南洋王国冒険綺譚・ジャスミンの島の物語

猫村まぬる

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第28章 半分崩れた赤茶色の石造りの円塔を探した

28-5 嘆願

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「NO!」
 とマコーミック氏が叫ぶのと、僕が「王女!」と声を上げたのは、ほとんど同時だった。
「お待ちください。どうか」

 素肌に触れるのが不敬なのは分っていたが、僕は王女の肩に手を伸ばした。王女は振り返り、きっ、と僕をにらんだ。
 僕は負けずにその目を見つめ返し、王女の左手をファジャルの肩から引き離し、両手で包むように握って彼女の足元にひざまずいた。

「どうか、王女、命だけはお救いください。悪いのは彼女じゃありません。父親です。それは誰の目にも明らかです」
「ミナミ、あなたがファジャルをかばうことは分かっていたわ。気持ちは察します。だけど彼女の罪は普通の罪ではない、大逆の罪です。外国人のあなたが口を出せることではありません」
「いいえ、王女。私が危険を賭して救った命です。私が拾って彼女に与えた命です。黙っているわけにはいきません。王女もそれをお認めになって、この短剣を下さったではありませんか。今さら外国人などとおっしゃるのですか」

 僕らが言い合っている間に、リニが放心したファジャルを後ろに引きずって行き、さすがに短剣を抜きはしなかったが、王女と女主人との間に立ちはだかった。
 マコーミック氏は拳銃を持った手でしきりに十字を切っている。

 僕は王女の左手を頭上にいただくようにして、理屈ぬきの嘆願たんがんを続けた。

「彼女の生命は僕のものです。活かすも殺すも僕に決める権利ハックがあります。それを奪おうとおっしゃるのなら、代わりに僕の頸を刺してください。どちらでも同じことです」
「姫様、ミナミの言うことにも一理あります」と、アディが言った。「この女はただの木偶人形ゴレックだ。父親の言うとおりに罪も犯し、男も愛するんです。こんな女の血で、姫様の神聖なお手を汚すことはありません」
 アディは、象牙の柄を握った王女の右手をその上から握り、王女の目をのぞき込んだ。
「姫様」

 王女は蒼白そうはくな顔で小さく首を振って、僕らの手を振り払い、短剣を鞘に納めた。そしてファジャルが座っていた椅子にぐったりと座った。

「……リニ」
「はい、姫様」
「港務長官はどこです。隠し立ては無用よ。わたしたちは彼をちゅうしなければなりません」

 リニは、床に座り込んだファジャルの肩を抱いてしばらく黙っていたが、ファジャルがすすり泣き始めると、深いため息をついて言った。
「副王様は、広間で婚約式の準備を指揮されています。国王殿下も、クンボカルノ王子様もご一緒です。英国イングリス公使ドゥタ殿もいます。皆様武器をお持ちです」
「広間に案内なさい」
「はい、姫様」
「ファジャルも連れて行くのよ」
「……はい、姫様」

 リニはファジャルを部屋の隅に連れて行って胸布トゥトゥップダダを巻いてやった。
 そしてアディがシルクの布で両手首を縛った。
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