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第32章 小さな優しい声で「目が覚めた?」と言った。

32-4 楕円

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 チャイムの音とともに、シートベルト着用のランプが消えた。
 機体は一旦右方向に傾き、それから水平になった。一瞬だけ、午前の太陽の光が真っすぐに差してきて、僕はまぶしさに目を細めた。

「あ、島が見える」と茉莉が言った。「あれわたしたちがいた島かな」

 僕は濡れた綿のように重い体を起こして、丸い窓に顔を近づけた。
 機帆船きはんせんが行き交う群青ぐんじょう色の大洋と、翡翠ひすい色の浅瀬に囲まれた、楕円形をしたマリムラティ島の、いや、クンバンムラティ島の全体が見えた。

 陽光を受けた港市バンダルの街は、金属片をばらまいたみたいにきらめき、蛇行する茶色い川のほとりには、港務長官邸が白く輝いていた。自動車が小さな虫の行列のように、連なってゆっくり走ってゆく。
 王都コタラジャのあたりは、ヤシ園や農地などの緑のモザイクが広がっていて、王宮や広場どころか、街を見分けることさえできなかった。
 そして緑の山並みの向こうには、黄色っぽい火山ガス地帯と、緑と水に満たされた内陸ダラムの、正円形に近い形の盆地が遠くかすんで見えた。

 アディとムラティ王女、アングレック王、港務長官、リニ、キジャン、カイヌウェラン、そしてファジャルたち四姉妹。
 彼らはみんな、あのちいさな大地の上で生きて、そして僕らが生まれる前に死んでいったのだ。

 僕は窓に額をつけて、少しずつ後方に見えなくなっていく島を見つめた。茉莉は僕の背中にくっついて、僕の肩越しに同じ風景を眺めていた。

 僕のしてきたことは、正しかったのだろうか。王女や島の人々を少しでも幸せにしたのだろうか。こうして茉莉と一緒にいられる幸せのために、結局のところ僕は、王女の心に重荷を負わせ、リニに父親を殺させ、ファジャルに自分を撃たせたことになるんじゃないだろうか。

 僕は窓から離れ、またシートにもたれて目を閉じ、唇を噛んだ。
 きっと、たぶん、ファジャルは彼女なりに、僕をほんとうに愛してくれていたのに。

「お兄ちゃん、泣いてるの?」
「……うん」
「辛いことがあったのね?」

 茉莉は左手の指の甲で、僕の涙をぬぐってくれた。左の頬を拭う時、親指の指輪が、僕の唇に当たった。

「ファジャルさん……」
「ふぁ……? なあに?」
「何でもないよ」

 僕は茉莉に微笑んだ。
 でも僕の目からはさらに多くの涙があふれ、もう止めることができなかった。僕は妹のいたわりから逃げるように顔を伏せて、揺れる飛行機の中でずっと声を上げて泣き続けた。
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