南洋王国冒険綺譚・ジャスミンの島の物語

猫村まぬる

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第25章 ジャスミンのノート(その1)

25-2 わたし 信じません

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「わたし 信じません。お兄ちゃんは ぜったい 生きてます。」

 もっと探してくださいって シンガポールの航空会社の人にも 大使館の人にも言った。
 喜代子おばさんにも お葬式なんかしないでって頼んだ。
 兄の会社の城戸由美子さんにも あきらめないでほしいって お願いした。

(由美子さんは 兄の同期で 優しいお姉さんだ。シンガポールでは 私の手をにぎって いっしょに泣いてくれた。)

 だけど 親戚でも 会社でも 役所でも メディアでも 世の中ではもう 兄は死んだと言うことに決めてしまった。

 わたしの意見なんて 誰も聞かない。

   ──────────────

 みんな わたしに やさしくしてくれる。
「あなたの気持ちはわかる。」とか
「茉莉ちゃん かわいそうに。」って。

 けど みんなにとっては 

「お兄さんの死を受け入れられない かわいそうな妹さん。」

 が いるだけなのだ。

 わたしは たったひとりのわたしで お兄ちゃんは たったひとりのお兄ちゃんなのに。

   ──────────────

 今日から このノートは お仏だんの引出しに 入れておく。

 今は お兄ちゃんに伝わるように書いてる。でも 帰ってきても 兄には読ませない。元気に帰ってきたら もう燃やしちゃってもいい。誰にも読ませない。

 だからほんとの気持ちを 正直に書く。

 昨日までの書いたのを 後で読んだら 思ったよりもっと感情的で きゃっ観的じゃないなって思うけど 昨日の気持を 今日になって消したり 書き直したりしたら ウソになる。

   ──────────────

 このノートは 小学生の時 お兄ちゃんにもらった。

 お兄ちゃんは 絶対憶えてないと思う。学校の何かでもらってきて「これ まりちゃんにやるよ。」って たぶん 女の子用だと思ったからくれただけだ。

 でもなんとなく 今まで使わないで だいじに机の引き出しに入れてた。

 表紙のイラストは わたしの名前の ジャスミンの花だ。
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