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6.7月編
51話 好きな人
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人は何度も失敗して学ぶ生き物だ。
学ばなければ何度も失敗を繰り返す。
僕のように。
「ん? 時計のアラームがうるさいって? そんなのほっとけい!」
僕はやけくそ気味に駄洒落を言った。
みんなの反応は1、2回目に駄洒落を言った時と同じもの。
僕は[ドベは自分が1番面白いと思う駄洒落を言う]という罰ゲームを出した数分前の自分を恨んだ。
だが、3回も同じ罰ゲームをしているというのにずっと無反応を貫かれては僕も立つ瀬がない。
このままでは終われないという気持ちが、ついつい湧き上がってしまう。
「ん? 時計のアラームがうるさいって? そんなのほっとけい!」
誰かが反応してくれるまで、僕は同じ駄洒落を言い続ける事を決めた。
しかし、みんなの反応は何も変わらない。
だが、僕はしょげない。諦めない。学ばない。
「ん? 時計のアラームがう――」
「ゆっちゃん、もう大丈夫だから……充分面白いから……」
はっちゃんは涙目で僕の肩を掴む。
「俺が悪かった……俺があんな罰ゲームを出したばっかりに……挙句の果てに考えるのが面倒かったという理由で2回目もあんな罰ゲームを……すまん……」
晴矢も僕の空いている肩を掴んだ。
「り、陸さん、私もすごく面白かったと思いますよ」
「私もそう思います」
「ボクもあまりの面白さにリアクションが取れなかったよ」
みんなから投げかけられる優しい言葉の数々。
僕の目の前に広がる優しい世界。
今はその優しさが途轍もなく痛い。
「時間的に次のゲームで最後だな」
晴矢がリビングに掛けてある時計を見て言った。
時間は午後5時45分くらいであり、遊び始めてからかれこれ1時間45分が経過していた。
「結局後半はずっと遊びっぱなしだったね」
楓は笑いながら言った。
「まぁ、いいんじゃない。明日明後日は学校が休みだから好きなだけ勉強できるんだし」
日光の言葉にみんなそうだなと頷く。
「そういやぁ、さっきの1位はたっちゃんだっけ。それじゃあ最後の罰ゲームを決めてくれい」
さっきのゲームは僕がドベで橘が1位だった。
橘は今回初の1位であり、初の罰ゲームを出す。
いったいどんな罰ゲームを出すのだろうか。
「次で最後ですか……なら……」
橘はそこで言うを止め、苦虫でも噛み潰したような険しい表情をした。
「どうした?」
僕に声をかけられ橘はハッとし、いつもの表情へと戻る。
「あぁ、いえ……最後の罰ゲーム、ドベだった人が好きな異性の本名を言う、でどうでしょうか?」
橘が罰ゲームを提案した瞬間にみんなの表情は一気に曇る。
「ダメでしょうか?」
「ダメでしょうかってお前……しかも、この罰ゲームには欠点がある。誰もその人の本当の好きな人を知らなかったら、嘘をついていても分からないぞ」
「それは大丈夫です。女性の方々の好きな人は私が林間学校で聞いていますので。それに私の好きな人も皆さんには教えていますよ」
「それなら別に罰ゲームなんかしなくても」
「私が知りたいのは男性の方々の好きな人です」
「だったら男子がドベだったら好きな異性を言うで女子がドベだったら違う罰ゲームをしたらいいんじゃないか?」
「陸さん、どうしたのですか? やけに突っかかってきますね……男性の方々は女性の方々の好きな人を知りたくないのですか?」
「それは……」
僕はそこで口ごもる。
正直にいうと知りたいとは思う。
だけど、罰ゲームで好きな人をバラすのはやり過ぎなような気もするのだ。
「俺は知りたいぜ」
言い淀んでいる僕とは違い、はっちゃんははっきりと言った。
「俺はゆっちゃんとはるちゃんの好きな人を知っている。はるちゃんは俺の好きな人を知っている。つまり、全員嘘はつけない訳だ」
はっちゃんはそう言いながらカードをシャッフルし、みんなへと配った。
「俺はやるぜ。みんなはやらねぇのか? それともなんだ……もしかして好きな人がこの場にいるのか?」
はっちゃんは煽るようにみんなへと言った。
普段のはっちゃんなら絶対に言わないような言葉に僕は違和感を覚える。
「別にそういうわけではないけど……」
「やっぱり恥ずかしいよね……」
女子達は橘以外、みんな困った表情をしている。
「どうしたんだよはっちゃん。なんかおかしいぞ」
