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第21章  鍋釜や農具が置かれ、子犬や子猫が遊び

21-5 機縁

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「連れ帰ることができるのは、人生を終え、九十九の魂がばらばらになった人間だけだ。九十九の魂さえそのまま引っこ抜いて来れば、体の形はおのずから定まる。魂と体は大海の底で再び人間となり、幾日か後には島の浜辺に現れよう。これは生まれ変わりと言ってもいい」
 僕の左手に、いたわり励まそうとするかのように、王女がそっと右手を重ねた。
 驚いていないつもりだったのに、僕の目頭に急に涙がにじんだ。
「やはり、元の世界で僕は死んだのですね」
「ああ。もし年を取るまで生きたのなら、あんたは爺さんの姿でここにいるはずだ」

 ならば、茉莉をその方法でここに連れて来るわけにはいかない。
 おそらく夫も子も孫もいる年老いた茉莉をこんな異国に呼び出しても、ただ苦しめるだけだろう。

「そしてもう一つ。王がこのミナミを手繰り寄せたのは、二人の間に特別なタリアンがあるからだよ」

 縁。僕は王が言ったことを思い出す。
 僕は王女の、もう一人の兄だと。

「お嬢ちゃん、何十年か後にあんたが死んでからの話だ。今その可愛らしい体に宿っておる九十九の魂の、全部とは言わん、半ば以上が、百年後に遠い国でもう一度集まって、ひとりの娘として生まれることになる」
「わたしが……生まれ変わるの?」
「そうだ。生まれ変わりと言っていい。珍しいことだが、あんたにはアレクサンドロスイスカンダル大王の白い血の霊力サクティがあるからね」
「それが、僕の妹の茉莉なのですか」
「そうだよ。は、言ってみれば半分兄妹なんだ」

 もちろん王女は茉莉とは別の人間だ。しかし僕の左手に重ねられた小さな手の感触を、僕は幼い日の茉莉と重ね合わせずにはいられなかった。王女の右手の魂を、茉莉は受け継いでいるのだろうか?

「最後にお嬢ちゃん、これだけは言っておかなけりゃならん。気の毒だが、あんたの父母を連れ帰ることはできないよ」
 茉莉の手が、さっと冷たくなった。
「なぜです?」
「あんたの兄上にも確かめたが、ご両親の亡骸なきがらは、灰にせずに王都の墓廟マカムに置かれておるのだろう?」
「王族は火葬ガベンにしません。それがしきたりアダットです」
「では今この島に二人の魂を持ってきたらどうなると思う? 墓廟の棺にある亡骸に帰ろうとするだろう。言いたくはないが、一年以上経った亡骸だ。どんなことが起こるか分かるね?」
 王女はすすり泣き始めた。
「……はい」
「さて」とカイヌウェランは言った。「では『旅のウパヤ』を試してみるかね?」
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