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6.7月編

46話 集い

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 六道さんに恋愛相談をした次の日の金曜日。
 学校は3日後から始まる期末考査のため午前中で終わり、僕は家に帰るための準備をしていた。 

「来週からテストだ! 今からゆっちゃん家で一緒に勉強しようぜ!」

「嫌だ」

 僕ははっちゃんの方を向かずにきっぱりと断り鞄を肩に背負う。

「え~なんでだよ~別にいいだろう~」

 はっちゃんは僕の体を揺らしながら駄々を捏ね始めた。
 僕は大きなため息を吐き、はっちゃんと向き合う。

「あのな、はっちゃん……今まで一緒に勉強しようぜって言いながらお前と勉強が出来た記憶なんか一度もないんだよ! 毎回毎回トランプやらウイ○レやらモ○ハンやら持って来やがって!」

「そう言いながらゆっちゃんだって最後まで楽しそうにやってたじゃねぇか! それにゆっちゃんは勉強してなくも大体平均点は取れるんだからいいだろ!」

「やっぱり遊ぶ気満々じゃねぇか! 前回の中間考査はお前と遊んでいないのに英語は赤点ぎりぎりだったんだよ。だから今回はマジで英語は勉強しないと不味いんだ。でもな、なによりも一番お前と勉強したくない理由は――」

「おいおい、ぎゃあぎゃあと毎度のことながら騒がしいな。何があったんだ?」

 僕とはっちゃんが言い合いをしている中、晴矢が呆れた顔をしてやってきた。

「こいつが一緒に勉強しようってうるせぇんだよ」

「おぉ、そうか。それは大変だな。じゃあ俺は帰るわ」

 晴矢も勉強が出来ないことを充分理解しているため、早々と帰宅しようとする。
 しかし、逃げようとする晴矢の肩をはっちゃんはがっちりと掴んだ。

「なぁ、はるちゃんもいっ」

「絶対に嫌だ」

「まだ言い切ってもないのに拒否⁈ なぁ~、そんなこと言わずに一緒に勉強しようぜ~」

 どうしても晴矢を帰らしたくないのか、はっちゃんはとうとう晴矢の体に抱きつく。

「うおっ⁈ 気持ち悪いから止めろっ! 早く離れやがれ!」

 晴矢ははっちゃんを振り解こうと必死にもがく。
 しかし、はっちゃんは晴矢をしっかりと抱きしめており、離れる様子はない。
 さあって、今のうちに逃げるか。

「また、馬鹿やってるわね」

 帰ろうとした僕の前に日光が立ち塞がる。

「ちょ、日光すまん。そこを」

「ゆっちゃ~ん……何を逃げようとしてるのかなぁ~」

「ひぃ⁈」

 晴矢の体をしっかり掴みつつ、はっちゃんは僕の肩も掴む。

「くそっ! 離せぇ!」

「いつも通りで楽しそうだね」

「賑やかですね」

「陸さん、早く帰ってご飯にしましょうよ」

 僕たちの周りにぞろぞろと瑞稀さん、薊、橘、いつものメンツが集まってくる。

「今日は何で揉めてるんだい?」

 楓はいつもと同じ笑みを向け僕らへと尋ねる。

「それがさぁ、はるちゃんとゆっちゃんが一緒に勉強しようって言ってるのに……そうだ! いっちゃん達もゆっちゃんの家で一緒に勉強しようぜ!」

「はぁ⁈」

 宿主の許可も取らずにはっちゃんは勝手に女性陣を誘いだす。

「ボクは大丈夫だけど……」

 楓は他の女性陣を見渡す。
 瑞稀さんも日光も薊も、みんな次々に了承していく。

「よっしゃ! じゃあ、今日はゆっちゃんの家でみんなで勉強会だ!」

「ちょ、ちょっと待て!」

「まぁ、聞けよゆっちゃん」

 はっちゃんは僕の肩へ手を回し耳元で囁く。

「ゆっちゃんのために折角みずっちゃんと勉強する機会を作ってやってるんだぜ?」 

「本当か? 僕のためとか言ってるけど遊ぶ気はこれっぽっちもないんだな?」

「………………勿論」

「おい、勿論って言う前に長い間があったけど?」

「大丈夫だって。いくら俺でも大人数で勉強に集中している中で遊びに誘う勇気なんかねぇよ」

 はっちゃんは真剣な表情をしながら言った。
 しかし、いつも「今回は大丈夫」と真剣な表情をしながら言って、結局は遊んでいるため一切信用はできない。

「来週からテストが始まってテストが終わったらもう7月だ。そして、すぐに夏休みが始まるだろ? 夏休みが始まれば部活があるみずっちゃんと遊ぶ機会なんて更に減るだろうし……そうして8月が終わってなんの進展もないまま9月とかに……」

 はっちゃんは言い終わったあと、少し心配そうな表情を浮かべた。
 真面目に勉強するかどうかはさておき、僕のことを考えて瑞稀さんと接する機会を増やそうとしているのは事実だろう。

「……分かったよ」

 僕ははっちゃんから離れ、みんなと向き合う。

「じゃあ、午後から僕の家に集合で」

 僕の言葉にみんなは頷く。

「なぁ……俺も行かないと駄目か……」

 未だはっちゃんに捕まえられている晴矢がげんなりとした顔で聞いてくる。

「「当たり前だ」」

 僕とはっちゃんは声を揃えて言った。
 晴矢はその返答を聞き「だよなぁ……」と言い、観念した顔でため息を吐いた。







 午後1時30分。僕の家のリビングに橘、晴矢、はっちゃん、瑞稀さん、日光、薊、楓、僕の八人が集まった。

「この中で平均的なのは多分陸だろ? さっさと勉強したいし、早く終わらせようぜ」

「はいはい、分かったよ」

 僕は1枚の紙を机の上に置いた。
 1枚の紙、それは前回の中間考査の順位表。
 なぜ僕がみんなに順位表を出しているのからというと、それは、はっちゃんが出した提案によるものだ。
 はっちゃん曰く、誰がどの教科が得意かを把握するためであり、分からないことがあればそれが得意教科の人に教えて貰えばいいとのこと。
 わざわざ順位表を見せる必要もないのでは? と思ったが、見栄を張って嘘を付く可能性があるためとはっちゃんは言っていた。

 さて、僕の中間考査の出来はというと……一番自信のある日本史が1位で現代文と古典が平均点より約20点上。
 理数系教科はだいたい平均点ぐらいだが、コミュニケーション英語と英語1が赤点ぎりぎりで酷い順位となっている。
 総合順位は200人中の69位だ。

「思ってたよりもあれだな……悪くもないし、だからといって良い訳でもないな」

「中途半端ですね」

 晴矢と橘がつまらなそうな顔をして言った。

「そう? 私はいつもの行動からしてもっと低いものだと想像していたけど……日本史も1位だし……」

 そう言いながらも日光はなぜか不満気な顔をしている。

「もういいよな。次に行こう。次に」

 出す前はあまりどうも思わなかったが、色々と言われるとなんだか恥ずかしくなり、僕は早々と自分の順位表を片付ける。

「じゃあ、次は俺が出そう。特にこれといった見所はないが」

 晴矢はみんなに順位表を見せる。
 数学が1位でその他の教科は平均点よりだいたい15点から25点ぐらい上。
 総合順位は200人中の19位。

「何が特に見所がないだ。数学1位だし、総合順位も上の方じゃん」

 晴矢が勉強出来ることは何となく分かっていたが、晴矢の成績表を今まで見たことがなかったので実際どのくらい出来るかは僕は知らなかった。

「俺はこの順位に満足してないんだよ。まぁ、言いたいことは他にも色々とあると思うが、時間が勿体無いから次に行こうぜ」

 晴矢はそう言うとさっさと順位表を片付けた。

「次は私が出したいです!」

 橘は元気よく手を上げる。
 そして、自信満々気に1枚の紙をみんなへと見えるように広げた。

「じゃじゃ~んっ!」

 それは現代文のテストで点数は98点だった。

「う、嘘だろ……2ヶ月前にカツアゲを美味しそうな響とかぬかしてたやつが……」

「ふふんっ。どうせ陸さんは私が超絶お馬鹿ちゃんだと思ってたんでしょうが、裏切らせてもらいましたよ」

 僕が驚いた事で満足したのか、橘は嬉しそうな顔をしている。

「それじゃあ、次に行きましょうか」

「おい、なんでテストの答案用紙だけなんだ?」

 僕の指摘に橘は冷や汗をダラダラと流す。
 そういえば僕は橘の順位表を見たことがない。

「順位表を見せろ!」

「えっと……その……順位表は捨てちゃいました……」

 橘は下の方と僕へと目線を行ったり来たりさせながら言う。
 その間に一回だけ橘が違うところに目線を送ったのを僕は見逃さなかった。
 僕は橘が目線を送った、橘が溜め込んでいるお菓子が入った戸棚へと急いで行き、それを開ける。
 お菓子を掻き分けていくと奥の方に一枚の紙があった。
 僕はその紙を取り出す。

「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! それは見ちゃダメです!」

 橘は焦りながら僕が持っている紙切れを奪い取ろうとする。

「くっ、この……!」

「あっ! ちょっ……だめぇ! り、陸さん……そ、それは……! あっ……」

「離せって……破けるだろうが……!」

「そうは言われても……ああっん……だめぇ………あっ、ああっ……! やんっ!」

「紙を引っ張っているだけなのにさっきから変な声を出すな!」

 なんだか女性陣の視線が痛い。
 しかし、ここまできたらもう引き下がる事は出来ないため、僕は橘と紙の引っ張り合いを続ける。
 そして僕はとうとう橘から成績表を取り上げた。