「それはこっちの台詞だぜ。ゆっちゃんは好きな人がこの場にいるわけでもねぇのになんでそんなに反対するんだ?」
はっちゃんはおどけた様子で僕へと言う。
しかし、僕を見る目はふざけてなどいなかった。
はっちゃんは僕へと何かを伝えようとしている。
だけど、僕はそれが何か分からない。
口振りからするに、とりあえずは罰ゲームに賛同した方がいいのだろうか……。
「……分かったよ。僕もやるよ」
僕ははっちゃんの挑発に乗ったように見せかけながら罰ゲームへと賛同する。
「陸と翔がいいなら俺もいいぜ」
晴矢も僕達に続いた。
これで男は全員賛同したことになる。
「女性の皆さんはどうですか?」
「……分かった。ボクもやるよ」
「私もやります」
橘の問いに楓と薊ははっきり応えた。
しかし、日光と瑞稀さんは未だに迷っているようだ。
「もし、お二方が嫌なら違う罰ゲームにしますが……」
みんなの視線が2人へと集まる。
「…………分かったわ」
みんなの視線に耐え切れなくなったのか、日光はため息を吐きながら賛同した。
瑞稀さんは渋々といった様子で頷く。
「よしっ、それじゃあゲームスタートだ」
はっちゃんの合図でみんなカードを額の位置へと上げた。
罰ゲームが罰ゲームのため、今までとは空気が違う。
さっきまではわいわいとした楽しい雰囲気だったのに、今はヒリヒリとした締まった空気を感じる。
ポッキーゲームの時よりも重い。
数秒間の無言が続く。
そして、ある男が口を開いた。
「はるちゃんは9、にっちゃんは10、みずっちゃんはQ、いっちゃんはA、あっちゃんはK、たっちゃんは7、ゆっちゃんは4だ」
はっちゃんは急にみんなのカードを言い始めた。
「ゆっちゃん、カードを交換しないと負けるぜ?」
はっちゃんは真剣な表情で僕へと言った。
その言葉に嘘はないのかもしれない。
多分僕のカードは4だろう。
しかし……僕ははっちゃんの言葉を信じ切れない。
「八手、貴方何を言ってるの? 瑞稀は2じゃない。このままだと瑞稀が負けるわよ」
日光がはっちゃんを睨みながら言った。
そう、瑞稀さんのカードは本当は2なのだ。
瑞稀さん以外のカードは本当の事を言っていた。
それなのに瑞稀さんだけ……まさか……。
この時、僕は気付いてしまった。
はっちゃんがこの罰ゲームを勧めた理由。
それは、瑞稀さんの好きな人を僕に教えるため。
でも、多分カードが2なのは偶然だろう。
はっちゃんがシャフルし、配っていたため絶対とは言い切れないが……。
まぁ、このまま瑞稀さんがカードを交換しなければ彼女がドベになり、好きな人を知ることができる。
はっちゃんは僕のために瑞稀さんを落とすつもりだ。
でも、僕は……。
「紅葉君……瑞稀君が強いカードだからって嘘はいけないんじゃないかな?」
「瑞稀さんはQですよ」
楓と橘が日光へと言う。
その2人の表情はいつもの穏やかなものとは違って、かなり険しい。
「な……私が瑞稀を落とそうとするわけないじゃない!」
日光は机を叩き、声を荒げながら言った。
日光、橘、楓の3人は睨み合う。
そんな3人を見て、瑞稀さんは戸惑いの様子を見せる。
「皆さん落ち着きましょうよ。これはゲーム、遊びなんですから……」
空気がだんだん重苦しいものへとなっていく中、薊は場を落ち着かせるため宥めるように言った。
「彩芽ちゃん……このカードは何なの?」
瑞稀さんは不安そうな顔をして薊へと聞く。
「それは……Qです……」
薊は申し訳なさそうな表情で嘘を付いた。
瑞稀さんがカードを交換しなければ、自分のカードが何であれ負ける事は無い。
ここで嘘をつくのは仕方ない事だろう。
しかし、これで日光以外のみんながQと言ったことになる。
それにより、瑞稀さんは更に戸惑った表情を見せた。
瑞稀さん的には日光が嘘を付いてるとは思いたくはないのか、まだ何も言っていない僕と晴矢へ、自分のカードが何かを聞くため視線を移す。
「そのカードは2だ」
晴矢は本当の事を言った。
数的に少しでも均等側に持ってきて、僕の言葉で瑞稀さんがカードの交換を決定できるようにしたかったのだろうか。
「りっくん……」
瑞稀さんは僕を見つめる。
その目には涙が浮かんでいた。
ただの遊びの罰ゲーム。
本当に好きな人の名前を言わずに嘘を付いたところで、誰も指摘はしない……はず……そうと信じたい。
しかし、嘘を指摘されるされない以前に、瑞稀さんの性格から考えると、彼女は本当に好きな人を言ってしまうだろう。
