26 / 140
第7章 川を下る船団は大小三十隻以上に及び
7-2 船旅
しおりを挟む
「快適な船旅じゃないか、アディ。王女には申し訳ないけど、虎の出る森を歩いて神殿を探すよりいい」
「ダラムに虎はいないよ」とアディが言った。「ヤマネコぐらいならいるが」
「そうなのか?」
「あんたには言っとくよ。俺は、前国王ご夫妻が姫様に何をおっしゃるかと思うと心配なんだ。それ以上は言わない。意味は分かるよな?」
港務長官が言っていた暗殺の話を僕は思い出した。もし王女が、たとえ幻聴であっても、両親の口から暗殺やその犯人について聞かされたとしたら?
何が起こるかは目に見えている。
僕は船底に寝そべって、笠を顔にかぶった。波の音、オールが水を切る音、眠たい打楽器楽の音、それに合っているような合っていないような船頭の歌。
船団はゆっくりと進んで行く。
昼下がりの船上でうとうとし始めたとき、何人かの女性がきゃあきゃあとふざけ合うような声が聞こえて、僕は体を起こした。
アディが顎先で示したのは、僕らの船の右前方をゆく、貴婦人たちの屋形船だった。
金色の草花模様が描かれた若草色の船の、窓を覆っていた薄布の幕が開けられて、四人の若い女性が船べりに腰掛けたり、体を乗り出したりしてふざけ合っている姿が見えた。互いに見分けがつかないほどよく似た四人の、どことなくアラブ風の容貌を見て、港務長官邸で給仕をしてくれた女性たちだと分かった。
「港務長官殿の娘たちだ」とアディが言った。「邸で会わなかったか?」
「娘だったのか」
「長女から順にスンジャ、ブラン、ビンタン、ファジャル」
みんな同じように薄紅色の巻衣を着け、ベールのような薄布を肩に掛けた娘たちは、顔も体つきもそっくりで、結い上げた髪の形や髪飾りのデザインくらいしか違いが見えない。誰がスンジャで誰がファジャルやら、僕には判別できなかった。
「なんだ、興味があるのか?」
アディの問いに、僕は首を振った。
確かにその四姉妹が戯れる様子や声には何かしら心に引っかかるものがある。しかしそこには僕にとって快というよりは不快に近い感覚があった。
「おーい、あんたら。お嬢さん方!」と僕らの船の船頭が叫んだ。「危ねえから中で大人しくしてろや。この先に早瀬があんぞ!」
しかし娘たちはそれを聞いてもきゃらきゃらと笑うばかりで態度を改めなかった。
「ダラムに虎はいないよ」とアディが言った。「ヤマネコぐらいならいるが」
「そうなのか?」
「あんたには言っとくよ。俺は、前国王ご夫妻が姫様に何をおっしゃるかと思うと心配なんだ。それ以上は言わない。意味は分かるよな?」
港務長官が言っていた暗殺の話を僕は思い出した。もし王女が、たとえ幻聴であっても、両親の口から暗殺やその犯人について聞かされたとしたら?
何が起こるかは目に見えている。
僕は船底に寝そべって、笠を顔にかぶった。波の音、オールが水を切る音、眠たい打楽器楽の音、それに合っているような合っていないような船頭の歌。
船団はゆっくりと進んで行く。
昼下がりの船上でうとうとし始めたとき、何人かの女性がきゃあきゃあとふざけ合うような声が聞こえて、僕は体を起こした。
アディが顎先で示したのは、僕らの船の右前方をゆく、貴婦人たちの屋形船だった。
金色の草花模様が描かれた若草色の船の、窓を覆っていた薄布の幕が開けられて、四人の若い女性が船べりに腰掛けたり、体を乗り出したりしてふざけ合っている姿が見えた。互いに見分けがつかないほどよく似た四人の、どことなくアラブ風の容貌を見て、港務長官邸で給仕をしてくれた女性たちだと分かった。
「港務長官殿の娘たちだ」とアディが言った。「邸で会わなかったか?」
「娘だったのか」
「長女から順にスンジャ、ブラン、ビンタン、ファジャル」
みんな同じように薄紅色の巻衣を着け、ベールのような薄布を肩に掛けた娘たちは、顔も体つきもそっくりで、結い上げた髪の形や髪飾りのデザインくらいしか違いが見えない。誰がスンジャで誰がファジャルやら、僕には判別できなかった。
「なんだ、興味があるのか?」
アディの問いに、僕は首を振った。
確かにその四姉妹が戯れる様子や声には何かしら心に引っかかるものがある。しかしそこには僕にとって快というよりは不快に近い感覚があった。
「おーい、あんたら。お嬢さん方!」と僕らの船の船頭が叫んだ。「危ねえから中で大人しくしてろや。この先に早瀬があんぞ!」
しかし娘たちはそれを聞いてもきゃらきゃらと笑うばかりで態度を改めなかった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる