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6.7月編

44話 告白の仕方

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 6月の中旬。
 林間学校から半月程が経ったが、瑞稀さんとの仲はあれから一切進展していない状態だ。
 瑞稀さんは平日部活がある。それに加えて、土日は林間学校前までよく遊んでいた僕、晴矢、はっちゃん、日光、瑞稀さん、橘のメンバーに楓と薊が加わり、更に瑞稀さんとの関わりが減ってしまった。
 こんな状態で進展などするわけがなく今に至る。

「さーて、それじゃあ今から第3回ゆっちゃんの恋愛会議を始めようか!」

 僕と晴矢とはっちゃんしかいない放課後の教室ではっちゃんは元気よく言った。
 ちなみに彼は第3回と声高らかに宣言しているが、今回が初めてである。

「どうせなら第百何回とか大袈裟な数にしろよ」

 僕がそう言うと、はっちゃんは人差し指をちっちっちっと左右交互に振る。

「第3回っていう微妙な数の方が現実感があるだろ」

「現実感がある数字にする意味とは?」

「特にない!」

 それを聞いて呆れた顔をしている僕と晴矢を見てはっちゃんは1人で笑った。
 はっちゃんには林間学校が終わった後、僕の余命のこと、橘が神の使いであることを全て話した。
 晴矢同様すぐに信じてはくれたが、「俺にも早く教えて欲しかったな」と笑いながらも少し悲しそうな表情を見せられた時は胸が痛かった。

「さあって、恋愛会議とか宣言したものの特に話す内容とか何も決めてないから、2人で適当に何か話題を出してくれい」

「と言われてもな……」

 はっちゃんの言葉に困る僕を他所に、晴矢が溜息を吐きながら気だるそうに手を挙げた。

「じゃあ、俺が言わしてもらおうか。林間学校で進展があったとか嬉しそうに言うからいったい何があったのかと思えば、下の名前で呼ぶようになったとか言うんだぜ。ふざけてるよな?」

 言い終わると晴矢はジト目で僕を見つめた。
 その目に耐えきれず僕は晴矢から目を逸らす。

「ま、まぁ、ゆっちゃんなりに頑張ってる方なんじゃねぇのかなぁ……」

 はっちゃんは苦笑する。

「翔は陸に甘過ぎるんだよ。このままのペースだとマジで告白するのがいつになるか分からねぇぞ」

「それもそうだけど……」

 2人が僕にへと視線を向ける。

「いや、告白しようとは思ってるんだよ? でも、どうせならロマンチックな告白がしたいんだ。思い出に残るようなやつ」

「ロマンチックって言うけどお前な……」

 晴矢は僕の言葉に呆れた顔をする。
 そんな余裕はないだろ、とでも言いたいのだろう。
 確かにそんな事を言っている余裕はないのだが、でもシンプルに好きと伝えるのもなんだかありきたりで味気ないような気がするのだ。
 きっと、瑞稀さんにする告白は僕の人生で最後の告白になる。
 好きという気持ちをしっかりと伝えるために何かしたい。
 しかし、今までで告白をされた事がなくした事がない、恋人いない歴=年齢の僕にいい考えなど思い浮かばなかった。

「どういった告白をすればいいか自分ではよく分からないから、何か告白の仕方を考えてくれないか?」

 そうは言ってもな……と晴矢は頭を掻きながら困った表情を見せる。

「俺にいい考えがある……」

 晴矢とは違い、はっちゃんは自信があるのか笑みを浮かべている。
 はっちゃんは以前、数々の女性(ギャルゲー内)を堕としてきたと言っていた。
 これは期待できそうだ。

「好きな相手とどういう事をしたいか、どうなりたいかで告白するのはどうだ? よくあるので言えば、毎朝味噌汁を作って欲しいとか、同じ苗字になってくれませんかとかだな」

「うーん……確かにありだけど、でも例えに出したのって結婚する時のプロポーズだろ? 僕はまだ学生だし、付き合えたらそれでいいからな。どう言ったらいいんだろう……」

「ゆっちゃんの場合ならそうだな……一緒に登下校したい、ってのは友達とでも出来るし……」

 はっちゃんは腕を組みながら目を閉じ考え込む。
 そして数秒が経ち、何かを閃いたのか目をカッと見開けた。

「君に毎日お弁当をあーんしてもらいたい、でいいんじゃね?」

 僕はこいつにいったい何を期待していたのだろう。

「晴矢は何かないか?」

「あれ? もしかして俺の発言をさらりとなかった事にしてる?」

 1人でにショックを受けてるはっちゃんを無視し、僕は晴矢に目で催促を続ける。

「いちいち変わった事をしようとか思わなくてもいいんだよ。好きだ、の一言でいい。シンプルイズザベスト。素朴であるからこそ伝わるもんもあるだろ」

「その心は?」

「考えるのが面倒だ」

 やっぱり晴矢は晴矢だった。
 考えに考えた末にあの答えになったならいいのだが、こいつは絶対に何1つ考えていないだろう。

「もっと真面目に考えてくれよ……こっちは真剣に悩んでるんだからさ」

「じゃあ、今度こそ俺がマジで考えた案を出そう」

「やっぱりさっきのはおふざけだったのかよ」

「悪い悪い。でも次は本当に真面目なやつだから」

 笑いながら謝るはっちゃんに僕は何の期待もせずに「どうぞ」と言う。

「造花を送りながら告白とかどうだ?」

「なんで造花なんだ? 普通は本物の花とかだろ」

「造花って本物の花と違って枯れないからずっと残って記念になるだろ? それに、この花のように僕たちの愛も枯れないって意味でな」

 意外とまともな意見だったため、ついつい「おおっ」という声が漏れ出てしまった。
 はっちゃんも手応えを感じたのか、自信ありげにドヤッた顔をしている。

「造花か……ありかもしれないな」

「そうだな、いいんじゃないか。俺が造花なんて渡されて告白された日には、この花と同じで作り物の愛だよっていう意味かと思うけどな」

 晴矢の言葉に僕とはっちゃんの中の何かがピシッと音を立てる。

「それに今は付き合える前提で話しているが、振られたらたまらないだろ。ずっと残り続けるものだし、造花それを見る度に振られた事を思い出すんだろうな」

「なんではるちゃんはすぐにそうやってぶち壊すような事を言うかなぁ⁈ 人の心ってものがねぇんじゃねぇの⁈」

「そうだそうだ! まともな意見を出さねぇくせに唯一出たまともな意見を酷評するんじゃねぇ!」

「おおっ、どうしたお前ら……落ち着け落ち着け」

 いつもとは違う僕らの迫力に押されたのか、珍しく晴矢が戸惑う。

「思ったんだが……誰か違うやつに相談した方がいいんじゃないか? 俺も翔も陸と同じ恋愛未経験者だ。いい案なんてそうそう出ないだろ」

「そんな事を言われてもこんな事を相談出来るのはお前らぐらいしかいないんだよ。それにそうそう出ない案を潰したのはお前だけどな」

「思った事を言っただけなんだが……」

 僕らの会話はそこで止まり、3人とも黙りこくってしまう。
 時計の針が進む音だけが教室へと響き渡る。
 1分か2分が経ったぐらいであろうか、晴矢が何かを思い出したのか唐突に「あっ」と声を上げた。

「どうした? まさか、いい案が出たのか?」

「あぁ。ある生徒が放課後に多目的室でやっている進路カウンセラーってのが結構評判がいいみたいだからそこに行ってみたらどうだ?」

「それ俺も知ってるぜい。今の3年が1年の時からやってるやつだろ?」

「待て待て待て待て! なんで進路について話に行かなきゃいけないんだよ。僕が悩んでるのは恋愛なんだぞ」

 からかわれていると思い、文句を言う僕を2人はまぁまぁと宥める。

「まぁ聞け。進路カウンセラーを名乗りながらも、一度も進路カウンセリングなんぞしたことがないらしい。今まで恋愛ごとの相談だけを受けてきたって噂だ」

「成就させてきたカップルの数は百を超えると言われてる。元々は進路カウンセラーをするという目的で作られたものだけど、先生方も余りの評判の良さに止められるに止められない状況であると聞くな」