今、瑞稀さんがカードを交換するかどうかの決定権は僕が握っている。
ここで本当の数を教えてあげても、2と言っているのは3人、Qと言っているのが4人と、数的には不利な事には変わりない。
それでも、僕が本当の事を言えば、瑞稀さんはカードを交換してくれると僕はなぜか確信を持って言える。
しかし、ここで嘘を付けば、僕は瑞稀さんの好きな人を知る事が出来る。
僕は…………。
「瑞稀さんのカードは……2だ」
僕はこんなもので、大切な人の好きな人を知る事を望まない。
瑞稀さんは僕の言葉を聞き、すぐにカードを捨てる。
しかし、新しく引いたカードは2の次に弱い3だった。
「瑞稀さん、それもダメだ」
さっき捨てたカードが2であり、僕が本当の事を言っていると信じてくれているのか、瑞稀さんは早々とカードを交換する。
しかし、新しく引いた最後のカードも5と弱いものだった。
「りっくん……」
「5だ……」
僕の言葉を聞き、瑞稀さんは不安そうな表情をして、軽く唇を噛み締めた。
僕のカードが本当にはっちゃんが言っていた4なのかはまだ分からない。
本当に4ならば、このまま終われば僕がドベで終わる。
しかし、はっちゃんの言葉が嘘であり、僕のカードが6以上だった場合、このまま終わってしまえば瑞稀さんがドベになってしまう。
「ゆっちゃん、カードを交換しないとドベになるぜ?」
固まったまま止まっていた僕を、はっちゃんが心配そうな目で見つめていた。
はっちゃんは瑞稀さんを落とすために彼女に嘘を付いた。
しかし、瑞稀さんを僕は庇った。
はっちゃんは僕が弱いカードでドベになろうとしている事を分かっているはず。
なら、普通だったらここは瑞稀さんをドベにするために、僕のカードが強いものだと言い、僕がカードを交換するように仕向けるのではないだろうか?
しかし、それをしないということは僕のカードは本当は強いのか?
それとも裏をかいて、本当は4なのに僕が強いカードを持っていると思わせるために……
「翔さん、何言ってるんですか? 陸さんのカードはKですよ」
「2人とも嘘はいけないな。陸のカードは5だよ」
橘と楓が僕に向けてそう言った。
ただでさえ頭の中で色々な考えがぐるぐる回っているというのに、みんながみんな言っている事がばらばらで更に混乱してしまう。
もし、楓が言ってる事が本当なら僕と瑞稀さんのカードは同じであるため、このままだと2人ともドベになる。
それだけは絶対に避けなければならない。
「日光、このカードは何だ?」
日光は瑞稀さんに本当の事を言っていた。
僕にも本当の事を教えてくれるとは限らないが……それでも、今は出来るだけ沢山の情報が欲しい。
しかし、日光から返ってきた応えは予想外のものだった。
「……教えないわ」
「な……」
僕はまだ僕のカードについて何も言っていない薊の方を向く。
しかし、薊も口元にばってんを作るだけで何も言ってくれなかった。
僕は助けを求めて晴矢の方を見る。
「お前のカードはQだよ」
晴矢は僕の目をじっと見据え、そう言った。
晴矢は僕がわざとドベになろうとしている事を分かってくれているはずだ。
だから、僕が4以下のカードを持っているなら、それを交換しなくてもおかしくないように、わざと強いカードだと嘘をつくだろう。
つまりはこれは4であっているということ……に……。
「……なぁ、晴矢。もう一回だけ僕のカードを教えてくれないか?」
晴矢は僕の質問に訝しげな顔をする。
「Qだ」
晴矢はさっきよりも少し大きい声で言った。
僕がなぜもう1度カードの確認をしたのか。
それは、晴矢のカードを持っていない方の手を確認するためだ。
晴矢がQと言った時、カードを持っていない彼の手は開かれていた。
はっちゃんはポッキーゲームの時に、晴矢は嘘をつく時にカードを持っていない手を握りしめる癖があると言っていた。
それがハッタリか本当かは分からない。
しかし、晴矢はあの時、その癖に心当たりがあったのか歯ぎしりをしていた。
つまりは晴矢が今言っているQが本当の僕のカードということになる。
だけど、それだとおかしい。
強いカードだと言われたのに、それを信じてカードを捨ててしまったら、わざとドベになろうとしているのがみんなにバレてしまう。
バレずにカードを交換するためには、今の晴矢の発言を疑って捨てるという素振りを見せなければならない。
しかし、今の晴矢には僕を疑わせるような何かはなかった。
……どういうことだ?
