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第27章 ジャスミンのノート(その2)
27-1 兄のお葬式の 喪主は わたしだった
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兄のお葬式の 喪主は わたしだった。
だけど わたしは何もできなくて 由美子さんたち 兄の会社の人が ほとんどやってくれた。
由美子さんは 兄と仲が良かったらしい(恋愛関係 とかじゃなさそうだ。)けど お兄ちゃんはもう帰って来ないって 最初から あきらめてるみたいだった。
わたしと由美子さんが 結局 何も分からないままシンガポールから 帰ってきた後で インドネシアの コーストガードの船が 荷物とか衣類とか 海に浮かんでいるものを見つけたって連絡があった。
その中に わたしが 一昨年の誕生日にお兄ちゃんにあげた 腕時計があった。
腕時計は ガラスが割れてた。
ライフジャケットのひもに引っかかって 海に 浮かんでたそうだ。何日も。
それでみんな もうお兄ちゃんは死んだって 決めつけてしまった。
びっくりするくらい あっさりと。
喜代子おばさんは 49日までにお葬式をしなきゃいけないって すごい必死で 言い張った。
そうしないと お兄ちゃんは ずっと海の底で泣いてるって。
──────────────
わたしは 兄のために 新しい時計を 買った。
ラッピングしてもらって お仏だんに置いてある。兄が帰って来たら まっ先にこれを あげるつもりだ。
──────────────
お葬式で 喪主のわたしはみんなの前で
「今日は 兄のために ありがとうございます。でも お兄ちゃんは 死んでません。ぜったい 帰ってきます。」
と言い切って わあわあ泣いてしまった。
お寺さんも 親せきも 兄の会社の人も みんな もう死んだと思ってるお兄ちゃんのことより わたしのことを 気にかけてくれた。
年上の女の人たちは かわるがわる わたしの肩を抱いたり 頭をなでたり 背中をぽんぽんしたり 何か言ったりしてから 帰っていった。
最後に由美子さんが帰ったあと 喜代子おばさんが タクシーでわたしをアパートに送ってくれて 「明日また来るからね。気持ちをしっかり持つのよ。」って ホテルに帰って行った。
みんなやさしい。
やさしいけど ひどい。
独りになったわたしは ふらふらと玄関を入ったとこで もう1歩も動けなくなった。
喪服も着たまま 靴もストッキングもはいたままでずるずる その場に座りこんでしまった。
ちらばった わたしと兄の靴の間に座って うとうとして わたしは夢を見た。
──────────────
(夢の記録)
それは サイの川原 みたいなところだった。
なにも無い。だれもいない。どこまでも ずっと灰色の石と 灰色の空ばかりの 荒れ野。
ところどころに 大人の身長より高い 三角コーンみたく石を積み上げた 塔みたいなのがある。
夢の中のわたしは 何才だろう? まだ小さい。
足が傷くて 歩けなくて 男の人の 背中におんぶされていた。
お兄ちゃん?
やっぱり 生きてたのね?
帰って来てくれたのね?
おうちに帰ろうよ。
でも男の人は 何も言わずに 歩いて行く。
砂漠みたいな 灰色の平原を どこまでも どこまでも。
だけど わたしは何もできなくて 由美子さんたち 兄の会社の人が ほとんどやってくれた。
由美子さんは 兄と仲が良かったらしい(恋愛関係 とかじゃなさそうだ。)けど お兄ちゃんはもう帰って来ないって 最初から あきらめてるみたいだった。
わたしと由美子さんが 結局 何も分からないままシンガポールから 帰ってきた後で インドネシアの コーストガードの船が 荷物とか衣類とか 海に浮かんでいるものを見つけたって連絡があった。
その中に わたしが 一昨年の誕生日にお兄ちゃんにあげた 腕時計があった。
腕時計は ガラスが割れてた。
ライフジャケットのひもに引っかかって 海に 浮かんでたそうだ。何日も。
それでみんな もうお兄ちゃんは死んだって 決めつけてしまった。
びっくりするくらい あっさりと。
喜代子おばさんは 49日までにお葬式をしなきゃいけないって すごい必死で 言い張った。
そうしないと お兄ちゃんは ずっと海の底で泣いてるって。
──────────────
わたしは 兄のために 新しい時計を 買った。
ラッピングしてもらって お仏だんに置いてある。兄が帰って来たら まっ先にこれを あげるつもりだ。
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お葬式で 喪主のわたしはみんなの前で
「今日は 兄のために ありがとうございます。でも お兄ちゃんは 死んでません。ぜったい 帰ってきます。」
と言い切って わあわあ泣いてしまった。
お寺さんも 親せきも 兄の会社の人も みんな もう死んだと思ってるお兄ちゃんのことより わたしのことを 気にかけてくれた。
年上の女の人たちは かわるがわる わたしの肩を抱いたり 頭をなでたり 背中をぽんぽんしたり 何か言ったりしてから 帰っていった。
最後に由美子さんが帰ったあと 喜代子おばさんが タクシーでわたしをアパートに送ってくれて 「明日また来るからね。気持ちをしっかり持つのよ。」って ホテルに帰って行った。
みんなやさしい。
やさしいけど ひどい。
独りになったわたしは ふらふらと玄関を入ったとこで もう1歩も動けなくなった。
喪服も着たまま 靴もストッキングもはいたままでずるずる その場に座りこんでしまった。
ちらばった わたしと兄の靴の間に座って うとうとして わたしは夢を見た。
──────────────
(夢の記録)
それは サイの川原 みたいなところだった。
なにも無い。だれもいない。どこまでも ずっと灰色の石と 灰色の空ばかりの 荒れ野。
ところどころに 大人の身長より高い 三角コーンみたく石を積み上げた 塔みたいなのがある。
夢の中のわたしは 何才だろう? まだ小さい。
足が傷くて 歩けなくて 男の人の 背中におんぶされていた。
お兄ちゃん?
やっぱり 生きてたのね?
帰って来てくれたのね?
おうちに帰ろうよ。
でも男の人は 何も言わずに 歩いて行く。
砂漠みたいな 灰色の平原を どこまでも どこまでも。
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