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第12章 持って来たのは本、十数冊の革装の本
12-2 物語
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ファジャルは最初、一文字ずつを指さして、「これがアリフ。こっちがバーで、これがターです」と文字の名を教えてくれようとしたが、そんなふうに脈絡無くバラバラに教えられても覚えられるはずもない。
文字を教わるのは今度にして、今は文章を音読してもらえるように僕は頼んだ。
「うまく読めればいいのですけれど」
ファジャルは普段の会話よりやや低い声で、指先で文字をたどりつつ、一語ずつゆっくりと文章を読み始めた。
「この物語は、クンバンムラティ島の、王たちの……」
右から左へ、一行一行をなぞる細い指を見つめながら、僕は彼女が語るジャスミンの島の物語に耳を傾けた。
未知の文字から意味の分かる音声が取り出されてゆく様には、針を置いたアナログレコードから音楽が流れるのを見ているような不思議さがあった。
『諸王記』がファジャルの声を通して語ったエピソードの多くは、とても史実とは思えないおとぎ話のようなものだった。
例えば、アレクサンドロス大王の孫であり、赤子のうちに夜光貝の筏で流され、島に漂着した初代ウトモ王。
そのウトモ王と、内陸を支配する「白い蘭の女王」との戦いの結果、こときれる直前に女王が産んだというカドゥオ王。
ペルシャの王子から贈られた剣を寝所に置いたことによって懐妊したマワール王女。
中国の皇帝から贈られた白黒二匹の賢い猫から助言を受けて政務を執っていたチュンパカ女王。
そして、椰子の実の中から現れた翡翠の聖天像を叩き壊したため、雷に打たれて崩御したアブドゥッラー王。
この王はファジャルたち四姉妹の母方の高祖父に当たるという。
時間軸の混乱としか思えない記事もまた、この書物の奇妙なところだった。
何世代も前の、とっくに亡くなっていなければならないはずの人物が、「聖なる丘」や「聖なる泉」といった場所からしばしば現れて、子孫に助言や警告や予言を伝えたり、武器や宝器を授けたりするのだ。
でもファジャルはそれらすべてを掛け値なしの事実だと信じているらしかった。
そしてそんな彼女の落ち着いた声で読み聞かせられると、僕もまた、この世界をそのようなものとして受け入れる気持ちになっていった。
いつか僕もそういった不思議を目の当たりにするかもしれない。いや、そもそも僕の存在自体がこの島の歴史の不思議の一つではないか。
現国王とムラティ王女の曽祖父に当たるチュンペダック王の即位で、物語は終わっていた。ファジャルは、自分は幼い頃に最晩年のチュンペダック王のお姿を拝したことがあると言う。
まるでそのことが、この物語全体が事実であることを保証しているとでも言うかのように。
文字を教わるのは今度にして、今は文章を音読してもらえるように僕は頼んだ。
「うまく読めればいいのですけれど」
ファジャルは普段の会話よりやや低い声で、指先で文字をたどりつつ、一語ずつゆっくりと文章を読み始めた。
「この物語は、クンバンムラティ島の、王たちの……」
右から左へ、一行一行をなぞる細い指を見つめながら、僕は彼女が語るジャスミンの島の物語に耳を傾けた。
未知の文字から意味の分かる音声が取り出されてゆく様には、針を置いたアナログレコードから音楽が流れるのを見ているような不思議さがあった。
『諸王記』がファジャルの声を通して語ったエピソードの多くは、とても史実とは思えないおとぎ話のようなものだった。
例えば、アレクサンドロス大王の孫であり、赤子のうちに夜光貝の筏で流され、島に漂着した初代ウトモ王。
そのウトモ王と、内陸を支配する「白い蘭の女王」との戦いの結果、こときれる直前に女王が産んだというカドゥオ王。
ペルシャの王子から贈られた剣を寝所に置いたことによって懐妊したマワール王女。
中国の皇帝から贈られた白黒二匹の賢い猫から助言を受けて政務を執っていたチュンパカ女王。
そして、椰子の実の中から現れた翡翠の聖天像を叩き壊したため、雷に打たれて崩御したアブドゥッラー王。
この王はファジャルたち四姉妹の母方の高祖父に当たるという。
時間軸の混乱としか思えない記事もまた、この書物の奇妙なところだった。
何世代も前の、とっくに亡くなっていなければならないはずの人物が、「聖なる丘」や「聖なる泉」といった場所からしばしば現れて、子孫に助言や警告や予言を伝えたり、武器や宝器を授けたりするのだ。
でもファジャルはそれらすべてを掛け値なしの事実だと信じているらしかった。
そしてそんな彼女の落ち着いた声で読み聞かせられると、僕もまた、この世界をそのようなものとして受け入れる気持ちになっていった。
いつか僕もそういった不思議を目の当たりにするかもしれない。いや、そもそも僕の存在自体がこの島の歴史の不思議の一つではないか。
現国王とムラティ王女の曽祖父に当たるチュンペダック王の即位で、物語は終わっていた。ファジャルは、自分は幼い頃に最晩年のチュンペダック王のお姿を拝したことがあると言う。
まるでそのことが、この物語全体が事実であることを保証しているとでも言うかのように。
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