だんだん頭の中がこんがらがっていく。
…………結局、晴矢の言葉も僕のカードを知る決定打にはならなかった。
僕は最後の頼みである瑞稀さんの方を向いた。
僕が瑞稀さんを最後まで置いておいたのには理由がある。
正直、瑞稀さんには聞きたくはなかった。
それは、彼女が本当のことを僕に教えてくれるだろうと信じているからこそだ。
本来ならば、瑞稀さんが弱いカードと教えてくれたとして、彼女を信じるならカードを捨て、強いカードだと教えてくれたならば、交換しなかったらいいだろう。
しかし、今の僕にはそれが出来ない。
僕は勝たなければいけない勝負にわざと負けよとしている。
瑞稀さんが4以下のカードだと言ったらそのまま勝負をして、6以上のカードだと言ったら交換をする。
瑞稀さんに聞く以上、彼女の言葉を絶対に疑うふりをしなければならないのだ。
「瑞稀さん……」
「それは……4だよ……」
瑞稀さんは重々しい表情をしながら僕へと言った。
さっき僕は瑞稀さんに本当の事を教えた。
だから瑞稀さんも僕がカードを交換するのを覚悟しながらも、本当の事を教えてくれたに違いない。
だから重々しい表情をしながら言ったのだろう。
「そうか……ありがとう瑞稀さん。でも……ごめん……やっぱり晴矢を信じるよ。僕はカードを交換しない」
僕は視線を目の前にある机に落として言った。
今は誰の顔も見たくはなかった。
「ゆっちゃん、本当にいいのか?」
「あぁ……」
「他に交換する人は……いないみたいだな……」
みんながカードを公開していく。
僕もカードを机の上に置いた。
僕が机に置いたカード、それは、はっちゃんや瑞稀さんが言っていた4だ。
つまりは……。
「最後のゲーム。ゆっちゃんがドベだな……それじゃあ罰ゲームの方を……」
僕は未だに視線を上げてはいない。
しかし、みんなの視線が僕に集中しているのが分かる。
「僕の好きな人は……」
あまりの緊張感で心臓が早鐘を打つ。
「僕の好きな人は……」
僕は勢いよく手を合わせ、頭を深々と下げた。
「ごめん! 本当はいないんだ!」
これが僕の選んだ答えだった。
他の人の好き人を知ろうとしておきながら、いざ自分がドベになったら逃げる。
これがどれだけ許されない行為なのかは理解している。
しかし、罰ゲームなんかで告白なんてしたくはない。
かといって本当に好きな人がいる前で嘘の好きな人を作るのも嫌だった。
「あーあっ、だからゆっちゃんをドベにはさせたくなかったのに……」
「なんだ翔、陸がドベになるのが嫌だったのか? 俺は平和に終わらすためには、好きな人がいない陸をドベにさせるしかないと思ったんだがな」
晴矢とはっちゃんは僕の意図を汲み取ってくれており、僕の好きな人がいないという嘘に全力でのかかってくれた。
しかし、女子達はどうだろうか……。
あのゲームは真剣そのものだった。
なのに結果がこれだ。
こんな終わり方で納得はしてもらえないだろうなと思いつつ、僕は恐る恐る顔を上げる。
「好きな人がいないなら仕方がないね。うん、仕方がない」
「たかが遊びの罰ゲーム。私だって本気で好きな人を教える気なんてさらさらなかったし、別にいいんじゃない?」
「ええっ⁈ 私は本気で言うつもりだったのに……」
「瑞稀は真面目過ぎなのよ」
顔を上げた僕を待っていたもの、それはつい数分前の重苦しい雰囲気が嘘だったかと思うくらいに、いつも通りのみんなだった。
ただ1人、橘を除いてはだが……。
「好きな人はいない、ですか……面白くないですね……」
きっと、近くにいた僕にしか聞こえていないぐらいの声量で橘は呟く。
その表情からは落胆の色がうかがえた。
「それにしても、もうこんな時間か……そろそろ帰らねぇとな」
晴矢は壁に掛かってある時計を見ながら言った。
時刻は既に午後の6時を回っている。
みんなは帰るために各々の勉強道具が入った鞄を持ち、玄関へと移動した。
「今日は楽しかったな。それじゃあ、また月曜日」
はっちゃんはそう言った後、手を振りながら僕の家から出て行く。
そして、はっちゃん以外のみんなも、僕と橘に挨拶を交わした後、はっちゃんに続いて僕の家から出て行った。
学ばなければ何度も失敗を繰り返す。
僕のように。
「ん? 時計のアラームがうるさいって? そんなのほっとけい!」
