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第25章 ジャスミンのノート(その1)
25-5 お仏壇の 写真のお兄ちゃんに
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お仏壇の 写真のお兄ちゃんに 毎朝「おはよう。」を言う。
「ただいま。」も 「おやすみ。」も。
でもそれは いつもの出張の時と同じ。
まったく同じように わたしは待ってる。
長い出張だ。
でも冷蔵庫にはった日程表の さいごの日付は ずっと前に過ぎてしまった。
──────────────
これ書くの ちょっと迷ったけど。
このノートを 誰も読むこと無いはずだから 書く。
父が死んでから 高1くらいまで(Tくんを好きになった時 やめようと思った) わたしは 時々 兄の布団に入って一しょに寝ていた。
もちろん 変な意味は無い。
さぴしくて 怖くて 寒くて それと お兄ちゃんの体が 冷たくなっていないことを 確かめたかったからだ。
お兄ちゃんは
「茉莉 どうしたの。怖いの?」
とか言って ちょっと横に 動いて スペースを作るだけで 特に なにもしてくれない。
わたしは 兄の腕をつかんで 兄の肩に 鼻とかほっぺたを当てて 眠る。
お兄ちゃんはじっとしている。
なにもしてくれない。けど 温かい。
──────────────
朝になったら いつもわたしは一人で兄の布団の まん中に寝てて 兄はどこか 他のとこで寝てた。
わたしはいつも 少し 兄に悪いことしたような気がした。
──────────────
一回だけ 兄の方から わたしの布団に入ってきたことがある。
たしか 高校受験の冬だった。
もちろん変な意味は ない。絶対あるはずない。わたしを世界で一番 大切にしてくれるお兄ちゃんだ。それはまちがいない。
深夜 わたしが 布団の中で眠れなかったとき 会社から帰ってきたお兄ちゃんが スーツの上着だけ 脱いで ネクタイもしたまま 何も言わないで わたしの布団に入ってきて 背中から わたしを強く 思いっきり ぎゅーっ と抱きしめた。
わたしの頭のてっぺんのとこに 顔を押し当ててきた 兄の呼吸はふるえていた。ちょっと飲んでたのかもしれない。
お兄ちゃん 泣いてる?
と わたしは思った。
兄の腕の力が強くて 息が苦しくて ベルトのバックルが 背中に 強く当たってるのも痛かったけど わたしは 眠っているふりしてた。
怖くないし 嫌でもないけど 不安だった。
いつもは わたしのために 何かしてくれる兄が この時だけは わたしに 何か求めてたから。
お兄ちゃんも辛くて 淋しいんだって わたしを愛することで 自分を支えてるんだって 分かってしまったから。
10分くらいで お兄ちゃんは腕をはなして わたしの頭をなでて そっと布団をかけなおして 行ってしまった。
わたしを捨てて どこかに行っちゃうのかな。
一瞬 恐くなった。けど声をかけたりは なぜかできなかった。
朝 兄は普通に起きていた。
昨夜のことは何も 兄も わたしも 言わなかった。
今日まで 何も言わないままだ。
──────────────
シンガポールは 兄から聞いてたとおり 素敵な街だ。
わたしは英語は苦手だから いつか 連れて行ってもらおうと思う。
美味しいものも 教えてもらおう。
いろいろ 可愛いものを 買ってもらおう。
ドレスアップして カジノにも行っちゃおう。
お兄ちゃんが もう飛行機に乗りたくなかったら 船で行こう。
にぎやかな通りを 子どものときみたいに 手をつないで 歩こう。
「ただいま。」も 「おやすみ。」も。
でもそれは いつもの出張の時と同じ。
まったく同じように わたしは待ってる。
長い出張だ。
でも冷蔵庫にはった日程表の さいごの日付は ずっと前に過ぎてしまった。
──────────────
これ書くの ちょっと迷ったけど。
このノートを 誰も読むこと無いはずだから 書く。
父が死んでから 高1くらいまで(Tくんを好きになった時 やめようと思った) わたしは 時々 兄の布団に入って一しょに寝ていた。
もちろん 変な意味は無い。
さぴしくて 怖くて 寒くて それと お兄ちゃんの体が 冷たくなっていないことを 確かめたかったからだ。
お兄ちゃんは
「茉莉 どうしたの。怖いの?」
とか言って ちょっと横に 動いて スペースを作るだけで 特に なにもしてくれない。
わたしは 兄の腕をつかんで 兄の肩に 鼻とかほっぺたを当てて 眠る。
お兄ちゃんはじっとしている。
なにもしてくれない。けど 温かい。
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朝になったら いつもわたしは一人で兄の布団の まん中に寝てて 兄はどこか 他のとこで寝てた。
わたしはいつも 少し 兄に悪いことしたような気がした。
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一回だけ 兄の方から わたしの布団に入ってきたことがある。
たしか 高校受験の冬だった。
もちろん変な意味は ない。絶対あるはずない。わたしを世界で一番 大切にしてくれるお兄ちゃんだ。それはまちがいない。
深夜 わたしが 布団の中で眠れなかったとき 会社から帰ってきたお兄ちゃんが スーツの上着だけ 脱いで ネクタイもしたまま 何も言わないで わたしの布団に入ってきて 背中から わたしを強く 思いっきり ぎゅーっ と抱きしめた。
わたしの頭のてっぺんのとこに 顔を押し当ててきた 兄の呼吸はふるえていた。ちょっと飲んでたのかもしれない。
お兄ちゃん 泣いてる?
と わたしは思った。
兄の腕の力が強くて 息が苦しくて ベルトのバックルが 背中に 強く当たってるのも痛かったけど わたしは 眠っているふりしてた。
怖くないし 嫌でもないけど 不安だった。
いつもは わたしのために 何かしてくれる兄が この時だけは わたしに 何か求めてたから。
お兄ちゃんも辛くて 淋しいんだって わたしを愛することで 自分を支えてるんだって 分かってしまったから。
10分くらいで お兄ちゃんは腕をはなして わたしの頭をなでて そっと布団をかけなおして 行ってしまった。
わたしを捨てて どこかに行っちゃうのかな。
一瞬 恐くなった。けど声をかけたりは なぜかできなかった。
朝 兄は普通に起きていた。
昨夜のことは何も 兄も わたしも 言わなかった。
今日まで 何も言わないままだ。
──────────────
シンガポールは 兄から聞いてたとおり 素敵な街だ。
わたしは英語は苦手だから いつか 連れて行ってもらおうと思う。
美味しいものも 教えてもらおう。
いろいろ 可愛いものを 買ってもらおう。
ドレスアップして カジノにも行っちゃおう。
お兄ちゃんが もう飛行機に乗りたくなかったら 船で行こう。
にぎやかな通りを 子どものときみたいに 手をつないで 歩こう。
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