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6.7月編
54話 好き……
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「好き……」
気付いた時にはそんな言葉が口から漏れてしまっていた。
でも、今ならいくらでも誤魔化すことは出来る。
さっきの私の質問に対する貴方の答えが好き。貴方の人柄が好き。貴方のことが友達として好き。
そういう意味での好きだったのだと言えばそれで終わり。
だけど次に私の口から出た言葉は――
「貴方が……好き…………」
もう止められない。
自分の意思とは無関係に言葉が溢れ出てしまう。
「銘雪のことが好き……」
私は今どんな顔をしているのだろう?
照れて真っ赤になっているのか? それともいつも通りの顔ができているのか?
…………銘雪はどんな顔をしているのかな……。
私は隣にいる銘雪の顔を見ようとする、が動かない。
銘雪の方に顔を向けられない。
あぁ、怖いんだ……。
銘雪の顔を見るのが怖い。
自分の今の表情を見られるのが怖い。
きっと今の私の表情は、今まで誰にも見せたことがないくらい酷い表情をしているから。
目の前の景色がぼやける。
頰から涙が伝っていくのを感じる。
私は息を勢いよく吸い、涙がこれ以上零れないように上を向く。
銘雪が瑞稀のことが好きなのは普段の彼を見ていればよく分かる。
瑞稀と銘雪は両想い。
私が振られることなんて分かっていた。
叶わない恋をずっと引きずって辛い思いをし続けるくらいなら、いっそのこと振られてしまえば楽になれるのに……ずっとそう思っていた。
それなのに――
「好き……」
どうしてこんなにも辛いのだろう――
「好き……」
隣を歩いている日光が突然呟いた。
弱々しく小さな、しかし、それでいてはっきりと僕に聞こえる声で。
一瞬驚いてしまったものの、すぐに冷静になる。
これはあれだ。さっきの質問に対する僕の受け答えが好きという意味だろう。
いや、話の流れからして絶対にそうだ。
危ない危ない。林間学校の時に楓に好きと言われ、変な勘違いをして痛い思いをしたというのにまた同じ過ちを繰り返すところだった。
「貴方が……好き…………」
先程よりも小さい声で、しかし、僕に届くくらいの声の大きさで日光は呟く。
日光の顔は頰が紅く染まり、瞳には今にも溢れてしまいそうなくらいに涙が浮かんでいた。
そんな彼女の表情から人柄としてとか友人としての好きではないことなど明白だった。
「銘雪のことが好き……」
日光の目から涙が零れる。
僕の心臓は今にも飛び出てしまうのではないかと思ってしまうくらい早鐘を打っている。
……僕は瑞稀さんのことが好きだ。
だから、日光とは付き合う事は出来ない。
僕は今からどうすればいいのだろう?
何も言わずに走って逃げる?
聞いていなかったふりをする?
曖昧な返事をする?
…………そんな事は絶対に出来ない。
それらは全部、日光の想いを踏みにじる最低の行為だ。
「好き……」
日光は今までで、1番はっきりとした声でそう呟いた。
その言葉に僕は胸が締め付けられる。
日光を傷付けない方法。
それは、ここで日光の告白を受け入れて彼女と付き合う以外に他ないだろう。
だけど……それはできない……。
…………僕の答えは最初から出ていた。
いや、僕にはもうそれしか選択肢が残されていないと言った方が正しいのかもしれない。
でも、これは絶対に日光を傷付けるもの。
僕は覚悟を決めて、口を開く。
「…………ごめん」
隣を歩いている銘雪がそう呟いた。
その声は震えている。
たったの3文字。
その3文字の言葉にどれだけ悩み、どれほどの覚悟を持って口に出してくれたのだろう。
それにしても、ごめん……か…………。
私は振られたんだ……。
………………あぁ、分かっていた。分かっていたはずなのに……。
涙が溢れ出して止まらない。
何度も何度も拭うが、次から次へと溢れでる。
気がつくと声を上げて泣いていた。
辛い、その感情だけが私を支配していく。
「も……もうい、いい……から……」
泣いてるせいで上手く言葉を発することが出来なかった。
今すぐにでも逃げ出したい。
もう、好きな人にこれ以上こんな無様な姿を見られたくない。
「もういい……から…………ひ、1人で……帰れるから……」
私は一刻も早くこの場から去るため、走って逃げようとした。
しかし、そんな私の手を銘雪は強く掴んだ。