僕はやけくそ気味に駄洒落を言った。
みんなの反応は1、2回目に駄洒落を言った時と同じもの。
僕は[ドベは自分が1番面白いと思う駄洒落を言う]という罰ゲームを出した数分前の自分を恨んだ。
だが、3回も同じ罰ゲームをしているというのにずっと無反応を貫かれては僕も立つ瀬がない。
このままでは終われないという気持ちが、ついつい湧き上がってしまう。
「ん? 時計のアラームがうるさいって? そんなのほっとけい!」
誰かが反応してくれるまで、僕は同じ駄洒落を言い続ける事を決めた。
しかし、みんなの反応は何も変わらない。
だが、僕はしょげない。諦めない。学ばない。
「ん? 時計のアラームがう――」
「ゆっちゃん、もう大丈夫だから……充分面白いから……」
はっちゃんは涙目で僕の肩を掴む。
「俺が悪かった……俺があんな罰ゲームを出したばっかりに……挙句の果てに考えるのが面倒かったという理由で2回目もあんな罰ゲームを……すまん……」
晴矢も僕の空いている肩を掴んだ。
「り、陸さん、私もすごく面白かったと思いますよ」
「私もそう思います」
「ボクもあまりの面白さにリアクションが取れなかったよ」
みんなから投げかけられる優しい言葉の数々。
僕の目の前に広がる優しい世界。
今はその優しさが途轍もなく痛い。
「時間的に次のゲームで最後だな」
晴矢がリビングに掛けてある時計を見て言った。
時間は午後5時45分くらいであり、遊び始めてからかれこれ1時間45分が経過していた。
「結局後半はずっと遊びっぱなしだったね」
楓は笑いながら言った。
「まぁ、いいんじゃない。明日明後日は学校が休みだから好きなだけ勉強できるんだし」
日光の言葉にみんなそうだなと頷く。
「そういやぁ、さっきの1位はたっちゃんだっけ。それじゃあ最後の罰ゲームを決めてくれい」
さっきのゲームは僕がドベで橘が1位だった。
橘は今回初の1位であり、初の罰ゲームを出す。
いったいどんな罰ゲームを出すのだろうか。
「次で最後ですか……なら……」
橘はそこで言うを止め、苦虫でも噛み潰したような険しい表情をした。
「どうした?」
僕に声をかけられ橘はハッとし、いつもの表情へと戻る。
「あぁ、いえ……最後の罰ゲーム、ドベだった人が好きな異性の本名を言う、でどうでしょうか?」
橘が罰ゲームを提案した瞬間にみんなの表情は一気に曇る。
「ダメでしょうか?」
「ダメでしょうかってお前……しかも、この罰ゲームには欠点がある。誰もその人の本当の好きな人を知らなかったら、嘘をついていても分からないぞ」
「それは大丈夫です。女性の方々の好きな人は私が林間学校で聞いていますので。それに私の好きな人も皆さんには教えていますよ」
「それなら別に罰ゲームなんかしなくても」
「私が知りたいのは男性の方々の好きな人です」
「だったら男子がドベだったら好きな異性を言うで女子がドベだったら違う罰ゲームをしたらいいんじゃないか?」
「陸さん、どうしたのですか? やけに突っかかってきますね……男性の方々は女性の方々の好きな人を知りたくないのですか?」
「それは……」
僕はそこで口ごもる。
正直にいうと知りたいとは思う。
だけど、罰ゲームで好きな人をバラすのはやり過ぎなような気もするのだ。
「俺は知りたいぜ」
言い淀んでいる僕とは違い、はっちゃんははっきりと言った。
「俺はゆっちゃんとはるちゃんの好きな人を知っている。はるちゃんは俺の好きな人を知っている。つまり、全員嘘はつけない訳だ」
はっちゃんはそう言いながらカードをシャッフルし、みんなへと配った。
「俺はやるぜ。みんなはやらねぇのか? それともなんだ……もしかして好きな人がこの場にいるのか?」
はっちゃんは煽るようにみんなへと言った。
普段のはっちゃんなら絶対に言わないような言葉に僕は違和感を覚える。
「別にそういうわけではないけど……」
「やっぱり恥ずかしいよね……」
女子達は橘以外、みんな困った表情をしている。
「どうしたんだよはっちゃん。なんかおかしいぞ」
「それはこっちの台詞だぜ。ゆっちゃんは好きな人がこの場にいるわけでもねぇのになんでそんなに反対するんだ?」
はっちゃんはおどけた様子で僕へと言う。
しかし、僕を見る目はふざけてなどいなかった。
はっちゃんは僕へと何かを伝えようとしている。