「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!! ジーザスッ! 神は死んだあっ!」

 神の使いであるお前がその言葉を言ったらダメだろ……。
 さあって、順位の方は……うわぁ…………。

 現代文以外はほぼ壊滅的。
 総合順位も189位で数学に至っては8点と目も当てられないものだった。

 僕はそっと順位表を折りたたみ、元の場所に戻した。

「じゃあ、次にいこうか」

「え? 嘘ですよね? あれだけのことをしたのになかったことにしようとしてます? ちょっと、なんでそんな優しい目で私を見つめるんです? ちょ、陸さん?」

「橘……本当に言っていいのか? 総合順位ひゃくは――」

「次! 次に行きましょう!」

 流石に結果をみんなに知られるのは嫌だったらしく、橘は次へ進めた。

「このままだと時間が掛かっちゃうからいっぺんに出しちゃおうか」

 楓の提案に残りの女性陣たちはみんな頷き、一斉に順位表を公開した。

 瑞稀さんは生物と化学が1位。
 その他の教科も晴矢と同じで平均点よりも高く総合順位が21位。

 楓は古典が1位でその他の教科も3~5位と満遍なく出来、総合順位が3位。

 薊は現代社会が1位。
 その他の教科も晴矢や瑞稀さんと同じで平均点よりそこそこ高く、総合順位が27位。

 そして、日光の目の前には……2枚の紙。
 それは、コミュニケーション英語と英語1のテストでどちらとも点数は96点だった。

「日光……このくだりはさっきやったからもういいんじゃないかな……」

 僕はさっきの橘の惨状がフラッシュバックし、日光に優しく語りかけた。

「得意教科の証明さえできればそれでいいでしょ! あと、言っとくけど私は牡丹よりは悪くないから!」

 日光の言葉に橘は明らかにショックを受けている。
 そして、橘が日光に何かを言おうとしたが、その前に晴矢は2、3度手を叩きみんなの視線を自分へと向けさせた。

「みんなが何が得意か分かったことだし、さっさと勉強を始めようぜ」

 晴矢は勉強道具を取り出し勉強を始めようとする、がしかし日光がそれを止めた。

「何言ってるの。まだ八手のを見てないじゃない。ほら、八手早く出しなさいよ。どうせ出来ないんでしょ?」

「うぇ? いや、俺は以外と出来る方なんだぜ?」

 はっちゃんはそう言いながらも順位表を後ろへと隠しだす。

「はいはい、そういのはいいから早く出しなさいよ」

「やめとけ! 見ない方がいい!」

「そうそう! はっちゃんは分かりきってるから別にいいじゃん!」

 はっちゃんの順位表を見ようとする日光を僕と晴矢は止めにかかる。

「私たちにだけ恥をかかせるのは不公平よ」

「マジでやめとけって! 言い出しっぺがそいつの時点でなんとなくお察し案件だろうが!」

 僕はなんとかして日光を止めようとするが、日光はそれを聞かない。

「どうせ途轍もなく出来ないから仲間を探そうとしたんでしょ。ほら、早く見せなさいよ」

 日光ははっちゃんの元へと行き順位表を取り上げようとする。

「あっ! ちょっ……だめぇ! に、にっちゃん……そこは……いやん!……あぁっ!」

「辞めて。本当に気持ち悪いから」

「あっ。はい……」

 日光の素の気持ち悪いという言葉でかなりのダメージを受けたのか、はっちゃんはあっさりと順位表を奪われた。

「まぁ、流石に最下位はないとおも……」

 日光はあまりの衝撃にはっちゃんの成績表を落とした。
 成績表は机の上に落ち、みんなの視線が集まる。
 そこには総合順位1位の文字。

「賄賂? 賄賂なのね?」

「嘘……ですよね……? 翔さんは私と仲間の筈なんじゃ……」

 日光と橘はありえないものを見るような顔ではっちゃんへと言う。

「二人とも落ち着くんだ……これはきっと……夢なんじゃないかな?」

 楓もショックが凄かったのか、とんでもないことを言い始めた。

「き、きっとこれは上手くできた偽物で、本物は隠し持っているんだよね?」

「そ、そうですよね。八手君、私たちは充分に驚いたのでもうドッキリのネタバラシは大丈夫ですよ」

 あの優しい瑞稀さんと薊にさえドッキリだと疑われる始末。
 はっちゃんは予想していた反応と大分違っていたどころか思ってもなかった反応をされたのか、ショックを受けているのが見て取れる。

「……おかしいな……なんで誰一人として『わぁ! 凄い!』という反応にならないんだろうな……」

 なんだか凄く可哀想だ……。

「夢じゃないし、この順位表は本物だぜ」

「はっちゃんは中学の時からずっとトップなんだ」

 あまりにも見ていられなかったので僕と晴矢が助け舟を出す。
 はっちゃんはそんな僕たちを「お前ら……」と涙目を向けた。

 僕と晴矢がはっちゃんと勉強したくない主な理由はこれだった。
 殆どの時間、僕たちと遊んでいたのにも関わらず、はっちゃんは中学の頃からずっとトップを取り続けていた。
 散々自分から遊びに誘っておいて人の足を引っ張っておきながら自分だけ1位をとるのだ。
 一回、僕と晴矢は逆に全力ではっちゃんとの遊びに乗っかりはっちゃんを僕ら共々道連れにしてやろうとしたが、その時も結局僕らだけが酷い点数を出し、はっちゃんだけが1位を取った。

「中学のテストで毎回1位をとるこいつを見て、俺は勉強が出来るのと頭がいいってのは違うって理解したよ」

「はっちゃんは勉強が出来る。勉強ができるが……きっと、その代わりに色々なものを失ったんだろうな……」

「あれ? もしかして褒ていると見せかけて、俺今罵倒されてる? 1位取ってもこれだけ言われるとか俺はいったいどうすればいいんですかね……」

 はっちゃんは引きつった笑顔を僕と晴矢へと向ける。
 僕たちは彼にかける言葉を一生懸命探したものの結局は見つからず、ただ彼から目を背ける事しか出来なかった。
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