「それは……出来ない……。今のお前を放っておけるわけないだろ……!」
銘雪は苦しそうな顔をしながらそう言った。
そんな彼の優しさに、私の中で何かがぷつんと切れる音がした。
「もう……放っておいてよ……!」
私は彼の手を振り解く。
「好きでもないくせに……! 私にこれ以上優しくしないでよ……!」
あぁ、みっともない。
本当はこんな事言いたくないのに……。
「貴方が私に優しくされる度に胸が熱くなる……貴方が誰かに優しくしているのを見ると胸がキュッと締め付けられて切なくなる……」
……違う。
私が本当に言いたいのはこんな事じゃない。
「貴方の優しさが……とても苦しいの……」
私が彼に1番伝えたかった事はこんな言葉じゃないはずなのに……。
「だから……これ以上、私に優しくしないで……」
私は俯いたまま言った。
銘雪がどんな表情をしているのか……私は怖くて見ることが出来ない。
銘雪は私の言葉に対して何も返さなかった。
数秒の静寂が辺りを包む。
私は静寂に耐えきれなくなり、逃げるようにこの場を去った。
走って走って、体力の限界が来るまで全速力で走り続けた。
立ち止まって、来た道を振り返ると銘雪は追っては来ていなかった。
私は再び声をあげて泣いた。
告白をすれば、何もかも綺麗さっぱりに無くなると思っていたのに……。
今の私に残っているもの、それは後悔だけだった……。
日光が走り去ってからどのくらいの時間が経ったのだろうか。
日は完全に沈んでしまっているため、辺りは真っ暗になり、空には沢山の星が浮かんでいた。
走り去って行く日光を僕は追いかける事が出来なかった。
僕が追いかけたところで、今の彼女に何もしてあげられない。
きっと、更に彼女を傷付けてしまうことになるだろう。
『貴方の優しさが……とても苦しいの……』
日光が悲しげに呟いたその言葉が、未だに僕の頭の中で強く鳴り響いていた。
気付いた時にはそんな言葉が口から漏れてしまっていた。
でも、今ならいくらでも誤魔化すことは出来る。
さっきの私の質問に対する貴方の答えが好き。貴方の人柄が好き。貴方のことが友達として好き。
そういう意味での好きだったのだと言えばそれで終わり。
だけど次に私の口から出た言葉は――
「貴方が……好き…………」
もう止められない。
自分の意思とは無関係に言葉が溢れ出てしまう。
「銘雪のことが好き……」
私は今どんな顔をしているのだろう?
照れて真っ赤になっているのか? それともいつも通りの顔ができているのか?
…………銘雪はどんな顔をしているのかな……。
私は隣にいる銘雪の顔を見ようとする、が動かない。
銘雪の方に顔を向けられない。
あぁ、怖いんだ……。
銘雪の顔を見るのが怖い。
自分の今の表情を見られるのが怖い。
きっと今の私の表情は、今まで誰にも見せたことがないくらい酷い表情をしているから。
目の前の景色がぼやける。
頰から涙が伝っていくのを感じる。
私は息を勢いよく吸い、涙がこれ以上零れないように上を向く。
銘雪が瑞稀のことが好きなのは普段の彼を見ていればよく分かる。
瑞稀と銘雪は両想い。
私が振られることなんて分かっていた。
叶わない恋をずっと引きずって辛い思いをし続けるくらいなら、いっそのこと振られてしまえば楽になれるのに……ずっとそう思っていた。
それなのに――
「好き……」
どうしてこんなにも辛いのだろう――
「好き……」
隣を歩いている日光が突然呟いた。
弱々しく小さな、しかし、それでいてはっきりと僕に聞こえる声で。
一瞬驚いてしまったものの、すぐに冷静になる。
これはあれだ。さっきの質問に対する僕の受け答えが好きという意味だろう。
いや、話の流れからして絶対にそうだ。
危ない危ない。林間学校の時に楓に好きと言われ、変な勘違いをして痛い思いをしたというのにまた同じ過ちを繰り返すところだった。
「貴方が……好き…………」
先程よりも小さい声で、しかし、僕に届くくらいの声の大きさで日光は呟く。
日光の顔は頰が紅く染まり、瞳には今にも溢れてしまいそうなくらいに涙が浮かんでいた。
そんな彼女の表情から人柄としてとか友人としての好きではないことなど明白だった。
「銘雪のことが好き……」
日光の目から涙が零れる。
僕の心臓は今にも飛び出てしまうのではないかと思ってしまうくらい早鐘を打っている。
……僕は瑞稀さんのことが好きだ。
だから、日光とは付き合う事は出来ない。
僕は今からどうすればいいのだろう?