だけど、僕はそれが何か分からない。
口振りからするに、とりあえずは罰ゲームに賛同した方がいいのだろうか……。
「……分かったよ。僕もやるよ」
僕ははっちゃんの挑発に乗ったように見せかけながら罰ゲームへと賛同する。
「陸と翔がいいなら俺もいいぜ」
晴矢も僕達に続いた。
これで男は全員賛同したことになる。
「女性の皆さんはどうですか?」
「……分かった。ボクもやるよ」
「私もやります」
橘の問いに楓と薊ははっきり応えた。
しかし、日光と瑞稀さんは未だに迷っているようだ。
「もし、お二方が嫌なら違う罰ゲームにしますが……」
みんなの視線が2人へと集まる。
「…………分かったわ」
みんなの視線に耐え切れなくなったのか、日光はため息を吐きながら賛同した。
瑞稀さんは渋々といった様子で頷く。
「よしっ、それじゃあゲームスタートだ」
はっちゃんの合図でみんなカードを額の位置へと上げた。
罰ゲームが罰ゲームのため、今までとは空気が違う。
さっきまではわいわいとした楽しい雰囲気だったのに、今はヒリヒリとした締まった空気を感じる。
ポッキーゲームの時よりも重い。
数秒間の無言が続く。
そして、ある男が口を開いた。
「はるちゃんは9、にっちゃんは10、みずっちゃんはQ、いっちゃんはA、あっちゃんはK、たっちゃんは7、ゆっちゃんは4だ」
はっちゃんは急にみんなのカードを言い始めた。
「ゆっちゃん、カードを交換しないと負けるぜ?」
はっちゃんは真剣な表情で僕へと言った。
その言葉に嘘はないのかもしれない。
多分僕のカードは4だろう。
しかし……僕ははっちゃんの言葉を信じ切れない。
「八手、貴方何を言ってるの? 瑞稀は2じゃない。このままだと瑞稀が負けるわよ」
日光がはっちゃんを睨みながら言った。
そう、瑞稀さんのカードは本当は2なのだ。
瑞稀さん以外のカードは本当の事を言っていた。
それなのに瑞稀さんだけ……まさか……。
この時、僕は気付いてしまった。
はっちゃんがこの罰ゲームを勧めた理由。
それは、瑞稀さんの好きな人を僕に教えるため。
でも、多分カードが2なのは偶然だろう。
はっちゃんがシャフルし、配っていたため絶対とは言い切れないが……。
まぁ、このまま瑞稀さんがカードを交換しなければ彼女がドベになり、好きな人を知ることができる。
はっちゃんは僕のために瑞稀さんを落とすつもりだ。
でも、僕は……。
「紅葉君……瑞稀君が強いカードだからって嘘はいけないんじゃないかな?」
「瑞稀さんはQですよ」
楓と橘が日光へと言う。
その2人の表情はいつもの穏やかなものとは違って、かなり険しい。
「な……私が瑞稀を落とそうとするわけないじゃない!」
日光は机を叩き、声を荒げながら言った。
日光、橘、楓の3人は睨み合う。
そんな3人を見て、瑞稀さんは戸惑いの様子を見せる。
「皆さん落ち着きましょうよ。これはゲーム、遊びなんですから……」
空気がだんだん重苦しいものへとなっていく中、薊は場を落ち着かせるため宥めるように言った。
「彩芽ちゃん……このカードは何なの?」
瑞稀さんは不安そうな顔をして薊へと聞く。
「それは……Qです……」
薊は申し訳なさそうな表情で嘘を付いた。
瑞稀さんがカードを交換しなければ、自分のカードが何であれ負ける事は無い。
ここで嘘をつくのは仕方ない事だろう。
しかし、これで日光以外のみんながQと言ったことになる。
それにより、瑞稀さんは更に戸惑った表情を見せた。
瑞稀さん的には日光が嘘を付いてるとは思いたくはないのか、まだ何も言っていない僕と晴矢へ、自分のカードが何かを聞くため視線を移す。
「そのカードは2だ」
晴矢は本当の事を言った。
数的に少しでも均等側に持ってきて、僕の言葉で瑞稀さんがカードの交換を決定できるようにしたかったのだろうか。
「りっくん……」
瑞稀さんは僕を見つめる。
その目には涙が浮かんでいた。
ただの遊びの罰ゲーム。
本当に好きな人の名前を言わずに嘘を付いたところで、誰も指摘はしない……はず……そうと信じたい。
しかし、嘘を指摘されるされない以前に、瑞稀さんの性格から考えると、彼女は本当に好きな人を言ってしまうだろう。
今、瑞稀さんがカードを交換するかどうかの決定権は僕が握っている。
