南洋王国冒険綺譚・ジャスミンの島の物語

猫村まぬる

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第29章 ジャスミンのノート(その3)

29-1 飛行機は 深夜でもきらきらした都会の上をまわりながら

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 飛行機は 深夜でもきらきらした都会の上をまわりながら 少しずつ下がって チャンギ国際空港に近づいていく。

 ちょっと緊張する。
 シンガポールは2回目だけど 今度は由美子さんがいない。

 わたしひとりで ここからまた 2つも飛行機を乗りかえなきゃいけない。
 
 目的地の島に ちゃんと着けるのか。
 約束した人に ちゃんと会えるのか。
 しなければならないことを できるのか。
 もしできても うまくいくのか。

 ふわふわと たよりない。さっき見た 雲の平原の上を歩くみたいだ。

 でも 夢を信じるしかない。
 お兄ちゃんを 
 お兄ちゃんの手紙を 
 信じるしかない。

 ──────────────

 リョウ君と植物園に行った日の夜 不思議な夢を見た。

 夢の中。
 真っ暗なところで 気がついた。
 硬くて 冷たい 石の台みたいなところで わたしは横になっていた。

 じめじめして お香みたいなにおいがする。

 肩が すーすーする。触ってみたら素肌だった。パジャマじゃなくて コットンっぽい布を一枚 バスタオルみたく胸から下に巻いてるだけだ。

 起き上がったら 薄い光の線が見えた。
 線は たてにまっすぐで 目が慣れると ドアのすきまから来る 外の光だって分かった。
 手さぐりで 石の台を降りる。裸足だったから 床も石なのが 分かった。

 片手で押したら ドアはすぐ開いた。

 汚い部屋だった。
 壁も ゆかも 竹でできてて 全部ススで真っ黒。カゴとかツボとか アンティークみたいなものがいっぱいある。

 部屋のまんなかには 信州の民宿みたいにイロリがあって 外国人のおばあさんが魚を焼いていた。

「お嬢ちゃん もう目が覚めたのかい?」
 おばあさんが言った。
 知らない外国語なのに 意味がわかる。

 おばあさんは インディアンジュエリーみたいなシルバーのネックレスを いっぱいつけてて それがタンクトップみたいに見えるくらいだった。

「おや。あんた お嬢ちゃんじゃないね。」
 おばあさんは 目を丸くして それから 細めた。
「あの子なら そんなにおどおどしない。あんた ミナミの妹だろう?名前は マリと言ったかね。」

 ──────────────

 おばあさんの名前は 「カイヌウェラン」と 言った。お兄ちゃんのことを知ってるという。

「兄はどこですか? 会わせてください。」
「そりゃ無理さね。この小屋の外へ出たところで 泉も 村も無ければ ミナミもいないよ。これは夢だからね あんたとあたしの。」
「夢……。」
「心配はいらん。あんたち兄妹は 世界の裏側をめぐるひもで しっかりと つながっておるから。あんたの兄さんは 必ずあんたのところに帰るよ。ただそのためには あんたも骨折りをせんきゃならん。」
「どうすればいいの? わたし お兄ちゃんが帰ってくるなら なんでもします。」
「難しいこっちゃない」
  カイヌウェランは言った。
「夢を信じるんだよ。いいかい マリ 夢はまことだ。魂が見る まことだ。あんたはよく兄さんの夢を見るだろう?」

 わたしは うなずいた。

「いいかね? マリ。夢はまことだ。夢であんたの兄さんが言うことを ひとつも聞きもらすんじゃないよ。」
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