南洋王国冒険綺譚・ジャスミンの島の物語

猫村まぬる

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第28章 半分崩れた赤茶色の石造りの円塔を探した

28-2 入口

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 丘のふもとに沿って曲がり、海へつながる派流はりゅうを進むと、川面はヒルギやあしの茂みに覆われて、川面と岸辺の見分けがつかなくなった。

 僕は雨覆いの隙間から、水面に立つ、半分崩れた赤茶色の石造りの円塔を探した。
 それが目印だ。その対岸に、館につながるあの地下水路があるはずだ。

「見えたぞ。あれだろう」とマコーミック氏が言った。「あの塔なら知っている。十六世紀にポルトガル人が建てたんだ」

 地下水路の入り口もすぐにみつかった。
 中から見たときに思ったほどヒルギは茂っていなくて、注意深く見ていれば、赤茶色のラテライトの崖に開いた真っ暗な半円形の入り口を見つけることができた。
 もっとも、事前に知らなければ、ただの岩陰としか思わなかったかもしれない。

 警備は思った以上に手薄で、トンネルを入ってすぐのところにつながれた丸木舟に、やりを持った衛士プンジャガが一人いるだけ。しかも横になって熟睡していた。
 アディは短剣を抜いて縄を切り、丸木舟を足でゆっくりと押した。眠った男を載せたまま、舟は川へと流れていった。

 トンネルの中に、あの港務長官家の屋形船は無かった。

 マコーミック氏が小さなランプにマッチで火をつけて、僕に渡した。そして自分はポケットから小型拳銃を出して片手に握った。

 道を知っている僕が先頭を行った。
 左手にランプをさげ、右手には王女から授かった短剣を抜身で持ち、暗闇を切り開くように。
 地下水路に沿った道をしばらく歩き、さらに階段を登りきったところに隠し扉があり、衣装箱の中に出るはずだ。

 やがて階段は終わった。頭の上は木の板で塞がれている。これが、衣装箱の底だ。

 上の部屋には人がいるかもしれない。気づかれたら、すぐにでも口を塞ぐ必要が生じるかもしれない。
 僕にそれができるだろうか。
 この剣で? もし顔見知りだったら?

「俺が先に出る」
 アディが、そう言い終わらないうちに木の板を押し上げ、そのままの勢いで衣装箱のふたも跳ね上げて部屋へ躍り出た。

 アディに続いて上がってきた僕らが見たのは、夜明けの光がすだれ越しに差し込む部屋に、何十個も吊られた色とりどりのガラスのランプと、螺鈿や金箔貼りのいくつもの衣装箱と、中央に置かれた、五人くらい寝られそうな大きなベッドだった。

 ベッドの真ん中では、小学生くらいの小さな女の子が、肩から上をシーツから出して、僕らをじっと見ていた。
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