ここで本当の数を教えてあげても、2と言っているのは3人、Qと言っているのが4人と、数的には不利な事には変わりない。
それでも、僕が本当の事を言えば、瑞稀さんはカードを交換してくれると僕はなぜか確信を持って言える。
しかし、ここで嘘を付けば、僕は瑞稀さんの好きな人を知る事が出来る。
僕は…………。
「瑞稀さんのカードは……2だ」
僕はこんなもので、大切な人の好きな人を知る事を望まない。
瑞稀さんは僕の言葉を聞き、すぐにカードを捨てる。
しかし、新しく引いたカードは2の次に弱い3だった。
「瑞稀さん、それもダメだ」
さっき捨てたカードが2であり、僕が本当の事を言っていると信じてくれているのか、瑞稀さんは早々とカードを交換する。
しかし、新しく引いた最後のカードも5と弱いものだった。
「りっくん……」
「5だ……」
僕の言葉を聞き、瑞稀さんは不安そうな表情をして、軽く唇を噛み締めた。
僕のカードが本当にはっちゃんが言っていた4なのかはまだ分からない。
本当に4ならば、このまま終われば僕がドベで終わる。
しかし、はっちゃんの言葉が嘘であり、僕のカードが6以上だった場合、このまま終わってしまえば瑞稀さんがドベになってしまう。
「ゆっちゃん、カードを交換しないとドベになるぜ?」
固まったまま止まっていた僕を、はっちゃんが心配そうな目で見つめていた。
はっちゃんは瑞稀さんを落とすために彼女に嘘を付いた。
しかし、瑞稀さんを僕は庇った。
はっちゃんは僕が弱いカードでドベになろうとしている事を分かっているはず。
なら、普通だったらここは瑞稀さんをドベにするために、僕のカードが強いものだと言い、僕がカードを交換するように仕向けるのではないだろうか?
しかし、それをしないということは僕のカードは本当は強いのか?
それとも裏をかいて、本当は4なのに僕が強いカードを持っていると思わせるために……
「翔さん、何言ってるんですか? 陸さんのカードはKですよ」
「2人とも嘘はいけないな。陸のカードは5だよ」
橘と楓が僕に向けてそう言った。
ただでさえ頭の中で色々な考えがぐるぐる回っているというのに、みんながみんな言っている事がばらばらで更に混乱してしまう。
もし、楓が言ってる事が本当なら僕と瑞稀さんのカードは同じであるため、このままだと2人ともドベになる。
それだけは絶対に避けなければならない。
「日光、このカードは何だ?」
日光は瑞稀さんに本当の事を言っていた。
僕にも本当の事を教えてくれるとは限らないが……それでも、今は出来るだけ沢山の情報が欲しい。
しかし、日光から返ってきた応えは予想外のものだった。
「……教えないわ」
「な……」
僕はまだ僕のカードについて何も言っていない薊の方を向く。
しかし、薊も口元にばってんを作るだけで何も言ってくれなかった。
僕は助けを求めて晴矢の方を見る。
「お前のカードはQだよ」
晴矢は僕の目をじっと見据え、そう言った。
晴矢は僕がわざとドベになろうとしている事を分かってくれているはずだ。
だから、僕が4以下のカードを持っているなら、それを交換しなくてもおかしくないように、わざと強いカードだと嘘をつくだろう。
つまりはこれは4であっているということ……に……。
「……なぁ、晴矢。もう一回だけ僕のカードを教えてくれないか?」
晴矢は僕の質問に訝しげな顔をする。
「Qだ」
晴矢はさっきよりも少し大きい声で言った。
僕がなぜもう1度カードの確認をしたのか。
それは、晴矢のカードを持っていない方の手を確認するためだ。
晴矢がQと言った時、カードを持っていない彼の手は開かれていた。
はっちゃんはポッキーゲームの時に、晴矢は嘘をつく時にカードを持っていない手を握りしめる癖があると言っていた。
それがハッタリか本当かは分からない。
しかし、晴矢はあの時、その癖に心当たりがあったのか歯ぎしりをしていた。
つまりは晴矢が今言っているQが本当の僕のカードということになる。
だけど、それだとおかしい。
強いカードだと言われたのに、それを信じてカードを捨ててしまったら、わざとドベになろうとしているのがみんなにバレてしまう。
バレずにカードを交換するためには、今の晴矢の発言を疑って捨てるという素振りを見せなければならない。
しかし、今の晴矢には僕を疑わせるような何かはなかった。
……どういうことだ?
