだ。
「きっと彼女は本当に君のことを深く愛していたんだね」
六道さん突然口を開き立ち止まった。
「君と以前のように接する事が出来ないのは深く傷付いてしまったからだ。結局どうでもいい相手だったのなら傷は浅く、すぐに元の関係に戻れるだろう。そりゃあ、時には相手の事を気遣い、強がって傷付いていないフリをする人もいるけどね。とりあえず表に出るってことはそういうことだ」
六道さんはそう言い終わると再び歩き始めた。
「そろぼち、昼飯を食って戻らねぇとな。すまないな、期待に添えなくて」
六道さんは僕に背を向けたまま手を振り再び歩き始める。
きっとあの言葉は僕を励ますための言葉だ。
「六道さん……ありがとうございます……」
だいぶ距離が離れている六道さんにはもう届いていないだろう。
それでも僕は六道さんに向けて再び礼を言った。
本当は用事なんてなかったし、みんなとご飯を食べに行きたかった。
でも、みんなで集まればきっと銘雪は私に話しかけるだろう。
いや、確信を持って言える。
彼は私に絶対に話しかける。
「はぁ……なんで……」
ため息とともについつい独り言が溢れてしまう。
告白をしたのは私の方だ。
それなのに、振られてから銘雪を突き放すような言葉を吐いてしまった。
それなのに彼は月曜日に校門の前で会った時に私に声を掛けようとしてくれて……その優しさに私は――。
「はぁ……」
再び私は大きなため息をついた。
銘雪ともまともに話せていないが、瑞稀ともまともに話せないでいた。
『私はあいつのことなんてどうも思っていない』
そんなことを瑞稀に言っておきながら私は銘雪に告白をしたのだ。
これは立派な裏切りだ。
きっとあの瑞稀の様子だと、銘雪は私に告白されたことを誰にも言っていないのだろう。
それでも私は何も無かったことにして、瑞稀と今で通りに話すことは出来なかった。
親友を裏切ったという罪悪感が私の心をずっと締め付ける。
「紅葉さん」
不意に名前を呼ばれ、私は立ち止まる。
声がした方を振り向くとそこには――
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