何も言わずに走って逃げる?
聞いていなかったふりをする?
曖昧な返事をする?
…………そんな事は絶対に出来ない。
それらは全部、日光の想いを踏みにじる最低の行為だ。
「好き……」
日光は今までで、1番はっきりとした声でそう呟いた。
その言葉に僕は胸が締め付けられる。
日光を傷付けない方法。
それは、ここで日光の告白を受け入れて彼女と付き合う以外に他ないだろう。
だけど……それはできない……。
…………僕の答えは最初から出ていた。
いや、僕にはもうそれしか選択肢が残されていないと言った方が正しいのかもしれない。
でも、これは絶対に日光を傷付けるもの。
僕は覚悟を決めて、口を開く。
「…………ごめん」
隣を歩いている銘雪がそう呟いた。
その声は震えている。
たったの3文字。
その3文字の言葉にどれだけ悩み、どれほどの覚悟を持って口に出してくれたのだろう。
それにしても、ごめん……か…………。
私は振られたんだ……。
………………あぁ、分かっていた。分かっていたはずなのに……。
涙が溢れ出して止まらない。
何度も何度も拭うが、次から次へと溢れでる。
気がつくと声を上げて泣いていた。
辛い、その感情だけが私を支配していく。
「も……もうい、いい……から……」
泣いてるせいで上手く言葉を発することが出来なかった。
今すぐにでも逃げ出したい。
もう、好きな人にこれ以上こんな無様な姿を見られたくない。
「もういい……から…………ひ、1人で……帰れるから……」
私は一刻も早くこの場から去るため、走って逃げようとした。
しかし、そんな私の手を銘雪は強く掴んだ。
「それは……出来ない……。今のお前を放っておけるわけないだろ……!」
銘雪は苦しそうな顔をしながらそう言った。
そんな彼の優しさに、私の中で何かがぷつんと切れる音がした。
「もう……放っておいてよ……!」
私は彼の手を振り解く。
「好きでもないくせに……! 私にこれ以上優しくしないでよ……!」
あぁ、みっともない。
本当はこんな事言いたくないのに……。
「貴方が私に優しくされる度に胸が熱くなる……貴方が誰かに優しくしているのを見ると胸がキュッと締め付けられて切なくなる……」
……違う。
私が本当に言いたいのはこんな事じゃない。
「貴方の優しさが……とても苦しいの……」
私が彼に1番伝えたかった事はこんな言葉じゃないはずなのに……。
「だから……これ以上、私に優しくしないで……」
私は俯いたまま言った。
銘雪がどんな表情をしているのか……私は怖くて見ることが出来ない。
銘雪は私の言葉に対して何も返さなかった。
数秒の静寂が辺りを包む。
私は静寂に耐えきれなくなり、逃げるようにこの場を去った。
走って走って、体力の限界が来るまで全速力で走り続けた。
立ち止まって、来た道を振り返ると銘雪は追っては来ていなかった。
私は再び声をあげて泣いた。
告白をすれば、何もかも綺麗さっぱりに無くなると思っていたのに……。
今の私に残っているもの、それは後悔だけだった……。
日光が走り去ってからどのくらいの時間が経ったのだろうか。
日は完全に沈んでしまっているため、辺りは真っ暗になり、空には沢山の星が浮かんでいた。
走り去って行く日光を僕は追いかける事が出来なかった。
僕が追いかけたところで、今の彼女に何もしてあげられない。
きっと、更に彼女を傷付けてしまうことになるだろう。
『貴方の優しさが……とても苦しいの……』
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