だんだん頭の中がこんがらがっていく。
…………結局、晴矢の言葉も僕のカードを知る決定打にはならなかった。
僕は最後の頼みである瑞稀さんの方を向いた。
僕が瑞稀さんを最後まで置いておいたのには理由がある。
正直、瑞稀さんには聞きたくはなかった。
それは、彼女が本当のことを僕に教えてくれるだろうと信じているからこそだ。
本来ならば、瑞稀さんが弱いカードと教えてくれたとして、彼女を信じるならカードを捨て、強いカードだと教えてくれたならば、交換しなかったらいいだろう。
しかし、今の僕にはそれが出来ない。
僕は勝たなければいけない勝負にわざと負けよとしている。
瑞稀さんが4以下のカードだと言ったらそのまま勝負をして、6以上のカードだと言ったら交換をする。
瑞稀さんに聞く以上、彼女の言葉を絶対に疑うふりをしなければならないのだ。
「瑞稀さん……」
「それは……4だよ……」
瑞稀さんは重々しい表情をしながら僕へと言った。
さっき僕は瑞稀さんに本当の事を教えた。
だから瑞稀さんも僕がカードを交換するのを覚悟しながらも、本当の事を教えてくれたに違いない。
だから重々しい表情をしながら言ったのだろう。
「そうか……ありがとう瑞稀さん。でも……ごめん……やっぱり晴矢を信じるよ。僕はカードを交換しない」
僕は視線を目の前にある机に落として言った。
今は誰の顔も見たくはなかった。
「ゆっちゃん、本当にいいのか?」
「あぁ……」
「他に交換する人は……いないみたいだな……」
みんながカードを公開していく。
僕もカードを机の上に置いた。
僕が机に置いたカード、それは、はっちゃんや瑞稀さんが言っていた4だ。
つまりは……。
「最後のゲーム。ゆっちゃんがドベだな……それじゃあ罰ゲームの方を……」
僕は未だに視線を上げてはいない。
しかし、みんなの視線が僕に集中しているのが分かる。
「僕の好きな人は……」
あまりの緊張感で心臓が早鐘を打つ。
「僕の好きな人は……」
僕は勢いよく手を合わせ、頭を深々と下げた。
「ごめん! 本当はいないんだ!」
これが僕の選んだ答えだった。
他の人の好き人を知ろうとしておきながら、いざ自分がドベになったら逃げる。
これがどれだけ許されない行為なのかは理解している。
しかし、罰ゲームなんかで告白なんてしたくはない。
かといって本当に好きな人がいる前で嘘の好きな人を作るのも嫌だった。
「あーあっ、だからゆっちゃんをドベにはさせたくなかったのに……」
「なんだ翔、陸がドベになるのが嫌だったのか? 俺は平和に終わらすためには、好きな人がいない陸をドベにさせるしかないと思ったんだがな」
晴矢とはっちゃんは僕の意図を汲み取ってくれており、僕の好きな人がいないという嘘に全力でのかかってくれた。
しかし、女子達はどうだろうか……。
あのゲームは真剣そのものだった。
なのに結果がこれだ。
こんな終わり方で納得はしてもらえないだろうなと思いつつ、僕は恐る恐る顔を上げる。
「好きな人がいないなら仕方がないね。うん、仕方がない」
「たかが遊びの罰ゲーム。私だって本気で好きな人を教える気なんてさらさらなかったし、別にいいんじゃない?」
「ええっ⁈ 私は本気で言うつもりだったのに……」
「瑞稀は真面目過ぎなのよ」
顔を上げた僕を待っていたもの、それはつい数分前の重苦しい雰囲気が嘘だったかと思うくらいに、いつも通りのみんなだった。
ただ1人、橘を除いてはだが……。
「好きな人はいない、ですか……面白くないですね……」
きっと、近くにいた僕にしか聞こえていないぐらいの声量で橘は呟く。
その表情からは落胆の色がうかがえた。
「それにしても、もうこんな時間か……そろそろ帰らねぇとな」
晴矢は壁に掛かってある時計を見ながら言った。
時刻は既に午後の6時を回っている。
みんなは帰るために各々の勉強道具が入った鞄を持ち、玄関へと移動した。
「今日は楽しかったな。それじゃあ、また月曜日」
はっちゃんはそう言った後、手を振りながら僕の家から出て行く。
そして、はっちゃん以外のみんなも、僕と橘に挨拶を交わした後、はっちゃんに続いて僕の家から出て行った。
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