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第4章 何がこの島をこんな奇妙な場所にしているのか

4-2 別邸

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 初老の港務長官シャーバンダルは痩せた体を更紗バティック巻衣サルンと白い上着バジュに包んだ、宮中で会った時よりくつろいだ格好で僕の前に現れた。

「心配は要らん。帰国の手立ては必ずある。君の母国については港市バンダルの者たちに調べさせているところだ。この王都コタラジャと違って港市には外国船も出入りするからな」

 アディに連れて来られたこの川沿いの邸宅は、港務長官にとってはあくまで王都滞在中のための別邸であり、彼の本拠地である港市には、はるかに巨大な本邸があるらしい。
 たしかにこの家は王族たちの邸ほど大きくはないし、高くそびえる三角屋根も無く、柱や外壁の彫刻も無い簡素な建物だが、家具や調度はなかなか豪華だ。
 テーブルや椅子は西洋風の装飾的なものだったし、広間の屋根のはりから三つも吊られたガラスのランプには澄んだ炎がゆらめいて、光のかけらを部屋にまき散らしていた。部屋の隅には東洋的な花鳥画が描かれた金の屏風まである。

 そんな部屋で、僕と港務長官は二人で夕食のテーブルに向かっていた。アディは外で待っているはずだ。

「私は十日後に港市に帰る。そうすればもっといろいろなことが分かるだろう。その時には君も一緒に来てもらうつもりだよ。外国人の君にはここより居心地がいいはずだ。あちらで船を待てばいい」
 僕はうなずいた。王都の居心地が悪いわけでもなかったが、港のある町に行けば日本に帰る第一歩になるかもしれない。

 金屏風の陰から、料理や飲み物を持った女たちが入れ代わり立ち代わり現れて、港務長官と僕に給仕をしてくれる。
 スパイスの効いた串焼き肉サテや、甘辛く煮た鶏肉を乗せたターメリックライスナシクニンのような、今までこの島では見かけなかったような手間のかかった料理が多かった。
 料理は美味しかったけど、広いテーブルに港務長官と僕だけが向かい合い、女たちが無言で動き回っているという状況は、どうも落ち着かないものだった。
 彼女たちはみんな一様に紫色の巻衣を着て、薄いベールのようなものを肩にかけ、みんな一様に豊かな胸と鼻筋の通った中東的な顔立ちで、花の精油のような甘い香りを強く漂わせながら、屏風の陰から器を持って出たり入ったりを繰り返した。いったい全部で何人いるのかさえ分からない。
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