 2人は淡々と言っていくが僕はそんな事を聞いた事など1度もない。

「そんなに有名ならはっちゃんは行ったことがあるのか?」

「勿論俺は行ったことあるぜ。モテる方法を聞きに行ったら追い返されちまったけどな。好きな人が明確でないと協力してくれないらしくて……でもその点はゆっちゃんなら大丈夫だろ」

「誰かさんみたいな結構なお人好しって聞くし、とりあえず行ってこいよ」

 2人に推されながらも僕は少し悩む。
 普通、恋愛相談なんて気心知れた人にしかしないと思うのだ。
 それに、全然関わりを持ったことがない赤の他人に相談するのはなんだか恥ずかしい気がするし、迷惑も掛かるのではないだろうか?

「何を悩んでるのかは知らねぇがこのまま俺らと無駄に長々と話し合うよりは全然マシだろうよ。時間は有効に使わないと、お前には時間がねぇんだから」

「はるちゃん、その言い方は……」

「……うん。分かった。行ってくるよ」

 晴矢の言葉で僕は行く事を決めた。
 晴矢が少しきつい言い方をしてくれたのは僕のことを思ってのことだろう。
 僕の余命は残り10カ月。
 今告白して付き合えたとしても残り10カ月の間しか付き合えない。
 告白が遅くなればなるほど僕らが付き合える時間は短くなっていく。
 こうしている間にも、幸せな時間は刻一刻と減りつつげている。

「1人で行ってくるから2人は先に帰ってくれ。あまり聞かれたくない少し恥ずかしい質問もしたいし、時間も長くなりそうだからさ」

 僕がそう言うと2人は分かったと頷く。
 本当は2人について来て欲しかったがこれ以上僕のために時間をとってもらうのは申し訳なく、また、2人には聞かれたくないことがあったからだ。
 さっきはロマンチックな告白の仕方が分からないから告白出来ないと言ってはいたが、それは七割方の理由であり、告白に踏み出せないのにはまた1つ別の理由があった。
 今まで沢山の恋愛を見届けてきた人。その人なら、もしかしたら僕が悩んでいる事を解決してくれるかもしれない。

「じゃあ、行ってくる」

 2人に手を振り僕は教室のドアを開ける。
 僕は1人多目的室へと向かった。





「じゃあ、行ってくる」

 そう言ったあと陸は教室から出て行った。

「じゃあ、俺たちは先に帰るか」

 陸を見送り手を振り終わった後、俺は帰るために鞄を肩にへと掛ける。

「なぁ……」

 翔が陸が出て行ったドアを眺めたまま、俺に呟く。

「どうした?」

「ゆっちゃんの分かりやすさも大概だけどさ……みずっちゃんも分かりやすいと思うんだよな……」

 翔はまだ陸が出て言ったドアの方を向いているため、どんな表情をしているかは分からない。
 俺は何も言わずに翔の言葉を聞いていた。

「ゆっちゃんさ、本当は気付いてるんじゃねぇの?」

「…………さぁ……どうだろうな……」

 俺もそれについては考えることはあったし思うところもあった。
 しかし、翔の疑問にははっきりとは答えなかった。
 俺らがいくら考えようとも、それは俺らの憶測でしかない。
 陸の考えは陸本人にしか分からないことだ。

「まぁ、なんにせよ俺らがいくら考えたって仕方ねぇだろ。そんな事よりも来週から始まるテストの事を考える方がよっぽど有意義だ。さぁ、早く帰ろうぜ」

 俺の言葉に翔はこちらを向き「あぁ、そうだな」といつも通りの笑顔を返した。
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